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Entry 2021/06/03
Update

HOKUSAI北斎映画|ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。キャスト柳楽優弥と田中泯が浮世絵師の狂画家を演じ切る

  • Writer :
  • からさわゆみこ

「時代のせいにするな、己の“好き”を貫け!」

映画『HOKUSAI』は、約1年の公開延期で、5月28日(金)に劇場公開されました。

監督は『相棒 劇場版IV』(2017)、『劇場版 シグナル』(2021)、「探偵はBARにいる」シリーズの橋本一が務めます。青年期の北斎について資料がゼロレベルだったことで、創作意欲が増したと話す橋本監督。

企画から脚本までを行った河原れんは、本作で北斎の娘“お栄”役を演じています。青年期もさることながら、老年期の資料も少ないと言われる葛飾北斎。

青年期と老年期の2つで構成した理由を、原石から天才に化ける瞬間が好きで、苦悩し葛藤する過程で、原石が天才になる瞬間の醍醐味を描きたかったと語りました。

葛飾北斎や美人画の大家・喜多川歌麿、役者画の大家・東洲斎写楽などが、一斉風靡した江戸後期には、1790年「寛政の改革」の“改め印制度”が発令され、表現者たちの自由が抑圧され、創作が厳しい時代でした。

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映画『HOKUSAI』の作品情報

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

【公開】
2021年(日本映画)

【監督】
橋本一

【脚本】
河原れん

【キャスト】
柳楽優弥、田中泯、玉木宏、瀧本美織、津田寛治、青木崇高、辻本祐樹、浦上晟周、芋生悠、河原れん、城桧吏、永山瑛太、阿部寛

【作品概要】
青年期の北斎を演じるのは、『誰も知らない』(2004)が第57回カンヌ国際映画祭のコンペ部門に出品され、当時14歳で日本人初、史上最年少で男優賞を受賞した柳楽優弥が務めます。

老年期の北斎を演じたのは、ダンサーとして世界で活動をしていた経歴の田中泯です。田中は『たそがれ清平衛』(2002)が初の映像作品で、この作品で日本アカデミー賞の最優秀助演男優賞と新人俳優賞を受賞し、以後役者として『隠し剣 鬼の爪』(2004)、『八日目の蝉』(2011)と話題作に多く出演。

映画『北斎漫画』のあらすじとネタバレ

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

炎天下、汗だくで必死な眼をする少年が、棒切れを使って地面に子犬を描いています…。

太平の世の江戸には、独自の町人文化が開花していました。

例えば美女や歌舞伎役者を描いた浮世絵、戯作と呼ばれる通俗小説などが、庶民のささやかな娯楽でした。

しかし、その自由な時流によって、徳川の威信が揺らぎ、幕府の威厳が崩れる基は“娯楽”で、世の中を堕落させる害悪の対象として、絵師や戯作者、版元に厳しい弾圧がかけられました。

