Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

映画『グレース』あらすじ感想評価。どこまでも広がる荒れ果てた大地を旅する父と娘の魂の物語

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『グレース』は2024年10月19日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて上映

ドキュメンタリー出身の新鋭イリヤ・ポヴォロツキーが東欧の民話をモチーフに監督・脚本を手がけたロシア映画『グレース』が2024年10月19日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて上映されます。

父と一緒に移動映画館で野外上映をして生計を立てる16歳の娘が、放浪生活から抜け出そうとするさまを描きます。

2023年・第76回カンヌ国際映画祭の監督週間に選出され、同年のカンヌ国際映画祭で上映された唯一のロシア映画です。

どこまでも荒れ果てた土地をキャンピングカーで走り抜けていく寡黙な父と娘。沈黙の旅の行方には何が待っているのでしょうか。二人の心の旅路をも映し出す本作の魅力をご紹介します。

映画『グレース』の作品情報

【公開】
2024年(ロシア映画)

【監督・脚本・編集】
イリヤ・ポヴォロツキー

【キャスト】
マリア・ルキャノヴァ、ジェラ・チタヴァ、エルダル・サフィカノフ、クセニャ・クテポワ

【作品概要】
2023年のカンヌ国際映画祭で上映された唯一のロシア映画として大きな反響を呼んだ作品。

ソ連崩壊後から時間が止まったようなロシア辺境の停滞と不穏を背景に、思春期の不安を抱える少女の成⻑を追ったロードムービーです。東欧の⺠話をもとにドキュメンタリー出身のロシアの俊英イリヤ・ポヴォロツキーが監督しました。

本作が撮影されたのはロシアによるウクライナへの軍事侵攻が本格化する少し前の2021年秋です。直接的な描写はないものの、映像の至る所に政治的な雲行きの悪さが感じられます。

出演はマリア・ルキャノヴァ、ジェラ・チタヴァ。

映画『グレース』のあらすじ

ロシア南⻄部の辺境にある、乾いた風が吹きつけるコーカサスの険しい山道を、錆びた赤いキャンピングカーが走っていきます。車には無愛想な目をした16歳の娘と寡黙な父親が乗っていました。

二人は移動映画館で野外上映をし、ポルノ映画の海賊版DVDを若者に密売しながら、北に向かって旅をしています。母親がいないことが二人の緊張した関係に影を落とし、車内にはいつも重苦しい沈黙が漂っていました。

延々と続く荒涼とした風景と、そこで生きる人々との束の間の出会いを繰り返しながら、彼らは世界の果てのような荒廃した海辺の町にたどり着きます。

娘は先の見えない放浪生活から抜け出すために、ある行動に出ますが…。

映画『グレース』の感想と評価

どこまでも荒れ果てたロシアの辺境の土地を、走り抜けていく古く赤いキャンピングカー。押し潰されそうになるほどの深い寂しさと孤独が伝わってきて、胸が締め付けられる作品です。それでいて、乾いた土地を走り抜ける赤いバンは、どこかファンタジックにも見えます。

途中出会う若者達も皆、退屈に膿み、行き場のないエネルギーを持て余しています。年頃を迎えた少女もまた、父と二人きりで暗い沈黙の中旅を続けることに、苦痛を感じるようになっていました。父もそのことに気づいていますが、ほかに行き場もない二人は何年もの間あてのない旅を続けています。

少女の心は、もしも針でつついたらすぐにでも破裂しそうなほどに張り詰めています彼女は現状を打破するチャンスを、無意識に常に求め続けていました

そんな少女の魂は、本能のままに大きく羽ばたいていきます。どうぞその姿を最後まで見守ってください。

大人になっていく娘を見つめる父の切ない思いも伝わってきます二人の濃密な関係も大きな見どころです。

まとめ

移動映画館で日銭を稼ぎながら旅を続ける父と、心身が成長過程にある娘の魂の遍歴を描く『グレース』。どこまで行っても荒涼とした風景が続く鬱屈した空気感と、青春期のもがきと焦燥感とが見事に重なり合います

独特の余韻が胸にじんわりと広がる一作です。

映画『グレース』は2024年10月19日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて上映です。



関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『さよならくちびる』あらすじネタバレと感想。ハルレオの門脇麦&小松菜奈の演技と演奏に注目!

映画『さよならくちびる』は、2019年5月31日(金)より全国ロードショー! 突然解散を決めた人気デュオの“ハルレオ”。付き人のシマと共に行く解散ツアーを描く音楽エンターテインメント。 音楽劇であると …

ヒューマンドラマ映画

『英雄の証明』ネタバレ感想と結末あらすじ解説。イラン映画の名匠が一瞬の油断や判断の過ちで起こる人間の運命を描く

まっとうな正義感と小さな嘘。彼は本物の英雄なのか、それとも詐欺師か!? 『別離』(2011)、『ある過去の行方』(2013)などの作品で知られ、国際的にも高い評価を受けているイランの名匠アスガー・ファ …

ヒューマンドラマ映画

映画『オール・アイズ・オン・ミー』あらすじとキャスト!実話の感想は

1996年9月13日に若干25歳でこの世を去った2PAC。 エミネム、スヌープ・ドッグ、ドクター・ドレーは惜しみないリスペクトを見せ、死してなお、多くのアーティストや音楽ファンを魅了し続けるトゥパック …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】銀河鉄道の父|あらすじ結末感想と評価考察。菅田将暉と役所広司が宮沢賢治親子の実話を熱演

宮沢賢治、没後90年。 賢治作品の背景にあった家族愛を知る。 直木賞受賞作、門井慶喜の小説「銀河鉄道の父」を成島出監督が映画化。宮沢賢治を菅田将暉が、賢治の父・政次郎を役所広司が演じます。 明治29年 …

ヒューマンドラマ映画

映画『三度目の、正直』ネタバレあらすじ感想と評価解説。野原位監督が紡ぐ“当たり前の日常”を生きる人々のための人生賛歌

子どもを求め彷徨う女性を描く、映画『三度目の、正直』。 ヴェネツィア映画祭で銀獅子賞を受賞した黒沢清監督の『スパイの妻』、『ドライブ・マイ・カー』で世界から高く評価される濱口竜介監督の『ハッピーアワー …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学