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Entry 2021/08/08
Update

『キネマの神様』ネタバレあらすじ感想と結末解説。映画と原作の違いと亡き志村けんへの思いを馳せる

  • Writer :
  • もりのちこ

「見事な人間愛が出ましたね」。
という、淀川氏の解説が聞こえてきそうです。

人気作家・原田マハの同名小説を、山田洋次監督が映画化。山田洋次監督の通算89本目、また松竹映画100周年記念作品となりました。

「映画の神様」=「キネマの神様」を信じ、映画に青春を捧げた男の人生と、彼を取り巻く人々の愛と友情を綴った物語。

ギャンブル好きで家族に迷惑ばかりかけているダメ親父・ゴウを演じるのは、2020年逝去された志村けんの意思を継ぎ代役を引き受けた、沢田研二が務めます。また、若かりし頃のゴウを菅田将暉が演じ、2人1役となっています。

原作『キネマの神様』とはまた一味違った映画版『キネマの神様』。原作と映画の違いを紹介します。

映画『キネマの神様』の作品情報


(C)2021「キネマの神様」製作委員会

【公開】
2021年(日本映画)

【原作】
原田マハ

【監督】
山田洋次

【キャスト】
沢田研二、菅田将暉、永野芽郁、野田洋次郎、北川景子、寺島しのぶ、小林稔侍、宮本信子、リリー・フランキー、前田旺志郎、志尊淳、松尾貴史、広岡由里子、北山雅康、原田泰造、片桐はいり、迫田孝也、近藤公園、豊原江理佳、渋谷天笑、渋川清彦、松野太紀、曽我廼家寛太郎

【作品概要】
「男はつらいよ」「釣りバカ日誌」シリーズなど松竹映画の看板映画を撮り続けてきた山田洋次監督が、人気作家・原田マハの同名小説を映画化。

主役のゴウを沢田研二、ゴウの若かりし頃を菅田将暉が演じ、ゴウの親友・テラシンを小林稔侍が、若かりし頃のテラシンをRADWIMPSの野田洋次郎が演じ、それぞれ2人1役となっています。

また、ゴウの妻・淑子を宮本信子が、淑子の若かりし頃を永野芽郁が演じ、映画オリジナルの登場人物となる銀幕のスター・桂園子を北川景子が演じています。

その他にも、寺島しのぶ、リリー・フランキー、前田旺志郎、志尊淳など豪華キャストが「山田組」に参加。映画愛にあふれた作品となっています。

RADWIMPSの野田洋次郎が、本作の撮影期間に浮かんだ思いをそのまま主題歌として残したという『うたかた歌』RADWIMPS feat.菅田将暉にも注目です。

映画『キネマの神様』のあらすじとネタバレ


(C)2021「キネマの神様」製作委員会

出版社に勤める円山歩のもとに1本の電話がかかってきます。父・円山郷直が借りたサラ金業者からの取立て電話でした。青ざめる歩。

ギャンブルとアルコール依存症の父・ゴウに悩まされ続けてきた歩は、今回ばかりは何か策を講じようと、母・淑子と相談します。

淑子は、娘に迷惑をかけることを悪いと思いながらも、なんだかんだゴウのことをほっとけず、幾度かあった離婚の危機も許してきていました。

年金とシルバー人材派遣のお給料が入る通帳とカードを取り上げられたゴウは、「俺はこれから何を楽しみに生きていけばいいんだ」と逆切れし家を飛び出します。

家出先は、テラシンこと寺林新太郎が館主をしている名画座「テアトル銀幕」でした。淑子もここでパートとして働かせてもらっています。

金をせびりに来たゴウをテラシンは、呆れながらも世話をするのでした。「今から出水監督特集のテスト上映やるから見て行けよ。お前、助監督やってただろ」。

閉店後の誰もいない映画館でゴウはひとり、懐かしい作品に浸っていきます。思い起こすのは若かりし頃。それは、ゴウがテラシンと松竹映画撮影所で働いていた頃でした。

ゴウは映画監督を目指し、テラシンは映写技師としていつかは映画館を持ちたいと、互いに夢を抱いていました。

毎日映画の撮影があちこちで行われている撮影所は活気に溢れていました。ゴウは、出水監督作品の助監督としてあちこち飛び回っていました。

撮影所の近くにある食堂「ふな喜」は映画人たちの憩いの場です。映画スター・桂園子を前に、出水監督がその場で思いついたストーリーを芝居口調で演じていきます。それを脚本に書き留めていくゴウ。「出水組」の撮影はきついけど楽しいものでした。

