連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第80回
Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」。第80回は死者が過去からかける電話が運命を変える物語『ドント・レット・ゴー 過去からの叫び』。
仲の良かった姪の死に打ちのめされる1人の刑事。彼に電話がかかってきます。相手は2週間前の過去の世界の、まだ生きている姪でした。
刑事は過去からの電話を手がかりに、姪の殺害を阻止しようと試みます。彼は運命を変えることができるのか。様々なユニーク設定のジャンル映画を放つ、ブラムハウス製作の作品です。
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CONTENTS
映画『ドント・レット・ゴー 過去からの叫び』の作品情報
(C)2019 Universal Studios. All Rights Reserved.
【製作】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Don’t Let Go
【監督】
ジェイコブ・アーロン・エステス
【キャスト】
デビッド・オイェロウォ、ストーム・リード、ミケルティ・ウィリアムソン、アルフレッド・モリーナ、バイロン・マン
【作品概要】
過去の姪と電話でつながった、弟家族を惨殺された刑事。彼は愛する姪の死を防ごうと奮闘します。ブラムハウスが製作したSFスリラー映画。
監督は『さよなら、僕らの夏』(2004)でサンダンス映画祭Humanitas賞を受賞し、『ザ・リング リバース』(2018)の脚本を書いたジェイコブ・アーロン・エステス。
主演は『グローリー 明日への行進』(2014)でマーティン・ルーサー・キング・Jr.牧師を演じ、『グリンゴ 最強の悪運男』(2018)に主演したデビッド・オイェロウォで、共演は『透明人間』(2020)のストーム・リード。
そして『ダ・ヴィンチ・コード』(2006)など数多くの映画に出演し、『スパイダーマン2』(2004)そして『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』(2021)でドクター・オクトパスを演じたアルフレッド・モリーナも共演の作品です。
映画『ドント・レット・ゴー 過去からの叫び』のあらすじとネタバレ
(C)2019 Universal Studios. All Rights Reserved.
ある夜、電話で姪のアシュリー(ストーム・リード)から出迎えを頼まれた刑事のジャック(デビッド・オイェロウォ)。彼は夜の街に車を走らせます。
ダイナーに入ったジャックは、アシュリーと絵を交互に書き足し遊びます。自分を迎えに来ない父ギャレットをクズと呼んだ姪を、俺の弟はクズでは無いとたしなめるジャック。
後日、書類に目を通していたジャックにアシュリーから電話が入ります。叔父さんが注意してくれたから、父は今は良い親になった、と礼を言うアシュリー。仕事のあるジャックは電話を切り上げました。
警察署のオフィスにいたジャックに、またアシュリーから電話がかかります。姪は途切れがちな電話で誰かいると訴えます。
電話は切れ、折り返しても留守電になるだけです。不安を覚え弟の自宅に向かうジャック。
弟宅の玄関の扉は開いており、呼びかけても返事はありません。部屋の中で弟が再婚した妻・スーザンの遺体を見つけたジャックは、銃を抜いて他の部屋を調べます。
アシュリーの飼っていた犬ウィルコまで殺されており、そして弟ギャレットの遺体を見つけ動揺するジャック。部屋には麻薬らしい袋がありました。
そして、『”無造作に置かれた姪のリュック”』と、『浴槽の中に横たわる姪の亡骸”』を見つけ…、床に崩れ落ちるジャック。
通報で同僚たちが駆け付けます。ボビー刑事(ミケルティ・ウィリアムソン)はジャックを慰めますが、その言葉は耳に入りません。
その後、事件はギャレットが家族を道連れに無理心中を図ったものとされました。葬儀の日も自分を責めるジャックに、お前のせいではないと告げるボビー。
ボビーにジャックはもう一度やり直したい、「神様、もう一度チャンスをくれ」と祈っている、と語りました。
葬儀から帰ったジャックは、スマホに残るアシュリーとその家族、自分と同僚のボビーも参加したパーティーの動画を眺めます。
後日。打ちのめされ酒を手にしたジャックは、自分のスマホにアシュリーから電話がかかったと気付きました。
彼がためらっている間に呼び出し音は切れます。折り返すと、この番号は現在使われていません、とのメッセージが流れて戸惑うジャック。
警察署に出勤したジャックは、証拠品として保管してるはずの姪のスマホが紛失したと気付きます。
