中世フランスを舞台に歴史上最後の「決闘裁判」となった実話に基づく衝撃の物語!
「アカデミー賞」脚本賞を受賞した『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のマット・デイモンとベン・アフレックが脚本家として24年ぶりにタッグを組み、リドリー・スコットが監督を務めた重厚な歴史劇『最後の決闘裁判』。
中世フランスで行われた「決闘裁判」の史実を基に、暴行事件を訴えた女性とその夫、そして加害者の3人の生死を懸けた戦いを描き、濃厚な人間ドラマが展開します。
マット・ディモンが夫である騎士ジャン・ド・カルージュを、エミー賞受賞のジョディ・カマーが妻のマルグリットを、そして加害者である従騎士ル・グリをアダム・ドライバーが演じ、様々な問題を絡めながら人間の本質を浮かび上がらせています。
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映画『最後の決闘裁判』の作品情報
(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
【日本公開】
2021年公開(アメリカ映画)
【原題】
The Last Duel
【原作】
エリック・ジェイガー 『最後の決闘裁判』 (ハヤカワ文庫NF)
【監督】
リドリー・スコット
【キャスト】
マット・デイモン、アダム・ドライバー、ジョディ・カマー、ベン・アフレック
【作品概要】
「アカデミー賞」脚本賞を受賞した『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のマット・デイモンとベン・アフレックが24年ぶりにタッグを組んで脚本を書き上げ、リドリー・スコットが監督を務めた重厚な歴史劇。
原作は、UCLAの教授エリック・ジェイガーが14世紀フランスで起こり、「最後の決闘裁判」となったスキャンダラスな事件に注目し、当時の公文書など資料を丹念に紐解いて描いたノンフィクション作品。
映画『最後の決闘裁判』あらすじとネタバレ
(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
1386年、フランス・パリ。ジャン・ド・カルージュとル・グリという2人の男が生死を賭けた“決闘裁判”に臨んでいました。
試合場を囲んだ観覧席にはフランス国王シャルル6世が延臣たちをひきつれて座り、その背後には決闘をひと目見ようと多くの群衆がつめかけていました。
その中に、観覧席とは別の場所に座り、男たちを見つめるひとりの黒衣の女性の姿がありました。二人の男の決闘の結果次第で彼女の生死が決まろうとしていました。果たしてこの3人の間に何があったのでしょうか
ジャン・ド・カルージュの証言
(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
ジャン・ド・カルージュとル・グリは、かつては互いに信頼しあった友人同士でした。彼らは度々、兵士として戦地へとおもむき、敵国と死闘を繰り広げましたが、その際、ジャンがル・グリの危機を救い、ル・グリはジャンを命の恩人と感謝していました。
また、ジャンは妻と子を亡くすという悲劇を経験していましたが、その子が生まれた時にはル・グリに名付け親になってもらうほど2人の友情は深いものでした。
ル・グリが領主であるピエール伯の命令で、延臣から金を集めることになった際も、金がないと告白するジャンに対して、他の延臣に対してのように無理じいをせず、融通を利かせてくれるのでした。
ル・グリはピエール伯のお気に入りで、逆にジャンは嫌われていましたが、2人の友情は揺るぎのないものに見えました。
ある日、ジャンは、戦の勝利の宴の席で、ロベール・ド・ディボヴィルという男と出会い、彼の娘マルグリットを紹介されます。
ロベール・ド・ディボヴィルは国王を裏切り、イギリスの味方をした裏切り者でしたが、恩赦を受け、今は心を入れ替えていました。ジャンは上品で美しいマルグリットにすぐに心を奪われ、ついに2人は結婚することとなります。
裕福な一家から嫁いだマルグリットがもたらした持参金はジャンの暮らしを大いに救けました。2人は愛情豊かに暮らし、マルグリットは生き生きとして幸せそうでした。