そんな江戸の不衛生な下町の裏路地の長屋では、若き北斎が筆を振るっていました。

彼は勝川春章に師事し、春朗の名で絵師をしていましたが、狩野派や唐絵にまで興味を示したため破門されています。

北斎は被写体を忠実に描き、画の腕は確かでしたが、鼻っ柱が強く誰に対しても、強気で人の言いなりになるのが嫌いな男です。

壱の章

書店“蔦屋耕書堂”の富士紋ののれんがひるがえり、与力を引連れた役人が、客でにぎわう店内に押し入ってきました。

“御用改め”今でいう家宅捜索です。展示してある浮世絵や読物本は与力たちに踏みつけられ、客は外へ追い払われ、抵抗する店の使用人は容赦なく暴行されます。

役人は店主蔦屋重三郎に禁制されている、洒落本や浮世絵を出版し、乱れた風俗を世に広めているという罪で、身上半減(財産没収)を申しつけます。

店内は破壊され、商品等の半分以上を没収され、店先で焼失させられてしまいます。

重三郎は飄々とした人柄でありますが、その様子を険しい表情でみつめ、無言ながら心は怯むことなく、新たな抵抗を心に誓います。

滅茶苦茶にされた店内で重三郎は、喜多川歌麿の美人画を拾い上げます。

「こんなになっちまっても、ちっとも色気は失っていねぇ」と、傑作の持つ底力を語ります。そして、この一件を“ありがたい”とつぶやきます。

瑣吉(さきち)が不思議そうにみつめると、出る杭が打たれるってことは、耕書堂が版元として頭1つ、出ているという証をもらったようなものと、前向きに語ります。

さらにこの先の動向も注目されるはずだから、ますます自分の目利きを証明する好機と捉え、ほくそ笑む重三郎でした。

重三郎は吉原の遊郭に足を運びます。その一室を歌麿は住居兼工房にしていました。

歌麿は女郎をモデルに絵を描いていましたが、重三郎に気がつくと文机をアゴで指し、完成した絵を見せます。

重三郎は満足げな顔をして、それを受けとると部屋を出ようとしますが、歌麿は錦屋に良い目をした“麻雪”という花魁の噂を聞き、気になるといいます。

重三郎は麻雪でも京女でも、連れてくると言い残しますが、その麻雪は画のモデルなら断るといいます。絵師は礼儀知らずだからというものです。

彼女は“山猿”とあだ名をつけた絵師のモデルになったが、目の前にずっと立たせたり、わけの分からぬことを言いながら、覆いかぶさって絵を描く行儀知らずだったと話します。

