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Entry 2020/11/05
Update

映画『キーパーある兵士の奇跡』ネタバレ感想レビューと評価。実話の元ナチスのサッカー選手と妻の愛のドラマ

  • Writer :
  • 松平光冬

イギリスの国民的英雄となった元ナチス兵のサッカー選手の実話

映画『キーパー ある兵士の奇跡』が、2020年10月23日(金)より新宿ピカデリーほかで全国順次公開されています。

第二次世界大戦で捕虜となったナチス兵のバート・トラウトマンが、終戦後のイギリスで人気サッカー選手となったという実話を、ネタバレ有でレビューします。

映画『キーパー ある兵士の奇跡』の作品情報

(C)2018 Lieblingsfilm & Zephyr Films Trautmann

【日本公開】
2020年(イギリス・ドイツ合作映画)

【原題】
The Keeper(別題:Trautmann)

【監督・共同脚本】
マルクス・H・ローゼンミュラー

【脚本】
ニコラス・J・スコフィールド

【製作】
ロバート・マルチニャック、クリス・カーリング、スティーブ・ミルン

【撮影】
ダニエル・ゴットシャルク

【キャスト】
デヴィッド・クロス、フレイア・メーバー、ジョン・ヘンショウ、ハリー・メリング、デイブ・ジョーンズ、マイケル・ソーチャ、バーバラ・ヤング、クロエ・ハリス

【作品概要】
イギリスの国民的英雄となった元ナチス兵のサッカー選手、バート・トラウトマンの実話を基に描いたヒューマンドラマ。監督と共同脚本は、ドイツ映画界で活躍するマルクス・H・ローゼンミュラー。2019年のドイツのバイエルン映画祭で最優秀作品賞に輝いたのを筆頭に、各国の映画祭で数々の観客賞を受賞しています。

バート役を『愛を読むひと』(2009)で注目を集めたデヴィッド・クロス、妻マーガレット役を『やっぱり契約破棄していいですか⁉』(2018)のフレイア・メーバーがそれぞれ演じます。そのほか、『僕たちのラストステージ』(2018)のジョン・ヘンショウ、「ハリー・ポッター」シリーズ(2001~11)のダドリー役で知られるハリー・メリングらが脇を固めます。

映画『キーパー ある兵士の奇跡』のあらすじとネタバレ

(C)2018 Lieblingsfilm & Zephyr Films Trautmann

1944年、ドイツ・クレーヴェで、ナチス兵のバート・トラウトマンは連合軍の攻撃を受け、捕虜として捕らえられます。

イギリスのランカスターの捕虜収容所に連れてこられたバートは、そこでイギリス軍のスマイス軍曹に目を付けられ、汚物処理の作業をさせられることに。

そんなある日、他の捕虜たちがサッカーをしているのを見たバートは、ゴールキーパーを買って出ます。

割り当てられた二段ベッドの上段を使う捕虜のポルが吸っていたタバコが欲しくなったバートは、PKでシュートを阻止するごとにタバコを貰うという条件を出します。

PKシュートを次々とブロックして、タバコを手に入れるバート。

その光景を目にしていたのが、ランカスターで小売店を経営するかたわらでサッカークラブの監督をしていたジャック・フライアーと、店の手伝いをする彼の娘マーガレットでした。

ジャックは、バートを自分のクラブのキーパーとしてスカウトし、試合のある時だけ彼を借りるという約束をスマイスと取り付けます。

クラブのメンバーは、元ナチス兵が仲間に入ることを拒絶しますが、ジャックは強引にバートを加入。

ジャックの期待通り、バートは卓越したディフェンス能力を発揮し、クラブを勝利に導きました。

バートは、自分をキーパーとして継続的に起用するための見返りが欲しいとジャックに言います。

そこでジャックは、バートを店の雑用係として使うことに。

マーガレットは、「ナチスに友人を殺された」として、バートに店内に入るなと嫌悪をあからさまにします。

「僕だって戦地に赴くより、君とダンスがしたかった」と答えるバート。

黙々と雑用をこなしながらも、バートは時おり木彫りの小鳥のペンダントを出しては、戦地で会ったユダヤ人少年を思い出していました。

マーガレットの妹バーバラは、そんな彼に興味を示し、やがて2人は日常会話を交わすように。

やがてマーガレットも、いつしかバートの姿を目で追うようになっていきます。

(C)2018 Lieblingsfilm & Zephyr Films Trautmann

収容所では、“再教育”としてスマイスが捕虜たちに虐殺された大量のユダヤ人の映像を見せます。

その映像を笑みを浮かべながら見ていた捕虜にポルが殴りかかって騒然となるも、スマイスはしばらくの間制止させません。

クラブチームは連勝を重ね、メンバーとも徐々に打ち解けていき、さらには観戦していたマーガレットに向けて、試合中にもかかわらずダンスパフォーマンスをするなど、バートも生来の明るさを取り戻していきます。

