連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第86回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」。第86回は、2021年製作のロシアのハイスピードアクション映画『フューリアス ワン』です。
両親と恋人を殺された過去を持ち、強盗殺人の罪をなすりつけられ起訴された男イゴール。仲間の手助けによって護送途中に逃亡した彼は、街を牛耳る麻薬ディーラーの仕事を手伝い、高級車を乗り回す派手な逃亡生活を送ります。
しかしそんな彼の正体は、「新種のドラッグの出どころを探る潜入捜査官」だったという物語は、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
パヴェル・プリルチニー主演のハイスピードアクション映画『フューリアス ワン』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
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映画『フューリアス ワン』の作品情報
【公開】
2021年(ロシア映画)
【英題】
Silver Spoon:The furious One
【監督】
ニコライ・ブルイギン、マックス・ポリンスキー
【脚本】
セルゲイ・カルチュラノフ、オレグ・マロヴィチコ
【キャスト】
パヴェル・プリルチニー、イフゲニー・スティチキン、アグニア・ディコフスキーチェ、ダニエル・ヴォロビョフ、ウラジミ-ル・セレズニョウ、ドミトリー・シェフチェンコ、アレクサンダー・オブラソフ、イゴール・ジジキン、パヴェル・シャニョフ、エレナ・ドロニナ、アナスタシア・ドゥブロビナ、オルガ・ドゥブロビナ、ダリーナ・アーヴィン、セルゲイ・ガラホフ、エヴゲーニィ・ハリトーノフ、ルスタム・ハジエフ、ジュンスケ・キノシタ、ミハイル・クリヤエフ
【作品概要】
ロシアの犯罪テレビドラマ「シルバースプーン」シリーズ(2014)のニコライ・ブルイギンとマックス・ボリンスキーが監督を務めた、ロシアのハイスピードアクション作品です。
『フロンティア』(2017)のパヴェル・プリルチニーが主演を務めています。
映画『フューリアス ワン』のあらすじとネタバレ
ロシア。両親と恋人を殺された悲しき過去を持つ男イゴール・ソコロフスキーは、仲間のエフゲニー・アヴェリャノフとアンドレイ・プリャニコフ、アルカジー・イグナチェフ、イヴァン・ソロヴィヨフと共にフェニックス銀行強盗殺人の罪を着せられ、起訴されてしまいました。
エフゲニーたち4人は有罪で懲役10年と判決が下されましたが、裁判が確定した日から1年間、保護観察つきで刑の執行が猶予され、すぐに釈放されることに。
対してイゴールは懲役20年の実刑判決が下され、拘置所から重犯罪者が送られる厳重警備の連邦刑務所に移送されることになりました。
ところが護送途中、イゴールはアルカジーとイヴァンの手助けによって逃亡。助けてくれた2人を置き去りにしてまで向かった先は、街を牛耳る麻薬ディーラーのヴラドの元でした。
ヴラドは妻のゾーイのアートギャラリーを隠れ蓑にして、密売人と新種の合成麻薬「クリスタル」を購入する金のやり取りを行っていました。
ですがこの日は、同業者のキャッシュから、他の売人を紹介して欲しいと頼まれます。
理由は、クリスタルがもたらす利益をヴラドに独占させないためです。ヴラドは「自分でなければ先方は取引しない」と断り、キャッシュとその手下たちを追い払いました。
その直後、現代美術家メイ・リーの彫刻作品を競売しているオークション会場にいるゾーイの元に戻ったヴラドは、ボーイに扮していたイゴールと7年ぶりの再会を果たしました。
するとそこへキャッシュが乱入し、大量のクリスタルが入った鞄をヴラドの足元に置いて、その場を後にしました。
キャッシュとその一味とすれ違うように、オークション会場にロシア警察の麻薬取締官ミハイル・ポコージンと彼のチームが、麻薬捜査しにやってきます。
