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映画『いっちょらい』あらすじ感想と評価解説。福井の方言をタイトルに夢をあきらめた男が追い求めた“本当の幸せ”を問う

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『いっちょらい』は2023年6月17日(土)池袋シネマ・ロサにて劇場公開

『轟⾳』でスペイン・シッチェス映画祭などで国際的に⾼く評価された⽚⼭享監督による作品『いっちょらい』が、2023年6⽉17⽇(土)から池袋シネマ・ロサにて劇場公開が決定しました。その後、順次公開が予定されています。

本作は同監督が2017年に制作した短編映画『いっちょらい』(2020)のセルフリメイク⻑編作品です。短編版は第24回ながおか映画祭準グランプリ・はままつ映画祭2018⼊選し、話題となりました。

また『いっちょらい』の劇場公開を記念し、6⽉10⽇(⼟)から1週間限定で池袋シネマ・ロサにて⽚⼭享監督特集の上映も決定しています。特集では昨年公開された『わかりません』『とどのつまり』『道草』の3作品が上映されます。

「いっちょらい」とは「一張羅(いっちょうら)」のことで、「(自分にとって)一番いいもの」を意味する福井の方言です。福井県の民謡「いっちょらい節」(福井音頭)」のなかで歌われる掛け声でもあり、福井県民にとって誰もが郷愁を覚えるフレーズとなっています。

明るい節に乗せて歌われる「いっちょらい節」が胸に迫る感動の一作です。奥深い味わいを持つ本作についてご紹介いたします。

映画『いっちょらい』の作品情報


(C)ふくいまちなかムービープロジェクト

【日本公開】
2023年(日本映画)

【監督・脚本】
⽚⼭享

【出演】
松林慎司、太⽥美恵、安楽涼、窪瀬環、岸茉莉、柳⾕⼀成、⼤宮将司、あまつりか、中⼭卓也(友情出演)、藤井啓⽂、⼤平智⼦、⼭⽥昭⼆

【作品概要】
初⻑編作品『轟⾳』でスペイン・シッチェス映画祭を筆頭に国際的に⾼い評価を受け脚光を浴びた⽚⼭享によるヒューマンストーリー。

同監督が2017年に制作した短編映画『いっちょらい』のセルフリメイク⻑編作品で、短編版は第24回ながおか映画祭準グランプリ・はままつ映画祭2018に⼊選しました。ままならない⼈⽣に訪れる変化を繊細に映し出し、豊かな映画表現で観る者の⼼を揺さぶる作品です。

本作は故郷・福井を舞台に、これまでの監督作品で⼀貫してきた「幸せとは何か」を考えさせる作品となっています。俳優出⾝の出⾃を活かした演出に定評があり、今後さらなる活躍を期待され注⽬を集める存在です。

主人公・テツヤ役を演じるのは『GOLDFISH』(2023)『RUN! 3films』(2019)に出演する実⼒派俳優、松林慎司。本作で⻑編映画初主演を飾ります。

映画『いっちょらい』のあらすじ


(C)ふくいまちなかムービープロジェクト

福井駅前にあるさびれた新栄商店街で、父・照夫から受け継いだ中華料理屋を営むテツヤ。

本当は東京に出て自分の店を持つという夢を持っていましたが、父が病に倒れて介護が必要となったために、故郷で店を継がざるを得なくなりました。

商店街会長の息子とその妻が不倫の末に結婚したという噂話を、テツオは苦々しくあちこちで話します。

周囲がどんどん幸せになっていくなか、テツオは自分だけが取り残されたように感じていました。

ある日、テツオは訪問看護師から父の容体が悪くなっていることを告げられ…。

映画『いっちょらい』の感想と評価


(C)ふくいまちなかムービープロジェクト

ままならない人生を心のどこかで恨み、拒否感を抱きながらも、実は自身の人生を深く愛しているひとりの若者の物語です

東京に出るという夢を抱いていた主人公のテツオは、父が病に倒れ介護をすることになったことからその夢をあきらめ、父の中華料理店を継ぐことになりました。

手のかかる頑固な父や、閉塞感を感じさせるシャッター街に閉じ込められて生きることへの嫌悪感を抱きながらも、父も故郷も地元のすべてを心から愛している彼は、父の容体がさらに悪くなっていると聞けば不安に陥り、故郷がお祭りを開けないほど過疎化していることを実感して胸を痛めます。

病の父の傍らで、時が止まっているかのような世界を生きる青年。衰えていく父を見て流す苦い涙。それは、現代日本では決して珍しい風景ではありません。

同居している母がいるものの、彼が本当に心開いて相談できる相手はひとりもいませんでした。彼は恐ろしく孤独で、無防備に内面をさらすのを恐れるかのようにいつも寡黙なままです

彼のすべてが詰まっている小さな故郷には、もうひとつ大切なものが消えずに残っていました。元恋人への燃え残った切ない想いです。

世の中から置いていかれる焦燥感のなか、さらに孤独を募らせるものと知りながらもテツヤは元恋人からの留守電メッセージを何度も聞き返し、寂しさを紛らわせようとします。

彼女は今は商店街会長の息子の妻となっていました。ふたりが不倫の末に結婚したことを、テツヤはことあるごとに吹聴してまわります。それは自分の古傷をかきむしるのと同じ意味を持っていました。

クライマックスは、ずっとテツヤのバックショットが続き、凄まじい緊迫感を感じさせます。圧巻のラストシーンに心を揺さぶられ、思わず涙をこぼさずにはいられません

まとめ


(C)ふくいまちなかムービープロジェクト

父の介護をするためにさびれきった商店街の中華料理店を継いだひとりの男の苦悩と、追い求める希望を描いた『いっちょらい』。印象的なフレーズが本作の大きなキーとなって何度も登場します。

正と負が入り混じった故郷への郷愁感が、たまらなく胸を打つ作品です。鳴り響く「いっちょらい節」が、喜びや悲しみ、怒り、愛情、嫌悪などさまざまな心の内の感情を映し出します

テツヤのないまぜになった感情を見事に表現した松林慎司の演技に注目です。

ヒューマンドラマ『いっちょらい』は2023年6⽉17⽇(土)から池袋シネマ・ロサにて劇場公開、その後順次公開予定です。





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