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Entry 2022/07/11
Update

映画『破戒』ネタバレ結末感想とあらすじ解説評価。間宮祥太朗の熱演による差別問題を現代に問いかける

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

部落出身であることを隠して生きる瀬川丑松の葛藤と苦しみ、理不尽な差別を描く

島崎藤村の不朽の名作『破戒』は、1948年に木下恵介監督、1962年に市川崑監督によって映画化。

60年の歳月を経て、2022年の令和の世に、間宮祥太朗を主演に迎え、新たにスクリーンに登場しました。

奇しくも、2022年は全国水平社創立100周年を迎える年でもあります。

東映京都撮影所が制作を担当し、明治時代後期を再現し、明暗を活かした美しい映像美で間宮祥太朗演じる主人公・瀬川丑松の苦しみや葛藤の表情を映し出します。

また、島崎藤村の原作小説に新たな要素を加え、現代を生きる私たちにとってわかりやすく、感情移入しやすいドラマに仕上がっています。

100年余り昔の明治時代の部落差別の問題を描き、改めて現代の私たちに問いかけ、未来へと希望を託すようなメッセージが感じられます。

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映画『破戒』の作品情報


(C)全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

【公開】
2022年(日本映画)

【原作】
島崎藤村

【監督】
前田和男

【脚本】
加藤正人、木田紀生

【キャスト】
間宮祥太朗、石井杏奈、矢本悠馬、高橋和也、小林綾子、七瀬公、ウーイェイよしたか(スマイル)、大東駿介、竹中直人、本田博太郎、田中要次、石橋蓮司、眞島秀和

【作品概要】
殺さない彼と死なない彼女』(2019)や『東京リベンジャーズ』(2021)、ドラマ『ナンバMG5』(2021)など、主演から助演まで幅広く活躍する間宮祥太朗が、主人公の瀬川丑松を演じました。

志保役には、『砕け散るところを見せてあげる』(2021)の演技が印象的であった石井杏奈。丑松の同僚役には、『賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』(2021)などに出演し、間宮祥太朗とも何度も共演経験のある矢本悠馬。

監督を務めたのは、『発熱天使』(1999)の前田和男。脚本を担当したのは、『クライマーズ・ハイ』(2009)、映画『凪待ち』(2019)などの脚本を担当し、日本アカデミー賞優秀脚本賞受賞経験もある加藤正人。

映画『破戒』のあらすじとネタバレ


(C)全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

瀬川丑松(間宮祥太朗)は部落出身であることを隠し、小学校の教員として働いています。

子供の頃、村を離れる際に、丑松は父から誰も信じてはいけない、絶対にこの村のことは隠し通せと言われ、丑松は、父の戒めを守ってきました。

ある日、下宿先の宿屋でおかみさんに、部落出身であることを隠して宿泊していた客がいたと言われます。世間体もあり、全ての部屋の畳を変えるから部屋を片してほしいと言われます。

丑松が、外に出て人々が騒いでいる方を見ると、身なりのいい老人が人力車に乗ろうとしているところでした。人々は罵倒し、出ていけと叫んでいます。一人が石を投げ、老人の頭にあたり老人は頭から血を流していました。

その様子を見た丑松は引っ越しを決意し、下宿も兼ねている蓮華寺に引っ越すことを決めます。

丑松は、部落出身であることを公言している作家であり、活動家の猪子蓮太郎(眞島秀和)の著作を読み、猪子蓮太郎の新たな思想、理不尽な差別に対して声を上げる姿勢に感銘を受けます。

丑松の小学校の同僚であり、師範学校からの知り合いの銀之助(矢本悠馬)は、猪子蓮太郎に傾倒していく丑松の様子を心配しています。

また、丑松らが務める学校の校長は保守的で猪子蓮太郎などの新たな思想を嫌っていました。そのこともあり、校長には猪子蓮太郎を読んでいることを知られないほうがいいと忠告します。

校長は丑松や銀之助をあまりよく思っていません。更に、郡視学(郡が行政単位の一つであった時の、地方教育行政官)の甥である若き教員文平が新しく赴任したことで、文平を重宝し始めます。

