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【ネタバレ】銀平町シネマブルース|結末感想評価とラストまでのあらすじ。城定秀夫監督といまおかしんじがタッグを組んで‟映画大好き人間”の再生を描く

  • Writer :
  • からさわゆみこ

なんとか営業している映画館で、なんとか生きてる人々の物語

今回ご紹介する映画『銀平町シネマブルース』は、『女子高生に殺されたい』(2022)『愛なのに』(2022)の城定秀夫が監督を務め、脚本に『れいこいるか』(2020)、『神田川のふたり』(2022)のいまおかしんじが務めます。

2人はVシネマや成人向け映画も手掛けるという共通点がありながら、意外にもタッグを組むのは初の作品です。

無一文となり行き場を失った近藤猛は、友人を訪ねて学生時代に過ごした街に現れます。そこで映画好きの路上生活者の佐藤と知り合い、商店街の一角にある映画館・銀平スカラ座の支配人梶原とも知り合います。

近藤は縁あって映画館でアルバイトをするようになりますが、その映画館もつぶれかけており、経営は火の車・・・そんな銀平町を舞台に繰り広げられる、映画大好き人間たちによる、喪失と再生の物語を描いた作品です。

映画『銀平町シネマブルース』の作品情報

(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

【公開】
2023年(日本映画)

【監督】
城定秀夫

【脚本】
いまおかしんじ

【キャスト】
小出恵介、吹越満、宇野祥平、藤原さくら、日高七海、中島歩、小野莉奈、平井亜門、さとうほなみ、片岡礼子、藤田朋子、浅田美代子、渡辺裕之

【作品概要】
落ちぶれたホラー映画監督の近藤猛役は、『キサラギ』(2007)『風が強く吹いている』(2009)の小出恵介が演じ、彼にとって本格的な主演復帰作となりました。

涙もろくてお人好しの映画館支配人、梶原役には『冷たい熱帯魚』(2010)『天上の花』(2022)の吹越満、映画好きの路上生活者佐藤に『罪の声』(2020)など多くの話題作に出演している、名バイブレーヤー宇野祥平が務めます。

その他の出演者には城定監督、いまおか監督作品に出演経験のある小野莉奈、平井亜門らが集結し、実力派俳優の藤田朋子や浅田美代子、片岡礼子そして渡辺裕之が脇を固めるという、豪華なキャスティングです。

映画『銀平町シネマブルース』のあらすじとネタバレ

(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

河川敷の公園のベンチに薄汚れた格好の若い男が力なく座ると、その隣にホームレスと思しき男が座り、映画のチラシを差し出し100円で買ってほしいと話しかけます。

若い男が断ると50円でいいと値下げし、昨日から何も食べていないと訴えました。しぶしぶ小銭入れから50円玉を出してチラシと引き換えます。

ホームレスは「デビュー作というのは、監督の想いの全てが詰まっている」とチラシの映画のことを言い、それは良作だと言いました。

少し離れた所から男に「近藤!」と呼びかける者がいました。近藤は旧友の木村に金の援助を頼んでいました。しかし、妻帯者の木村は妻からの猛反対で援助できないと伝えます。

近藤は仕方がないと諦めると木村は「話していた男は知り合いか?」と聞きます。ホームレスが近藤の荷物を持ち去ったからです。

慌てて去った方を追いかけましたが、ホームレスの姿はなくなっていました。成す術をなくした近藤はふてくされながら、段ボールをかぶってベンチに寝転がります。

すると、どこからともなく女性の声で「夜は冷えるよ」と言われます。滑り台の上にいた女性は寝るところがなければ、紹介してあげると、商店街の喫茶店に連れて行きます。

そこではカバンを持ち去った男が、カウンターでナポリタンをほおばっています。近藤が詰め寄るとホームレスは、悪びれることなく「よぉ」と声をかけました。

ホームレスは“佐藤”と名乗り、彼の隣りでは“梶原”という男もナポリタンを食べていました。女性は助手の男に指示し、資料を配り話し始めます。

NPOを名乗る女性はホームレスを中心に、“生活保護”の受給を促すノウハウを教授し、彼らに居住スペースや食べ物を提供していました。

生活保護を受給するには、“働けない理由”が必要で、親族からの支援も受けられない境遇であることが条件でした。

梶原が“財産の放棄”について質問すると、家や車などの財産とみなされるものは、全て放棄しなければ申請が通りにくいと話し、細かいことは任せてほしいと説明します。

説明が終わり外に出た3人、梶原はNPOを怪しい法人だと睨みます。しかし、佐藤は金のない生活に疲れ、生活保護を受ける気満々でねぐらへ帰って行きました。

梶原は近藤にこれからどうするのか聞きますが、「どうしましょう?」とのんきに答えます。梶原が近藤を商店街の“銀平スカラ座”に連れて行くと、近藤は懐かしそうに眺めます。