スマホは鑑識が調べた後に返却されたはずです。ジャックは半信半疑のまま、惨劇の舞台の弟の家に入りました。
するとアシュリーが倒れていた浴槽に、彼女のスマホが落ちています。理解に苦しむジャックのスマホに、またアシュリーから電話が入ります。
電話の相手はアシュリーの声で話しかけてきます。しかし目の前の姪のスマホは作動していません。いつものように話しかける姪に何者か尋ねるジャック。叔父の態度に困惑したのか、アシュリーは電話を切りました。
捜査資料を持ち帰り、今起きている出来事のヒントは無いか調べるジャック。彼を心配したボビー刑事が家を訪れます。ボビーに自分はおかしくなりそうだ、と打ち明けるジャック。
そんな彼に詫びつつ、ボビーは事件の第1発見者のジャックの容疑が晴れた訳ではなく、内務調査班がお前の事情聴取をを行うと告げます。
事件後、仮定の話を持ち出しジャックを取り調べる内務調査班のロジャー(バイロン・マン)の態度は、愛する姪を失った彼には情け容赦ないものでした。
自宅でサンドバックを殴り、やり切れぬ思いをぶつけるジャック。そこにまたアシュリーから電話がかかります。
電話をとると亡き姪の声が聞こえます。恐る恐る受け答えする叔父に、いつものように明るく話しかけるアシュリー。
やっとジャックが何処からかけてると口にすると、彼女は自宅からと答えました。電話を切ろうとした姪に話を続けさせると、アシュリーは迎えに来ない父ギャレットに、ジャックが説教した礼を言いました。
話の内容は過去に彼女が口にしたものです。手元のアシュリーの遺品のスマホに残る写真画像を見て、次に彼女が何を言うかジャックは言い当てます。
ジャックには状況が見えてきました。アシュリーは自宅にいると言いましたが、電話しつつ彼女の家に向かったジャックが見たのは、凶行が起きた後の誰もいない家でした。
納屋に入ったジャックは、そこにスプレーペンキがあると気付きます。妙な事を頼むと断り、アシュリーに物置の壁にペンキで赤い×印を描くよう指示します。
アシュリーは電話をこのままにしろとの叔父の話を聞かず、電話を切り印を描きに向かいました。
電話が切れ我に返り、馬鹿げた考えだとジャックは思ったかもしれません。しかし物置に入った時に、奇妙な感覚に襲われるジャック。
物置の壁には今まで無かった赤い×印が、スプレーで大きく描かれています。ジャックは事件を報じる新聞は6月29日に発行されたもの、事件はその前日の28日に起きたと確認します。
印を描き終えたアシュリーから電話がかかって来ました。彼女に今日は何日かと尋ねると、25日と答えるアシュリー。
突然彼女は父親が怪しい白い車で帰ってきた、と言いました。車を運転してるのは見覚えのない男だ、と話すアシュリー。ジャックは気付かれぬよう身を隠して、男をよく見ろと指示します。
恐らく姪は物置に隠れて車を見ているはず、と考え彼女と同じように行動し考えを巡らせるジャック。アシュリーには車のナンバーは見えず、彼女に車種の説明は出来ません。
最近彼女の周囲や、両親の態度に妙な点は無いかとジャックは尋ねます。叔父の態度に彼女は不審を感じた様子です。
お前の父は過去にドラックの取引に関わったのは知ってるな、同じ過ちを繰り返しているなら助けねば、と説明するジャック。
彼女の目には父がドラックを使用しているように見えず、父と義母との関係も良好です。事件の起きた家を調べていたジャックは、メキシコの不動産物件を紹介するパンフと、「あなたを守るから私を救って」と走り書きされた五線譜の紙を見つけます。
最近の父は態度も良いし、また音楽を作り始めたと話すアシュリー。遺された物からも弟は前向きに生きていた、とジャックは考えます。しかし彼は、弟が残したメモの中に「ジョージーの事を話す」と書かれたものを見つけました。
ジョージーはアシュリーも知らない人物でした。電話で語るアシュリーが自室に戻ったと知ると、ジャックも彼女の部屋に入ります。
姪は間違いなく過去にいる、しかし3日後の28日の水曜の夜に殺される運命だと悟るジャック。アシュリーは父が帰って来たと告げ、ジョージーという人物と先程の車を調べると約束し、一方的に電話を切りました。
どうすべきか悩むジャック。翌朝署に出勤した彼は、アシュリーがスマホに遺した写真に何か事件のヒントがないか調べますが、過去にいる姪の死まであと2日間しかありません
そこにジャックとボビーの上司、ハワード(アルフレッド・モリーナ)が現れます。ジャックの様子に戸惑いながらも、自分のオフィスに来るよう告げるハワード。
一方自分の死んだ後の、未来の時間にいる叔父ジャックと話をした過去の時間のアシュリーは、ジョージーの正体を知る手掛かりを調べていました。
