高級ブランド「GUCCI」に隠された衝撃的な真実とは?
現代のファッションブランドの元祖と呼ばれ、誰もが知る世界的な高級ブランド「GUCCI」。
そんな「GUCCI」に隠された、30年に渡る一族の確執と没落を豪華キャストで描いた、衝撃的な映画『ハウス・オブ・グッチ』。
1995年3月27日に発生した、3代目社長のマウリツィオ銃撃が、物語の軸になっているのですが、何故そのような事件が起きたのでしょうか?
「誰もがお店の外から店内を覗き、いつかは二番目に安い物を買うことを夢見る」というナレーションから始まるように、今や世界中の誰もが知る「GUCCI」の「闇」に、リドリー・スコットが迫った本作の魅力をご紹介します。
映画『ハウス・オブ・グッチ』の作品情報
【公開】
2021年公開(アメリカ映画)
【原題】
House of Gucci
【監督】
リドリー・スコット
【原作】
サラ・ゲイ・フォーデン
【脚本】
ベッキー・ジョンストン、ロベルト・ベンティベーニャ
【キャスト】
レディー・ガガ、アダム・ドライバー、ジャレッド・レト、ジェレミー・アイアンズ、ジャック・ヒューストン、サルマ・ハエック、アル・パチーノ、カミーユ・コッタン
【作品概要】
高級ブランド「GUCCI」の、30年に渡る一族の確執と没落に迫った、サラ・ゲイ・フォーデンのノンフィクション小説「ハウス・オブ・グッチ」を映像化した人間ドラマ。
「GUCCI」の3代目社長となる、マウリツィオを演じるのは「スターウォーズ」シリーズのカイロ・レン役で注目され、『ブラック・クランズマン』(2018)『マリッジ・ストーリー』(2019)で、2年連続の「アカデミー主演男優賞」ノミネートを果たしたアダム・ドライバー。
マウリツィオの野心家の妻パトリツィアを、世界的な歌手として知られるだけでなく、映画初主演を果たした『アリー/ スター誕生』(2018)が高い評価を得たレディー・ガガが演じています。
マウリツィオの叔父、アルドをアル・パチーノが演じる他、ジャレッド・レトやサルマ・ハエックなど、豪華キャストが集結しています。
監督は『エイリアン』(1979)『ブレードランナー』(1982)などの名作で知られ、近年では『最後の決闘裁判』(2021)も高く評価されたリドリー・スコット。
映画『ハウス・オブ・グッチ』のあらすじとネタバレ
1978年イタリア。
運輸業を営む父親の会社で働くパトリツィア。
彼女は、あるパーティーで、弁護士を目指すマウリツィオ・グッチと偶然知り合います。
マウリツィオは、富裕層を中心に人気を誇るブランド「GUCCI」の3代目にあたります。
マウリツィオの真面目で純粋な性格が気に入ったパトリツィアは、偶然を装いマウリツィオに近付きます。
次第に、パトリツィアとの結婚を考えるようになったマウリツィオは、父親で「GUCCI」の経営の中心に携わっている、ロドルフォにパトリツィアを紹介します。
しかし、経歴を重視するロドルフォは、実家が運輸業であるパトリツィアを気に入らず、マウリツィオに別れるように促します。
ですが、パトリツィアとの結婚に、強い決意を持っていたマウリツィオは、ロドルフォの遺産を全て放棄し家を出て、パトリツィアの運送業者で働き始めます。
運送業者の仲間にも受け入れられ、パトリツィアの両親にも気に入られたマウリツィオは、パトリツィアとの結婚式を挙げます。
グッチの3代目と結婚した、パトリツィアのニュースは大々的に報道されます。
そのニュースを見た、マウリツィオの叔父で「GUCCI」の経営者のアルドは、ロドルフォと絶縁したマウリツィオを、自身の経営に加えることを考えます。
アルドは弟で、マウリツィオの父親ロドルフォに会いに行きます。
アルドとロドルフォは「GUCCI」の株式を50%ずつ保有している「共同経営者」ですが、「GUCCI」を幅広く展開したいアルドと、富裕層のみを顧客にしたいマウリツィオとは、考え方が違います。
アルドは、マウリツィオが「GUCCI」の経営に携わるよう、ロドルフォを説得しようとしますが失敗。
それでも諦めきれないアルドは、パトリツィアとマウリツィオを自身の誕生パーティーに招きます。
誕生パーティーの帰りに、パトリツィアはアルドからニューヨークへのチケットを受け取ります。
それは、ニューヨークで「GUCCI」の事業を展開する、アルドからの誘いでもありました。
現状に満足のマウリツィオは、その誘いを断ろうとしますが、パトリツィアは半ば強引に、マウリツィオをニューヨークに連れて行きます。
映画『ハウス・オブ・グッチ』感想と評価
世界的に知られる高級ブランド「GUCCI」。
1921年にグッチオ・グッチが、バッグやシューズなどの皮革製品ブランドとして創業したのが始まりで、世界大戦の影響で皮革製品が販売できなくなった際に、ダブルGのデザインや、レッドとグリーンのバンドを生産し、大人気となりました。
大戦後、グッチオの息子であるアルドとロドルフォが経営の中枢を担うようになります。
世界進出を拒んでいたグッチオが死去した後、アルドが多角的な経営を始め、ニューヨークで「GUCCI」をオープンさせます。
一方、ロドルフォは父親同様に富裕層中心の経営を続け、自身がデザインしたスカーフは、女優から王妃となったグレース・ケリーにも愛され「高級志向」を守り続けます。