梶原が自分の映画館だと教えると、中からアルバイトのエリカと美久が出てきて、バイト代が振り込まれていないと訴えます。

映画館の経営は厳しく、支配人の梶原は悩まされていました。とりあえず半分だけ支払うから、残りは少し待ってほしいと懇願しましたが、彼もまたのんきでした。

梶原は映画館の奥にある物置部屋に近藤を通し、片づければ寝泊りできるだろうと言います。近藤が恐縮すると梶原は1泊1000円と言います。

一文無しの近藤は支払えないと言うと、梶原は「ここでバイトするか?」と彼を誘いました。

以下、『銀平町シネマブルース』ネタバレ・結末の記載がございます。『銀平町シネマブルース』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

翌日から映画館でバイトをはじめた近藤が映画のチラシを差し替えていると、佐藤が近寄ってきて、捨てるならくれよと紙袋の中に入れます。

上映の始まった『カサブランカ』のポスターを指さし、「生涯ベストワンの映画」だと言い、イングリット・バーグマンの美しさが同じ人間とは思えないとつぶやきます。

近藤は映写技師の谷口に頼まれたものを届けながら、この映画のラストシーンに別パターンがあったことを話すと、谷口から映画好きなのか聞かれ、昔少し観てましたと答えます。

館内のチラシを物色する佐藤にエリカが映画観ないのか聞くと、生活保護が入ったら毎日でも見に来ると返します。

エリカは迷惑に感じていますが、美久は子供の頃「100円頂戴」と言ってくるホームレスに「働いてください」と返し、悲しそうな顔をされた経験から、佐藤のような男を見ると優しくなってしまうと話します。

佐藤は名作『カサブランカ』をもってしても、席がガラガラであることに“世も末”と嘆きます。

閉館の時間になり梶原はエリカと美久、近藤に観てほしい映画があると、試写会を始めました。『監督残酷物語』と題された、落ちぶれた映画監督と助監督の物語です。

エリカは微妙という反応でしたが、美久と梶原は好意的です。近藤はなぜか泣きながらロビーに出てきます。

近藤は物置に戻ってノートパソコンをしばらくみつめ、毛布にくるまって寝っ転がります。梶原はエリカと美久に近藤をどこかで見たことがあると言います。

近藤のことを何者なのか知らない3人は、視聴した映画が妻に先立たれ、ヤケになった監督の姿を描いていたため、自分を重ね合わせていたのではないかと推測します。

翌日、掃除をしている近藤に梶原が声をかけると、近藤は午後から少しぬけていいか尋ねます。梶原はなぜか彼が墓参りに行くと思い込み、財布から1万円取り出すと、当面の生活費と言って渡します。

午後になり近藤は、生活保護斡旋NPOの所へ出向いていました。その日は申請に行った際の審査面談の練習でした。近藤もNPOは何かおかしいと感じています。

佐藤は月2本の映画を観るため、お金を貯めるほどの映画好きでした。近藤がなぜ映画が好きなのか聞きますが「映画っていいもんだろ?」と、答えるだけでした。

近藤が映画館に戻るとエリカや美久、数名の常連客が飲み食いしながら、スカラ座の存続について議論していました。

売れない俳優渡辺、売れない映画ライター那須、ジャズバーのマスター白川、映画オタクの中学生川本の4人は、スカラ座が無くなったら行くところを失って困ると、真剣に考えています。

クラウドファウンディングや映画以外のイベントなど、アイデアを出し合うと川本が開業60周年になるスカラ座のイベントを提案します。

梶原は雀荘で元カノの陽子や商店街仲間と麻雀をしています。商店街仲間もスカラ座存続を心配していました。梶原は陽子に100万円貸してほしいと頼みますが、却下されてしまいます。

近藤が閉館の片づけをし始めると、佐藤が現れ生活保護の申請が通ったと言い、近藤を飲みに誘いました。

チューハイを飲みながら佐藤は「もう、死んでもいいや」などと呟き、自分が死んだら遺骨は川に流してほしいと託し、いつか広大な海に流れつくだろうからと話します。

一方、麻雀で負けた梶原は酔っぱらいながら、近藤に酒に付き合うよう乱入しますが、まだ帰っていませんでした。ふと、パソコンを見るとスリープ中の画面に映像ファイルを見つけます。