ハワードはジャックが弟一家の死亡事件を調べ始めた事も、勝手に証拠品のスマホを持ち出した事も、それを同僚のボビーが黙認した事も問題だと指摘します。
何かするなら自分に報告しろ、辛いだろうが過去を振り返らず前を向いて生きろ、とジャックに告げるハワード。
ハワードはジャックが発見した「ジョージーの事を話す」というメモを気にしている様子です。上司が何か知ってるのか、ジャックは訊ねました。
ハワードは捜査資料を取り出し、ジョージーは複数の麻薬取引に関わった男だが正体は不明、証拠は似顔絵だけでその作成に協力した人物も死んだと告げます。
この男を追うのは”白鯨”を追うようなもの、捜査を止めて休めと告げるハワード。ジャックは上司に礼を言いますが、休むつもりはありません。
その夜ジャックは警察署の外で同僚のボビーと会います。証拠写真に死んだ弟が飲まない酒、バーボンの瓶があった「。自殺とされた現場に弟家族以外の誰かがいた、と指摘するジャック。
現場は弟がキレて家族を殺害したように偽装されているが、真実は違うと力説するジャック。話を聞いたボビー刑事は困った表情を見せました。
そこにアシュリーが過去から電話をかけてきました。ジャックは同僚に別れを告げ、姪の電話に出ます。
父の古い手帳にジョージーの名前を見つけた、と話すアシュリー。名字は無いが彼の住所を見つけたと言いました。
続きは1分後会って話す、今は叔父さんの家の近くにいる。その言葉にジャックは慌てます。過去の自分に話しても理解されず、アシュリーは混乱するでしょう。
アシュリーの父ギャレットも、自分も危険な連中に見張られている。会うところを見られたら危険だ、会話は電話だけにしよう。すぐ引き返せと告げ姪を納得させるジャック。
アシュリーはジョージーの住所を教えます。ジャックが向かうとそこは怪しげな男たちがたむろする場所で、家は差し押さえ物件の売家扱いされていました。
空き家を調べるジャックを見て、誰かに電話をかける男がいました。郵便ポストを調べたジャックは、大量の郵便物の中から国際航空貨物を扱う会社の封筒を見つけます。
それは姪が殺害された家にあった、ダンボール箱に記された社名と同じです。突然ジャックは走り去る車から銃撃を受けました。
彼はかろうじて身を隠しますが、彼は撃たれた事に気付きます。車に乗り込み必死に走らせるジャック。
負傷したジャックが現れ警察署は騒然とします。病院に連れて行こうとするボビーに構わず、ジャックは証拠保管庫に向かいます。
保管庫に入った彼は、証拠品として押収された麻薬の入った箱が6月26日に配達されたと確認します。そこにアシュリーから電話が入りました。
状況が理解できないボビーを残し、その場を離れたジャックは姪の電話に出ます。意識が薄れゆく中、アシュリーにこの電話を切ったら警察に通報し、父親を逮捕させろと告げるジャック。
混乱する姪にベットの下にドラッグがある、誰かがお前の父を殺しに行く、今から言う番号を書けと告げたジャックは、それはボビー刑事の番号だ、困ったら彼に助けてもらえと言い残します。そして、ジャックはボビーに看取られ息を引き取りました…。
殺される2日前、6月26日のアシュリーは電話の内容に驚き、叔父の家を訪れます。しかし彼女と同じ時間にいるジャックに説明を求めても、彼には何の話か全く理解できません。
戸惑うジャックを残し、怒ったアシュリーは家に帰りました。自宅には機嫌よく過ごす父と義母がいました。
しかしベットの下には(未来の)ジャックが言った箱があります。家を出たアシュリーは迷った末、言われた通り警察に通報します…。
…ジャックは不思議な感覚に襲われながら、車の中で目覚めました。
彼は自分が何を体験したのか思い出します。姪からの途切れがちな電話を聞いた彼は、弟の家を訪れ遺体を発見します。
そして、『”ベットの上で姪の亡骸を見つけ”』…ジャックは我に返りました。事件の記憶が以前のものと変化したと悟るジャック。
隣に座るボビー刑事は彼の言動に戸惑います。家族が殺されたと叫ぶジャックが目にしたのは、弟一家の無理心中を伝える新聞記事です。
記事によると彼らが死んだのは火曜日。混乱しながらも彼は、アシュリーが死んだ日が何故か1日早まっていました。
弟のベットの下にあった箱の件はアシュリーが警察に通報したようですが、ボビーはその情報はガセだったと答えます。そして犯行現場の写真も依然と何かが異なります。
写真からはあったはずの薬が消えていました。以前の記憶と異なり姪の自転車は裏口にあり、現場に残されたリュックはなぜか濡れていると気付くジャック。
「俺は悪夢を見ているんだ」、とジャックはボビーにうめくように言います。一体彼とアシュリーの身に何が起きているのでしょうか…。
映画『ドント・レット・ゴー 過去からの叫び』の感想と評価
(C)2019 Universal Studios. All Rights Reserved.