店に戻り、このことを瑣吉に話すと、心当たりがあるように頷き、“勝川春朗”のことだろうと、耕書堂でも何枚か描かせたことがあると、絵を探し出して見せます。

腕は良いが描きたくないものは描かない、描きたいものはとことん…と、気難しくてめんどくさい絵師だと話します。

重三郎は春朗の絵を見ながら興味を抱きます。ところが瑣吉は今は勝川から破門されていると言います。

露店で絵を売る北斎でしたが、憮然と座っているだけなので人は素通りするだけです。そんな北斎が長屋に帰ると、中に人の気配を感じます。

戸を開けるとそこには北斎の絵を見る重三郎がいました。北斎が用件を聞くと重三郎は、暮らしぶりや瑣吉から聞いたあれこれを訊ねます。

そして、北斎に耕書堂で絵を描けば、(売れっ子に)育ててやると誘います。ところが北斎は「人から指図されて仕事するのは性に合わない」と断ります。

重三郎は少し思案し「なるほど」というと、兄弟子を殴った理由を訊ね、北斎はその兄弟子が自分の絵に筆を入れ、台無しにしたからだと答えました。

答えを聞いた重三郎は微笑みながら北斎の家をあとにします。

ある日、露天商から帰った北斎は、富士の紋入りの紙包みがあるのをみつけます。中には小判が入っています。

北斎が不愉快な顔をしながら耕書堂にくると、店番をしていた瑣吉が予想していたかのように、「ひさしぶりだな。旦那様かい?」と聞き、重三郎は吉原にいると教えます。

北斎が通された部屋には、重三郎と歌麿、モデルをする麻雪がいました。

憮然と突っ立っている北斎に、酒や豪華な食事を勧めますが、酒は飲まない、贅沢な食べ物も口に合わないと拒否します。

そんな北斎の様子をみた歌麿は「坊さんみたいだな。だからおまえの(描く)女は色気がないんだ」と言い放ちます。

さらに下手ではないのですが、目に映るものをそのまま似せて写してるだけで、色気が無いと言い切られました。

北斎は一度は部屋を出て行こうと襖を開けますが、重三郎は逃げるのかと挑発し、歌麿から襖を閉めるよう促され、そのまま座り込みます。

歌麿は麻雪を後ろを向かせ、襟足から背中をだすように下げると、鏡を覗かせるポーズをとらせ、その姿を見るわけでもなく、すらすらと紙に描き始めます。

翌日、北斎は再び金を返しに蔦屋を訪れます。

番頭の傍ら読物書きをしていた瑣吉は、遊郭に歌麿を住まわせているおかげで、店は火の車、瑣吉の書いた原稿は読んでももらえないとぼやきます。

北斎が金をさしだすと、「おまえさんは絵を描かないつもりかい?」と聞かれ、北斎はしばし漫然としてしまいます。

思い立った北斎は4枚の女絵を描き上げ、重三郎の前に差し出しますが、重三郎は絵に目を通すと「どういうつもりだ?」と聞きます。

あっけにとられた北斎は、歌麿よりも上手く描けたはずと口走り、重三郎から勝ち負けで絵を描いているのか?何のために絵師になったと聞かれます。

北斎は絵師なら下っ端からでも這い上がれるからと答え、呆れた重三郎は「いいか、絵は世の中を変えられるんだぞ」と言い残し、部屋から出て行きます。

その日から北斎の創作への苦悩が始まります。

以下、『HOKUSAI』ネタバレ・結末の記載がございます。『HOKUSAI』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)2020 HOKUSAI MOVIE

重三郎の身は病に侵され、顔色も悪く足取りもおぼつかなくなってきました。そんなところに遊郭の源次郎が、血相を変えて駆け込みます。

遊郭の客に歌舞伎役者を専門に描く者がいると、その絵を見せると、重三郎の顔が一気に生気を取り戻します。

東洲斎写楽は絵師を名乗らず、道楽で歌舞伎を観ては役者の顔を描いていましたが、その画風は似顔絵とは違い、表情や動作を誇張したオリジナリティーにあふれたものでした。

重三郎は写楽の絵を全て買い取ると、“雲母摺(きらずり)”という、いわゆるラメのような鉱物の粉を顔料に混ぜ、刷る最上級の技法を用いると言います。

一方北斎は苦闘の末に描き上げた絵を持って、耕書堂へ訪ねて来ていました。しかし、その自信なさげな姿を廊下から見た重三郎は、北斎にも会わず絵も見ないまま帰しました。

写楽の絵は重三郎の思惑通り、瞬く間に町民の間で人気となり、売れっ子浮世絵師として世に出ます。

北斎は耕書堂の近くを通りかかり、その人だかりを見つけるとフラフラと引き寄せられ、写楽の絵を見て茫然自失になっていきます。

インパクトのある構図と色合いに圧倒されていると、店の奥から重三郎があらわれ北斎に声をかけます。

「東洲斎写楽、俺が一目見て惚れた絵だ」という重三郎に、何も言えない北斎でした。

北斎は写楽の出版記念の宴席に参列したもの蚊帳の外、仏頂面で座っていると重三郎が、北斎の盃に酒を注ぎます。

我に返った北斎が重三郎の顔を見上げ「酒は飲まねぇ」というと、顔を上げさせるためだというと、北斎は写楽の絵を酷評し始めます。

重三郎は写楽のことをどこぞの門下にも属さず、師匠を持たなくとも、傑作が描ける天才と言わんばかりに褒めちぎります。

北斎はなぜ絵が描けるのか素朴な疑問をぶつけると、写楽は“道楽”で描いたまでとすんなり答え、ただ心のままに描くだけと静かに答えます。

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

北斎は行く当てのない旅に出ました。夜道、山寺、田舎道…林道、食べる物もなくひもじさで草むらで倒れ込む北斎の耳に、かすかに潮騒の音が聞こえてきます。

夢中で歩きだし草むらを抜けるとそこには、白波が打ち寄せる海岸で水平線には、富士山が堂々とした姿でそびえていました。

北斎はそこから何かを感じとり、絵筆と写生帖を取り出し描きはじめますが、納得いかずに苛立ち紛れに沖へと入っていきます。

打ち寄せる波に身を預け、水中へと委ねる北斎は、徐々に“波”の神秘に興味を惹かれ、自分の体を使って波のイメージを掴むように、砂浜に波を描くように何度も指でなぞります…。