ですが、1980年頃から「過去の栄光」にすがるあまり、「GUCCI」はブランドとして失速を始めます。
そんな「GUCCI」に、突如登場したのが、パトリツィアで、『ハウス・オブ・グッチ』では、この時代を中心に物語が展開されます。
本作では「ブランドの展開」や「株の譲渡」など、少し難しく感じる要素もありますが、それはあくまでも背景に過ぎず、メインで描かれているのは「華麗な一族の確執と没落」で、ドロドロの人間ドラマです。
マウリツィオと結婚したパトリツィアは、野心的に「GUCCI」を自分の色に染めることを考え、邪魔者を次々に排除していきます。
アルドを辞任に追い込み、マウリツィオを3代目社長に就任させようと企てたパトリツィアは、後に「レディーグッチ」と呼ばれる程、強烈な存在感を出していきます。
また、作中でも物語の中心として描かれている、1995年3月に発生した「マウリツィオ暗殺事件」の主犯格であることを認めており、ディスカバリー+プラットフォームで配信された、ドキュメンタリー「レディーグッチ、パトリツィア・レッジャーニのストーリー」のインタビューで全てを語っています。
現在の「GUCCI」は、年商600億の世界的なブランドとなっていますが、グッチの一族は経営陣にはいません。
パトリツィアの企ては、結果的に「GUCCI」という箱だけを残したことになります。
それでは、パトリツィアがいなければ、「GUCCI」は今も一族が経営していたか?というと、そうではないでしょう。
作中でも、マウリツィオが他のブランドのデザイナーに「GUCCI」が時代遅れであることを伝えられる場面がありますが、1980年代の「GUCCI」は確実に輝きを失っていました。
おそらく、パトリツィアがいなくても「GUCCI」はブランドとしての終焉を迎えていたでしょう。
本作の序盤でマウリツィオは「GUCCI」というブランドに興味を持っておらず、弁護士を目指していました。
さらに、パトリツィアの運輸会社で働き、それなりに暮らしていける現状を「今が一番幸せ」と語り、「GUCCI」の経営に加わることに乗り気ではありませんでした。
マウリツィオは「GUCCI」というブランドに限界を感じて、積極的に関わろうとしなかったのかもしれません。
本作の序盤で、マウリツィオは名前を聞かれても、自分から「グッチ」と言っていないことからも、「グッチ」の一族である自分に、魅力を感じていなかったのでしょう。
そう考えると、パトリツィアと出会ってしまったのは、マウリツィオにとって不運だったかもしれません。
一方のパトリツィアは、マウリツィオに最初から名声目的で近付いたのでしょうか?
2人が出会ったパーティーの場面で、マウリツィオが「グッチ」の一族と聞いて、パトリツィアの目が一瞬輝いたような気がしました。
ですが、父親と喧嘩して家を飛び出たマウリツィオを、迷いなく受け入れた辺り、マウリツィオの純粋で真面目な性格が好きだったのでしょう。
ですが、アルドが登場して以降、パトリツィアは野心に目覚めてしまったという印象です。
パトリツィアのメイクや服装は、物語が進むにつれて大きく変化していき「内に秘めた野心が、どんどん表に出ている」という印象を観客に与えます。
マウリツィオは、パトリツィアを何度も引き戻そうとしましたが、彼女の野心は止まることはありませんでした。
『ハウス・オブ・グッチ』は、「GUCCI」終焉の瞬間を描きながら、愛情より野心が上回ってしまった女性の、悲しい物語でもあります。
まとめ
『ハウス・オブ・グッチ』では、豪華キャストが個性的な登場人物を演じており、確執と裏切りのドラマに観客を引き込んでいきます。
特にマウリツィオを演じたアダム・ドライバーは、本来は心優しい好青年だった、マウリツィオを繊細に演じており、パトリツィアによって、一族が破壊されていく悲劇を際立てています。
本作のオープニングでは、マウリツィオがカフェで考え事をし、その後に自転車で出社するという、日常的な場面から始まります。
実は、クライマックスに繋がる重要な場面なのですが、アダム・ドライバーは一切のセリフ無しで、僅かな表情の変化のみで、マウリツィオの心情を表現しています。
おそらくですが、マウリツィオは「GUCCI」の株を売却し、一族経営だった「GUCCI」を終わらせる決断をしたのでしょう。
その直後に発砲される為、悲劇としかいいようがないですが、僅かな表情で心情を表現した、アダム・ドライバーは見事です。
『ハウス・オブ・グッチ』は、暗い人間ドラマになりそうなところを、アルドとパオロがコメディのようなやりとりを見せ、エンターテイメント作品としてバランスを保っています。
特に、パトリツィアが殺し屋を雇う際の、交渉の様子がグダグダで、この場面は特に面白いです。
本作は実話をもとにした作品なので、実際の「GUCCI」関係者からは、いろいろ言われているようです。
ですが、個人的には「GUCCI」について、何も知らなかったですし、描かれているのは「親族同士のトラブル」という身近なテーマですので、決して別世界の話ではない恐ろしさを持つのが、『ハウス・オブ・グッチ』という作品の魅力でした。