ところが、収容所に戻ったバートがトイレに行くと、そこにはポルの首吊り死体が。

「殺したのはお前だ」と、スマイスに飛びかかったバートでしたが、スマイスは「親ナチの奴に殺されたんだろう」とにべもなく追い返します。

揉み合ううちにバートが落とした木彫りの小鳥のペンダントを拾うスマイス。

そんな折、終戦により捕虜はドイツへの送還が決定、バートも地元ブレーメンに戻ることに。

今やクラブの要となっているバートを欠くことはできないと、ジャックは彼を自分の家に住まわせることにします。

次第にマーガレットとの心の距離が近づくバートに、クラブのキャプテンで彼女の恋人のビルは、「マーガレットは俺の女だ」とクギを刺します。

やがて向えたクラブの決勝戦、序盤は調子が出ずにゴールを許してしまうバート。

ハーフタイム時のジャックの咤激励に奮起したメンバーは、後半で怒涛の攻めを見せ、バートもゴールを死守したのち、ついに勝利をもぎ取ります。

そんな喜ぶバートに近づいたのは、イングランドの名門サッカークラブ、マンチェスター・シティFC(以下、マン・シティ)のジョック・トムソン監督でした。

トムソンからのスカウトに胸躍るバートはその夜の勝利パーティで、マーガレットとダンスを踊ります。

その姿を見て激高したビルからマーガレットを賭けたPK対決を要求されるも、酔って千鳥足となったビルに勝ち目はありません。

「彼女が君のものになることはない」と告げ、どしゃ降りの中帰宅したバートに、「お前はいい奴なのは分かってるが、世間はまだドイツ人を憎んでる。親としてそんな辛い状況に娘を追い込めない」と、マーガレットへの想いを知るジャックは諭します。

気落ちして自分の部屋に戻ったバートを待っていたのはマーガレット。2人はついに結ばれます。

(C)2018 Lieblingsfilm & Zephyr Films Trautmann

1949年、マーガレットと結婚したバートはマンチェスターに渡り、彼女を帯同してマン・シティ入団の記者会見に臨みます。

しかし、ユダヤ人が多く住むマンチェスターの記者たちからは、ナチス兵に志願した理由や、優秀な兵士に贈られる鉄十字勲章を持っていた軍歴など、サッカーとは無関係の質問が飛び交います。

喧騒の中、「自分には兵士となる以外の選択肢がなかった」、「ナチスの実態を知らずに入った」と答え、その場を離れたバート。

彼の後を追ったマーガレットは、なぜ過去について話してくれなかったのかと問い詰めるも、「誰にだって話したくない思い出がある」という言葉が返ってきたのみでした。

マン・シティのメンバーとしてプレイするバートへの、マンチェスター市民からの罵声と誹謗中傷は止むことがありません。

なかでも、地元の有力な学者であるラビのアレキサンダー・アルトマンからの反発は、多大な影響力を与えていました。

そんな状況に耐え切れなくなったマーガレットとジャックは、トムソンが設けたアルトマンら反対派が集う会合の場に向かいます。

そこでマーガレットは、「ドイツのやった罪は消えないが、許せないという意味ではない。許すより憎む方が簡単。ドイツが犯した罪を主人1人だけに背負わせるのですか。私はナチス兵としてではなく1人の人間として、彼を誇りに思う」と訴えるのでした。

マーガレットの言葉を重く受け止めたアルトマンは、バートへの偏見を持つことなく、すべてのナチス兵の軍歴を個別に調べるよう求めた公開書簡を地元紙に寄せます。

そして、真摯にサッカーに取り組むバートの姿に、マンチェスター市民たちは次第にバートに声援を送るように。

バートはクラブ屈指の人気プレイヤーとなり、マーガレットとの間に息子ジョンを授かり、幸せな日々を過ごします。

しかし、家族と楽しく過ごす海辺でサッカーをしている子どもの姿に、あのユダヤ人少年を重ねるなど、時おり苦悶に満ちた表情を浮かべるのでした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『キーパー ある兵士の奇跡』のネタバレ・結末の記載がございます。本作をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2018 Lieblingsfilm & Zephyr Films Trautmann

