若かりし頃の妻夫木聡と池脇千鶴主演のピュアで切ないラブストーリー。
今でも多くの人に愛される名作『ジョゼと虎と魚たち』を紹介します。
映画『ジョゼと虎と魚たち』の作品情報
公開
2003年(日本映画)
監督
犬童一心
キャスト
妻夫木聡、池脇千鶴、新屋英子、上野樹里、新井浩文、江口徳子
作品概要
1984年6月号に発表された田辺聖子の短編小説を『眉山ーびざんー』『黄泉がえり』で有名な犬童一心監督により映画化されました。
第77回キネマ旬報 日本映画ベストテン第4位。
犬童一心監督は第54回芸術選奨映画部門において、芸術選奨新人賞を受賞。
音楽はロックバンドくるりが担当。
映画『ジョゼと虎と魚たち』のあらすじとネタバレ
乳母車に乗った少女
雀荘でバイトする大学生の恒夫(妻夫木聡)は、乳母車を押す奇妙なお婆さんの話を聞きます。
明け方、マスターの犬の散歩をしているとその坂の上から走ってくる乳母車に遭遇します。
近寄り中を覗くと、そこには包丁を持った少女が居ました。
その足の不自由な少女の名前はジョゼ(池脇千鶴)。外に出たがるジョゼの為、お婆さん(新谷英子)は人に見られない朝方に散歩をしているのだと言います。
その後、ジョゼの家へ行き、朝ご飯を作ってもらいます。
ジョゼは生まれつき足が悪く、ほとんど外には出ません。世間体を気にするお婆さんの性格もあり、家に閉じこもるような状態でこれまでの人生を過ごしてきたのです。
恒夫をそんなジョゼに魅力を感じた事と作ってもらったご飯があまりにも美味しかった事から、ジョゼとお婆さんで2人暮らしをするこの家に、度々訪れるようになりました。
ジョゼの部屋にはお婆さんが拾って来た色んなジャンルの本が高く積まれていて、ジョゼはいつも本を読んで居ました。
中でも、フランソワーズ・サガンの著書が大好きで、自分の名前「ジョゼ」もその登場人物から取ってきたものでした。
自分で買いに行けない、探せない身であるジョゼはフランソワーズ・サガンの「一年ののち」という本の続編がいつか路上に捨てられるのを待ちわびているのだと言います。
それを聞いた恒夫は、古本屋でその続編を見つけジョゼに渡すのでした。
ジョゼを気にかけながらも、恒夫は大学で同級生の香苗(上野樹里)に好意を持ち、セックスフレンドとしてノリコ(江口徳子)とも関係を持って居ました。
いわゆる恒夫はごく普通の大学生であり、健常者。普通にバイトをし、普通に恋愛をします。
誰にでも優しい恒夫は友人も多く、ジョゼの世界にもズカズカと無神経に入り込んでいきます。
ジョゼを昼間に外へ連れ出そうと、恒夫は乳母車にスケボーを付けて、お婆さんには内緒で街へ繰り出します。
世間と遮断していたジョゼに取って外の世界は広く輝いて見えました。
河川敷で、雲を見つめながらこう呟きます。
「あの雲、持って帰られへんやろかあ」
虎と魚たち
ジョゼの家に市の支援でバリアフリー工事の業者が訪れていました。
家を改装している中、ジョゼは押入れの中で本を読んでいるのでした。
そんな時、福祉に興味があった香苗が見学に来たと、突然現れます。
押入れの中で2人の会話を聞くジョゼ。
その日の夜、たこ焼きを持って再び訪れた恒夫にジョゼは泣きながら「帰れ」と叫び、本を投げつけます。
もう2度と来ないように、とお婆さんからも釘を刺されるのでした。
数ヶ月が経ち、ジョゼの家を改装した時に知り合った業者の人(板尾創路)の会社に訪れ、就職活動を行なっていました。
そこで恒夫はジョゼのお婆さんが亡くなった事を知ります。
ジョゼは足が不自由な女の子。一見頼もしく見えますが、1人で生きていくには難しい事を知っていた恒夫は、居ても立っても居られなくなり、ジョゼの家へ駆けつけます。
ジョゼの家は数ヶ月前とは少し変わっていました。
乱雑に置かれていた雑貨は少なくなり、家具の配置が変わり、照明の紐が長く伸びていて、お婆さんが居た時よりも暗く、それでも必死に暮らすジョゼの姿がありました。