しかし、本来ならマルグリットの持参金の一部であったはずのオスール・ファル・コーンという土地がル・グリのものになったと聞き、ジャンは驚きます。
ピエール伯爵が無理やりその土地をロベール・ド・ディボヴィルから取り上げ、それをお気に入りのル・グリに譲ったのです。土地の価値も当然のことながら、オスール・ファル・コーンはマルグリットにとっても幼い頃から慣れ親しんできた想い出深い土地でした。
そんな妻の想いも汲んでジャンは王室に訴え出ますが、却下され、ピエール伯に盾をついたことで立場を悪くしてしまいます。
そんな折、ジャンの父親が死去。当然父の後をうけて自分が継ぐものと思っていた「ベレム長官」の座にル・グリが就任することを知ったジャンは激怒します。
このことをきっかけにジャンはル・グリとの関係を悪化させ、またピエール伯とはますます溝が出来、宮中政治から遠ざけられてしまいました。
それから一年後、従騎士である旧友からジャンは招待状を受け取ります。男の子が生まれ、その祝いの席に招待されたのです。
「行くべきよ」とマルグリットは助言しました。会場に着くと、そこにはル・グリとピエール伯の姿がありました。ジャンは2人に歩み寄ると、ル・グリが手を差し伸べ、2人は固い握手を交わしました。
和解の証として、周りの者は皆、拍手を送りました。ジャンは習慣にならって妻・マルグリットを紹介し、「誠意の証のキスを」と言い、マルグリットはル・グリとキスを交わしました。こうしてジャンは再びピエールの延臣としての立場を復活させることができましたが、ル・グリはこの時の接吻で、マルグリットを激しく意識するようになっていきます。
翌年の1385年。ジャンは富と出世を求め、フランス軍のスコットランド遠征に加わります。森の奥から火がついた矢が飛んでくる激しい戦でしたが、生き残ったジャンは帰還し、迎えに出たマルグリットと抱き合います。
ジャンはこの戦で騎士の肩書を得、給金を支払ってもらうためにパリへと向かいました。帰宅するとマグリットの様子がおかしいのに気が付きます。
マグリットが言うにはジャンの留守中、ジャンの母親がサン・ピエールへ、家のものをひとり残らず連れて外出したのだそうです。ジャンがマルグリットを一人にするなと命じていたのにも関わらず。
その時、男が来て、蹄鉄を交換する間だけ温まりたいと懇願するのでドアを開けたところ、いきなりル・グリが侵入してきて、強姦されたとマルグリットは涙ながらに訴えました。
ジャンは「君を守ることが出来なかった。許してくれ」とマルグリットを強く慈悲深く抱きしめると、「やつに報いを受けさせてやる」と決意します。
信頼できる人々を集め、相談をするジャン。「うわさを広げてくれ。そうすれば、ピエールも審問を開かざるを得なくなるだろう」とジャンは述べました。
ジャンはピエールが審問会を独自の判断で決着するだろうと読み、直にフランス国王に「決闘裁判」を訴え出ました。
パリ高等法院の審理で、ル・グリは疑惑を完全否定しました。ジャンは挑戦のしるしとして手袋を床に投げ捨てました。シャルル6世は決闘裁判を容認し、神に審判を委ねることにしました。
ル・グリの証言
(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
ジャン・ド・カルージュがル・グリの「命の恩人」となった戦いは、もともと、ジャンが独りよがりで敵地へ飛び出ていったのを、放っておくわけにはいかないとル・グリが他の兵士に続くように号令をかけたものでした。
ル・グリはピエール伯の寵愛を受ける一方、ジャンは極端に嫌われていました。オスール・ファル・コーンという土地をめぐるトラブルでは、ジャンは延臣とは思えないような悪態をつき、ピエール伯の怒りを買い、延臣でありながら、宮中政治から遠ざけられてしまいます。
友人として常にジャンをかばってきたル・グリでしたが、こうなるとどうしようもありません。ジャンはル・グリを権力者に媚びへつらうことに長けているとののしり、ル・グリ自身もジャンとは決別することとなってしまいました。
ル・グリはカルージュ家ほどの由緒ある家系の出ではありませんでしたが、教養豊かで、聖職者の資格も持っていました。ピエールはル・グリのそういう点も高く評価していました。
ピエール伯とジャンが決別して一年が立った頃、ル・グリは男の子が生まれた従騎士の仲間の祝いに参加し、ジャンと再会します。