1956年、マン・シティはバーミンガム・シティFCとのFAカップ決勝戦に進出。

いつも通りに盤石なディフェンス能力でゴールを守っていたバートは、後半でシュートを狙った相手選手に首を蹴られてしまいます。

しかしバートは痛みをこらえつつ、交代することなく最後まで試合に参加、ついにマン・シティを優勝に導きます。

直後に病院に運ばれたバートは、脊椎骨損傷の重症を負っていたことが分かり、そのまま入院することに。

ベッドで、またもやユダヤ人少年のことを思い出すバート。

戦時中、ユダヤ人少年が持っていたサッカーボールで遊んでいたバートを含むナチス兵の1人が、その少年を射殺するのを止められなかったことを、ずっと悔いていたのです。

ひた隠しにしていたユダヤ人少年のことを電話でマーガレットに話そうとしたバートは、息子のジョンが外のアイスクリーム屋に行きたいとマーガレットにねだるのを受話器越しに聞き、1人で行かせてもいいと伝えます。

ところが、アイスを買いに外に出たジョンが、持っていたサッカーボールを落として拾いに行こうと道路に飛び出して車に轢かれ、命を落としてしまいました。

突然の悲劇に、バートとマーガレットは会話も途絶え、無気力な日々を過ごします。

そんなある日、ジョンの墓前に佇んでいたバートの前に、収容所所長のスマイスが姿を現します。

妻と子どもを第二次大戦で亡くし、その墓参りに来たというスマイスは、「ナチスに殺された人々のためにサッカーを続けろ」とバートに告げます。

怒りのあまり飛びかかってきたバートを組み伏せたスマイスは、彼の手にある物を握らせます。

それは、あのユダヤ人少年の亡骸からバートが拾った、木彫りの小鳥のペンダントでした。

後日、ジョンとの思い出が詰まった海辺を訪れたバートとマーガレット。

バートはそこで初めて、ユダヤ人少年のことをマーガレットに話し、「ジョンが死んだのは僕があの少年を見殺しにした罰だ」と嘆きます。

夫の告白にマーガレットは、「ジョンは私の息子でもあったのよ。どんなに過去を悔いてもあの子は戻ってこない。あなたの勝手な思い込みに付き合うのはまっぴら。辛くても、私たちは前に進むしかないのよ」と叱咤するのでした。

彼女の言葉を受け、バートは再起を図ります。

アルトマンと直接対面し、お互いを分かり合ったバートは、サッカーのグラウンドに復帰し、大歓声を受けます。

そして無人のダンスホールで、2人はダンスを踊ります。

バートはイングランド年間最優秀選手賞の最初の外国賞受賞者に選ばれ、1964年に現役を引退、マーガレットとの間に新たに2人の男子をもうけました。

マーガレットは1980年に亡くなり、そしてバートも2013年にこの世を去ります――。

映画『キーパー ある兵士の奇跡』の感想と評価

(C)2018 Lieblingsfilm & Zephyr Films Trautmann

本作『キーパー ある兵士の奇跡』は、第2次世界大戦で捕虜としてイギリスの収容所に送り込まれたナチス兵のバート・トラウトマンが、終戦後に人気サッカー選手となったという実話を映画化したものです。

元敵国の兵士だったとして差別や誹謗を受けながらも、名門マン・シティのゴールを堅実に守り続けたバートの壮絶な半生が描かれます。

本作の大きなテーマは、“罪と許し”です。

ドイツ軍に志願したバートですが、それは兵士になるという選択肢しかなかった故であり、彼自身はユダヤ人を憎んでいたわけではありませんでした。

しかし気づいた時には、自分個人ではどうすることもできない状況下に置かれてしまいます。

助けることができたはずのユダヤ人少年を見殺しにしてしまった後悔の念を引きずったまま捕虜となったバート。

そんな彼を支えるのが、妻となる女性マーガレットです。

夫に罵声を浴びせるマンチェスター市民に向かって、「ドイツが犯した罪を1人に背負わせないで」と訴え、過去の後悔を抱える夫には、「辛くても前に進むしかない」と厳しくも励ましの言葉をかける。

サッカーのゴールポストをキープする(守る)のが夫なら、妻は夫婦の絆をキープする。

タイトルの『キーパー』とは、バートのみならず妻マーガレットも指しているのです。

まとめ

2013年に亡くなったトラウトマンの追悼ユニフォーム(着用者は当時マンチェスター・シティFC所属のジョー・ハート)

バートがイギリスでいかに支持を得ていくかの過程が希薄だったり、ゴールキーパーというポジションで致し方ないとはいえ、サッカーシーンの描写が派手さを欠くなど、気になる点もある本作。

しかしながら、劇中でのマーガレットの言葉「犯した罪は消すことはできないが、許すことはできる」は、現代社会にも通底する重要なメッセージです。

過ちからの再生を図ろうとする者と、過ちを赦そうする者のドラマを、実在したサッカー選手の伝記として上手く昇華させた一本となっています。

映画『キーパー ある兵士の奇跡』は、2020年10月23日(金)より新宿ピカデリーほかで全国順次公開



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