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Entry 2021/01/24
Update

映画『モンテッソーリ 子どもの家』感想と内容解説。後悔しない“教育”をドキュメンタリーで解く

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

2021年2月19日(金)より、新宿ピカデリー、イオンシネマほか全国公開。

マリア・モンテッソーリが提唱した教育メソッド。その実践が行われているフランス最古の学校に通う子どもたち。

自由に“お仕事”するという、彼らの魔法のような瞬間を見つめたドキュメンタリー映画『モンテッソーリ 子どもの家』

この教育メソッドは、イタリア出身のマリア・モンテッソーリが20世紀初頭に考案し、世界中に普及している教育法であり、
アンネ・フランクから、英国ロイヤルファミリーなどが実践したことでも知られています。

また、日本では藤井聡太棋士もそのような著名人が受けていた、モンテッソーリ教育を受けたことで知られています。

では、そのメソッドとは一体どんなものなのでしょう?フランス最古のモンテッソーリ学校を2年3カ月にわたって密着取材を行い、モンテッソーリ教育の魅力と、子どもたちの成長を描いた映画『モンテッソーリ 子どもの家』をご紹介します。

映画『モンテッソーリ 子どもの家』の作品情報


(C)DANS LE SENS DE LA VIE 2017

【公開】
2020年(フランス映画)

【原題】
Le maitre est l’enfant

【撮影・監督】
アレクサンドル・ムロ

【キャスト】
日本語吹き替え版には、マリア・モンテッソーリの声を本上まなみが務め、アレクサンドル・ムロ監督の声を向井理が担当している。


(C)DANS LE SENS DE LA VIE 2017

【作品概要】
20世紀初頭、イタリア出身のマリア・モンテッソーリが考案し、世界の多くの国で実践されている教育メソッド「モンテッソーリ教育」。その魅力と子どもたちの成長をつづったドキュメンタリー。

フランス最古のモンテッソーリ学校の幼児クラスを2年3カ月にわたって取材した作品です。

映画『モンテッソーリ 子どもの家』のあらすじ


(C)DANS LE SENS DE LA VIE 2017

マリア・モンテッソーリが、約1世紀前に提唱した革新的な教育法を実践している北フランス・ルーベの幼稚園。クリスティアン・マレシャル先生のクラスでは、2歳半から6歳までの28人が学んでいます。

絵画を描いたり、リンゴを切ったり、積み木で建物を作ったり。計算を学んでいる子もいれば、4歳のジェロのように歩き回ってクラスメートの活動を観察している子もいます。

常に穏やかな口調を心がける先生のもと、子どもたちは自由に活動しているが、それぞれの“お仕事”に夢中で取り組んでいるので、教室は驚くほど、とても静かです。

ここで能力を育成している子どもたちは、難しい課題に取り組み、強い意思を持って何度も挑戦し、自力でそれを達成していきます。


(C)DANS LE SENS DE LA VIE 2017

さまざまな教具が並べられた棚の前で迷っていたジェロは、ハサミと紙のセットを選びます。紙に引かれた線に沿って切ろうとするジェロの眼差しは真剣そのもの。

また、先生が水差しの中身を移すお仕事を見せてくれた時、彼の瞳は一層の輝きを増します。

3・4歳の子どもは、天才と呼ばれる人々と同じ高い集中力を持っているといいます。この“集中現象”に着目したことが、モンテッソーリの教育法の原点にあった…。

映画『モンテッソーリ 子どもの家』の感想と評価


(C)DANS LE SENS DE LA VIE 2017

子どもを自由に生き生きとした発想の中で育てたいー」そう感じた経験のある方なら、「モンテッソーリ教育」という名前を耳にしたことがあるかもしれません。

今から1世紀前、世界で起きた様々な教育運動の一つでイタリアの医学博士マリア・モンテッソーリによって考案されたこの教育法は、1907年にローマの貧困層向けのアパートに開園された保育施設『子どもの家』の実践から生み出されたものです。

本作品『モンテッソーリ子どもの家』は、モンテッソーリ教育のフランスでの実践をアレクサンドル・ムロ監督が観察映画として描いたものです。

映画の冒頭ではムロ監督が、モンテッソーリ教育に興味を持ったきっかけを描いています。それは子どもに関わる多くの人が抱く疑問に基づくもです。

ムロ監督は誕生したばかりの愛娘アナの生育の記録を撮影しながら、「この子が求めることにどう答えてあげるか」と考えました。娘の成長を観察する中で、アナのお気に入りがわかり、そしてもっと豊かな学びを与えるためにどうすればいいのかー。

親になって最初に得た教訓は「娘の好きにさせること」でした。アナは自立心を発揮し、一見謎めいた目標に対し、マイペースにそして着実に、諦めることなく真剣に取り組む。特に無謀な挑戦にはやる気を見せる。「娘の好きにさせる」という教訓は、彼女の成長を成功に導きました。

しかしある時、「娘の好きにさせる」という方針に疑問が生じます

ブランコに乗っているアナの様子を見た母親が「降りたがっている」と言いました。

しかし父親であるムロ監督にはそうは見えません。まだ言葉による意思疎通ができないわけですから、本当に降りたがっているかどうかはわからない。「降りたがっている」というのは、母親がアナの様子を見て考えたことです。

監督は迷います。「娘の好きにさせる」のと、「親が娘の代わりに考えてあげる」のと、どちらが正しいのだろうかー。その迷いに1世紀も前に答えたのが、モンテッソーリでした。モンテッソーリはこう言います。

