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映画『お名前はアドルフ?』ネタバレ感想と考察レビュー。キャストの91分の会話劇に個性が光る

  • Writer :
  • 咲田真菜

『お名前はアドルフ?』が2020年6月6日(土)よりシネスイッチ銀座ほかで全国順次公開中

映画『お名前はアドルフ?』は、ヨーロッパに痛快な旋風を巻き起こした舞台を映画化した、90分の会話劇です。

ドイツのボンに住む夫妻が、ある日弟とその恋人、幼なじみをディナーに招待しました。弟がもうすぐ生まれる子どもの名前はアドルフと発言したことをきっかけに、舌戦の火ぶたが切って落とされます。

監督は『ベルンの奇蹟』のゼーンケ・ヴォルトマン、会話劇を繰り広げる5人はクリストフ=マリア・ヘルプスト、カロリーネ・ペータース、フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、ユストゥス・フォン・ドホナーニ、ヤニーナ・ウーゼ、主に電話での会話となるのがイリス・ベルベンです。

映画『お名前はアドルフ?』の作品情報

(C)2018 Constantin Film Produktion GmbH

【公開】
2020年公開(ドイツ映画)

【原題】
Der Vorname

【脚本】
クラウディウス・プレーギング

【監督】
ゼーンケ・ヴォルトマン

【キャスト】
クリストフ=マリア・ヘルプスト、カロリーネ・ペータース、フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、ユストゥス・フォン・ドホナーニ、ヤニーナ・ウーゼ、イリス・ベルベン

【作品概要】
ライン川のほとりに佇むエレガントな一軒家で、ディナーパーティーが始まろうとしていました。この家の主は、哲学者で文学教授のシュテファンと国語教師のエリザベト夫妻。2人からディナーに招かれたのは、エリザベトの弟トーマスと出産間近の恋人アンナ、幼なじみで音楽家のレネです。楽しい時間になるはずが、トーマスが生まれてくる子どもの名前を「アドルフ」にすると発表したことから、激しい討論が始まります。世界史・政治・宗教・芸術など、あらゆる角度から語られる「名前」に関する激論。一応決着はつくのですが、それは、その場にいた全員がさらに大きな秘密を知ることになるきっかけにすぎませんでした。

映画『お名前はアドルフ?』のあらすじとネタバレ

(C)2018 Constantin Film Produktion GmbH

ドイツ・ボンに住むシュテファン(クリストフ=マリア・ヘルプスト)とエリザベト(カロリーネ・ペータース)夫妻。シュテファンはドイツ現代文学が専門のボン大学の教授、エリザベトは国語教師を務めるインテリ夫婦で、2人は小学校からの幼なじみです。

ある日二人は、エリザベトの親友のレネ(ユストゥス・フォン・ドホナーニ)、彼女の弟のトーマス(フロリアン・ダーヴィト・フィッツ)とその恋人のアンナ(ヤニーナ・ウーゼ)をディナーに招待しました。

クラリネット奏者のレネは、幼い頃に両親を亡くしてエリザベトの家に引き取られ、エリザベトとはすべてを打ち明け合う間柄です。

トーマスは勉強が苦手でしたが、不動産業で大成功をおさめて、この日の手土産も高級ワイン。恋人のアンナとの間にもうすぐ子どもが生まれ、まさに順風満帆、とても優雅な暮らしをしています。

生まれてくる子どもが男の子だと報告するトーマスを囲んで、どんな名前をつけるのかと話が盛り上がります。

「名前を当ててほしい」というトーマスに対し、ドイツでポピュラー名前、男らしい名前など、ありとあらゆる名前があげられますが、当たりません。

エリザベトの「ヒントが欲しい」というリクエストに対し、トーマスは「Aで始まって、歴史に関する名前」と答えます。

インテリぶりをひけらかすシュテファンは、絶対に名前を当てようと躍起になりますが、いずれもはずれてしまいます。最終的に全員がギブアップして、トーマスから明かされた名前は、なんと「アドルフ」でした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『お名前はアドルフ?』ネタバレ・結末の記載がございます。『お名前はアドルフ?』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2018 Constantin Film Produktion GmbH

「アドルフ・ヒトラー」と同じ名前だと知り、最初は悪い冗談だと笑うシュテファンでしたが、トーマスが本気だと知り、激高します。

アドルフという名前は法律で禁止されているはずだとスマートフォンで調べますが、使用は可能という結果が。台所から戻るまでは、名前を明かさないでと言っていたエリザベトは、「なぜ言ってしまったの!」と怒りながらアドルフという名前を聞いて唖然とします。

