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Entry 2017/11/28
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映画『希望のかなた』あらすじと感想。アキ・カウリスマキの評価も

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

アキ・カウリスマキ監督の『希望のかなた』は、2017年のベルリン国際映画祭で観客から圧倒的支持を受けました。

批評家のみならず、多くの胸に深い余韻を残した本作は、同映画祭で監督賞の栄誉に輝きました。

カウリスマキ監督は、前作『ル・アーヴルの靴みがき』(2011)で「港町3部作」シリーズと名付けましたが、監督自ら「難民3部作」に変え、ふたたび難民問題に向かい合います。

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1.映画『希望のかなた』の作品情報


© SPUTNIK OY, 2017

【公開】
2017年(フィンランド映画)

【原題】
Toivon tuolla puolen

【脚本・監督】
アキ・カウリスマキ

【キャスト】
シェルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン、イルッカ・コイブラ、ヤンネ・ヒューティライネン、ヌップ・コイブ、カイヤ・パカリネン、ニロズ・ハジ、サイモン・フセイン・アルバズーン、カティ・オウティネン、マリヤ・ヤルベンヘルミ

【作品概要】
フィンランドの名匠アキ・カウリスマキ監督は、自ら名付けた「難民3部作」の『ル・アーヴルの靴みがき』に続く2作目として、難民問題をテーマに描いたヒューマニズムとウィットの効いた作品。

2017年の第67回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞。

2.アキ・カウリスマキ監督のプロフィール


© SPUTNIK OY, 2017

1957年4月4日フィンランドのオリマティラ生まれ。大学ではコミュニケーション論を学びました。

カウリスマキは映画評論家としてキャリアをスタートさせるが、評論のみには留まらず脚本家や俳優、また助監督でも多くの撮影現場に携わります。

1981年には兄のミカ・カウリスマキとともに映画会社ヴィレアルファを設立

また、センソ・フィルムという配給会社も所有し、一時期はヘルシンキで「アンドラ・カルチャー・コンプレックス」という映画館を運営していました。

1983年に初長編監督作品『罪と罰』を発表。1986年には『パラダイスの夕暮れ』がカンヌ映画祭監督週間に招待され、世界から注目される映画監督の仲間入りを果たします。

日本公開作品では1990年の『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』で注目されて以来、その後のカウリスマキ作品が公開されるようになります。

なかでも『浮き雲』『過去のない男』『ル・アーヴルの靴みがき』などは、日本の映画ファンに注目を受け、熱狂的支持を与える監督となります。

アキ・カウリスマキ監督のフィルモグラフィ

・『罪と罰』(1983)
 ☆フィンランド・ユッシ賞最優秀処女作品・最優秀脚本賞
・『カラマリ・ユニオン』(1985)
 ☆香港映画祭特別賞
・『パラダイスの夕暮れ』(1986)
 ☆ユッシ賞最優秀映画賞
・『ロッキーⅥ』(1986)
・『ハムレット・ゴーズ・ビジネス』(1987)
 ☆ユッシ賞最優秀美術賞
・『ワイヤーを通して』(1987)★オムニバスの一編
・『RICH LITTLE BITCH』(1987)★オムニバスの一編
・『真夜中の虹』(1988)
 ☆モスクワ映画祭国際批評家連盟賞(最優秀男優賞も)
・『L.A.WOMAN』(1988)★オムニバスの一編
・『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』(1989)
・『DIRTY HANDS(汚れた手)』(1989)★オムニバス
・『マッチ工場の少女』(1990)
 ☆ベルリン国際映画祭国際福音伝道主義審議委員会インターフィルム賞
・『コントラクト・キラー』(1990)
・『ラヴィ・ド・ボエーム』(1992)
・『トータル・バラライカ・ショー』(1993)★ドキュメンタリー
・『レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う』(1994)
・『愛しのタチアナ』(1994)
・『浮き雲』(1996)
・『白い花びら』(1999)
・『過去のない男』(2002)
 ☆カンヌ国際映画祭グランプリ、主演女優賞、パルムドック賞、エキュメニカル賞
・『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス「結婚は10分で決める」』(2002)★オムニバス
・『Visions of Europe「Bico(ビコ)」』(2004)★オムニバス
・『街のあかり』(2006)
 ☆ユッシ賞最優秀映画賞、最優秀撮影賞、最優秀美術賞
・『それぞれのシネマ「鋳造所」』(2007)★オムニバス
・『ル・アーヴルの靴みがき』(2011)
 ☆カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞、パルムドック賞、エキュメニカル賞スペシャルメンション
・『ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区「バーティンダー」』(2012)★オムニバス
・『hePieksämäki Railwaystation Blues』(2012)★オムニバスの一編
・『希望のかなた』(2017)
ベルリン国際映画祭銀熊賞、国際批評家連盟年間グランプリ