ゴミ出す事もままならないジョゼは、変態と呼ばれる近所のおじさんに胸を触らせる事を条件に世話をしてもらっていたりもしていました。
それを非難する恒夫に対して、ジョゼは泣き叫びます。
ジョゼの本心を察した恒夫はキスをし、身体を重ねるのでした。
2人は付き合い始め、一緒に暮らすことになります。
ジョゼの夢の一つに「好きになった男と世界で1番怖いものを見る」というものがあり、恒夫と動物園に行ったりと、2人は幸せな時間を過ごしていました。
しかし、その幸せはそう長くは続きませんでした。
それからまた幾月か経った日。法事を兼ねた恒夫の実家へ向かう小旅行に2人は出掛けます。
ジョゼのもう一つの夢であった「魚が見たい」という夢を叶えるため、水族館を目指しますが、向かった水族館はなんと休館日。
ジョゼはショックを受け散々駄々をこねます。
それに苛立つ恒夫。そして、車椅子を利用せず、いつまでも恒夫に依存しようとするジョゼにも恒夫のストレスは増していく一方でした。
「障害者」であるジョゼと自分の違いからついに目を逸らせなくなった恒夫は、結局家族と顔を合わせることに戸惑い、法事を断ります。
「兄ちゃん、怯んだ?」と言う弟に、恒夫は何も言い返せないのでした。
2人は行き先を変えて海へ向かいます。
初めて海を見る興奮気味のジョゼをおんぶして楽しむ2人。
その夜、車で帰っている途中「お魚の館」というラブホテルを見つけ、ジョゼはそこに行きたいと言います。
真珠貝のベットの上でこう話します。
「いつかあんたが居なくなったら、独りぼっちの貝殻のように転がり続けるだろう。」
「寂しいじゃん」と言う恒夫。
「でも、まあ、それもまた良しや。」とジョゼは微笑むのでした。
映画『ジョゼと虎と魚たち』の感想と評価
切ないです。とても切なく美しく、そして優しいです。
ごく普通の若者が抱く心の葛藤を上手く描かれていて、障害者と関係を持った事のないような鑑賞者にとっても、恒夫に対して容易に同情する事ができます。
本作の後半で訪れる、小旅行からの2人の別れには、胸を打たれます。
何より「ジョゼと離れ、香苗の元へ戻る」という決断をした恒夫を強く非難することは出来ないのが切ないです。
そのリアルさは本作のすごい所です。
恒夫の責任感の感じ取れない今を楽しむ若者の姿と障害者に対する好奇心と正義感。「障害者のくせに彼氏を取るなと」罵倒する香苗にも現実的で、美しいだけではないリアルさを感じる作品でした。
そして誰よりも自由に生きるジョゼの人間性にとても心惹かれます。
いつも寝癖頭で、洗練されていないファッション。ねっとりと関西弁を喋るジョゼは足が上手く動かない「壊れ物」として家に閉じこもって生きてきました。
そんなジョゼが抱く願望や欲望は誰より大きく、誰より自由でした。
「帰れ!帰れと言われて帰る奴は帰れ!」
恒夫に対して本心ではなく、素直になれず、泣いてしまうジョゼの心情に辛く切なくも共感してしまいます。
作中にも登場したサガンの物語が2人の恋愛ともなんとなく通じている所もまた作品の奥行きを作り出しています。
裕福な親の資産で自由気ままに生きる小説のジョゼ。
両足が不自由で一人でろくに外に出ることも出来ない映画のジョゼ。
一見対照的な2人のキャラクターではありますが、自由で満たされた生活を送りながらもどこかでそれがはかないものだと小説のジョゼは感じています。
それは映画のジョゼが恒男との別れを予感しているところにも通じています。
まとめ
足の不自由なジョゼとごく普通な大学生の切ない難しいテーマを持ったラブストーリーとなっている本作。
綺麗事ではないそのリアルなストーリーが今でも多くのファンから愛される理由で、この物語を支えるフード演出、小道具、衣装、そしてエンディングのくるり「ハイウエイ」と見所がぎっしり詰まった素晴らしい作品です。
ただの障害者映画でない、本格的な純愛ラブストーリー。本作はこれからも多くの人から愛されるでしょう。