梶原は少しだけといいながら、それらを見ていると近藤が帰ってきます。梶原は近藤が何者か知らないのは不安で見てしまったと謝ります。

そして、近藤が映画監督で妻を主役に、ホラー映画を作っていたと知りました。しかし、梶原はその妻が亡くなって、近藤が自暴自棄になったと思い込みます。

近藤が否定する間も与えず、勝手に彼に同情する梶原は気のすむまで、タダでここに住んでいいというと、近藤も何か考え込むように梶原の話に合わせます。

(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

次の日、近藤がトイレ掃除をしていると、“俺は映画監督になる 近藤猛”という落書きをみつけ、恥ずかしくなって消そうとしましたが、思い立ってやめました。

買い出しに出かけた近藤は、佐藤がホームレス仲間と公園で酒盛りをしているのを見かけました。佐藤は彼に「生活保護最高だぞ」と酒を勧めますが、近藤がからかうと佐藤はバカにしたと彼を追いかけ、咳きこんでしまいます。

近藤はNPOから与えてもらった佐藤のアパートまで送り届けますが、狭くて散らかった薄暗い部屋に、布団が一枚敷かれていました。

医者に診てもらうよう近藤は言いますが、佐藤は拒みました。そして、生活保護から医療費も住宅手当も出ているなら、もっとましな部屋が借りられるのではと疑問を持ちます。

佐藤は生活保護費の半分は、NPOの代表黒田が取っていくと教えました。近藤は黒田に抗議しますが、ちゃんと働けるんなら取りやめたっていいと言い捨てます。

その頃、雀荘では梶原が商店街の仲間から、開業60周年のイベントをやるなら協力すると言われ、映画館に戻り常連たちと作戦会議を開きます。

商店街のPR動画を作成したり、イベントでジャズトランペットを披露することなど、次々に決まる中、梶原は編集しかけた近藤の映画をイベントの目玉にしたいと提案します。

川本が近藤のパソコンをアップデートし、編集しやすくしたと伝えます。川本は動画の素材を観て、傑作になりそうだと言って帰ります。

近藤は主演を務めた妻一果の静止画をみつめ、再び動画編集を開始しました。

準備が進む中、“銀平スカラ座シネマ祭り”のPR動画を撮りはじめ、梶原が祭りの目玉となる近藤の映画上映の説明をします。

近藤監督の新作は監督の亡き妻を主演にしましたが、その死を受け入れられず3年間お蔵入りになっていたと話し、この祭りを機に完成させようとしていると説明しました。

しかし、撮影中に梶原の背後に一組の親子が映り込み、NGとなります。近藤は2人を見て驚きます。親子は彼の元妻一果と娘のハルでした。

梶原は一果の顔を見て驚き、一果は申し訳なさそうに「すみませーん。私生きてまーす」と言います。

一果は友人の木村から近藤の居場所を聞いて訪ねてきました。喫茶店で近況を話し合う2人、一果は映画の編集を始めた近藤に、元気を取り戻したのか聞きますが、彼は答えられません。

そして、一果は「高杉君の死は猛のせいじゃないよ」と言い、彼が死んだ理由は誰にもわからないと付け加えました。近藤はうつむいた顔を上げ、大きくなった娘のハルに驚いたと明るい表情をみせました。

映画館のロビーでは美久がハルに、なぜお母さんが死んだなんて嘘ついたんだろうと聞きます。ハルは一果に惚れこんでいた近藤は、死んだことにして諦めようとしたんだと話します。

そこに川本が現れて一緒に観てほしいものがあると、近藤の部屋に行き編集途中の映画を見せました。一果が映し出され驚くハルは、父の映画がホラーだったため見ていませんでした。

ハルはメイキングと書かれたフォルダを見つけて「観たい」と言います。そこには数年前の若い両親が映っています。

一果とハルを見送った近藤は編集に精を出します。梶原がそんな近藤に家族っていいものだなと話しはじめると、近藤が学生時代に銀平町で暮らし、スカラ座に足しげく通ったと話します。

梶原が近藤を見たことがあると言った理由は、彼が常連客だったからです。ここで映画が好きになり、映画監督を目指したと話しました。

佐藤は黒田に騙され、転売用の携帯電話をいくつか契約させられていました。一緒に抗議に向かうと梶原が偶然合流します。

弁護士資格をもっていた梶原は、詐欺罪にあたると話し裁判に出て訴えると言い、佐藤を助けました。スカラ座に戻るとリクエスト上映の『カサブランカ』を観て泣く佐藤の姿がありました。