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3.映画『希望のかなた』のあらすじ


© SPUTNIK OY, 2017

フィンランドの首都ヘルシンキ。港の船舶に積載された石炭の山から煤まみれのシリア人の青年カーリドが現れます。

内戦が激化する故郷アレッポからヨーロッパへ流れた彼は、差別や暴力にさらされながらいくつもの国境を越え、偶然にもヘルシンキに流れ着いたのです。

その後、駅のシャワー室で身なりをきれいに整え警察へ出向いたカーリドは、堂々と難民申請を申し入れ、中東やアフリカからの難民や移民で溢れる収容施設に入れられます。

地中海から遠く離れたこの北欧の街にも、多くの難民が押し寄せているのです。

カーリドは一緒に入所した気さくなイラク人マズダックいわく、難民が異国で受け入れられる秘訣は“楽しそうに装いながら、決して笑いすぎないこと”と教えます。

入国管理局での大切な面接でカーリドは、アレッポで起きた悲劇を明かします。

様々な勢力が対立する故郷では、誰の仕業かもわからない空爆によって彼の家は爆撃され、家族や親類も命を落としていました。

そのうえ、家族でただ1人生き残った妹ミリアムは、ハンガリーの国境で混乱で生き別れとなってしまったのです。

カーリドは面接官に、今の唯一の望みは妹を探し出し、フィンランドに呼び寄せることだと語ります。

ここには妹の未来があり、自分の未来はどうでもいいのだとも述べました。


© SPUTNIK OY, 2017

一方、ヘルシンキで衣類のセールスマンをしながら暮らすヴィクストロムは冴えない仕事と酒浸りの妻に嫌気がさしました。

ヴィクストロムは無言のまま結婚指輪を妻に残し、愛車のクラシックカーに乗り込み家を出て行きます。彼はレストランのオーナーとして新たな人生を始めたいという夢を抱いていたのです。

シャツの在庫を処分した現金を元手にヴィクストロムは、ポーカーの賭け事に一か八かのギャンブルにつぎ込んだ心意気が幸運を招いたのか、ゲームに大勝して大金を手に入れます。

こうしてヴィクストロムは、その大金でゴールデン・パイントという名のレストランを手に入れます。

その店は常連客がいて、ベテランの従業員もいるというふれ込みだったのですが…。

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4.映画『希望のかなた』の感想と評価


© SPUTNIK OY, 2017

見どころ① ふたたび難民問題をテーマにした背景

本作において何をおいても注目しなければならないことは、アキ・カウリスマキ監督自らシリーズ名を「港町3部作」から「難民3部作」に変えて、ふたたび難民問題に向かい合ったことです。

次のようにカウリスマキ監督がファンのあなたに贈ったメッセージがあります。

「私がこの映画で目指したのは、難民のことを哀れな犠牲者か、さもなければ社会に侵入しては仕事や妻や家や車をかすめ取るずうずうしい経済移民だと決めつけるヨーロッパの風潮を打ち砕くことです。

ヨーロッパでは歴史的に、ステレオタイプな偏見が広がると、そこには不穏な共鳴が生まれてしまいます。臆せずに言えば『希望のかなた』はある言葉で、観客の感情を操り、彼らの意見や見解を疑いもなく感化しようとするいわゆる傾向映画です。

そんな企みはたいてい失敗に終わるので、その後に残るものはユーモアに彩られた、正直で少しばかりメランコリックな物語であることを願います。一方でこの映画は、今この世界のどこかで生きている人々の現実を描いているのです」

実にウィットの効いた、まるでカウリスマキ映画を思わせるメッセージですね。

はじめに「ヨーロッパの風潮を打ち砕くこと」と強い意志を見せ、その後、難民に対してステレオタイプな偏見を持つ人に対して、映画を道具として影響を与えて考えや情緒を変化させようと言います。

しかし、そんな考えこそが偏見を持つ側のロジックであることを理解しているカウリスマキ監督は、「ユーモアに彩られた、正直で少しばかりメランコリックな物語であることを願う」と述べるのです。

社会の片隅でひっそりと慎ましやかに生きる人たちに光を当てることを得意とした監督が、いつものシンプルな寓話を楽しんでと伝えています。

庶民の哀愁を見つめることこそがもっとも強いことだと、カウリスマキ監督は信念があるからに違いありません。

しかし、一方で難民問題をテーマにシリーズ化した理由は、今の世界的な火急な課題であることも確かです。

そこにはカウリスマキ監督のある逸話があります。

2001年9月11日にアメリカ同時多発テロ事件が起きたことをきっかけに、中東人を見る目は一層深刻化していきます。

2002年にニューヨーク映画祭に、イラン映画の先駆者的な巨匠アッバス・キアロスタミ監督が、映画祭側から招待されながらも、テロの影響でビザが発行されず入国拒否を受けたのです。