クリスタルは今、モスクワの街で若い男女を中心に流行しており、麻薬中毒に陥り死亡する事件が多発しているのです。
すぐにキャッシュの仕業だと悟ったヴラドは、のらりくらりとポコージンの追及をかわし、煙に巻こうとしました。
イゴールはポコージンがヴラドに声をかけるより先に、メイの彫刻作品を利用してクリスタルを燃やします。
これによりヴラドを逮捕することも、クリスタルを押収することもできなかったロシア警察。ですが、ただ黙って帰るわけにはいきません。
ポコージンは去り際に、「クリスタルの依存性は胎児に遺伝する。そんな赤ん坊が今も病院で生まれている」と言い、ヴラドとゾーイの夫婦関係に亀裂を生じさせました。
翌日。ヴラドがイゴールを匿い、逃亡先を手配する代わりに、イゴールは彼の仕事を手伝うことにしました。最初の仕事は、ヴラドの腹心であるボリス・フェドロフと共に、ギャラリーで仕事をするゾーイを護衛することです。
しかしキャッシュの手下2人が配送業者に扮し、ギャラリーを襲撃。取引のために利用しようと、ゾーイを拉致しようとします。
ボリスたちより先に異変に気づいたイゴールは、殺されたヴラドの手下数人の亡骸を飛び越え、彼らをたった1人で撃退。ゾーイを無事救出します。
遅れて現場に駆けつけたボリスは、瀕死状態のキャッシュの手下を拘束し、イゴールたちと一緒に屋敷に戻って、このことをヴラドに報告。
報告を聞いたヴラドは激怒し、ゾーイの護衛という役目をきちんと果たせていなかったボリスを叱責します。そして縛りつけられたキャッシュの手下を、ボリスの銃で撃ち殺し、皆に「仕返しに行くぞ」と言いました。
その日の夜。ヴラドたちはキャッシュが持つクリスタルの密売所を襲撃。そこにいたキャッシュの手下を全員皆殺しにした上で、密売所にガソリンをまいて燃やしました。
ですが、この同業者同士で戦争を始めたことがメイの耳に入り、ヴラドは「こんな状況が続くようなら、あなたにうちの商品を任せられない」、「私との取引を続けたいならキャッシュと和解して」と言われてしまいました。
実はメイの正体は、韓国の巨大な犯罪グループの一員であり、ヴラドのビジネスパートナーでした。
クリスタルの元締めがメイだという情報を掴んだイゴールは、ストリップクラブでポコージンと密会し、このことを報告しました。
実はイゴールの正体は、クリスタルの出どころを探るために潜入している特別捜査官でした。
ヴラド・ボリス・ゾーイはイゴールが警察関係者だと気づいていましたが、ヴラドの命により、黒幕が誰なのか分かるまで彼を泳がせていました。
一方エフゲニーは、イゴール捜しの指揮を執っている連邦保安庁(FSB)の職員シモネンコに協力を求めました。その際、エフゲニーは疑問に思っていたことを彼に打ち明けます。
それはフェニックス銀行強盗殺人の罪を着せられ、起訴されたはずのエフゲニーたち4人は即釈放され、同罪で実刑判決を受けたはずのイゴールがあっさりと逃亡できたこと。
加えて同罪であるはずのシモネンコが、なぜか裁判を免れ、FSBの管轄外である逃亡犯の逮捕に動いていることについてです。ですがシモネンコはエフゲニーの疑問には答えず、彼に協力することを断りました。
エフゲニーはアンドレイと共にアルカジーたちの元へ行き、イゴールの居場所を知らないかと尋ねます。ですが2人は、逃亡を手助けした途端にイゴールにその場に置き去りにされてしまったため、彼の居場所は知りませんでした。
フェニックス銀行強盗殺人事件後、イゴールは1人で行動していると聞いたエフゲニーは「あの事件後、(アルカジーの)娘さんは精神病院に送られ、俺たちは執行猶予で、イゴールは実刑だ。変だと思わないか?」「何かに巻き込まれているんだ、イゴールには借りがある」と言ってイゴール捜しに協力してくれないかと頼みます。
しかしアルカジーたちはイゴールに裏切られたと憤っていたため、断られてしまいました。