どのくらいの月日がたったのか、北斎は江戸に戻ります。

耕書堂では重三郎が病床に伏せています。そこへ瑣吉が「旦那様…」と声をかけます。

重三郎は富士の紋の入った着物に着替え、おぼつかない足取りで誰もいない店に出ます。するとそこには北斎が待っていました。

2人は対座すると重三郎は北斎の日焼けた顔を見て、「いい顔になったな」といいます。しかし、重三郎の顔を見た北斎に言葉が出ません。

重三郎は“待ちくたびれて、江戸患い”になったと言い、手を差し出します。

北斎は包みをあけて一枚の絵を渡します。それをみた重三郎は食い入るようにみつめます。

北斎は「描きたいと思ったもんを、好きに描いただけだ」と言い、「いらねぇなら、そうと言ってくれ」と、今までになく自信に満ちた目で言います。

重三郎は“波”とは、予想外なものを書いたと面白がり、見たこともない形の波なのに、これこそが波だと語りかけてくると絶賛します。

そして、とうとう重三郎は「うちで一枚描いてはもらえないだろうか」と北斎に言い、その言葉に北斎は頭をたれ請け負います。

北斎が認めてもらいたい師匠から認められた瞬間です。

こうして『江島春望』は仕上がり、重三郎は満足げに絵をみつめると「おまえやっと化けたな」と北斎に言います。

これこそ北斎にしか描けない絵で、富士も二つとない“不二(ふじ)”だから美しいと讃えます。

江島春望には“北斎宗理”と名が書かれ、その意味は不動の星北極星にちなんだといいます。

重三郎は世界地図を広げると、江戸のちっぽけさを北斎に教え、世界に目を向けるよう諭します。

しばらくして耕書堂から重三郎の葬儀の列が進んでいきます。

弐の章

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

壮年となった北斎は弟子を取り、貧しい身なりながら絵師として身を立てていました。

絵を描いていたかと思えばふと、何かを思いついたようにどこかへ出かける。

北斎は滝沢馬琴と改名し戯曲師となった瑣吉の家へ向かいます。北斎は馬琴の読物に挿絵を描いていますが、たびたび内容と違う絵を描きもめていました。

相変わらず指図をうけない北斎に、馬琴も振り回されていました。

北斎はコトという女性と所帯を持っていました。コトは北斎の勝手気ままな仕事ぶりを、献身的に支えていました。

ある日、版元の山崎屋が“柳亭種彦”という戯作者の挿絵を依頼します。山崎屋は原稿を渡すと当代きっての戯作者になると、太鼓判を押します。

北斎は種彦の原稿を読み始めると、その中に引き込まれイメージを膨らまします。

季節は夏、北斎や馬琴、山崎屋などが寺の本堂に介し、蠟燭をともす中“百物語の会”を催します。

ところが急に外から戸が開けられると、山崎屋の使いが耳打ちをすると、歌麿が禁制されている絵を描き、改め処に捕らえられたと言います。

その罰は厳しく“手鎖(手錠)”をされて50日間、牢獄に入れられるというものでした。

北斎は「人が喜ぶ絵を描くことが、そんなに悪い事なのか!?」と憤り、席を立ちます。

馬琴は(工房に)帰るという北斎に「こんな日にも絵を描くというのか?」とぶつけると、迷いなく「こんな日だからだ!」と言い放ちます。

参の章

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

数十年後、江戸のはずれの荒地に居を移した北斎は、妻のコトを亡くしふさぎ込む日をすごしていました。

それでも日々は流れ弟子は毎日通ってきて、娘のお栄も家のことや北斎の世話を焼いています。

そこへ戯作者の柳亭種彦が訪ねてきます。種彦の本名は高屋彦四郎という武士で、身分を隠して戯作者していました。

北斎の様子をお栄に聞くと“頑固が余計に固まった”と言います。それでも種彦ならば心を開いてくれるだろうと、話し相手になってほしいと伝えます。

種彦は御用改めの1人として、永井五右衛門の下で働く武士です。

五右衛門は町の風紀は改まるどころか、ますます乱れはじめていると、享楽的な読物、浮世絵を一層厳しく取り締まるよう、部下に檄を飛ばします。

種彦は屋敷に来た北斎に、五右衛門の言い草に愚痴を言います。

北斎は名誉や地位、金持ちは自由で気ままでいいと思っていたが、種彦の方がよっぽど不自由で気の毒と、言いたい奴には言わせておけばいいと言います。

そして、なかなか世の中が変わらないことを憂いながら昔、重三郎が信じた“絵は世の中を変える”の言葉を教えます。

北斎はこのころ町民の生活ぶりを写生帖に、よく描き大風が吹いて慌てふためく様子なども、描き残していました。

しかし、その手元に違和感を感じた北斎は、家にたどり着くと土間で突然、卒中をおこして倒れ、命だけはとりとめましたが、利き手に震えが残ってしまいました。

北斎は種彦の屋敷に出向き、自分の不甲斐なさを詫びますが、種彦の書く戯作を読むと若返った気持ちになって、病気になったとたんやりたいことを思いついたと話します。

北斎は「しばらく旅に出る」と告げ、70歳となり病の身になったからこそ、見える世界があるはずだと、確信に満ちていました。

旅中にみつけた花や木々、生き物、働く人々…あらゆるものを細かく観察して歩く北斎、その向かう先にいつか訪れた、砂浜に辿り着きます。

お栄が持たせてくれたコトの位牌と共に浜辺に座り、水平線の富士を眺める北斎…。

北斎は険しい山道を登り、ご来光に合わせて高台にたどりつくと、朝日に照らされ真っ赤に染まる富士山を参拝し、その美しさに感嘆しました。

旅から戻り北斎は創作に意欲を注ぎます。そうする中で手の感覚も快方に向かい、お栄や弟子たちも驚きを隠せません。

ある日、お栄が不安そうな面持ちで、種彦の『偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)』を持って北斎のところにきます。