過去の世界の住人…既に亡くなった人物からメッセージが届く。「声のタイムトラベル」「メッセージのタイムトラベル」を扱う作品はSFで人気のストーリー、と紹介して異論は無いでしょう。
小説・テレビドラマも含めれば古くから様々な作品がありますが、映画では『オーロラの彼方へ』(2000)はこのジャンルの名作と呼んで良いでしょう。
ハードSFにこの要素を取り入れた作品には『インターステラー』(2014)が、恋愛映画には韓国映画『イルマーレ』(2000)があり、これはキアヌ・リーブスとサンドラ・ブロック主演のハリウッド映画『イルマーレ』(2006)にリメイクされました。
この系譜に新海誠監督の『君の名は。』(2016)を入れても良いでしょう。『オーロラの彼方へ』のような犯罪捜査型の作品に韓国ドラマ『シグナル』(2016~)、それを日本でリメイクしたドラマ『シグナル 長期未解決事件捜査班』(2018~)は映画版も2021年に作られます。
変わり種の作品としてアンソニー・マッキー主演の『シンクロニック』(2019)を紹介します。ともかく世界に多数の作品がある人気ジャンルと言えるでしょう。
今回ご紹介した『ドント・レット・ゴー 過去からの叫び』もそんな映画の一つ、現在と過去との間で限られた条件で情報が交換可能で、過去が変わると未来が変化する展開が面白い作品です。
しかし本作をご覧の方は全員、「何でこんな事が起きたの?」と疑問に思うでしょう。空にはオーロラも、落ちてくる彗星も現れません…。
この点について本作の関係者はどのように語っているのでしょうか。
1つのシチュエーションが1本の映画を生んだ
(C)2019 Universal Studios. All Rights Reserved.
本作の脚本・監督のジェイコブ・アーロン・エステスは、ある日手にした脚本の1つが、自分が子供たちに読む絵本作家のものだと気付きます。彼はその脚本を読み始めました。
その脚本の冒頭で、主人公の問題を抱えた弟が家族を殺します。悲しみに暮れる主人公に死んだはずの弟の娘、姪から電話がかかって来ます…。
この設定に可能性を感じた彼は、自分のエージェントに「この脚本は良いと思う」と伝えてから外出した、とインタビューで話した監督。
家に戻ると、何と映画製作会社ブラムハウスのジェイソン・ブラムから電話がかかって来ます。ブラムは別のインタビューで、このシーンのイメージに魅了され、映画を作りたくなったと説明していました。
時間、タイムリープが題材のSFホラー『ハッピー・デス・デイ』(2017)・『ハッピー・デス・デイ 2U』(2019)を製作したブラムらしい反応です。
ところが問題がありました。紹介した脚本の魅力的なエピソードは、本筋のストーリーに関係ないマクガフィン(物語を進めるには必要なエピソードだが、本筋には関係ないもの。別のエピソードに変えても本筋には影響ないもの)だったのです。
エステス監督はブラムにこれでは映画化は無理だと伝えます。するとブラムは脚本を修正できないかと言いました。無理だと答えてもブラムは直して欲しいと頼んできた、と語るエステス監督。
仕事を引き受けた監督は、やがて「自分なら過去で殺された姪を救うことができるかもしれない」と考えるようになります。こうして監督は、本作の元になるオリジナルの脚本を書きました。
なぜ本作には時を越える通話が可能になった理由が描かれていないのでしょう。「このジャンルのファンである私は、不可能なことを無理に説明すると、大失敗する可能性があると知っていた」とインタビューに話す監督。
しかし物語には愛する人を失った主人公の悲しみ、愛する人を取り戻したい願いには、普遍的なテーマに結び付く「なぜ(the why)」が存在する。
そして自分の書いた脚本では主人公は「神を呪った」。神を呪う事でなぜか2度目のチャンスを与えられたのだ、と監督は説明しています。
しかし出演した黒人俳優のデビッド・オイェロウォ、ミケルティ・ウィリアムソンら多くの人が、「私たちのコミュニティではそんな事はしない」とこのアイデアを否定した、と監督は語りました。
時空を超えた理由はどう説明すべきか
(C)2019 Universal Studios. All Rights Reserved.