エキセントリックに反対するシュテファンと違い、エリザベトは「学校でいじめられる」と常識的な説得で止めようとしますが、トーマスは聴く耳を持ちません。

議論は平行線をたどりますが、レネの「食事は?」の一言で、いったん休戦モードになります。

ディナーでは、エリザベトが作った本格的なインド料理に舌鼓をうち、「料理の腕が上がったね」とレネは雰囲気を盛り上げようとしますが、トーマスがなぜ子どもの名前をアドルフにしたいのか、理由を語り始めることで、議論が復活します。

反ナチスがヒトラーを過剰に批判するから、逆にヒトラーをスターのような存在にしてしまうのだと主張するトーマス。

息子にアドルフと名づけることで、ヒトラー神話を破壊すると得意気に宣言します。

そしてトーマスは、アドルフがダメなら、他の名前を挙げてくれと3人に向けて要望します。シュテファン、エリザベト、レネがさまざまな名前を言うのですが、イタリアの独裁者ムッソリーニや連続殺人犯の名前と同じだと、トーマスは次々に却下。

4人それぞれがありとあらゆる教養を駆使して、熱い討論を繰り広げていきます。

どこまでもエキセントリックなシュテファンに「もはや討論は無駄」だと言い放つトーマスが席を外し、再度小休止状態に。

部屋に一人きりとなったレネは、ふと本棚にあったシュテファンの教材『ヒトラー我が闘争』を見つけました。その瞬間、トーマスが「アドルフ」と名付けると言ったことは、シュテファンを挑発するための冗談だと理解します。

レネは、こっそりトーマスにそのことを告げると、トーマスは悔しそうに認めます。本当の名前は、父親と同じパウルだと白状しますが、シュテファンたちには黙っていてほしいと懇願します。

そこへトーマスの恋人で、舞台のオーディションを終えた女優志望のアンナが到着。一瞬和やかな雰囲気になるのですが、シュテファンの「君の腹の中には指導者が育っているようだな」の一言で、再び場が緊張します。

当然アンナは、トーマスが「息子の名前はアドルフ」と冗談を言っていることは知りません。

しかし妙な具合で話がかみ合い、シュテファンが名前を徹底的に否定し、挙句の果てにはアンナの言葉遣いまで非難することで、アンナは堪忍袋の緒が切れて激高します。

実はパウルと名付けたいと言い出したのはアンナだったので、「息子の名前を否定するのは、自分自身が否定されていること」ととらえ、我慢できなかったです。そして思わずシュテファンとエリザベト夫妻の子どもの名前をけなしてしまいます。

たまりかねたトーマスは、「アドルフといったのは冗談だよ」とその場をおさめようとしましたが、時すでに遅し。ディナーの雰囲気は最悪なものになってしまいました。

「僕たちの子どもの名前をけなしたかったんだ」と言うシュテファンに対し、トーマスは「とってもクールな名前だよ」とフォローを入れますが、「君がそういう顔をして話す時は本心じゃない」と指摘され、困り果てるトーマス。

挙句の果てには、エリザベトに真似をされ、トーマス以外の全員がたまりかねて笑いだします。

しかし「エセインテリ」「エゴマニア」とののしり合うシュテファンとトーマスの論争は止まりません。幼い頃からお互いのことを知っているだけに、長年感じてきた思いをぶちまけてしまいます。

トーマスを「エゴマニア」とののしったシュテファンは、幼い頃の出来事をきっかけに、トーマスが自分中心でなければ気が済まない性格だと指摘します。

しかしその話を持ち出したことで、その出来事を引き起こしたのが、トーマスではなくシュテファンだった事実が判明してしまいます。

シュテファンとトーマスの果てしなき言い争いを呆れた表情で見ているエリザベト、アンナ、レネ。やがて話の矛先は、レネに向かいます。

レネのことを陰で「女王様」と呼んでいたトーマスのことをシュテファンが暴露。長年レネのことをゲイだと思い込んでいながらも口に出せなかった4人は硬直します。

しかし女王様と呼ばれることのどこが悪いと意に介さないレネ。逆にびっくりしている4人に対してようやく事情を察したレネは「僕はゲイじゃない!」と叫びます。

「独身でゲイに寛容なケルンに住み、紫やオレンジ色の服を好んで着ているのにゲイじゃないって?」と信じようとしないシュテファンとトーマス。

たまりかねたレネは、自分の恋人はエリザベトとトーマスの母、ドロテア(イリス・ベルベン)だと告白します。

「アドルフ」と同じように冗談だと全員が笑い飛ばすのですが、真実だと知り、思わずエリザベトはデザートのケーキをレネの顔にぶつけ、トーマスは取り乱してレネを殴ってしまいます。