カウリスマキ監督はキアロスタミ監督と一緒に映画祭に招かれていましたが、この事態に激怒します。

直接は会ったことはないキアロスタミ監督の気持ちを察してか、自身も不参加のボイコットを表明する声明文を出しました。

「世界中で最も平和を希求する人物の1人であるキアロスタミ監督に、イラン人だからビザが出ないと聞き、深い悲しみを覚える。石油ですら持っていないフィンランド人はもっと不要だろう。アメリカ国防長官は我が国でキノコ狩りでもして気を鎮めたらどうか。世界の文化の交換が妨害されたら何が残る?武器の交換か?」

カウリスマキ監督の出した声明文は、世界各国にいる映画ファンに深い共感を与えました。

アーティストで有る無し関わらず、どのような立場や地位の人であれ、偏見を持つ側が弱い個の人間を前にして、脅しや暴力を持って自由を束縛することはあってはならないはずです。

本作のなかで、レストランオーナーのヴィクストロムやその妻、またレストラン従業員など、失敗を繰り返しながらも新たなことに夢見る庶民と、新たな地に夢を見る移民の主人公カーリド同列に並べられ描かれています。

そこにカウリスマキ監督の強い意志を感じてなりません。

この作品を観たあなたなら、すぐに気が付くことですが、弱い者である立場ながらも誰かがだれかの他人を支えようとします
(それは犬のコイスティネンもですね)

なぜ、他人に対してそこまで手を差し出す必要があるのでしょうか、カウリスマキ監督はベルリン国際映画祭公式記者会で次のように述べています。

「60年前にも多くの難民がいたが、当時のヨーロッパの精神では難民を助けるべき存在だった。今では難民は敵だ。我々の人間性はどうなってしまったのか?友人に対する思いやりがなければ、誰も存在できない。人間性がなければ、一体、我々は何者なんだろう」

さて、カウリスマキ監督の描いた人間性はどのような場面から読み取ることができるのでしょうか。

見どころ② 人間性とは自分のため?誰のため?


© SPUTNIK OY, 2017

本作の冒頭で移民として流れ着いたカーリドは、駅に向かいシャワーの場所を路上ミュージシャンに尋ねる場面が登場します。

この作品の初めての見せ場ポイントと言えるでしょう。

石炭にまみれ煤だらけに汚れた移民のカーリドは、現金すらそれほど持ち合わせていない貧しい立場です。

しかし、路上ミュージシャンにお金を施します

それはカリードも路上ミュージシャンと同じく音楽を愛する者だと、物語の中盤でイランの弦楽器セタールを手慣れて演奏する箇所で明かされます。

移民として初めて訪れた地で、最初に話しかけたのは同じく音楽を愛した者であり、その地の文化に触れたのです。

自身が貧しいからといっても、お金は差し出さないはずがありません。

それこそがカリードの人間性そのものだと、物語の中で妹のくだりやラスト・シーンで集約されていきます。

本作を観るあなたは、そこを見落とさないようにしてくださいね。

また、少し語り過ぎかもしれませんが、音楽を愛する者同様に、映画を愛する者同志…国境や国籍などはないのです

カウリスマキ監督の秀作『希望のかなた』のフィンランド語の原題は、「Toivon tuolla puolen」日本語に直訳すれば、「私はそれを超えて願う」です。

シリア人の主人公カーリドは“何を超えて願った”のか?

アキ・カウリスマキ監督は“何を超えて願う”のか?

あなたご自身の目で、ぜひお確かめくださいね!

まとめ


© SPUTNIK OY, 2017

アキ・カウリスマキ監督は、国際的に知られる巨匠小津安二郎監督を敬愛していることで知られています。

本作にもその一端をあなたは様々な箇所から発見することでしょう。

なかでもレストランオーナーのヴィクストロムが日本風の寿司屋を開業するエピソードが登場します。

まあ、見ようによってはドリフターズの爆笑コント「もしこんな寿司屋があったら…」に見えなくもありませんが、その後に場末の社交ダンス場に至れば、これはりっぱな“小津調”といって良いコミカルさです。

本作は難民問題をモチーフに扱いながらも、庶民である人間の哀愁を見つめるカウリスマキ監督らしい、“小津調”も健在です!

2017年の年の瀬に見逃せない心温まる人情噺の『希望のかなた』は、2017年12月2日(土)より、ユーロスペース、新宿ピカデリーほか全国順次公開

ぜひ、お見逃しなく!

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