そんなゴウに好意を持っていたのが「ふな喜」の看板娘の淑子でした。遊びもギャンブルも監督への肥やしと呆けるゴウは、淑子の気持ちには気付いてくれません。

ある日、ゴウの紹介で淑子に会ったテラシンは、ひとめで恋に落ちてしまいます。恋に不器用で、淑子のことを考えすぎて寝込んでしまうテラシン。

ゴウは、そんなテラシンに淑子宛ての手紙を書くことを勧めます。「淑子には自分なんかより、テラシンの方が合っている」と思わずにはいられませんでした。

テラシンからのラブレターを受け取った淑子は、ゴウに自分の気持ちを伝えます。「お断りの返事、ゴウ君からテラシンさんに渡して」。ゴウも溢れる想いを止められませんでした。

その日は、ゴウの初映画監督作品のクランクインの日でした。映画のタイトルは『キネマの神様』。

これまでの映画の常識を覆すような斬新な発想とカメラワークにこだわった、テラシンも絶賛するゴウの夢の作品でした。

朝からゴウは、緊張のあまり腹を壊しトイレに駆け込んでばかりいました。心配する淑子と園子。2人の心配は悪い方へと当たってしまいます。

現場はめちゃくちゃでした。定まり切らないカメラワークにゴウとカメラマンがケンカになり、トイレに駆け込むゴウのおかで何度も撮影が中断。終いに揉めたゴウが梯子から落ちて怪我をしてしまいます。

すっかり自信を無くしたゴウは撮影を中止。撮影所を辞め、田舎に帰ると言い出します。「淑子ちゃんはどうするんだ」。テラシンも止めますが、「お前に譲るよ」と聞き耳を持たないゴウ。「何のつもりだ。淑子ちゃんをもの扱いするな」。テラシンともケンカ別れになってしまいました。

そんなゴウにそれでも着いて行くと決めた淑子は、周りの反対を押し切り駆け落ち同然で家を出ます。

以下、『キネマの神様』ネタバレ・結末の記載がございます。『キネマの神様』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2021「キネマの神様」製作委員会

それから幾年も過ぎ、ゴウも淑子も歳をとりました。娘の歩と孫の勇太と4人で暮らしています。ゴウは、あいかわらずギャンブル狂いで家族に迷惑ばかりかけています。

9年前。淑子は、町の映画館でパート募集を見かけ面接に向かいます。その映画館こそ、テラシンが夢を叶えた名画座「テアトル銀幕」だったのです。

淑子に気付き、驚くテラシン。「ゴウは元気なのかい?これはキネマの神様の引き合わせだ」。再び再会を果たしたゴウとテラシンと淑子。テラシンは、どこか憎めないゴウの面倒をみるのでした。

家出にも飽きたゴウは、こっそり家に戻り、孫の勇太に金をせびりますが、ピシリと断られます。「おじいちゃん、このまま賭博好きでアル中のまま死んでいいの?せっかく才能があるのに」。

勇太はテラシンから、その昔ゴウが書いた「キネマの神様」の脚本を預かっていました。それを呼んだ勇太は、おじいちゃんに感動していました。

「僕が今風に打ち直して協力するから、一緒に脚本賞に応募しよう。賞金100万円!」。勇太の誘いに半信半疑なゴウでしたが、褒められると調子にのる性格もあり、再び脚本と向き合うことに。勇太とゴウの健闘は深夜まで続きました。

「テアトル銀幕」にゴウが息を切らして駆け込んで来ます。「どうした?」心配するテラシンにゴウは、映画雑誌を差し出します。「取った、城戸賞!」。その年、最も優れた脚本に贈られる大賞です。

「脚本賞をとったのは、僕の昔からの友人です」。観客に嬉しそうにゴウを紹介するテラシン。館内はお祝いムードに沸き立ちます。

その場に呼ばれた淑子は、嬉しさよりもお金の心配をしていました。「どうしよう、歩。賞金はキャッシュかしら。またあの人、一気に使ってしまうわ」。「大丈夫よ、かあさん。通帳に振り込みだって」。

