映画『めためた』は2023年11月25日(土)よりユーロスペースにてロードショー!
俳優、助監督、照明……など様々な形で映画に携わってきた鈴木宏侑の初の長編監督作『めためた』。
鈴木監督の短編映画『KIRO』(2020)で行った即興演技・即興演出をもとに、追加撮影などを行い長編映画として形作っていった本作は、それぞれに合った役柄を即興演技で織りなす群像劇となっています。
かつて注目を集めたものの現在はスランプ中の作家・荒木は、小説の題材を探して街の中を日々彷徨い歩いていました。
そんな荒木のもとに別れたと思っていた恋人が帰ってきたり、飲みに行った女性と親密になったり……荒木を取り巻く人間関係とともにこんがらがっていく小説の行方は?
映画『めためた』の作品情報
【日本公開】
2023年(日本映画)
【監督】
鈴木宏侑
【脚本】
新井秀幸、鈴木宏侑
【撮影】
近藤康太郎
【音楽】
入江陽、Yohey Comeon、光由、井山実莉
【キャスト】
新井秀幸、和座彩、錫木うり、橋本つむぎ、柳谷一成、金谷真由美、池内明世、野呂健一、鍛代良、久保田翔、萩原正道、大城義弘、河北琴音、石田健太
【作品概要】
監督は『タイトル、拒絶』(2020)の助監督や『鈴木さん』(2022)の照明を担当し、俳優として『ミッドナイトスワン』(2020)など数々の映画に出演してきた鈴木宏侑。本作が初の長編監督作となりました。
スランプ中の小説家・荒木役を演じたのは、今泉力哉監督の『最低』(2009)や『テン・ストーリーズ』(2023)に出演した新井秀幸。
また『衝動』(2021)の錫木うり、『ラーゲリより愛を込めて』(2022)の鍛代良、『さがす』(2022)の橋本つむぎ、『まっぱだか』(2022)の柳谷一成など、インディーズ映画や商業映画、舞台などで活躍する俳優陣が顔を揃えています。
映画『めためた』のあらすじ
スランプに陥っている小説家の荒木は、日々題材を探して街を彷徨い歩いていました。
妹の就職祝いに久しぶりに帰省したつくしが思わぬ存在を紹介されて困惑したり、仲睦まじい夫婦が妊活を始めたことである事実が発覚したり……街の中では様々なところで、人々のドラマが巻き起こっていました。
荒木の元にも、別れたと思っていた恋人が帰ってきたり、知り合いの女性と飲みに行っていい雰囲気になったりと、小説の内容同様に荒木の私生活もこんがらがっていきます。
果たして荒木は、小説を書き上げることができるのでしょうか。
映画『めためた』の感想と評価
スランプに陥っている小説家・荒木を中心に“めためた”な人間ドラマが繰り広げられる本作が描く世界は、即興劇が織りなすシュールで妙にリアル味のある独特な空気を放っています。
荒木を中心にして起きる修羅場に関しても、荒木は他人事で、そのような荒木の姿によって修羅場を喜劇に見せています。そのような空気感は、今泉力哉監督作などを彷彿させます。
“めためた”な人間模様をリアルに、面白く
本作では荒木にまつわる物語に加えて、2つの物語が展開されます。
一つは、妹の就職祝いで久しぶりに帰省をするつくしの物語。つくしは恋人とともに帰省し、恋人は「家族に“結婚相手”として紹介される」という心持ちですが、つくしには結婚の意志はあまり感じられません。
実は喧嘩別れして以来の再会だった母とつくしの微妙な空気に、恋人は何とか場を盛り上げようとがんばりますが空回りするばかり。または母親は紹介したい人がいると一人の男性をつくしに紹介し、その人と再婚すると告げました。
つくしの父親は出かけたきり失踪していましたが、それでもつくしは心のどこかで父親を待ち続けていました。しかし母親には父親を待つ気持ちはとっくになく、つくしと違って父親の記憶がほとんどない妹も母親の再婚を祝福します。