ル・グリが差し伸べた手をジャンは取り、和解が成立しました。その際、ジャンは妻のマグリットを紹介し、「誠意の証のキスを」とマルグリットに命じました。
マルグリットと口づけを交わしたル・グリは過去に経験したことのない激しい感情を覚えます。女好きでこれまでさんざん放蕩を尽くしてきた彼でしたが、初めてひとりの女性に強烈に惹かれ戸惑います。
以前、ピエール伯から、マルグリットは本を読むのを好む女性であると聞き及んでいた彼は、マルグリットに話しかけ、彼女と短い書物談義を交わしました。
夫の元に戻りダンスを始めた彼女は、夫の肩越しにル・グリに視線を送ってきました。
フランス軍のスコットランド遠征に参加したジャンは、戦の報告にピエールを訪ねました。ピエールの隣にはル・グリがいました。
ル・グリはジャンに「悲惨な結果は君の指揮のせいではない」と声を掛けましたが、ジャンは自分は騎士の称号を得たのになぜ「サー」をつけないのかと怒り出しました。
従騎士にすぎないとル・グリを嘲り、「私がいる時はサーと呼べ」と怒鳴り散らすジャンに、ル・グリは冷静に対処し、給金を支払ってもらうためにパリに行くというジャンに「パリを満喫なさるが良い。サー・ジョン」と声をかけました。
ル・グリはジャンの留守宅を訪ね、使いのアダム・ルヴェルにマルグリットに家を開けさせるよう命じました。「開けてはいけないと言われているので」と一旦、断ったマルグリットでしたが、蹄鉄をつける間だけ暖をとらせてほしい」と嘆願する言葉に親切心を出し、ドアを開きました。
すると素早くル・グリが入り込み、いきなり「あなたを愛している」と告白しました。「人妻です」と応え、拒否するマルグリット。ル・グリは「ジャンはあなたに冷たい。あなたが気の毒なのです」と迫ります。
2階に上がっていくマルグリットのあとをル・グリは追い、彼女の部屋に入り込み、自分自身の欲望の赴くままに彼女を乱暴しました。
去り際にル・グリは「悪く思うな。ことは秘密にしておくほうがよい」と言い、「共に快楽に溺れた」と言い残し、部屋を出ていきました。
その後、ル・グリは教会を訪ね、告解し、神に許しを請いました。
それからしばらくしてル・グリはピエールに呼び出されました。出かけていくと彼がマルグリットに乱暴を働いたことが噂になっていると問いただされました。「本当のことではないな」と確認するピエール伯にル・グリは自分がマルグリットに抱いた恋心を告白し、自分の欲望をおさえきれませんでした、マルグリットは背くふりをしたがそれは建前だ、と愛を訴えました。
ピエール伯は困惑しつつ、「証拠はない。否定しろ。裁判は行われる。しかし裁くのは私だ」と応えました。
審問会でピエール伯が無罪を言い渡そうとしていた時、家臣がやってきて、カルージュは既にパリへと向かい、国王に上訴したそうですと伝え、ピエールたちは呆然とします。
それから数カ月後に開かれたパリ高等法院での審理で、ル・グリはシャルル6世の前で「告発内容をすべて否定します」と延べ、床に投げられた手袋を拾いました。
シャルル6世は決闘裁判を容認し、神に審判を委ねることにしました。
マルグリットの証言
(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
ロベール・ド・ディボヴィルの一人娘であるマルグリットは、多額の持参金を手に、ジャン・ド・カルージュと結婚しました。
しかし結婚式の最中から、彼女はこの結婚に不安を覚えることになります。なぜならジャンは結婚式の最中に父と口約束していたオスール・ファル・コーンという土地が自分の手に入らないことを知り、激怒したからです。
また彼の愛の行為は一方的で、ただ、世継ぎがほしいだけに感じられました。
従騎士の仲間から招待状を受けた際は、夫に出席をすすめ、ピエール伯とル・グリと和解することをすすめていました。
ことがうまく運んだあと、彼女は夫に「笑顔や優しい言葉は脅しよりも効果的です」と微笑みました。
友人のマリーたちも会場に姿を見せ、話題はもっぱらル・グリのことでした。女性たちは、彼は魅力的だがとても女好きらしいと噂していました。マリーは彼を美男で魅力的だと褒め称え、マルグリットは「確かに美男子だけれど信用出来ない」と応えました。