歩は息子の勇人に感謝していました。「お父さんを信じてくれてありがとう」。父親をダメ扱いばかりしていた自分の態度を悔いていました。

授賞式を間近にし、ゴウは祝ってくれるギャンブル仲間と飲み歩いていました。体を心配する淑子にぶっきらぼうなゴウでしたが、不憫な想いをさせ続けた妻の姿に涙が溢れます。

そして、とうとう倒れてしまうゴウ。救急車で運ばれ一命は取り留めたものの、授賞式には参加できません。昔から、本番に弱いでお馴染みのゴウでした。

授賞式当日は、歩が変わりに壇に上がりました。淑子と勇太も会場で見守っています。ゴウの病室にはテラシンが来ていました。勇太からの電話で会場の様子が聞こえてきます。

「いいから、消せよ」と、どこか落ち着かないゴウ。歩のスピーチが聞こえてきます。「昨日、お父さんの見舞いに行って、言いたい事を紙に書いてもらってきました」。

「淑子、淑子さん、僕の淑子ちゃん。ありがとう。どうしようもない父さんを許して…」歩は、あふれる涙で声を詰まらせながら読み上げます。

これは、出逢ってから初めてのゴウから淑子へのラブレターでした。客席にいる淑子の目にも涙が浮かんでいました。

それから世の中は新型のウイルスが流行り、緊急事態宣言が出された都市では映画館の営業に規制がかかるようになります。

テラシンの「テアトル銀幕」も例外ではありませんでした。「歩ちゃん、おじちゃんはすっかりやる気を無くしちゃったよ」。元気のないテラシン。

歩たちは、どうにか「テアトル銀幕」の力になりたいと考えていました。ゴウの願いで、受賞賞金の一部をテラシンに届けます。テラシンは、感謝で胸がいっぱいです。

それからのゴウは、体は弱るばかりでしたが、どうしても映画館で映画がみたいと「テアトル銀幕」にやってきます。歩と孫の勇太も一緒です。

スクリーンの中には、永遠の銀幕スター・桂園子の姿がありました。「おじいちゃん、園子さんと良い関係だったんだ」。得意げに孫に自慢するゴウ。

「おじいちゃんの脚本みたいに、スクリーンから飛び出してきたりして」勇太が茶化します。客席からスクリーンを見上げるゴウの顔は輝いていました。

すると、園子の目線が突然こちらに向けられ、スクリーンから飛び出してくるではありませんか。驚くゴウ。他の観客には見えないようです。

「ゴウちゃん。あら、歳をとったわね。淑子ちゃんとは一緒なの?焼けちゃうわね」。昔と変わらない美しい姿で微笑む園子。

「淑子は幸せかな?」そう聞くゴウに、「ゴウちゃんが幸せなら淑子ちゃんも幸せよ」と園子は答えてくれました。

「さぁ、撮影の時間よ。行きましょう」。園子が差し伸べる手を、ゴウは掴みました。

スクリーンへと戻っていく園子の側に、若かりし頃のゴウの姿が見えます。残された映画館の客席では、ゴウが静かに横たわっていました。

映画『キネマの神様』の感想と評価


(C)2021「キネマの神様」製作委員会

『男はつらいよ』『釣りバカ日誌』など、家族の日常や風景、そして愛情と絆を取り続けてきた山田洋次監督が、原田マハの自身の家族をもとに書き上げた感動小説『キネマの神様』を映画化ということで原作ファンはもちろん、映画ファンも待ちに待った上映となりました。

映画化では脚本に、山田監督作品に数多く携わってきた朝原雄三も参加し、原作とはまた一味違う映画オリジナルのストーリーが完成しました

原作では、ダメ親父のゴウが無類の映画好きが講じて、ひょんなことから映画サイト「キネマの神様」で感想を連載することになります。

そこに現れたライバル、ローズ・バットとの映画評論対決が面白く、次第に生まれる2人の友情に感動するのですが、映画化では残念ながらローズ・バットは登場しません。

映画化では、ゴウの若かりし頃を大胆に盛り込み、ゴウと妻・淑子との夫婦愛や、ゴウの映画仲間であり、「テアトル銀幕」の館主となったテラシンとの友情にスポットがあてられています