梶原は試写した映画の監督谷内由里子と話しています。彼女は地元出身で初監督作品をスカラ座で上映する夢を持っていました。

梶原は現状では多くの観客が見込めないと断りますが、由里子は自分も観客を動員すると説得します。そして、梶原は銀平シネマ祭りの企画物として、上映することを提案しました。

上映の終わったホールを近藤が掃除していると、由里子が来て近藤のファンだと告げ、新作は撮らないのか聞きます。

近藤は3年前、助監督の高杉良太郎が突然自殺をして、この世を去った話をします。理由も心当たりもなく、茫然自失になってしまい映画と向き合えなかったのです。

そして、由里子の映画に登場した助監督が良太郎にそっくりで、おもわず涙があふれたのだと話しました。

掃除を進めて行くと佐藤がまだ残っていました。佐藤は感動に浸っていると、スクリーンに向かって手を合わせ、良い映画にはそうしていると語ります。

近藤はラストスパートで編集をやり遂げ、雄叫びをあげました。映写室に残っていた谷口が驚き、部屋にやってきます。

谷口は映画の完成を喜ぶ近藤を祝い、なぜか「踊るか?」と言い、彼にワルツを教えながら、長い廊下で踊りました。

近藤は高杉の墓参りに行き、そのあと実家を訪ねます。良太郎の母は優しく近藤を招き入れ、食事と酒をふるまいます。

近藤は7つ年下の良太郎とは映画のことでよくケンカをするくらい、助監督として信頼していたと話します。そして、彼の死は自分のせいかもしれないと告げます。

それでも母は自分のせいかもしれないし、だれも息子の死の理由はわからないと近藤を慰めます。

いよいよ、銀平スカラ座60周年記念イベントの朝がきました。街中の人が集まり、一果とハル、友人の木村も駆けつけイベントは大盛況となります。

記念上映の谷内由里子初監督『監督残酷物語』もウケて、反応は上々でした。そして、近藤監督の新作『はらわた工場の夜』の上映時間になり、良太郎の母も駆け付けます。

エンドロールの最後に“高杉良太郎に捧ぐ”とクレジットがされ、彼の助監督としての表情がスクリーンに映し出され、良太郎の母は感謝の涙を流します。

好評のうちに上映が終わったかのように思われましたが、エリカと美久、川本の計らいで“おまけ”映像が流れます。それはメイキングを嫌がっていた近藤が、作品について語る場面でした。

フェードアウトしていくと一果の声で、近藤の一番のファンだから、ずっと応援してると流れ、近藤は「ありがとう」と答えて終わりました。

イベントはこうして大盛況で終了します。近藤は良太郎の母、一果とハルを見送り会場の掃除を始めます。

近藤は最前席で手を合わせる佐藤を見つけ、「終了ですよ、起きてください」と肩を叩くと、佐藤は静かに床に転げ落ちました。

佐藤を荼毘に付せると近藤と梶原、従業員と常連客達は葬列を作って、佐藤のねぐらへ行くと黒田たちが出てきて、子分が逃げやがったかと言い捨てます。

近藤が遺影を見せながら「もう帰りませんよ」と告げ、にらみ合いになりますが黒田はばつが悪くなり退散します。

河川敷には那須のトランペットで『カサブランカ』の「時の過ぎゆくままに」が流れ、佐藤の遺骨は遺言通り、川に散骨され仲間内のささやかな葬儀は終わりました。

その晩、近藤は梶原に話があると切り出し、梶原は「わかっているよ」とだけ言い、飲みに誘いました。

数日後、スカラ座は以前のようにエリカと美久、梶原でスタートします。近藤は川沿いをひたすら歩き、とある場所に行き着くと、谷口の教えてくれたワルツを1人で踊り出します。

彼がその足を止めて向き返った先には、広い海原が広がっていました・・・。ジッと海をみつめる近藤は「よーい、ハイッ」とつぶやきます。

映画『銀平町シネマブルース』の感想と評価

(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

映画『銀平町シネマブルース』を手掛けた、城定秀夫監督と脚本のいまおかしんじ監督は、Vシネマや成人向け映画などの他に、ミニシアターで上映される作品を多数制作しています。

