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Entry 2022/04/16
Update

『土を喰らう十二ヵ月』映画原作ネタバレとあらすじ感想。水上勉の精進レシピは“食することの奥深さ”

  • Writer :
  • 星野しげみ

水上勉の『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』を原案とする
映画『土を喰らう十二ヵ月』が2022年11月11日(金)から新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開!

昭和36年(1961)に『雁の寺』で直木賞を受賞した作家水上勉の『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』(新潮文庫刊)。

この作品は、昭和57年(1982)発行されたものですが、今でも多くのファンに愛されています。

少年の頃、京都の禅寺で精進料理の作り方を教えられたという水上勉。本書は著者自身が包丁を持ち、1年にわたって精進料理を基本とするさまざまな料理を作ります。

畑で育てた野菜と山で取れる山菜から生まれるレシピは、自然の恵みに感謝しつつ根っこ一つ残さず大切に食する料理です。

貴重なクッキング・ブックともいえる本書を、『盆唄』(2019)の中江裕司が監督・脚本を手掛けて劇映画に仕立てました。

主役の作家・ツトムには、映画単独初主演となる沢田研二を迎え、松たか子、火野正平、奈良岡朋子らベテラン勢が集結しました。

映画公開に先駆けて、原作の随筆『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』をネタバレありでご紹介します。

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随筆『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』の主な登場人物

【水上勉】
直木賞作家。『ミセス』の女性編集者のすすめで、約1年間にわたり軽井沢の山荘にこもる。そこで、畑を作り、子どもの頃に禅寺で身につけた料理を作って食べるというその生活を執筆する。

随筆『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』のあらすじとネタバレ


水上勉:『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』(新潮文庫、昭和57年)

小説家水上勉は、9歳のころから禅宗寺院の庫裡で暮らしました。そこでしっかりと覚えさせられたのが、精進料理!

水上は16歳から18歳まで、同じ寺院で東福寺官長であった尾関本孝老師の隠侍をしていました。隠侍は老師さまの女房役のような仕事を受け持ちます。

まだ中学生だった水上は学校から帰るといそいで、老師さまの住まいの隠寮へ行って、老師の食事、洗濯、掃除など身の回りのことをやっていました。

水上はこの時の食事を作ったことが、今日精進料理などを自分でやれてそれが老師ふうの味を好む人には、喜ばれることになっているのだろうと思っています。

昭和57年。水上は軽井沢の山荘に籠りながら、四季折々、十二ヵ月の自然の恵みからなる手料理の数々とそれに纏わるエピソードを執筆続けます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』ネタバレ・結末の記載がございます。『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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【一月の章】くわいのやきもの

寒さに閉じ込められた毎日の中で、水上は自分と精進料理との関わりを振り返りながら、真冬に食べられる自然の恵みの野菜たちを愛おしんで調理します。

【二月の章】かぶら、こんにゃくの田楽(山椒味噌使用)、蕗の薹のあみ焼き

水上自慢の自作のすりこぎがいきなり登場。このすりこぎで、山椒をすって山椒味噌を作り、料理に味わいを加えます。

【三月の章】高野豆腐の煮つけ、煮豆

水上は、何もないときの慌て料理として「うちにあるもので間に合わす」手作りを語ります。

青物が手に入りにくいこの時期に活躍するのは、高野豆腐や乾物類。味付けのひと工夫がさえる料理が次々と……。食事は喰うものであって、理屈や智識の場ではないという水上の持論までも飛び出します。

【四月の章】たらの芽、あけびのつる、わらび、こごめなどの山菜料理

春先は山菜の宝庫。軽井沢の水上家の周りも、冬中眠っていた山菜が芽吹きます。

水上は、天ぷら、おひたしと、山の幸を存分に味わいながら、同じように大工仕事で山に行くと山菜をとってお昼ごはんのおかずにしていた実父のことを思い出します。

【五月の章】筍とわかめの炊き合わせ、若筍汁

筍の季節到来。毎日のように筍料理を食べながら、竹藪などの思い出話を語る水上。この季節の軽井沢は畑仕事が多忙です。執筆のあいまに夏野菜の種や豆を畑にまくのですが、それを狙って山鳩もやって来ます。