翌日。病院に行って、母親が妊娠中にクリスタルを使ったことで、生まれたばかりの胎児が遺伝による薬物中毒で苦しんでいる現実を目の当たりにしたゾーイは、それを知っていながら、クリスタルを売っていたことを隠していたヴラドを糾弾します。
気が短いヴラドはカッとなってゾーイに手を上げ、止めに入ったイゴールを殺そうとしましたが、ゾーイの声で我を取り戻し彼女に泣いて縋りました。
その日の夜。クリスタルのせいで突如豹変してしまったヴラドの姿にショックを受けたゾーイに、イゴールは「あまり考えすぎない方がいい。気晴らしにまたギャラリーでオークションをやったら?」と言って慰めようとしました。
これに対しゾーイは、「あれはクリスタルの代金として、密売人たちがメイの彫刻作品を買っているだけ。楽しいものではない」と言いました。
イゴールがクリスタルの売買もオークションで行われているのかと聞くと、「ギャラリーではお金のやり取りしかしていないから、クリスタルの製造や取引について詳しいことは何も知らない」とゾーイは答えました。
映画『フューリアス ワン』の感想と評価
最難関の任務に挑む男たち
両親と恋人を殺された過去を持ち、銀行強盗殺人の罪を着せられてしまったイゴールとその仲間たち。彼らの正体は作中で明確に描かれていませんが、FSBのシモネンコとの会話から察するに、彼らはFSBの特別捜査官だったのでしょう。
イゴールたちがなぜ銀行強盗殺人の罪を着せられたかも、作中では誰も明言していません。イゴールとヴラドが旧知の間柄であったことと、イゴールが事件後に単独で潜入捜査を行っていたことから、クリスタルに関する潜入捜査の一環で致し方なくしてしまったことなのではないかと考察できます。
ただいずれにせよ、FSBからも追われる身となってしまったイゴールとしては、ポコージンたちロシア警察に協力して潜入捜査を続行するしかありません。
それには、4人の仲間の自由がかかっているのですから。エフゲニーたちは、イゴールを見つけ出してそのことを知らされました。
一度は任務のためバラバラになってしまったイゴールたちでしたが、物語の最後の最後でまた1つのチームとなって事件を解決した場面は、彼らの信頼関係を感じられる格好良いアクション場面で、観ているだけで胸が熱くなります。
驚くべき黒幕の正体
物語の後半にイゴールがメイト立体駐車場で対峙するまで、ポコージンたちロシア警察は彼の味方だと誰もが思ったことでしょう。
ですが物語の終盤で、実はポコージンとその手下たちが事件の黒幕であったことが発覚。ポコージンは自らの野望のために、イゴールを利用していたのです。
ポコージンの野望とは、クリスタルの利権を掌握し市場を独占、支配すること。
しかもシモネンコからポコージンの情報を聞いたであろうイゴールの口から明かされた、麻薬組織のボスという恐るべき裏の顔を持っていたこともとても衝撃的でした。
まとめ
クリスタルの出所を突き止めるべく潜入捜査をしていた特別捜査官、ロシア警察、FSB、巨大な犯罪グループと麻薬ディーラーのそれぞれの思惑が交錯するクリスタルの利権争奪戦を描いたロシアのハイスピードアクション作品でした。
イゴールたちが繰り広げるクリスタルの利権争奪戦は、1つ先の未来すら誰も予想できないほど、誰が何をするか分からないスリルがあります。
また高級車を使ったカーチェイスに、イゴールが立体駐車場から隣のオフィスビルに飛び移った場面はとても迫力があり、カーアクション好きの人は特に心躍る場面でしょう。
自ら死を選んだメイが、ポコージンを道連れにして飛び降り自殺をするという、彼女と彼女の家族の身に起きたことを考えれば何とも複雑で後味の悪い結末で事件は幕を引きました。
ですが彼女の死は決して無駄なことではありません。クリスタルが作られないことで、これ以上犠牲者が出ない、誰もクリスタルを巡って争うことがなくなるのですから。
危険薬物の恐ろしさを物語を通して知ることができ、それを捜査する男たちの熱き戦いが観られるハイスピードアクション映画が観たい人に、とてもオススメな作品です。
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