あのヌーヴェルヴェーグ不朽の名作はこうして生まれた!
『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)、「ビフォア」シリーズ(1995~2013)のリチャード・リンクレイター監督の最新作となる映画『ヌーヴェルヴァーグ』が、2026年7月10日(金)より全国公開中です。
1950年代後半のフランスで起きた革新的映画ムーブメント「ヌーヴェルヴェーグ」を代表する作品の一つである『勝手にしやがれ』(1959)製作の舞台裏を、ネタバレ有りでご紹介します。
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映画『ヌーヴェルヴァーグ』の作品情報
© 2025 ARP – Detour Development LLC
【日本公開】
2026年(フランス映画)
【原題】
Nouvelle Vague
【監督】
リチャード・リンクレイター
【製作】
ミッシェル・ペタン、ロラン・ペタン
【製作総指揮】
エマニュエル・モンタマ、ジョン・スロス
【脚本】
ホリー・ジェント、ビンス・パルモ、ミシェル・アルベルシュタット、レティシア・マッソン
【撮影】
デヴィッド・シャンビル
【編集】
カトリーヌ・シュバルツ
【キャスト】
ギヨーム・マルベック、ゾーイ・ドゥイッチ、オーブリー・デュラン、アドリアン・ルイヤール、アントワーヌ・ベッソン、ジョディ・ルース=フォレスト、ブルーノ・ドレイフュルスト
【作品概要】
『バーナデット ママは行方不明』(2023)のリチャード・リンクレイター監督が、1959年のジャン=リュック・ゴダール監督作『勝手にしやがれ』製作の舞台裏を映画化。
キャストを、リンクレイターとは『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016)以来の参加となるゾーイ・ドゥイッチ以外をほぼ無名の俳優陣で固め、主人公ゴダール役に、写真家やモデルとして活動していたギヨーム・マルベックを抜擢。
2025年の第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、2026年の第83回ゴールデングローブ賞では最優秀作品賞(ミュージカル/コメディ部門)にノミネートされました。
映画『ヌーヴェルヴァーグ』のあらすじとネタバレ

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1959年。カイエ・デュ・シネマ誌で映画批評家として頭角を現していた28歳のジャン=リュック・ゴダールは、プロデューサーのジョルジュ・ドゥ・ボールガール製作の『悪魔の峠』の上映会に参加。上映後のアフターパーティーの席でボールガールと対面した際、「自分にも映画を撮らせてくれ」と訴えます。
後日、友人のフランソワ・トリュフォーの長編デビュー作『大人は判ってくれない』がカンヌ国際映画祭で絶賛を博し、注目を浴びているのを横目にするゴダール。そんな彼に、ボールガールはトリュフォーが実際の警官殺し事件に基づいて書いたプロットが原案の長編企画を提示。
低予算で撮影日数20日で撮れそうだとしてその企画に乗ったゴダールは、自動車泥棒で警官殺しの主人公ミシェル役を、かつて短編作で組んだジャン=ポール・ベルモンドにオファー。
ロベルト・ロッセリーニ、ジャン=ピエール・メルヴィルといった名だたる映画監督から映画づくりのアドバイスを受けたゴダールは、アメリカの若手注目株のジーン・セバーグにヒロインのパトリシア役をオファーします。セバーグは無名の監督に不安を感じるも、夫で弁護士のフランソワ・モルイユの説得もあり、引き受けることに。
その後、助監督のピエール・リシアン、戦場帰りの撮影監督ラウール・クタールといった主要スタッフも次々決定し、クランクイン前夜にトリュフォーを筆頭とするヌーヴェルヴァーグの仲間たちの激励を受けます。
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1959年8月17日、『息切れ』(邦題『勝手にしやがれ』)撮影初日。ゴダールはパリの市街地で数カットを撮っただけで、たった2時間で撮影を切り上げてしまいます。翌日のリハーサルもなければ、「セリフは覚えずに演じてもらうから」と脚本も渡しません。
出番がなかったセバーグは、ゴダールから「型にはまらない即興演技が好みだ」と聞かされるも納得できず、ボールガールは先行きに不安を覚えます。
撮影2日目以降も、ゴダールは現場でメモ帳に台詞を書いて俳優に渡したり、口頭で伝えるといった演技指導を実行。郵便配達用の三輪車の中にカメラを隠してゲリラ撮影を敢行すれば、セバーグが帯同したメイク担当のフオン・メトレに「メイクは不要だ」と拒否。
スクリプターのシュゾン・ファイユから「シーンがつながらない」と言われるも、「つながらなくてもいい」と言い放つ始末。そんな撮影状況にセバーグは「辞めたい」と夫に不満をぶつける一方、ゴダールの性格を知るベルモンドは陽気に場を和ませます。
10日目。食あたりを起こしたとして撮影を中止してしまったゴダールにボールガールが激昂。カフェでピンボールを楽しんでいたゴダールを見つけ、取っ組み合いになってしまうのでした。
『ヌーヴェルヴァーグ』の感想と評価