なかなか受胎できないことがマルグリットを悩ませます。同居しているジャンの母親もそのことでマルグリットを苦しませます。
夫がスコットランドの戦地に赴くことになり、留守宅を彼女は懸命に守りました。その活躍は目を見張るものがあり、彼女も手応えを感じていました。
マルグリットは市場に最新のデザインの服が出ていることを使いの者から知らされます。マリーからもその服を買って、ジャンを迎えれば喜ばれるだろうとアドバイスされ、ふたりでそのドレスを見に行きました。
市場で彼女はル・グリを目撃します。ル・グリも彼女に気が付き、手をふってきましたが、彼女は相手にしませんでした。
夫が戦地から戻ったという知らせをうけ、彼女は外に出て、夫を迎えました。しかし、夫は手を広げる妻を見ると険しい顔をして家の中へ入っていきました。
寝室に入ったジャンはマルグリットの胸元が広くあいたドレスに対して「尊厳を失ったのか!まるで売女のようだ!」と罵りました。
翌日、ジャンは給金をもらいにパリに行くと告げ、出かけていきました。ジャンの母親はマルグリットを一人にするなというジャンの言葉を無視し、お連れのものを皆連れて、外出してしまいます。
一人で家に残されたマルグリットの元にアダム・ルヴェルが訪ねてきて、少しだけ暖をとらせほしいと訴えます。誰も中に入れてはいけないと言われているとマルグリットは断りますが、ルヴェルは父の部下だったこともある男で、少し油断してドアを開けると、突然、ル・グリが入り込んできました。
「あなたを愛しています」とル・ベルは告白し、マルグリットを口説き始めました。「私は人妻です」とマルグリットは毅然と応えますが、ル・グリは「ジャンはあなたに冷たく、あなたが気の毒でならない」と言って、さらに彼女に迫ってきました。
恐怖に駆られたマルグリットは逃げようとしますが、ル・グリはあとを追ってきて、彼女を捕まえると力任せに持ち上げ、ベッドに押し付け、拒むマルグリットを無理やり乱暴し、性的要求を満たしました。
彼は満足を覚えると、「悪く思うな。ことは秘密にしておくほうがよい」と言い、「共に快楽に溺れた」と言い残し、部屋を出ていきました。
翌日、ショックで打ちひしがれるマルグリットのもとにマリーが訪ねてきました。マリーは妊娠したことを報告しにきたのでした。マルグリットの目には涙が溢れました。驚いたマリーは「祝ってくれないの?」と尋ね、マルグリットは涙をこらえながら「おめでとう」と伝えました。
夫が帰ってくるとマリーはお話がありますと言って、ル・グリに強姦されたと告げました。話を聞いたジャンは「真実を言っているのか!? なぜ逃げない!」と怒鳴り、マリーが抵抗したが組み敷かれたのだと訴えると「「あいつは私に邪悪なことしかしない」と憤りました。
「私は真実を話します。でも法の後ろ盾がない」とマリーが語るとジャンは「私がついている」と応え、「やつをお前の最後の男にはしない」と言って、ためらうマリーにベッドに来いと命じました。
マルグリットが法に訴えることを知ったジャンの母親はそれを責め、自身もかつて被害にあったことがあるが誰にも話さなかったと語りました。「その代償は?」とマルグリットが尋ねると、義母は「私は生きているわ」と応えました。
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映画『最後の決闘裁判』の感想と評価
(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
中世フランスにて行われていた「決闘裁判」において、女性の運命はすべて男性の手に委ねられており、夫が敗れれば、彼女も死ぬ運命にあるという過酷なものでした。家父長制の男性優位社会で、女性の人権はないに等しかったのです。
性的な暴行を受けた女性は真実を告発したために、法定の内外で数々の理不尽な中傷を受け、尊厳を踏みにじられます。被害の実証の難しさなど、本作で描写されている事柄は、現在も変わらぬ大きな問題であり、本作は、#MeToo運動の流れを汲んだ映画といえます。
「夫」、「ライバルである友人」、「妻」という順番で、三人の視点で事の顛末が語られる構成は秀逸で、黒澤明の『羅生門』を彷彿させますが、そこに浮かび上がってくるのは、矛盾や謎というよりも、人間の愚かさと滑稽さです。
