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Entry 2020/04/11
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映画『お名前はアドルフ?』感想とレビュー評価。ドイツの歴史をブラックに笑い飛ばす大人の会話劇

  • Writer :
  • 石井夏子

映画『お名前はアドルフ?』は2020年6月6日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

生まれてから付き合い続けることになる“名前”。もし生まれてくる子どもに独裁者と同じ名前をつけようとしたら…?

ドイツが自国の歴史に向き合い、ブラックなユーモアで包み込んだ映画『お名前はアドルフ?』

舞台劇が原作なこともあり、クリストフ=マリア・ヘルプスト、カロリーネ・ペータースら熟練の俳優が見せる密室での白熱したバトルから目が離せない一作です。

映画『お名前はアドルフ?』の作品情報

(C)2018 Constantin Film Produktion GmbH

【日本公開】
2020年(ドイツ映画)

【原作】
舞台『名前(Le Prénom)』

【原題】
DER VORNAME

【監督】
ゼーンケ・ヴォルトマン

【キャスト】
フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、クリストフ=マリア・ヘルプスト、ユストゥス・フォン・ドホナーニ、カロリーネ・ペータース、ヤニーナ・ウーゼ、イリス・ベルベン

【作品概要】
原作は2010年にフランスで上演された舞台『名前』。

監督は『ベルンの奇蹟』(2003)のゼーンケ・ヴォルトマンが務めました。

シュテファン役には『帰ってきたヒトラー』(2016)のクリストフ=マリア・ヘルプスト。妻のエリザベトをドイツ演劇界のスター、カロリーネ・ペータースが演じました。

その弟トーマスを演じたフロリアン・ダーヴィト・フィッツは『はじめてのおもてなし』(2016)など話題作に多数出演する実力派俳優です。

映画『お名前はアドルフ?』のあらすじ

(C)2018 Constantin Film Produktion GmbH

ドイツのボンにある、シュテファンとエリザベト夫妻の家にて。

言語学の教授を務めるシュテファン(クリストフ=マリア・ヘルプスト)と、国語教師のエリザベト(カロリーネ・ペータース)は小学校時代からの幼なじみ。

今日は彼らの家でディナーが開かれます。料理の準備を進めるエリザベトを手伝いもせず、失くした鍵探しに夢中なシュテファン。

エリザベトの母であるドロテアから電話があり、エリザベトは料理の作り方について尋ねます。数年前に夫を亡くしたドロテアですが、その後は活動的になり、今はミュンヘンの郊外の家にひとりで暮らしています。

ドロテアとの電話を切った後、招待客のレネが訪れます。オーケストラでクラリネットを演奏している彼は、幼い頃に両親を亡くし、エリザベトの家に引き取られました。

それから30年来、エリザベトとレネはなんでも打ち明け合う親友同士です。

次に到着したのはエリザベトの弟のトーマス。勉強が苦手だったため高卒のトーマスですが、不動産業で成功を収め、豊かな生活を送っていました。

トーマスの恋人のお腹には小さな命が宿っており、エコー検査で男の子と判明したと報告します。

生まれてくる子どもの名前当てゲームを始める一同。それぞれ思い思いの名前を挙げていきますがことごとく外れます。

ヒントは、“A”から始まる、歴史に関係する名前。

エリザベトは料理の様子を見るためにキッチンに向かおうとし、自分が戻ってくるまで答えを言わないよう釘を刺してから中座しました。

文学愛好家でもありプライドの高いシュテファンは我慢ができず、思いつく限りの名前をトーマスに言っていくものの、全て当たりません。

子どもの名前は「アドルフ」だと明かされ、絶句するシュテファンとレネ。冗談だと思ったふたりでしたが、トーマスは本気のようです。

ヒトラーと同じ名前である「アドルフ」は使用禁止だろうとスマホで検索すると、法律上は使用可能ということがわかります。

(C)2018 Constantin Film Produktion GmbH

キッチンから戻ったエリザベトは自分がいない間に名前が明かされたことを怒りますが、その名が「アドルフ」と知って狼狽。

罪深い名前を子どもに背負わせるという意味の重さを説くエリザベスらの言葉もトーマスには響きません。「アドルフ」だからこそ、その歴史に向き合い続けるはずだと突っぱねます。