時の幕府を揶揄するような内容で、もし武士である柳亭種彦の正体がバレたら、命だけでは済まないとお栄は心配します。

北斎は物書きになりたい人間が、武家に生まれただけだ。と、書く衝動は誰にも止められないと言います。

一方、旅で得たアイデアを作品に落とし込むことに、全精力を集中しています。

絵に合う“ベロ藍”にたどり着いた北斎は、降りしきる豪雨の中に飛び出し狂喜乱舞し、天を仰ぐ北斎は雨の祝福をうけているようでした。

こうして北斎の集中力が頂点に達したとき、狂気に満ちた筆で一息で完成させた『富嶽三十六景』は、身分に関わらず多くの人々の手に渡って行きました。

四の章

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

種彦は五右衛門に呼び出され、『偐紫田舎源氏』の作者に心当たりがないか尋問され、種彦はかろうじて、否定をしてやりすごします。

北斎の工房では小布施から江戸に遊学に来て、一番弟子となっていた高井鴻山が故郷へ帰るため、送別の宴が行われています。

宴席では浮かない顔をしていた種彦が、席を立ち外へと出て行き、北斎はその後を追います。

種彦は思いつめた顔をしながら北斎に、絵のためなら全てのものを捨てられるか、究極の質問をします。

北斎は種彦が組織の中で創作に息苦しさがあるのだと感じ、いつか誰にも指図されず生きられる時代が来る。生きている間にそんな世の中が見たいと言います。

そして、自分は自分のできることをやるだけだ…と、自分の信じた道に進むことを示唆しました。

ある日、種彦は再び五右衛門と対座し、五右衛門から柳亭種彦を家に居候させているのなら、追い出すよう命令されます。

種彦は意を決し、「私は書く事を辞めません。私が柳亭種彦です」と五右衛門に打ち明け、部屋の外で聞いていた4人の部下が、種彦を取り囲みます。

刃を向けられますが種彦は、刀を抜くことなく鞘に納めたまま、床に落とすと黙って切られ絶命しました。

高屋家では妻の勝子のもとに亡骸が帰っていました。慌てて駆けつけた北斎とお栄は、変わり果てた姿に愕然とします。

勝子には種彦は自害し、武士の名に恥じない最期を遂げたと伝えられていました。

喪失感に沈む北斎はそれでも絵筆を持ち、紙に向かいます。お栄に「こんな日にも絵を描くのか」と責められますが、「こんな日だからだ」と答えます。

北斎の目には口封じのため無念の死を遂げた、種彦の壮絶な形相が浮かんでいました。

北斎は『生首図』を描き上げます。

絵の前に座る北斎、その後ろに立つお栄は絵を見て、この絵が御上の目に触れたら、北斎の身に危険が生じると察したお栄は、一緒に江戸を出ることを願います。

鴻山のいる小布施に身を寄せた北斎親子。『生首図』を見た鴻山はその絵を預かると申し出ます。

そして北斎は鴻山に90近くになっても、同じことばかり見せられてきた…と、嘆きます。鴻山はいつかは変わる時が来るというと、北斎は頼みごとを言います。

目に浮かぶ言葉を絵にしたいと願った北斎は、一心不乱に筆を走らせると、いつしか若かりし日の自分が現れ2人で、一対の絵を一気に描き上げます。

それは鮮やかなベロ藍に渦巻く、怒涛図『男浪』と『女浪』でした。

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映画『HOKUSAI』の感想と評価

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