かくいう、本作も全国のミニシアター12館からの上映です。しかし、制作スタッフ及びキャストのこの作品に懸ける想いは、並々ならぬものがあります

城定監督は『アルプススタンドのはしの方』をスマッシュヒットさせ、いまおか監督は『れいこいるか』で2020年の映画芸術ベストワンに選ばれるなど、2人は映画界では言わずと知れた、巧みな世界観を描く監督で映画ファンを魅了しています。

本作に登場する、路上生活者の佐藤や高杉良太郎助監督、生活保護ブローカーの黒田には、いまおか監督の知る人物がモデルになっており、ストーリー自体が実体験と重なると話します。

移りゆく時代の中に残る、古き良き場所

映画の舞台となった銀平町は架空の街ですが、潰れかけの映画館“銀平スカラ座”は、埼玉県川越にある現役のミニシアター“川越スカラ座”で、ロケが行われました

明治38年、寄席としてスタートして以来、何度も劇場名が改名され昭和38年に“川越スカラ座”になりました。まもなく創業120年の映画館なので、紆余曲折ありました。

この川越スカラ座も多数のシネコンが開業したことで、実際に存続が危ぶまれました。その後、映画館の経営権がNPO法人に移行され、コミュニティシネマとして生まれ変わります。

実際に映画館の存続を市民に呼び掛ける活動もされ、多くの賛同者とスタッフの創意工夫の力で、映画館を盛り立て、今では地域のみならず、映画マニアの間でも愛される場所となっています。

また、本作だけでなく2021年に公開された『キネマの神様』も、この川越スカラ座がロケ地として使われました。

“憧れ”と“映画”がつなぐ、人との縁

(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

作中、地元出身の新人映画監督の谷内由里子が、初監督作品を地元の映画館で上映したいと持ち込み、近藤猛監督のファンであり作品を観ていると告げるシーンがあります。

城定監督が成人向け映画に作品として興味を持ったのが、いまおか監督の作品だったというエピソードがありました。

近藤は学生時代住んでいた銀平町でスカラ座に通い、観た映画に影響され映画監督になることを目指しました。

近藤役の小出恵介も同じような経験があります。彼が学生時代に空前のミニシアターブームがあり、映画への興味がいっきに高まりました。

そこで小出は自主映画のワークショップに参加し、そのワークショップには年齢や職業などもバラバラな老若男女が参加していたと語ります。

本作の落ちぶれた映画監督を立ち直らせたのも、スカラ座に集う年齢や職業もバラバラの映画好きの人々でした。本作はフィクション映画ですが、個々の経験を鑑みた時、偶然とはいえ半分実話とも言えます

役者や制作関係者、映画関係者だけに留まらず、観賞する我々にとっても近年は、自然災害や新型コロナ、経済の悪化という試練があり、落ち込んだ気持ちをエンターテイメントの力で支えてもらえ、頑張る活力になったこともあるでしょう。

その反面、作中の助監督が理由不明な自死をしてしまうエピソードは、有名芸能人や俳優の訃報があったことと重なります。しかし、それは世間でも同じことで、マスコミの中だけのことではありません。

多くの人が“今日をなんとか生き、生活している・・・”そんな現状ですので、共感をさせる映画であり、人生には励ましや助け合いが不可欠というメッセージを感じました。

まとめ

(C)2022「銀平町シネマブルース」製作委員会

映画『銀平町シネマブルース』は、潰れかけた老舗映画館と落ちぶれた若い映画監督の姿を重ね、関わり合う人間の人情で立ち直って行く姿を描きました

制作企画の段階ではコロナ禍で低迷する、映画業界の現状とも重なり再起を懸けた渾身の映画だといえます。

再起と言えば、主演の小出恵介の復帰作でもありましたが、奇しくも映写技師の谷口役を務めた渡辺裕之は、上映を待たずに故人となっています。

単に映画の中の話ではなく現実に人間は、あらゆる試練に見舞われ、その度に何かに救われ再起していきます。その原動力はエンターテイメントであることもあれば、人の人情による場合もあります。

各々がその日その時を必死で生きているはずなのに、困っていたり苦しんでいる人がいれば、手を差し伸べたい・・・そんなちょっとした気持ちが集結すれば、立ち直れるチャンスもあるというメッセージが、この作品から伝わります。

人は苦難に直面しても、“誰かが自分を気にかけてくれている”と感じられた時、立ち直るきっかけをつかみ、思った以上のパワーが湧いてきます。

これは一昔前には普通に見られた人間関係でした。お互い様に身近な人を気にかけ、厳しくも優しいおもいやりで寄り添う関係です

疎ましく排除されてきたこういった人間関係は、これからの社会には必要になってくると感じさせた作品でした。





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