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『FEAST 狂宴』あらすじ感想と評価解説。ブリランテ・メンドーサ監督が「食卓」という設定を通して複雑な感情を描く

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『FEAST -狂宴-』は2024年3月1日(金)より全国順次公開!

フィリピン映画界の重鎮、ブリランテ・メンドーサ監督の最新作、映画『FEAST -狂宴-』。

交通事故で愛する人を失った被害者家族とその加害者家族が、事故後に雇用という関係を持ったことで始まった奇妙な共同生活から、人同士の心の機微と「赦し」を描いたこのドラマ。

フィリピンの人気実力派俳優が出そろい、交通事故当事者家族同士の複雑な心情を表現、フィリピンの郷土料理が並ぶ華やかな食卓の奥に存在する闇から心の深層をえぐり出します。

映画『FEAST -狂宴-』の作品情報


(C) COPYRIGHT 2022. ALL RIGHTS RESERVED.

【日本公開】
2024年(香港映画)

【原題】
Apag(英題:「FEAST」)

【監督】
ブリランテ・メンドーサ

【キャスト】
ココ・マルティン、ジャクリン・ホセ、グラディス・レイエス、リト・ラピッドほか

【作品概要】
ある日突然に起きた交通死亡事故において、複雑な事情を抱えることになる加害者家族が被害者遺族を使用人として雇用。奇妙な共同生活を送る中で変化していくそれぞれの思いを描き、「赦し」について問うドラマ。

ローサは密告された』(2017)『キナタイ マニラ・アンダーグラウンド』(2009)『義足のボクサー GENSAN PUNCH』(2021)などを手がけたブリランテ・メンドーサ監督が作品を手がけました。

また主演をフィリピンの国民的ドラマ「プロビンシャノ」で人気を集めたココ・マルティンが担当、さらに東南アジアで初の主演女優賞を獲得したジャクリン・ホセが出演するなど、キャストにはフィリピン国内で活躍する実力派が集結しています。

映画『FEAST -狂宴-』のあらすじ


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ある日突然に起きてしまった交通事故。加害者である息子に対して、車に同乗していた父はその場からすぐ逃げるように説得してしまいます。

罪の意識にさいなまれた息子は被害者家族に内緒で治療費を払いますが、その甲斐なく被害者は息を引き取ります。

最終的に息子の父は交通事故を起こした息子の罪を被って自首することを決意。さらに父が収監される間、妻と息子は協力しあって自分の家族と家計を守るとともに、事故で亡くなった男の妻子を使用人として雇い入れることに。

そして父が出所することになり、帰還を祝う宴の準備が進められます。しかしその日が近づくにつれ彼女の悲しみは再び訪れ、平穏は揺らいでいくのでした……。

映画『FEAST -狂宴-』の感想と評価


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物語は、日常生活の中で起こったひき逃げ事件から幕を開けます。

そしてその事件をめぐり人々の対立や人間の内面などが描かれていくわけですが、そこにはたとえば社会的地位を重んじるがゆえのエゴなどはほとんど排除されて表現されています。

罪の意識にさいなまれる加害者、大事な人を失い喪失感に苦しみながら、人を知ることで前を向く被害者。

本編に登場する人物は、だれもが悪意のない人間として描かれる一方で、心の奥底にある闇の部分に悩み、そして戦おうとします。

もっともユニークポイントは、本作では暴力、セックス、政治、といった俗悪的存在が感じられないという点。

ある意味現実からは離れた物語であるようにすら思える反面、自身の人生を大きく揺るがす事件に直面したときに、さまざまな周囲の外乱を取り除いた状態で人は純粋に人生とどう向き合うべきか、という極論的課題に言及しているようでもあります。


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またブリランテ・メンドーサ監督が手掛けた他の作品をご覧になった方からすれば、本作には「らしくない」と感じられる方もいるかもしれません。

作風に関して、常にリアリティーを求めるメンドーサ監督の作品ですが、本作ではフィリピンの人気俳優をそろえ、どちらかというとメインストリーム作品で見られるような視点で撮影を行っており、ある意味典型的な興行作品と見えるアングルが多く含まれる作品です。

実際にメンドーサ監督は、インタビューでこの主人公家族の立場について問うと、自分が彼らの立場だったらこうはしないだろう、とそれほど共感はしていない様子を語っているなど、若干物語の骨子から距離がある様子を見せています。

それでも監督は、こういった「出来事」に対しリサーチを重ねた上で、自身の描きたいテーマに即した結末を追求したことを明かしており、その意味で本作はエンターテインメント作品としても十分な仕上がりがうかがえながらも、非常に強いメッセージ性をおぼえる作品であります。

まとめ


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本作の『APAG』という原題は、タガログ語で「食卓」を意味する「Hapag Kainan」という言葉の略語を示します。

このテーマが本作で起用された理由に関し、メンドーサ監督は、食卓が家族愛という関係の中で祝いが宿る場所であることと同時に、お互い食事をするという関係において、それぞれの秘密を明かすという行為は家族の断絶を示すものであり、それがなされることはあり得ないということの象徴としていると語っています。

劇中に登場する食事の数々は、どれも色鮮やかで食欲をそそるものでもありますが、それゆえに複雑な関係を裏に隠してしまっている印象もあります。

息子の罪をかぶり収監される父、そんな父の姿より一生消えない闇を抱え悩む息子、二人を見守る母、そして愛する人を失いながらも生きていく被害者の妻。

彼らが一つ所で思いを共にするその姿は、食卓という場の意味、そして家族や人同士の関係をさまざまに考えさせてくれるでしょう。

映画『FEAST -狂宴-』は2024年3月1日(金)より全国順次公開!


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