そして、昭和の映画撮影所の様子や銀幕スターの存在、映画に情熱を傾けた人たちの物語でもあります。

これは、実際にその場を体験してきた山田洋次監督ならではのシナリオに他なりません。劇中で出水監督のもと撮影を行うスタッフを「出水組」と呼んでいますが、まさに山田洋次監督のもと集まった「山田組」の様子を見ているようです。

もうひとつの『キネマの神様』と言っても過言ではない、映画版『キネマの神様』。原作と違う見どころを紹介します。

ゴウと淑子のラブストーリー

原作では、ゴウと妻の淑子との馴れ初めは登場しません。もともと、ゴウが監督志願だったというのも映画オリジナルです。

映画では、ゴウの若かりし頃が描かれていますが、淑子とのロマンチックな馴れ初めが展開しています。

周りの反対を押し切り結ばれた2人でしたが、あれから何十年、ゴウは未だにだらしない自分に淑子が着いて来てくれたことに感謝しつつも、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

その思いを伝えることも出来ないゴウでしたが、最後にはその気持ちを皆に伝えるきっかけを掴みます。

バラバラだった家族が、もういちど絆を取り戻し前向きな一歩を踏み出しました。それは、「キネマの神様」のおかげでした。

ゴウとテラシンの友情

映画オリジナルのストーリーで、ゴウとテラシンは若かりし頃、同じ映画撮影所で働く同志という設定になっています。

原作でもテラシンは、名画座「テアトル銀幕」の館主として登場します。自分の好みで名作を選び上映を続ける小さな映画館は、シネコンの進出で閉館を余儀なくされます。映画でも映画館の危機が訪れますが、原因は書き直されています。

また、映画オリジナルストーリーとして、若かりし頃のゴウとテラシンが淑子を取り合うという思わぬ三角関係に発展します。

どんなに好きでも淑子の気持ちを尊重し、ゴウに託すテラシン。淑子の幸せを誰よりも祈っていました。

そんな中、偶然にも再開するテラシンと淑子。その出会いは、ゴウと淑子の人生に再び光を照らしてくれました。これもまた「キネマの神様」のおかげでした。

若かりし頃のテラシンを演じたのが、NHK連続テレビ小説『エール』で朝ドラ出演も果たすなど、俳優としても活動の場を広げるRADWIMPSの野田洋次郎。自然体の演技に惹き込まれます。

銀幕スター・桂園子

映画化に伴いもっとも原作と違うのが、昭和の映画撮影所の様子が描かれているという点です。

そして、オリジナル登場人物である銀幕のスター・桂園子の存在。演じたのは北川景子です。

日本の映画黄金期において華やかな立ち振る舞いで群衆を魅了し続けたスターたち。俳優には三船敏郎、石原裕次郎、渥美清、そして女優では原節子、吉永小百合、高峰秀子など名画においてスターは欠かせないものでした。

本作では、北川景子が見事に昭和の銀幕スターを演じきっています。原節子をはじめとし、往年の大女優をお手本に、髪型や服装、メイクにこだわり役作りに励んだそうです。まるでスクリーンの中でしか存在しないような完璧な所作と美しさはお見事です。

北川景子演じる銀幕のスター・桂園子は、劇中でキーパーソンとなっており、キネマの神様を具現化した存在と言っても過言ではありません。

まとめ


(C)2021「キネマの神様」製作委員会

豪華キャストとともに「山田組」が贈る、映画愛にあふれた作品『キネマの神様』を紹介しました。

当初ゴウ役を演じるはずだった志村けんに変わり、代役を引き受けた沢田研二。映画内の随所に志村を偲ぶシーンが盛り込まれており、沢田研二だからこそ演じられたと感じます。特にラストシーンでは、ゴウと志村の姿を重ねて胸が痛くなりました。

世の中を襲った想像もつかなかった緊急事態で、映画界は大きく変化しました。映画館の営業も大打撃を受けています。

こんな時だからこそ山田洋次監督からの、もう一度映画が元気だった頃を思い出そうという強いメッセージを感じました。

あなたの好きな映画は何ですか。思い出の映画はありますか。映画を語る時、「キネマの神様」が隣で微笑んでいるかもしれません。




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