限りある時間をあなたならどう生きるのか?
いのちの停車場を決めるのはあなたです。
作家で現役医師でもある南杏子の同名医療小説を、『八日目の蝉』の成島出監督が、吉永小百合を主演に迎え映画化。
町の小さな診療所で、在宅医として再出発することになった咲和子(吉永小百合)は、そこで治療が困難な患者たちと出会います。彼らとその家族が選択する「命のしまいかた」とは。
患者と家族の想いに寄り添い、治し、支え、そして看取る医療、在宅医療を通し「自分らしい生き方とは何か」を考えさせられるヒューマンドラマ『いのちの停車場』を紹介します。
映画『いのちの停車場』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【原作】
南杏子
【監督】
成島出
【キャスト】
吉永小百合、松坂桃李、広瀬すず、南野陽子、柳葉敏郎、小池栄子、伊勢谷友介、みなみらんぼう、泉谷しげる、森口瑤子、松金よね子、石田ゆり子、田中泯、西田敏行、鈴木咲
【作品概要】
国民的女優・吉永小百合が、自身初となる医師役に挑んだ社会派ヒューマンドラマ『いのちの停車場』。
作家・南杏子による同名医療小説を、『ふしぎな岬の物語』以来のタッグとなる、成島出監督と吉永小百合コンビが実写映画化。
現役医師ならではの南杏子が描くリアルな医療現場と、在宅医療、終末期医療という命との向き合い方を丁寧に映し出します。
主演・吉永小百合を、西田敏行、田中泯、泉谷しげると安定感のある俳優陣が深みのある演技で支え、松坂桃李、広瀬すずと若手実力派俳優たちが物語に明るさを加えます。
映画『いのちの停車場』のあらすじとネタバレ
大きなトンネル事故が起こった日。白石咲和子が務める大学病院にも事故に巻き込まれた重体患者が次々に運ばれてきました。救急救命医の咲和子は、的確に看護師に指示を出し、治療にあたります。
緊迫する治療室に、病院の事務員・野呂聖二が幼い子供を抱えてやってきました。病院の近くで車にはねられたいう女の子は、ひどく辛そうです。
咲和子は点滴を用意しますが、トンネル事故の患者が急変しそちらへ向かいます。苦しそうな女の子を前に、野呂は自分が点滴を打つことを決断します。
野呂は、医学部を卒業したものの医師国家試験に落ち続けており、医師免許がありませんでした。
のちにその事が、大学病院で問題となります。世間体を何より気にする上役たちは、野呂を問いただします。
「野呂君は人間として正しいことをしました。責任なら現場の責任者である私が取ります」。
会議室に颯爽と現れた咲和子は啖呵を切り、長年勤めた大学病院を退職します。
咲和子は、実家の金沢へ帰ることにしました。バスから降りると年老いた父が迎えに来ていました。
「おかえり」。幼い頃、咲和子が母に抱かれ父を迎えに来ていた思い出のバス停です。
町の小さな診療所「まほろば診療所」で在宅医として再出発することを決めた咲和子。診療所では、陽気な院長・仙川徹と、しっかり者の看護師・星野麻世が温かく迎えてくれました。
事故で車いす生活になってしまった院長の変わりに、咲和子は麻世と一緒に患者たちの家を一軒一軒、診察に回ります。坂道の多い町は、自転車では大変です。
1人目の患者は、末期の肺癌患者、寺田智恵子。職業は芸者。「芸が出来なくなったら芸者は終わり。私の人生もおしまい」。仕事を何よりも愛している彼女は、最期まで芸者でいることを選びました。
2人目の患者は、脳出血で入院後、在宅治療中の胃瘻患者、並木シズ。夫の徳三郎と暮らす自宅は、目の当てられないゴミ屋敷となっていました。
在宅治療を強く望む徳三郎は、寝たきりの妻を愛してはいるものの老老介護に疲れ果てていました。「シズは他人に世話されるのが嫌いなんだよ」。咲和子のホームヘルパーの提案に激怒します。
3人目の患者は、脊髄損傷で四股麻痺となった江ノ原一誠。IT企業の社長である彼は、金に糸目は着けないから、在宅医療で自分を蘇らせて欲しいと言います。困難な状況であっても諦めず、未来を切り開く姿を、社員に見せたいからでした。
4人目の患者は、8歳の小児癌患者、若林萌。小さい身体で幾度にわたる抗がん剤治療を続けてきた彼女。「パパもママも、萌に頑張れって。でも、萌、何を頑張ればいいの?」。
萌の母親・祐子は、子供に迫る死を受け入れることが出来ず、次々と新薬を使った治療を求め続けます。
5人目の患者は、末期の膵臓癌患者、宮島一義。元高級官僚の宮島は、最期を穏やかに故郷で暮らしたいと、妻の友里恵と共に金沢に帰っていました。
気がかりなのは、忙しい余り素直に接することが出来ず、疎遠になったままの息子のことでした。故郷に帰ってきても、心は寂しいままです。
これまで命を救う現場で戦ってきた咲和子は、患者の意思を尊重する治療を行ってきた院長の仙川の考えに困惑します。
そんなある日、東京から野呂が咲和子を訪ねてやって来ました。自分をかばって大学病院を辞めた咲和子を尊敬している野呂は、まほろば診療所で共に働きたいと言い出します。