そんな中、年配の同僚・敬之進は体調がよくなく、やむなく遅刻などを繰り返していましたが、とうとう退職することになります。あと数ヶ月働けば恩給がもらえる敬之進のことを慮って丑松は校長にこれまでの働きに免じて恩給を出してはもらえないだろうかと相談します。

しかし、規則は規則だ校長は相手にしません。その夜、敬之進と酒を交わした丑松は、蓮華寺にいる娘・志保(石井杏奈)が実は敬之進の娘であることを知ります。

前妻の娘である志保は、金銭的な理由でやむなく蓮華寺に養子として出し、長男は日露戦争に従軍していると言います。長男が帰って来れば家計も助かると敬之進は言います。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『破戒』ネタバレ・結末の記載がございます。『破戒』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

丑松は、蓮華寺で生活し、少しづつ志保に惹かれる気持ちを感じていながら、父の戒めを思い出し、気持ちを抑えようとします。

更に市議会議員の高柳利三郎(大東俊介)を見かけた丑松は、その妻が同郷の出身、つまり部落出身であることに気づいてしまいます。柳の妻も同様に丑松と丑松の父についてよく知っていました。

後日、蓮華寺にいる丑松を高柳利三郎が訪ねてきます。そして妻の出自について黙っていてもらいたいと丑松に突きつけます。

そして、校長は学校を上げて次の市議会選で高柳利三郎を支持すると表明しますが、対抗馬は猪子蓮太郎が支持している弁護士だったのです。

以前から猪子蓮太郎の新作が出るたびに、自身の出自を明かさず、手紙を送っていた丑松は、猪子蓮太郎が演説で各地を巡回していることを知ります。その上猪子蓮太郎自ら蓮華寺を丑松に会いに訪ねてきたと言います。

猪子蓮太郎が泊まっている宿に向かった丑松は猪子蓮太郎に会い、興奮気味に猪子蓮太郎の著作、そして思想に対する思いをぶつけます。猪子蓮太郎も丑松の熱い思いを感じ、自分のような出自のものにも対等に接してくれることに感激します。

幾度となく、自分の出自を猪子蓮太郎に伝えようと思っては、父の戒めを思い出していた丑松でしたが、とうとう決意し、猪子蓮太郎に次に会ったら聞いてほしい話があると伝えます。

しかし、その夜猪子蓮太郎は、高柳利三郎が雇った人々に襲われて命を落とします。

猪子蓮太郎の思想に触れ、自身も理不尽な差別に対し、声を上げたいと思う丑松でしたが、今まで師範学校に通い、教師としてやってこれたのは、出自を隠してきたからであり、自分の出自を話す勇気が持てずにいました。

文平は、丑松が生まれの地を誤魔化して明確に言わなかったことがひっかかており、旧友との会話で丑松の話をした文平が、その地に瀬川という名の部落民がいたことを知ります。

丑松をよく思わない文平は丑松と銀之助以外の教員らに教員の中に部落出身のものがいるという噂を流したり、志保に丑松の出自や悪口を聞かせていました。

猪子蓮太郎の思想に触れ、じわりじわりと自分の出自がバレてしまうのではないかという不安、思いを寄せていても許されぬ志保への思いなど、さまざまな思いで丑松は塞ぎがちになります。

塞ぎ込む丑松の様子を心配する銀之助でしたが、何が丑松をそう暗くさせるのかがわからず、志保と丑松がお互いに惹かれあっていることを感じていた銀之助は、丑松に志保となぜ一緒にならないのかと聞きます。

葛藤の末丑松は、銀之助に噂は本当だ、自分は部落出身なのだ、今まで黙っていてすまなかったと言います。その告白に銀之助は驚きつつも、今まで無神経な発言で君を傷つけてしまった、すまないと謝るのでした。

全てを曝け出す決意をした丑松に銀之助は、早まるな、何も馬鹿正直に全て言う必要はないと言いますが、丑松は聞く耳を持たず、生徒や同僚らにも伝え、学校を辞める気でいました。

生徒を前に丑松は今日は皆さんに話があると言い、自身は部落出身であると告白します。

皆さんが大人になった時に瀬川という教員がいたこと、瀬川が伝えてきたことを思い出してほしい。私は卑しいとされる身ではあったも皆さんに正しいと思うことを伝えてきた、と言いながら涙を流しその場に崩れ落ちます。

