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映画『パドマーワト女神の誕生』ネタバレ感想と評価解説。インド史上最大規模で伝説の王妃が描かれる

  • Writer :
  • 白石丸

インドで敬愛され続ける伝説の王妃パドマーワティの物語が完全映画化!

インド映画史上最大の規模で描かれる圧巻の映像絵巻。

演技、演出、美術、音楽、すべてが美しく気高い一大叙事詩が完成しました。

映画『パドマーワト 女神の誕生』は、2019年6月7日(金)より全国順次ロードショーです。

映画『パドマーワト 女神の誕生』の作品情報


(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

【公開】
2019年6月7日(金)(インド映画)

【原題】
Padmaavat

【製作・脚本・音楽・監督】
サンジャイ・リーラ・バンサーリー

【キャスト】
ディーピカー・パードゥコーン、ランビール・シン、シャーヒド・カプール

【作品概要】
インドに長く伝わるメ―ワール王国の伝説の王妃パドマーワティの伝記を基にした歴史超大作。

インド映画史上最大の33億円の予算を投入し作り上げられた豪華絢爛な絵巻を見ているかのような映像美と魅力にあふれた登場人物たちによる悲劇が描かれます。

インド本国ではヒンドゥー教やイスラム教への描き方に関して憶測が飛び交い、過激派宗教団体から上映中止を求められるなど激烈な議論を巻き起こした作品でもあります。

王妃パドマーワティを演じるのは『XXX:再起動』でハリウッドデビューを果たしたインドのトップ女優ディーピカー・パードゥコーン。彼女の圧倒的美貌が物語に説得力を持たせます。

パドマーワティの夫ラタン・シンを演じるのはバックダンサーから『フライング・パンジャーブ』(2016)などの演技でスターに上り詰めたシャーヒド・カプール。

そして第2の主役ともいうべき悪役の暴君アラーウッディーンを演じるのはディーピカー・パードゥコーンと『銃弾の饗宴 ラームとリーラ』(13)で共演し、私生活では彼女の実の夫となっているランビール・シン。

圧倒的な顔の強さと肉体美で物語をぐいぐい引っ張ります。

映画『パドマーワト 女神の誕生』のあらすじとネタバレ


(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

13世紀末、北インドのハルジー朝のスルターン(国王)ジャラーウッディーンの甥アラーウッディーンはモンゴルとの戦いで武功を立てて、従兄弟の王女メルニッサを妻に娶りました。

野心に溢れた彼はスルタンの座も狙っていました。

その頃、インドのシンガール王国の王女パドマーワティは狩りをしていた最中にお忍びで視察をしに来ていた西インドの小国メーワール王国の王ラタン・シンと出会い恋に落ちます。

ラタン・シンと結婚した彼女はメーワールの首都チットールまで嫁いで行きます。

輝かんばかりの彼女の美貌は周辺諸国でも評判になっていました。

それだけでなく聡明で優しい彼女はすぐに宮廷の侍女たちとも絆を深めていきます。

同じ頃、アラーウッディーンはジャラーウッディーンを殺し、スルタンの座を手に入れました。

その際にジャラーウッディーンが雇った有能なカフールという男がアラーウッディーンのカリスマに惚れ込み彼に忠誠を誓います。

様々な儀式を済ませ初夜を迎えようとしていたラタンとパドマーワティは誰かに部屋を覗かれていると気づきナイフを投げつけます。

後に傷のついた人間を探すと、覗いていたのは王の師匠のバラモン(神官)のシンでした。

禁欲を求められるバラモンの不貞に怒ったラタンは彼を国外追放処分にします。

アッラーウッディーンは圧倒的兵力と戦術で各地を武力制圧していましたが彼の権力への渇望は止まりません。


(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

故国を追われたバラモン・シンはアラーウッディーンの元を訪れ、「メ―ワール王国の王妃パドマーワティの美貌は神すらひれ伏すほど。権威を誇る偉大なスルタンが彼女を妻にめとればその権勢はさらに絶大なものになる」と進言します。