誰にも言い分があるのは勿論ですが、都合の悪いことは語らず、自身を美化して脚色して語る人間の愚かさは、決して彼ら特有のものではなく、誰にでも少なからず覚えのあるものでしょう。
夫とかつての友人との互いの見立ての違いも興味深いものがありますが、夫と妻との証言から浮かび上がってくるまったく違った人物像はとりわけ興味深いものがあります。
最初の章の「夫の証言」では、愚直だが優しい夫のもと、のびのびと暮らす妻に見えたものが、「妻の証言」では跡継ぎを生むことしか臨んでいない圧迫感のある冷たい夫のもとである種の緊張感を強いられている妻像が浮かび上がってきます。
この点においては「友人の証言」と「妻の証言」というふたつの章で「彼(夫)はあなたに冷たい。あなたが気の毒でならない」と「友人」が「妻」に語る場面があり、本当の夫の姿はどちらなのかということを考える上で重要となってきます。
夫は、妻を本当に心配し、妻の尊厳を守るために決闘に挑むのではなく、自分自身が長年、友人に抱いていた嫉妬やつのらせていた怒りに決着をつけるために、のちに妻が指摘するように「虚栄心」の塊となって、決闘に挑むのです。
彼女を強姦した友人は、「友人の証言」の章では、まるで、彼女の方にも気があったかのように証言し、問題のシーンも「妻の証言」での同じシーンとは明らかに異なっています。こうした加害者の言い分も、今に通ずる深刻な問題であると言えます。
誰も本当に女性の被害に向き合わず、彼女の尊厳にも注意を払っていません。それどころか、信念を貫いた告発が、結果として群衆への娯楽として消費されてしまう理不尽な構造が、クライマックスの決闘シーンで表出されています。
妻のために戦った男は英雄として受け入れられ、虚栄心はみたされます。その後ろで緊張した面持ちでいた妻は、急にまるで目眩に襲われたかのように頭を降る仕草を見せます。
それは生死のかかった極度の緊張を味わった疲労から来るものというよりは、豊かな愛情のもとに結びついた夫婦という虚像を、いつの間にか大衆のために自分が担わせられている事実に気がついたがゆえの目眩であったのではないでしょうか。
さらにラストに出る字幕の部分がまた、非常に興味深いものとなっています。夫が戦死して一人になった女性は、領主となり幸せに暮らしましたという内容が記されるのです。
劇中でも女性は夫が留守の際、領主の役割を果たし、生き生きとした表情を見せていました。夫不在のほうが生き生きとする女。結婚とはそもそも何なのかを考えさせられます。
まとめ
(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
1386年、百年戦争さなかのフランスで実際に起こった事件により行われた「決闘裁判」を描いた本作は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の英語学科の教授エリック・ジェイガーが当時の公文書などの資料を丹念に読み解いて執筆したノンフィクションを原作としています。
それを読んだマット・デイモンが、黒澤明の『羅生門』的な構成にするアイデアを思いつき、初監督作の『デュエリスト 決闘者』や『グラディエイター』などの重厚感のある史劇を多く発表しているリドリー・スコットに監督を依頼しました。
脚本は、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』で「アカデミー賞」脚本賞を受賞したマット・デイモンとベン・アフレックが24年ぶりにタッグを組み、男性パートを執筆。最後の女性パートは、『ある女流作家の罪と罰』のニコール・ホロフセナーが担当しています。
ドラマ『キリング・イヴ Killing Eve』でエミー賞主演女優賞を受賞したジョディ・カマーが、真実を告げるため裁判で闘うことを決意する女性マルグリットに扮していますが、3つの章で、同じ人物ながら、それぞれまったく違ったニュアンスを漂わせる演技を見せており見事です。
マット・デイモンも主観と客観でまったく異なる男性像を巧みに演じ分け、また、アダム・ドライバーが、圧倒的な存在感を放っています。
リドリー・スコットは、灰色がかった暗く重々しい中世の風景を作り上げ、現在に通じる人間の様々な問題を織り込みながら、大胆で重厚な史劇を作り上げました。