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アメリカ人監督が手がけるヌーヴェルヴァーグの起源
1950年代後半のフランスで台頭した新世代のフィルムメーカーたちが、既存のルールに縛られずに無名の俳優を起用し、自由な発想や即興演出を実践していったムーブメント、「ヌーヴェルヴァーグ=新しい波」。
本作『ヌーヴェルヴァーグ』は、そのヌーベルバーグの代表作として名高いジャン=リュック・ゴダール監督作『勝手にしやがれ』の製作過程を追ったものですが、意外なのは、監督がリチャード・リンクレイターという点でしょう。
そもそも、ヌーヴェルヴァーグ不朽の名作の舞台裏を描く作品自体、今までありそうでなかったのが意外と言えますが、なぜフランス語が話せないアメリカ人のリンクレイターが手がけたのか?
実はリンクレイターは、10年以上も前から本作の企画を温めていたものの、なかなか実現には至らなかったとか。しかし、2022年9月にゴダールが91歳で亡くなったことで、「今こそ作るべき時だ」として資金繰りに奔走。
シャネルの衣装提供なども得て、リンクレイターの積年の思いが形となった本作は、セリフも全編ほぼフランス語、1959年当時の映像スタイルだったアスペクト比1.37:1のモノクロ映像や、VFXを駆使して当時のパリの街並みを再現。
キャスト陣も、ジーン・セバーグ役でアメリカ人のゾーイ・ドゥイッチ以外、ほぼ無名のフランス人俳優で固めており、その上で実在の人物とそっくりな容姿をしていることも驚きです。
“勝手にしやがれ”な映画づくり

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脚本を用意せずその場でセリフを考え、アイデアが出なかったり気分が乗らないと撮影を中止してしまい、シーンの整合性もまったく頭になく、思いつくままカメラを回す……まさにゴダールの“勝手にしやがれ”なやり方にスタッフは焦り、アメリカから招かれたセバーグは不満を露わにする。
名作と誉れ高い『勝手にしやがれ』も、その撮影はバタバタだったという経緯や、ゴダールが起源とされる「ジャンプカット」と呼ばれるテンポ良い編集も、実は90分のランニングタイムにまとめるという規約が生んだ偶然の産物だったなど、映画トリビア的観点からも興味深い内容となっています。
トリビアといえば、セバーグの「オットー・プレミンジャーはサディストよ」というセリフにもちょっとした意味が。ゴダールがセバーグにパトリシア役をオファーしたのは、彼女が出演したアメリカ映画『聖女ジャンヌ・ダーク』(1957)と『悲しみよこんにちは』(1957)を観たからですが、その2作を監督したプレミンジャーは、俳優に厳しいダメ出しをするとして恐れられていました。
プレミンジャーの鬼の演技指導に疲弊し、リフレッシュも兼ねてフランス映画に参加したセバーグでしたが、ここでもストレスを抱えてしまう――終盤、セバーグがふざけながらも厳しめの口調で通行人役で出演したゴダールに演技のダメ出しをしますが、その口調はプレミンジャーをまねたものです。
そして、『勝手にしやがれ』最大のトリビアと言っても過言ではないのがラストシーン。パトリシアが「最低って何のこと?」とつぶやくのは、セバーグの完全なアドリブにして、“勝手にしやがれ”なやり方を通してきたゴダールへの最大の反撥なのです。
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本作を観ていてダブったのが、クエンティン・タランティーノの存在。
ゴーギャンの言葉「芸術は盗作か革命のどちらかでしかない」に則り、T・S・エリオットやルノワールの言葉をセリフに引用するゴダールと、好きな映画や音楽をサンプリングして自作に活かすタランティーノは、作劇面で似ています。
ゴダールが俳優側からの安易なアドリブを良しとしなかった(『勝手にしやがれ』ではセバーグの拒絶に屈したが)ように、タランティーノも「俳優はアドリブをするためではなく、俺が考えたセリフを言うために存在するんだ」と豪語するなど、演技面でも共通している両者。タランティーノが自身のプロダクション名を『バンド・アパート(はなればなれに)』としているのも、決して偶然ではありません。
そして、本作の監督リンクレイターもまた、自由でジャンルに捉われない“勝手にしやがれ”な作品を撮ってきた人物。少年が成長する12年間を本当に12年かけて撮った『6才のボクが、大人になるまで。』などは、アイデアを思い付いたとしても形にするには容易ではない作品です。
リチャード・リンクレイターだからこそ、ヌーヴェルヴァーグ不朽の名作の舞台裏を描く作品を形にできたのかもしれません。
まとめ

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『ヌーヴェルヴァーグ』を製作するにあたり、リンクレイターは「映画を観た若者が“自分も映画を撮りたい”と思ってくれれば」という願いを込めたと語っています。
20歳のリンクレイターが、『勝手にしやがれ』を筆頭とするヌーヴェルヴァーグ作品を観てフィルムメーカーを目指したように、本作が未来のフィルムメーカーとして目覚める一助となれば――
「映画を撮りたいと思わせてくれた人々、映画が作れると信じさせてくれた人々、『映画を作るべきだ』と確信させてくれた人々へのラブレター」と自評するリンクレイターの、新たな代表作となるべき一本でしょう。
松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)




