まだパドマーワティの顔も見ていないアラーウッディーンでしたが、それを聞いた彼は居ても立っても居られなくなりまずはメ―ワールに使いを送り属国となることを求めます。

しかし、誇り高きラタン・シンはそれを毅然として拒絶し、アラーウッディーンは自ら10万を超える大軍勢を率いてチットールの前の平原までやってきました。

しかしチットールの城壁は頑丈で守りも固く、さらには周辺に大量の罠が仕掛けてあったため、アラーウッディーンは攻めあぐね、長期にわたる籠城戦が始まります。

アッラーウッディーンがあまりにもパドマーワティに執心しているのでカーフールは嫉妬を覚えますがどうしようもありません。

また国に残されたメルニッサは寂しく夫の帰りを待っていました。

長い兵糧攻めで兵たちも消耗し、しびれを切らしたアラーウッディーンはラタン・シンに和平を申し出る代わりにパドマーワティに一目会わせてほしいと要求します。

ラタン・シンはアラーウッディーンが一人で場内に来るならという条件を出しました。

アラーウッディーンは要求通り兵を引きあげさせて単身で城にやってきます。

敵の王を殺すまたとない機会でしたが、ラタン・シンは国の誇りにかけて卑怯なことはしないと誓い、アラーウッディーンを丁重に案内しました。

(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

しかしアラーウッディーンがパドマーワティを見ることができたのは暗がりの窓越しで一瞬だけ。

アラーウッディーンは怒りながらも渋々引き上げます。

彼はラタン・シンに「今度は私がもてなしたい」と言って自分の豪勢な野営テントに翌日来るよう誘いました。

ラタン・シンはパドマーワティや側近たちから心配されますが、正々堂々とテントに趣きます。

しかしそこには隠れていたアラーウッディーンの手勢がおり、ラタン・シンは連れ去られてしまいました。

後日、パドマーワティにラタン・シンを返してほしければアラーウッディーンの王宮まで来るよう要求する書簡が届きます。

パドマーワティは800人の侍女たちを同伴すること、そして自分たちを裏切ったバラモンのシンの首を送ることを条件に出しました。

アラーウッディーンはパドマーワティを手に入れるためならばと迷いなくシンの首をはねてメ―ワールに送り、パドマーワティは侍女たちと出発しました。


(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『パドマーワト 女神の誕生』ネタバレ・結末の記載がございます。『パドマーワト 女神の誕生』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

アラーウッディーンの王宮にやってきたパドマーワティは800人の侍女たちを外に待たせ、衰弱したラタン・シンと再会します。

アラーウッディーンはついに目にしたパドマーワティの美貌に心を奪われます。

その後、彼は卑劣にも約束を破り2人を牢に入れてしまいます。

しかし夫の悪行を見かねたメルニッサが2人をこっそり解放しました。

そして一緒にやってきたのは侍女になりすましたメ―ワール国の精鋭兵士たちで、彼らは王と王妃を助けようと王宮に攻め込みます。

将軍ゴーラー・シンは王を逃がすために捨て身で戦い命を落とし、ラタン・シンたちはメ―ワールまで命からがら帰ってきました。

アラーウッディーンは怒り狂い全勢力を率いてチットールまでやってきます。

圧倒的な戦力差の中、ラタン・シンは堂々と城を出てアラーウッディーンに大将同士の一騎打ちを挑みます。

同じころ、夫の死と国の敗北が避けられないと悟ったパドマーワティは覚悟を決め、侍女たちにある用意をさせていました。

アラーウッディーンとラタン・シンは互角の実力で斬り合っていましたが、少しずつラタン・シンが押し始めます。


(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

しかしカーフールはサルタンのためなら仕方ないと背後からラタン・シンを矢で射貫いてしまいました。

決闘を邪魔されたアラーウッディーンは怒りますが、とにかくパドマーワティを手に入れるために王宮に飛び込んでいきます。

王宮内ではある一角に大量の薪が運び込まれており、火が放たれました。

パドマーワティは侍女数十人と火の中に入っていきます。

それはヒンドゥー教に伝わる尊厳殉死”ジョウハル”と呼ばれる行為でした。

アッラーウッディーンは必死に止めようとしますがもう間に合いません。

パドマーワティは夫の死と共に自らの身を焼き、アラーウッディーンに指一本触れることもさせませんでした。

メ―ワール王国はその後滅ぼされましたが、気高き王妃パドマーワティの名と共に今もインドの人々に語り継がれています。

映画『パドマーワト 女神の誕生』の感想と評価


(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

インドの本格歴史大作

インド映画史上最大の予算がつぎ込まれた本作はすべてにおいて格調高く美しい映画です。

セットやCGも作りこまれ色彩豊かで荘厳な画面はよくイメージされる賑やかで楽しいインド映画とは一線を画し、インドでは知らぬ人のいない悲劇「パドマーワト」の世界観を見事に再現しています。