そんな状況の中、タイミング悪くドロテアがエリザベトに電話をかけてきてしまい、エリザベトは冷たくあしらいます。

そのことをシュテファンにとがめられたことに腹を立て、エリザベトがこれまでのシュテファンやトーマスに対する不満を大爆発させます。

「息子の名前はアドルフ」という冗談から始まったディナーは、二転三転さまざまな激論が繰り広げられ、最終的にとんでもない結末が用意されていました。

しかし、さんざん腹の内をさらけ出し、本音を言い合ったことで、5人にまた新たな関係が生まれました。

後日、アンナは舞台に立っている最中に破水し、待望の赤ちゃんが生まれます。

生まれてきた子は男の子ではなく女の子だったのですが、果たしてトーマスとアンナはどんな名前をつけるのでしょうか。

映画『お名前はアドルフ?』の感想と評価

(C)2018 Constantin Film Produktion GmbH

知的好奇心がくすぐられる90分の会話劇

本作品は2010年にパリで初上演され、イギリス、ドイツでも大成功を収めた舞台の映画化です。

生まれてくる子どもにアドルフと名付けるという爆弾発言に対し、実にさまざまな意見が交わされます。「アドルフ・ヒトラー」にまつわる歴史に関することは、すべてのドイツ人の心の中にあるであろう、第二次世界大戦の苦い記憶。

時が流れても、そこは変わらないのだということを思い知ります。日本人として、そうしたところに深い共感を覚える人も多いでしょう。

そしてアドルフの代わりに挙げられる名前に対して、ことごとく反論するトーマスの言い分も興味深いです。

イタリアの独裁者・ムッソリーニだけでなく「どこかの国の独裁者と同じ名前だ」「連続殺人鬼と同じ名前だ。何人殺せば名前が使えなくなるのか」と語る姿は、幼い頃に勉強が苦手だった人とは思えません。

名前とは一体何なのか、人はどんな思いで名前をつけるのかということを、とことん話し合う5人。

歴史や宗教、文化など、あらゆる角度から「名前」について語る5人の会話に耳を傾けていると、知的好奇心が思い切りくすぐられます。

個性際立つ魅力的なキャスティング

(C)2018 Constantin Film Produktion GmbH

会話劇を繰り広げる5人は個性豊かな面々ですが、中でも特に癖が強いのが、シュテファンです。

物語の冒頭、ピザ屋が間違えてシュテファン宅へ配達に来てしまうのですが、「うちは注文していないよ」と言えば済むものの、「ピザの値段が高い」などと、難癖をつけてピザ屋に食ってかかります。

あっけに取られているピザ屋を徹底的に論破するシュテファン。身近にこのような人がいたら、ちょっとゲンナリしてしまうかもしれません。

そんなシュテファンと劇中で「アドルフ」という名前について激論を繰り広げるトーマスは、シュテファンを「エセインテリ」と言い放ちますが、どこか人を見下したように話すところに、トーマスは「エセ」っぽさを感じたのかもしれません。

そんなトーマスもお調子者で、ちょっと自分勝手なところがある人物です。恋人のアンナとの間に子どもが生まれるものの、アンナは生まれる前から子育てに非協力的な発言をするトーマスに不満を持っています。

そしてインテリぶりをひけらかすシュテファンを皮肉ったり、レネを意地悪なあだ名で呼んだりするところもあり、そうかと思えば、レネの秘密を知った時に喚き散らす姿は、まるで駄々っ子です。

こんな癖の強い2人とともにいるエリザベトとアンナは大変だろうな…と思うのですが、彼女たちも黙ってはいません。

誤解はあったものの、生まれてくる息子の名前をけなされた時に「許せない!」とばかりに自分の想いを爆発させるアンナ。

そしてなんといっても物語の終盤、言いたい放題、やりたい放題のシュテファンとトーマスに向けて大爆発するエリザベトの「演説」は物語最大の見せ場といっていいでしょう。

最終的に衝撃の事実を打ち明けるレネは、終始5人の中でも控えめで平和主義を貫いていたため、その破壊力は抜群でした。

エリザベトと電話で会話するシーンでしか登場しないドロテアとともに、この物語のおいしいところをすべて持っていったような気がします。

まとめ

(C)2018 Constantin Film Produktion GmbH

物語は、シュテファンとエリザベト宅のダイニングルームとキッチンを中心に展開していきます。せっせとディナーの準備をするエリザベトとは対照的に、電話がかかってきたり、来客があっても対応しようとしないシュテファン。

日本の女性は「日本の男性は家事に協力的ではない」と嘆くことが多いですが、ドイツでも同じなのか……と感じる人もいるのではないでしょうか。

途中「料理を作っていてごめんなさい」とエリザベトがシュテファンに対して皮肉るシーンもありますし、日々の不満を爆発させたエリザベトの大演説を聞いて「よく言った!」と拍手をおくる女性もいることでしょう。

ドイツと日本の共通点を見つけながら楽しめる作品でもあるのです。

『お名前はアドルフ?』は、2020年6月6日(土)よりシネスイッチ銀座ほかで全国順次公開中





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