妹に「嫌がる理由がわからない」と言われても、母親の心情を受け入れられないつくし。つくしと母・妹は、いつまで経っても“平行線”のままなのです。
もう一つは、妊活を始めた夫婦をめぐる物語。検査を受けると夫の精子が少なく、妊娠は難しいかもしれないという検査結果が。夫はその結果を受け入れられず、学生の頃恋人に妊娠させて中絶したことがある話を持ち出し、証明しようと躍起になります。
妻は「過去の話はいいからこれからのことを考えよう」といっても、夫は聞く耳を持ちません。つくしの物語と同様、夫婦の間でも“平行線”の会話が続くのです。
このように、本作に描かれているドラマはどこかこんがらがり、問題を抱えています。そのようなややこしい人間模様を、日常の延長線のようなリアルさ感じさせつつ映画的な面白みのある展開で描いているのが、本作の魅力です。
“メタ”な物語展開という遊び心
一方の荒木は、小説家として“メタ”的な視点で小説を書いていながら、自らも登場人物として巻き込まれていきます。目の前に起こることに身を任せ、結末も分からぬまま小説を書き続ける荒木。
そして、荒木の元カノがパソコンに向かい、荒木が書いたであろう小説を書き換えてしまいます。この予想だにしない展開は、荒木自身では終わらせることのできなかった物語を第三者の登場によって完結してしまうという面白さを持っています。
さらあにその展開を知っているのは、元カノと映画を見ている観客であるという遊び心が絶妙です。
3つの修羅場は平行線のまま終わるのではなく、それぞれが希望を感じさせる終着点をむかえます。明確な終着点は描かずにふわりと始まった物語はふわりと未来へつながっていくのです。
まとめ
本作は、俳優それぞれに合ったキャラクターを割り当て、即興演技をベースに追加撮影などを織り交ぜることで、群像劇として長編映画に仕上げたという実験的な映画です。
小説の作中の話なのか、現実なのか曖昧な独特な空気感は、同じく即興劇を元にした木村聡志監督の『恋愛依存症の女』(2018)、『階段の先には踊り場がある』(2022)なども彷彿させます。
突然始まった3つの物語は、何気ない日常のような雰囲気からどんどん雲行きが怪しくなり、それぞれの修羅場の幕が開かれます。しかしその修羅場は、キリキリするような緊迫感とは少し違う軽妙さがあり、その軽妙さこそが“映画的”であるともいえます。
そして映画的、つまりフィクションのようでありながら、俳優同士の対話は与えられたセリフとは違う生身のリアルさもあるのです。
フィクション・ノンフィクションの狭間を漂う本作は、荒木同様に作り手たちも終着点をあえて定めずに作っていたのではと思えるほどに、ゆったりと時間が流れていきます。
雲行きが怪しくなり、雷が落ちるかのように修羅場をむかえ、その後はゆるやかに日差しがさしていくかのように希望を感じさせるような展開。しかし、何かが解決されたわけでも関係性が大きく変わったわけでもないのです。
ゆったりと流れていく中に、修羅場も笑い合う瞬間もやってくる。そのように起伏がある様子は、まさに私たちの日々と同じなのではないでしょうか。
私たちもこの先どうなるのか分からないまま日常を過ごし、その日常には大変な日も楽しい日もあります。
皆それぞれのドラマを生き、他者のドラマと自分のドラマが時折重なりながら、またそれぞれの人生を生きていく……誰かの日常を垣間見たようなリアルさと映画的な面白さを含んだ“メタ”で“めためた”な日常が本作のテーマなのです。
自分を他所に誰かの日常は巡り、自分の人生も自分でコントロールできるものではありません。だからこそ、日常は面白いものであるのです。
映画『めためた』は2023年11月25日(土)よりユーロスペースにてロードショー!