山鳩と喧嘩をしながら豆を植えるのも、山のくらしの醍醐味で収穫の日がきて心ふくらむのも、そういう暦があるからだと、水上は自覚します。

【六月の章】梅干し作り、わけぎの梅肉あえ、梅のふくめ煮

梅の季節。この月は、保存用の梅干しを漬ける月であり、青梅をかりかり漬けにしたり、ふくめ煮にしたりする月です。手作り梅には、手をつくすだけの自分の歴史がそこにまぶれてついていますから、それを客に味読してもらいます。

寺院の師は「ご馳走とは、はし、はしると書いてある。だから寺の境内あちらこちらはしるといろいろなものが目につくものだ。草でもよし、果物でもよし、あるいはそこらにある菓子でもよし」と幼い水上に教えてくれたことも思い出しました。

【七月の章】茄子料理、夏大根と油揚げの煮物

収穫時の畑と相談すると、まず目にはいるのは茄子! 茶筅茄子、ウチワ茄子、むし茄子、焼き茄子など、手軽に楽しめる料理を披露しました。

この時期の忘れてならない夏大根のメニューも登場。夏大根の一夜漬けについて、若い女子大生とのバトル(?)もあり、水上の本音もポロリと出ます。

【八月の章】奴豆腐、胡麻豆腐、くるみ豆腐

豆腐料理の数々を思いつくままに紹介する水上。普通の豆腐ばかりか、疑製豆腐や淡雪豆腐といったひと工夫加える料理も披露しています。

庭に来る栗鼠に餌をやっていることなど、自然と密着した生活ぶりを愛する様子もわかります。

【九月の章】きのこ料理、松茸とこんぶのことこと煮

秋はきのこの季節。「香り松茸、味しめじ」を納得するきのこの食べ方が伝授されています。

【十月の章】果実酒、精進揚げ、唐辛子のことこと煮

山に実のなるシーズがくると、果実酒作りに忙しい。合間をぬうように、自宅の惣菜の話もでてきます。秋茄子や唐辛子、それに青じそ、さつまいも、れんこんなど、身近にある野菜類をなんでも油の中にいれて精進揚げにするといいます。

精進揚げは、衣を着せて一緒にみせかけているけれども、実は野菜のシンフォニーではないかと水上は考えています。

【十一月の章】栗、椎、またたび、すぐり、田楽料理

山の幸栗料理の章です。よくゆでた栗をザルにあげ、木綿針を通して数珠にしたものを軒に干します。カチ栗とよばれるそれを、冬になって割って喰らうのが上手いという水上。寺院にいた頃、元日の朝に勤行をすませたあと、昆布茶とカチ栗を頂いた思い出を語ります。

こんにゃくの山椒焼き、さといもの田楽など、人里離れても心を配れる料理があることがわかります。

【十二月の章】焼き芋、無名汁、山芋のまる焼き

十二月は冬ごもりの月。水上は、庭の枯葉を集めて焼く焼き芋は格段の美味しさだと言います。

白菜、大根、ほうれん草、などある野菜にくわえて、こんにゃくや里芋、豆腐などをことこと鍋で煮る、水上が「無名汁」と呼ぶ自己流のけんちん汁がおもてなし料理として登場。酒のつまみとしてだす、山芋のまる焼きも客人からは大人気です。

以上、水上勉が食をした十二ヵ月。

水上勉が、土を喰らう日々を山荘の台所で実践し、その想いを述べました。「精進料理」の「精進」という言葉の持つ意味について、考えつめてきた十二ヵ月とも言えます。

大根や葉っぱに教えられた「精進」の意味。水上の思いはさまざまですが、「雑誌編集部の女史たちに、ひそかなる悦しみをのぞかれて、このようによしあしごとを書く始末になりました。嗚呼」……と、締めくくっています。