今まで騙していて本当に申し訳ありませんでしたと謝る丑松の姿に生徒も涙を浮かべます。やめないでほしいという生徒さえいました。

全てを告白し、一人で東京へと向かうつもりであった丑松の元に、銀之助が志保を連れて現れます。君は薄情だなと明るく冗談を言うと、志保は全てをわかった上で丑松と一緒になるつもりであったことを伝えます。

志保は丑松と共に歩き出します。そんな2人の元に生徒も見送りに駆けつけます。しかし、途中で文平がやってきて学校に戻るように言います。

文平に対し、銀之助が普段とは違う怒りに満ちた声で、責任は全て自分が取るから君は帰って校長の機嫌でも取っていたらいいと怒鳴りつけます。銀之助の剣幕に驚いた文平は立ち去り、生徒らは無事丑松と志保を見送ります。

「またどこかで」そう力強く告げ、丑松は志保と共に前へと歩き出します。

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映画『破戒』の感想と評価


(C)全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

次の世代への希望

島崎藤村の小説『破戒』をベースにしながらも新たな要素を加えて再構築した映画『破戒』。

大きな原作との違いは、子供たちと丑松の物語に重きをおいていることでしょう。原作で丑松が教えていたのは高等4年生であり、年齢は14歳くらいの現代では、中学生にあたる年代の子でした。

しかし、本作では小学生くらいの子供たちに教えています。更に原作にも登場する部落出身の生徒と丑松の関係性や生徒の設定も少し変わっています。

部落出身の生徒を丑松は気にかけ、部落出身だからと諦めず、教育をしっかりと受けることが大事だと伝えます。また、差別をする生徒らに対し、大人がしているからといって差別するのはおかしいと説きます。

体の不調によって退職をせざる得なくなった同僚・敬之進の息子・省吾のことも、丑松は気にかけていました。省吾は父親の様子を見て、自分は奉公に出されるから勉強したところで上の学校にはいけないと諦めています。

そんな省吾に対しても、丑松は繰り返し勉強は大切だと説きます。教育の大切さを訴え続ける丑松の心の内には、今の丑松があるのはひとえに教育を受けられたおかげだという思いがあるからでしょう。

教育は未来への架け橋なのです。教育の大切さは明治の世だけに限らず現代にも言えることです。

そして差別をなくして新たな思想を持って未来を切り開いていってほしいという思いを丑松は教え子に託します。

教え子に託した未来への希望は、映画を見ている観客に対してのメッセージでもあります。

映画のラストで、教師をやめ、東京へと向かう丑松と志保を見送りに生徒らが駆けつけます。文平が学校に帰るよう叱っても、見送りたいという強い意志を口にした生徒らの姿は、丑松の教えがきちんと生徒らに伝わっていると感じられ、胸が熱くなります。

一方で、いつか部落差別がなくなったとしても、新たな差別が始まる。人は弱いから差別をする、そう猪子蓮太郎は丑松に言いました。その言葉に観客はハッとさせられます。

近年Black Lives Matterやアジア人ヘイトなど、差別に対する抗議の運動が世界的な広まりを見せています。その背景には、時代が変われど、今なおなくなることのない差別の問題について考えさせられるのです。

まとめ


(C)全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

島崎藤村の普及の名作を映画化した映画『破戒』。

60年ぶりに映画化された本作は、原作のメッセージ性や明治の世情を描きながらも、現代にも通じる問題を浮き彫りにしています。

更に未来への世代へと希望を託す丑松の思いを描き、現代を生きる私たちもその希望を受け取り、未来へと託していかないといけないと考えさせられます。

また、多彩な役をこなしてきた間宮祥太朗が内面で苦悩を抱え、幾度も全て打ち明けたい思いに駆られながら葛藤する姿を台詞ではなく表情で見事に表現しています。

丑松とは対照的で明るく屈託のない同僚であり、親友の銀之助を演じたのは、実際に間宮祥太朗と交友の深い矢本悠馬。

トリガール!』(2017)など多くの作品で共演してきた間宮祥太朗と矢本悠馬ならではの安定感のある演技も見どころの一つです。




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