料理ができたため4人は休戦。しかしトーマスが蒸し返したことで再燃してしまいました。

一時解散したところで、レネはシュテファンの本棚の、ある本が引出されたままなことに気づき、トーマスを問い正します。

そこへトーマスの恋人で駆け出しの女優・アンナが遅れて到着。シュテファンは彼女に名付けへの不満をぶつけ…。

映画『お名前はアドルフ?』の感想と評価

(C)2018 Constantin Film Produktion GmbH

大人同士が感情あらわに言い合う妙味

本作の大半は、シュテファン夫妻の家の中だけで物語が展開していきます。そして上映時間と作品内の時間もほぼリアルタイムで進行。

観客はもう一人の招待客として、ディナーに参加している臨場感を味わえます

ワンシチュエーションによる大人同士の論争といえば、ロマン・ポランスキーの『おとなのけんか』(2011)やパオロ・ジェノヴェーゼの『おとなの事情』(2017)が思い出されます。

前者は、2組の夫婦が互いの子どもたちの諍いについての話し合いの場だったはずが醜い争いに発展。後者は、食事会に集まった幼なじみたちの友情が、スマホに届いたメールを音読するというゲームを始めたことから壊れ始めます。

本作のあらすじを含め、どれも文字だけで書くと悲惨な物語になりますが、巧みな俳優たちが演じることで絶妙な間が生まれ、上質なコメディとして成立しました。

大人たちが年甲斐もなく、それぞれの本音を剥き出していく面白さはどこからくるのでしょう。

本作のキャラクターは物語中でそれぞれ沸点を迎えます。理性を持ち合わせ建前で飾った大人という存在が、立場や経歴を揺さぶられ、その奥にある触れて欲しくない箇所に踏み込まれた時に見せる、動物的な衝動。

吹っ切れてしまった人の言動は恐ろしいけれど、傍目から見ていて滑稽でもあります。

付き合いが長い仲なら、その間蓄積されて来た澱も、近いからこそ言えなかった秘密もあります。

また、本作の興味深い点は、共感できる人物が目まぐるしく変わるところ。それは各人物の多面性を巧妙に描いているからです。

自分の息子に「アドルフ」と名付けるトーマスは、軽薄で人をからかうことに喜びを見出している人物に見えますが、「アドルフ」論争が進むにつれ、彼が言う名付けへの思いは妙な説得力を帯びはじめます。

シュテファンは神経質なのに人付き合いにおいては無神経さを見せ、彼に長年連れ添って来たエリザベトの苦労が窺い知れるでしょう。温厚な仲介役のレネも、話が進むにつれてそれだけではない面が暴かれていきます。

観客の共感の方向性もですが、糾弾される人物・感情を爆発させる人物が非常に早いラリーで変化していくことで、いつしか登場人物たちにとっては深刻な問題を笑って見てしまうんです。

名前の力

(C)2018 Constantin Film Produktion GmbH

日本では古来、名前には魂に関わる大切なものとして考えられ、名前を使った呪詛などを避けるために本名は隠すこともあったと伝えられています。

今ではそういったことはほぼ見られなくなりましたが、それでも名前というのは一生付き合っていく特別なもの。そこに込められた意味、意図に思いを巡らせることも多いはず。

ドイツでは、第2次世界大戦後、ナチスの独裁者アドルフ・ヒトラーと同じ姓「ヒトラー」を持つ人々は戦後、偏見や迫害を恐れて苗字を変更し、「アドルフ」と名付けることも無くなったそう。

元々「アドルフ」という名は伝統があり、一般的なものでした。今でも法律的に「アドルフ」は禁止されておらず、役所で命名の動機が妥当だと判断されれば受理されます。

作中、トーマスがシュテファンに使用可能な名前を聞き、リスト化していく場面があります。そこで挙げた一般的な名前も、同名の独裁者や犯罪者がいると屁理屈を捏ねていくトーマス。

さらには「何人殺したら名前が使用禁止になる?」と、揚げ足取りな質問をするトーマスに、少なからず考えさせられてしまいます。誰かと全く重ならない名前はこの世に存在しないのかもしれません。

また、名前に対して尋常ならぬこだわりを見せてきたシュテファンの子どもの名前が明かされる場面も必見です。

まとめ

(C)2018 Constantin Film Produktion GmbH

ゼーンケ・ヴォルトマン監督は、演技に関しては俳優たちに任せていたと語っています。

俳優たちもその期待に応え、息もつかせぬ計算し尽くされた会話劇を繰り広げてくれました。

鑑賞後に本作のチラシビジュアルを見ると、登場人物たちから名付けバトルへの意見を求められている気分になるはず。

ぜひこのおかしなディナーに招待されてください。

映画『お名前はアドルフ?』は2020年6月6日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開予定です。





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