映画『HOKUSAI』の見どころは、新感覚の時代劇を視覚化させるをコンセプトに作られ、カメラワークに工夫が施され、あでやかなセットを平面で見せるのではなく、あらゆる角度から撮影することで、奥行きのある映像になっていたところといえます。

薄暗さの中の“明と暗”の部分もただ暗いだけではなく、その奥に見えるあでやかさが、実際の時代の光加減に、近いのではないかと思わせます。

ただ近代的な技術を駆使しただけではない、計算しつくされている美しさがありました。

また、北斎や他に登場する歌麿や写楽の浮世絵に関しても、実際の彫り師、刷り師の手によって復元されました。

クライマックスに登場する『男浪』『女浪』は、東京藝術大学の指導員によって描かれ、本物にこだわり抜かれています。

さて、葛飾北斎は90歳まで生きたとはいえ、何度も放浪の旅をし不在の時も多く、浮世絵師として開花し活躍したのは壮年に入ってからです。

その頃のエピソードはさまざまあったでしょうが、ほとんどが謎のままです。

本作が描くのは絵師として活躍した時代がすっぽりと抜け、無名の時代と歌川広重や国芳、国貞に取って代わっていく晩年の北斎と、資料がほとんどないといわれる期間です。

制作側の想像の部分が多いとはいえ、年表と作品を照らし合わせ綿密に練り上げられ、登場人物達との関係性にも違和感が感じないほど、自然にまとめ上げられていたと感じました。

青年期の無名時代は個性豊かなアーティストが活躍していました。そのアーティストを出演者たちは、彼らの個性と負けず劣らずの演技で表現しています。

“波”を自分の人生や世を示すように、自らのオリジナルテーマにした青年期の北斎の歩みは、柳楽優弥の目力や本人の経験、気質からもにじみ出ていたように見えます。

イメージ通りの“藍”をみつけた時の北斎の歓喜の舞は、ダンサーならではの田中泯の凄みのある表現に、北斎が憑依したようでした。

これこそ北斎というイメージは、負けず嫌いで、人の言うことを聞かないという気性は、彼の飛躍を遅らせたかもしれませんが、その分生きる時間を与えました。

もう少し素直に生きられたなら……とも思いますが、反抗しその結果苦労を重ねて開花させた北斎の才能は、まさに富士や北極星のごとく不動の人気につなげる、糧であったと言えるでしょう。

まとめ

(C)2020 HOKUSAI MOVIE

映画『HOKUSAI』自体も困難を乗り越え、ようやく公開に辿りつきました。本作に限らず、映画そのものが公開中止や延期を余儀なくされ、試練と向き合う世の中にぶつかりました。

とくに『HOKUSAI』の制作関係者は、北斎の生きた時代と照らし合わせ、苦汁を強く感じていたと察します。

しかし、逆に北斎から時代や環境のせいにするな!と、檄を飛ばされ勇気をもらったのではないかとも想像できます。

世界中の人々が我慢を強いられ、ささやかな娯楽(映画)さえも自由に観に行けない時がくるとは、想像もしていませんでした。

しかし、同じことが過去にも現実にありました。このことは試練にぶつかった現代の人たちに勇気を与えるでしょう。

つまり、人々が元気を失いかけた「今だから」この映画を観る意味と価値が見出せます。北斎が観たかったという、誰にも指図されない世が今だからです

眼に見えないウィルスという驚異には、万全の対策が必要ですが、娯楽を描いても裁かれる時代ではありません。

心までもウィルスの驚異に負けないために、エンターテイメントが存在します。私たちは不遇のせいにすることなく、娯楽を楽しめばいいのです。

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