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随筆『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』の感想と評価

『雁の寺』で直木賞を受賞した故水上勉の精進料理を基にした「喰らうこと」についての随筆でした。

京都の寺に預けられていた経験を持つ水上は、命ある野菜たちをありがたく頂くことの大切さを修行の中で教え込まれます。

土の畑で野菜を育て自然の恵みの幸を頂く食事を、水上は「土を喰らう」と表現したのです。

これこそが、水上の精進料理に対するコンセプトと言えます。

十二ヵ月を通して水上が紹介した料理は、「煮る」「焼く」「する」「漬ける」といったシンプルな料理ですが、素材のうま味を充分に出せる工夫のされたものばかりでした。

質素とも思える男料理でありながら、野菜の葉っぱや根っこまでも捨てずに大切に料理して喰らうという丁寧さに心底驚きます。

現代の日本人が忘れているだろう食することの意義を深く見つめ直したくなる作品であり、水上が伝授した料理を食べてみたくなりました。

映画『土を喰らう十二ヵ月』の見どころ


(C)2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会

原作は、1年を通して作家水上勉が禅寺で教わった精進料理を披露するレシピ本のようです。この原作にオリジナルストーリーが加えられ、映画『土を喰らう十二ヵ月』が完成しました。

主役である作家・ツトムは、歌手であり、最近では『キネマの神様』(2021)の好演でも知られる沢田研二が演じます。

人里離れた長野の山荘でひとりで山の実やきのこを採り、畑で育てた野菜を自ら料理し、季節の移ろいを感じながら原稿をしたためるツトムと彼を囲む人々の物語。

‟ジュリー”の愛称で呼ばれ一世を風靡した往年の大スター沢田研二が、地味な作家のツトムに扮し、ひっそりとした山暮らしで手料理を振る舞います。料理に取り組む沢田研二の新しい魅力を発見できることは間違いないでしょう。

また、主人公のツトムが作るのは、畑の野菜やその地の旬のものを生かした日本の生活に根付いた献立です。

これらの献立は、映画の料理は初めてという料理研究家の土井善晴が担当しました。

脚本の中で描かれた料理の作り方や盛り付けに関して、中江監督と打ち合わせを繰り返し、ツトムの料理を具現化しています。

京都の精進料理といえば頭に浮かぶのは、小皿に見映えよく盛り付けられた小奇麗な野菜料理。本作のように、おもてなしの心をこめつつ作る素朴な味わいの家庭版精進料理を、限られた素材でどう演出するのか興味津々です

土井善晴は、調理そのものだけでなく、沢田研二への指導、器選びなど、詳細な演出にも注意を払っていたといいます。

料理のプロである土井善晴の食べることへの感性にも注目です。

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映画『土を喰らう十二ヵ月』の作品情報


(C)2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会

【公開】
2022年(日本映画)

【原案】
水上勉:『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月—』(新潮文庫)

【監督・脚本】
中江裕司

【料理】
土井善晴

【キャスト】
沢田研二、松たか子、西田尚美、尾美としのり、瀧川鯉八、壇ふみ、火野正平、奈良岡朋子

まとめ


(C)2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会

直木賞作家水上勉のクッキング・ブックとも言える随筆『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』をご紹介しました。

『盆唄』(2019)の中江裕司監督が、本作にオリジナルストーリーを加え、歌手の沢田研二を主役にして、映画『土を喰らう十二ヵ月』としてまとめました

原作通りの土の香りがする料理が出てくるだろうと期待も大きいです。ツトム流の精進料理を作りたく、あるいは食べたくなることは間違いないでしょう。

映画『土を喰らう十二ヵ月』は、2022年11月11日(金)から新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開





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