子どもには、自分を育てる力が備わっている」。監督はモンテッソーリ教育へと導かれていきます。


(C)DANS LE SENS DE LA VIE 2017

ムロ監督は、モンテッソーリの教育理念を読み解くべく、北フランス、ルーベの幼稚園クリスティアン・マルシャル先生のクラスで「観察」をはじめます。

教室では3歳から6歳までの28人の子供達が、それぞれの興味に従って「お仕事」をしています。モンテッソーリ教育では、子どもが整えられた環境の中で行われる全ての活動を「お仕事」と呼びます。

本物を用いた道具で日常生活の訓練を行い、感覚教具によって知性の基盤を作り、体験を通じて数や言語の世界を探求する工夫に満ちた教具によって、子どもたちは自発的にそして自らのペースで試行錯誤を繰り返しながら、成長に必要な事柄を習得していきます。

「お仕事」は、クラスの教師の観察によって適切に援助されます。クラス内では一人ひとりの集中を妨げることのないよう非常に落ち着いた雰囲気が保たれており、教師は子どもたちの自主性を尊重し、謙虚にそしてささやくように伝えられる対話によって子どもの思考を促していきます。

監督によって記録される子どもたちは、好奇心いっぱいです。「お仕事」に、すうっと没頭していく姿に、子どもが好奇心に満ちた存在だと気付かされます。そして「お仕事」は、納得いくまで何度も何度も繰り返されます。

ある女の子は、カーペットを丸めています。一見何がそんなに楽しいのだろうか、と不思議になるくらい、カーペットをたたんで、くるくる巻いて、それを広げて…、ひたすら熱中しています。クラスの仲間も、もちろん教師もそれを妨げません。やがてカーペットを丸めると、元にあった場所に片付けます。

クラスの年長の子どもは年少の子どもたちのお手本になり、「お仕事」を教えています。一人で集中して「お仕事」をすることもあれば、仲間と一緒に話し合いながら行うこともあります。ハサミを使って花を活けたり、包丁を使って果物や野菜を切ったり、ジュースを作ったりします。

3歳の子に包丁を持たせるなんて、普通なら思わず大人が手を出してしまいますが、このクラスではそのような「邪魔」は入らないのです。子どもたちはそれぞれ正しい使い方を学び、丁寧に道具を扱いながら「お仕事」をするのです。

クラスにある道具は、常に整えられています。色彩豊かで好奇心に満ちていますが、決して派手ではありません。素材は自然で生活に即したものシンプルなもので、それらは全て子供達のサイズに調整されています。

教具には工夫が凝らされ、学びたいという欲求が湧き上がるように考え抜かれたデザインになっています。


(C)DANS LE SENS DE LA VIE 2017

なるほど「観察映画」というだけあって観客は作品のほとんどの時間で繰り広げられる子どもたちの試行錯誤を見守る観察者になります。

子どもたちの主体性によってのびのびと成長する姿を追体験するのです。セリフはほとんどありません。時折入るナレーションによって、モンテッソーリが子どもたちの観察によって獲得した信念が私たちに伝えられます。

子どもたちの成長に欠かせない教育とは何でしょうか。モンテッソーリ教育には日々の細かい時間割や教師主導のプログラムはありません。子どもたちの活動は自主性によって保たれ、自らの力によってもたらされた達成感が、次の課題に向かう原動力となります。

大人からすればたわいのない挑戦かもしれません。もっと有意義な活動があるだろうと、生産的なものへと興味をそらしたり、大人が手を出して子どもができたことにしてしまうことも多いでしょう。

でもそれでは子どもが成長したとは言えません。自ら選択した課題を、何度も試行錯誤を繰り返し、ようやく達成し得た時、キラキラと輝く笑顔と満足した表情の中に成長した子どもの姿を感じるのです。

まとめ


(C)DANS LE SENS DE LA VIE 2017

本作品『モンテッソーリ子どもの家』は、子どもたちが集中して取り組む様子が、子どもの目線で語られていくことに大きな特徴があります。

ムロ監督はクラスに溶け込むための3週間の準備期間を経てから撮影に入りました。監督が自由に動けるように小型カメラにマイクを2つ取り付け、子どもたちの背の高さで撮影したそうです。 

2020年新型コロナの影響もあって、教育を取り巻く状況は飛躍的な変化を遂げています。小学校ではICT教育、プログラミングや英語教育の導入などが始まって、学習内容が飽和状態となっているのが現状です。

その小学校にうまく適応するため、現在幼児教育の現場でも言葉や数に関する知育教育が盛んに行われています。

子どもの成長の速度とは関係なく、「プログラム」が先にあって、それに従って教育が与えられます。教室はどこか余裕がなく、少し慌ただしいのかもしれません。

モンテッソーリは、「子どもには、自分を育てる力が備わっている」といいます。

子どもの成長の速度はその子どもたちによって異なります。子どもは一人一人有能であり、その自立性に注目した教育現場では、時計の時間ではなく、子供達の時間が流れています。

本作『モンテッソーリ子どもの家』の教室は、落ち着きに満ち、ゆったり時間が流れている。じっくりと選び、丁寧に扱い、そして作業を繰り返し丹念に行う。終わったら、後片付けをする。その行動の一つ一つが豊かな時間として子供達の成長へと繋がるモンテッソーリの子どもの家の姿をかいま見ることができる貴重な作品である。

2021年2月19日(金)より、新宿ピカデリー、イオンシネマほか全国公開。

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