戸惑う咲和子をよそに、院長の仙川はあっさり承諾し、野呂がまほろば診療所メンバーに加わりました。
野呂は医師になるべきか迷っていました。また、看護師の麻世は、事故で亡くなった姉の子供を育てながら、人知れずトラウマと戦っていました。
様々な思いを抱えながら、まほろば診療所のメンバーは家族のように絆を深めていきます。
そして、様々な事情で在宅医療を選択している患者やその家族たちの想いに触れ、咲和子は「その人らしい生き方」について考えるようになっていました。
ある晩、診療時間も終わり、誰もいなくなったまほろば診療所に、ひとりの女性が訪ねてきます。
幼い頃、咲和子の家の隣に住んでいた中川朋子でした。再会を喜ぶ咲和子でしたが、朋子の手の異変に気付いていました。癌による強い抗がん剤治療を受けた証拠でした。
プロの女流囲碁棋士として成功を収めた朋子でしたが、5年前癌を患い手術をするも、転移が見つかり再発していました。「もう髪が抜けるのは嫌だわ」。どこか諦めた表情です。
咲和子は何も語らず、昔のように朋子に接します。懐かしい場所を巡り、まほろば診療所のメンバーと一緒に食事を楽しみ、朋子は次第に前向きな心へと変わっていきます。
「先生、私どのくらい生きられるかな?」。「ずっーと、一生よ」。「この3日間、先生に会えて本当に良かった」。
朋子は、もう一度癌と戦う決意をし帰って行きました。
映画『いのちの停車場』の感想と評価
誰にでもやってくる「死」。自分の死について考えることは、どう生きるかいうことにも繋がってきます。
映画『いのちの停車場』は、在宅医療、終末期医療を通して、自分らしく生きるとは何かを、考えるきっかけとなる作品です。
登場する治療困難な患者や、その家族の想いはそれぞれです。自分の仕事へプライドを持ち、最期までやり通すという覚悟。最期は自分が看取りたいという夫婦の愛情。苦しめることが分かっていても諦めきれない親の想い。
そして、迷惑をかけるくらいなら、辛い思いをしてまで生き続けるのなら、自らの命は自分で幕を引きたいと願う生き様。安楽死という日本ではタブーとされる問題にも果敢に触れています。
父親の願いに最後まで悩み続けた咲和子でしたが、ラストシーンでは父と一緒に朝陽の美しさに感動します。
咲和子は、やはり最後まで医師だったのではないでしょうか。命ある限り、生きる。命があればこそ、そこに感動が生まれる瞬間がきっとあるのだと感じるシーンでした。
「死と生」をテーマにした重い作品と思われる方も多いと思いますが、映画全体の雰囲気はそんなことはなく、むしろ前向きで明るいイメージとなっています。
そこには出演者の力も大きいように思います。120本を超える映画出演の中で、初の医師役に挑戦した吉永小百合。彼女の持ついつまでも可憐で清楚な佇まいが、生きる輝きを放ち説得力を与えます。
女医といえば昨今、失敗しない系のクールなイメージが強い中、荒ぶることなく実直に医師の道を歩んで来た女医・咲和子は新鮮に映りました。
そんな咲和子を、在宅医療の先輩として温かく見守る院長・仙川役を演じたのが西田敏行。緊張した場面でもホッとする西田敏行の存在感が、物語に温かみを加えます。
また、咲和子を慕ってやってくる野呂役の松坂桃李、看護師の麻世役の広瀬すずコンビが、絶妙に可愛らしくほのぼのします。
どちらも明るそうに見えて、実は悩みを抱えているという役どころでしたが、咲和子と共に診療を通し成長していく過程に、若い2人の等身大な姿が重なります。
そして映画の中で、まほろば診療所のメンバーが通う癒しスポット「Bar STATION」。バーのマスター・柳瀬を演じたのは、「山口さんちのツトム君」でお馴染みのシンガーソングライター・みなみらんぼう。
映画のサブテーマと言っても過言ではないのが「家族の絆」。まほろば診療所のメンバーは本当の家族のように互いを大事に想い、支え合っています。
いつも「Bar STATION」で一緒にごはんを食べ、世界中を旅した吟遊詩人のマスターの話に笑い癒されています。「家族が一緒だと幸せだよね」麻世のセリフが心に残ります。
ほっと出来る場所、ほっと出来る仲間がいることの幸せを感じさせてくれる場所「Bar STATION」。みなみらんぼうの自作曲の披露にも注目です。
まとめ
現役医師でもある南杏子の同名医療小説を原作に、吉永小百合が自身初の女医役に挑んだ作品『いのちの停車場』。
在宅医療、終末期医療を通して、自分らしく生きるとは何か、命の尊さについて考えさせられる作品となっています。
物語では、治療困難な患者たちの「いのちの停車場」が描かれています。自分を重ね心を痛める場面もあると思います。
それでも、自分の「いのちの停車場」を考えることは、「自分らしく生きること」を考えることにもなります。限りある命をあなたはどう生きますか?