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Entry 2023/06/12
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インド映画『ヴィクラムとヴェーダー』あらすじと感想評価。暴力刑事がギャングの告白から衝撃の真実を知るスリリングな本格クライムドラマ|インド大映画祭IDE2023・厳選特集3

  • Writer :
  • 谷川裕美子

連載コラム『インド大映画祭IDE2023・厳選特集』第3回

「インド映画同好会」による『インド大映画祭 IDE 2023 in K’s cinema』が、6月17日(土)~7月7日(金)の21日間、新宿K’s cinemaにて開催されます。

『インド大映画祭 IDE 2023』では、ヒンディー映画、タミル映画、マラヤーラム映画などから、3本の日本初公開作を含む12作品が用意されています。

『インド大映画祭 IDE 2023』ラインアップから、『ヴィクラムとヴェーダー』をご紹介します。

【連載コラム】『インド大映画祭IDE2023・厳選特集』一覧はこちら

映画『ヴィクラムとヴェーダー』の作品情報


『ヴィクラムとヴェーダー』(C) YNOT Studios

【公開】
2017年(インド映画)

【監督・脚本】
ブシュカル&ガーヤトリ

【出演】
R・マーダヴァン、ヴィジャイ・セードゥパティ

【作品概要】
有能な警部のヴィクラムと、標的ヴェーダーの織りなす本格クライムサスペンス。善と悪の境界線をめぐってスリリングな攻防が繰り広げられ、リリース年を大きく震撼させました。監督はブシュカル&ガーヤトリ。

きっと、うまくいく』(2013)のR・マーダヴァンとヴィジャイ・セードゥパティが出演。

本作タミル版を、2022年にブシュカル&ガーヤトリらが自らの手でヒンディ版にリメイクしています。

映画『ヴィクラムとヴェーダー』のあらすじ

容疑者の逮捕より犯罪の撲滅を目指している優秀な警部ヴィクラムは、偽装襲撃を繰り返していました。犯罪者たちを皆殺しにしてから正当性を示すために部下に銃で負傷させ、証拠を捏造することも厭いませんでした。

しかし、その乱暴なやり方が上司から咎められ、仲間のサイモンが処分を受けます。大勢の人々を殺したことを悔やむサイモンでしたが、ヴィクラムは悪人を殺しているのだから自分たちは善人だと強く信じていました。

そんななか、標的だったギャングのヴェーダーが自首してきます。黙秘を続けるヴェーダを見ながら、なぜ隠れるのをやめたのかヴィクラムは訝しがります。

ヴィクラムが取り調べに出ると、ヴェーダーは一変して饒舌になりました。数々の謎が浮かび上がり、次々と明白となっていく事実にヴィクラムは驚愕し…。

映画『ヴィクラムとヴェーダー』の感想と評価


『ヴィクラムとヴェーダー』(C) YNOT Studios

予想外の展開から目が離せないスリルたっぷりの本格クライムドラマ『ヴィクラムとヴェーダー』

2017年にタミル語で制作された本作は大きな反響を呼び、2022年にはブシュカル&ガーヤトリ監督が自らの手でヒンディ版にリメイクしたほどの人気作です。あまりの面白さに度肝を抜かれることでしょう

インドの埃っぽい街の喧騒のなか、子どもまで巻き込むヤクザたちの非情な日常、そして暴力で制圧しようとする警察という荒っぽい世界が繰り広げられます。

優秀な警部のヴィクラムはがっちりした体躯で、迫力ある胸筋の持ち主です。日本作品に登場するスレンダーな主役の刑事らとは対極的と言えるかもしれません。彼と対峙するギャングのヴェーダーもまた、似たような男臭いタイプです。インドでの人気スターのカラーが垣間見え、とても興味深く感じます。

ヴィクラムは優秀な警部ながら、悪党たちを壊滅させるためには皆殺しが一番の方法だと考える、ギャングと同じタイプの人間でした。全員殺した後に、正当化させるために証拠を偽造することも厭いません。悪人だけを殺しているのだから自分は善人だと言い、まったく自身の行為に疑問を持つことなく職務に励んでいます。

そんな彼の前に、ターゲットとなっていた悪党のヴェーダーが自首してきます。

ヴェーダーはヴィクラムに向かって様々な話をし始めます。自分の過去に始まり、彼の弟の話、ボスの話など、これまでの経緯が数度に渡り語られていき、次第に形が見えてくる真実にヴィクラムは息を飲むこととなるのです

ヴェーダーの弁護を引き受けることになった、ヴィクラムの愛妻であるプリヤーも巻き込み、事態は思わぬ方向へと進み始めます。

果たしてヴェーダーはなぜ自首し、何を為そうとしているのでしょうか。そして一体ヴィクラムはどこにたどり着くのでしょう。見事に伏線が張り巡らされたサスペンスフルな展開に、目が釘付けになるに違いありません

善と悪の境界線をさぐるというテーマに加え、ヴィクラムと妻プリヤーとの熱い恋、ヴェーダーの悲しいまでの深い家族愛などが盛り込まれ、みごたえある一大エンターテイメント作品となっています。

『インド大映画祭 IDE 2023』とは?


(C) Reliance Entertainment

『インド大映画祭 IDE 2023』は、20年以上インド映画を主にアジア映画を探求し続けている特定非営利活動法人「インド映画同好会」が、言語・文化が各地域によって変わるヒンディー映画、タミル映画、マラヤーラム映画などから「他の追随を許さない」ラインアップを揃えたインド映画特集を作ったものです。

2019年から5回目を迎える『インド大映画祭』では、12作品のラインアップのうち、日本初公開となる『サーカス』『ラストファーマー』『ガルギ 正義の女神』の3作品も取り揃えました。

『インド大映画祭 IDE2023 in K’s cinema』は、2023年6月17日(土)~7月7日(金)東京の新宿K’s cinemaにて公開されます。

「インド大映画祭 IDE2023 in K’s cinema」公式サイトはコチラ→

まとめ

『インド大映画祭 IDE 2023 in K’s cinema』上映作品の1つである『ヴィクラムとヴェーダー』をご紹介しました。

警察とヤクザの激しい抗争を描くクライムドラマですが、人間愛、人間の持つ罪深さ、善と悪を区別する困難さなど、深いテーマを内包した秀作です。

血なまぐさい展開でありながら、上手にソフトな描写にしたり、音楽を織り交ぜたり、ユーモアを溶かし込んだりした、上質なエンターテイメント作品に仕上がっています。

最後までどんな決着がつくのかわからず、観ている者に委ねるラストシーンは逆に爽快に感じるかもしれません。どうぞ最後までお楽しみください。

『インド大映画祭 IDE 2023 in K’s cinema』は、6月17日(土)~7月7日(金)の21日間、新宿K’s cinemaにて開催されます。

「インド大映画祭 IDE2023 in K’s cinema」公式サイトはコチラ→

【連載コラム】『インド大映画祭IDE2023・厳選特集』一覧はこちら



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