昨年日本で大フィーバーを巻き起こしたアクション歴史大作『バーフバリ』2部作のようなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、本作は荒唐無稽な要素は一切なくリアルで重厚な歴史劇となっています。

パドマーワティは13世紀に実在したと言われる伝説の王妃で、女性の尊厳を守るために悲劇的な最期を迎えた女神のような女傑と言われて神格化されている人物


(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

本作はそんなパドマーワティに敬意を払ってか、夫のために殉死する王妃、身を挺して主君を守る家臣たち、どれだけピンチになっても義を重んじるラタン・シンなど、現代人には理解できないような当時の価値観、死生観をそのまま描いています。

パドマーワティを演じるボリウッドのトップ女優ディーピカ・パードゥコーンのリアリティのない異常なまでの美貌も本作の神話性を高め、観客がひたすらパドマーワティの気高さ、強さに驚かされ畏敬の念を抱いてしまうように作られています。

悪の魅力に溢れたアラーウッディーン


(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

あまりに気高い主人公たちの物語に比べ、人間くさく欲にまみれたアラーウッディーンとその取り巻きたちにある程度感情移入してしまうのも本作の面白いところです。

パドマーワティの物語でありながら冒頭はアラーウッディーン側の視点から始まるあたりから考えても、彼も単なる悪役ではなく第2の主人公と言えるでしょう。

悪漢がモラルを無視してのし上がるピカレスク・ロマン的な要素も本作にはふんだんに盛り込まれています。

演じるランヴィール・シンの鋭すぎる眼光や濃い顔も相まって、手段を選ばず叔父のサルタンを殺害し、各国を征服するアッラーウッディーンの姿は「悪いな~」と思いつつも爽快さを感じてしまいます。

彼は単に威張り散らしているだけでなく自らの肉体も鍛え上げ、戦争では先陣を切り、敵の城に単身乗り込み、一騎打ちにも応じるなどストレートに男らしくかっこいい要素もあります。


(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

そんな魅力に溢れた悪役であるがゆえに、彼がパドマーワティに執着するあまり暴走し、それでも思い叶わず目の前で彼女が死ぬのを見てしまうという展開には胸が痛くなります。

ラストはパドマーワティが死んでしまうといことだけでなく、すべてを手に入れたと思っていた男が一番欲していたものを逃して絶望するという悲劇もあるので二重に悲しくなってしまいます。

インド映画にしては踊りのシーンが二箇所しかない本作ですが、後半のアラーウッディーンがパドマーワティへの思いを乗せた踊りをする場面ではランヴィール・シンは凄まじいキレかつ激情にあふれた踊りを披露しています。

そんなアラーウッディーンに忠誠を誓う男カーフールは、明らかに同性愛的な目線で主君を愛しており、彼が嫉妬のあまり様々な行動を起こしていく様もストーリーを盛り上げます。

本作の面白さやサスペンスの大部分はこの悪側の人間臭さのおかげである部分が多いでしょう。

まとめ


(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

本国インドではイスラム教、ヒンドゥー教の描き方の問題もあって公開中止運動が起きるなどゴタゴタのあった本作ですが、我々日本人はそういった宗教問題に疎い分、本作の壮大さ華麗さなどを素直に楽しめると思います。

そのうえで興味がある方は複雑なインドの歴史、宗教問題、死生観などを調べてみても面白いのではないでしょうか。

とにかく164分うっとりと美しい画面を堪能し、最後の悲劇に涙する王道の歴史超大作です。

映画『パドマーワト 女神の誕生』は、2019年6月7日(金)より全国順次ロードショー!

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