元々は中西部の白人農家の物語との設定で脚本が書かれた本作。しかし監督となったジェイコブ・アーロン・エステスは、優れた演技力を評価しデビッド・オイェロウォを主役に起用します。
自分に送られて来た脚本は、白人の農民を主人公にしたものだと語るデビッド・オイェロウォ。しかし愛する人のために行動する主人公の姿に、父であり夫である私は強く共鳴したとインタビューで語りました。
映画への出演を決めたオイェロウォは、早い段階から監督・脚本のエステスとクリエイティブ面で良い関係を築き、いつの間にかプロデューサー的な立場になったと気付きます。
ジェイソン・ブラムもそれを認め、自分をプロデューサーに加えてくれた。私は好きな作品には、映画を撮影し次に進む事だけを望みません。マーケットで最高のチャンスを掴んで欲しいと望んでいる、と話すオイェロウォ。
問題の「どうして時を越えて会話できたのか」という疑問を彼はどう考えたのでしょう。脚本では「神を呪った」主人公ですが、完成した映画の主人公ジャックが「神に祈った」結果、奇跡が起きたのでしょうか。
「私の結論は、あらゆる瞬間で感情的な真実を演じる事でした」とインタビュアーに説明したオイェロウォ。
またシーン撮影前に私も監督も、アシュリーを演じたストーム・リードも「私たちは今、どこにいるの?」と言う事があった、と振り返っています。
「映画は時系列に従って撮影する訳ではありません。更にタイムラインがあちこちにジャンプする映画であれば、時系列をを理解するのは困難です」。
「この映画で私たちが行った最善の行為の1つは、タイムトラベル要素のルールを説明しようとせず、各シーンは登場人物の感情的衝動で支配されるようにした事だと思います」。オイェロウォはこのように説明しました。
「この瞬間、このキャラクターは何を求めているのか、それだけを知っていれば良いのです。おかげで自分を縛ることなく、感情的にすっきりとした演技ができました。タイムトラベル要素やジャンル映画要素は、叔父と姪の型破りなラブストーリーを語る手段です」。
そして「タイムトラベルというワイルドな旅をしつつも、人々に共感してもらえる作品になった」と語るオイェロウォ。映画をご覧の方はこの言葉に納得するのでしょう。
まとめ
(C)2019 Universal Studios. All Rights Reserved.
なぜ時間を越えた通話が可能なのか?謎は説明されません。しかし説明描写にこだわらず、エモーショナルな展開で観客を引き付けた映画『ドント・レット・ゴー 過去からの叫び』。
1つのシチュエーションを生かす試みが、最終的に1本の映画を完成させる過程が本作製作の舞台裏に存在していました。
SF的設定の説明より、互いを救おうと望む叔父と姪の絆を描く事に重きを置いた本作。それはデビッド・オイェロウォとストーム・リードの演技が生んだものです。
ストーム・リードはその舞台裏をインタビューでこう語っています。「デビッド・オイェロウォと私は、そのシーンにいなくても常に撮影現場にいるように約束をしました。撮影中は常に互いの近くにいたのです」。
「おかげで映画を通して私たちのつながりは強くなりました。女優としてその絆を感じることは重要です。特に感情的なシーンを演じる場合、互いに寄り添う事は私たちの演技の助けになるだけでなく、観客にとってもより信頼できるシーンになったと思います」。
B級映画、ジャンル映画と呼ばれる作品の舞台裏にも製作が動き出すまでに、撮影が始まってからも様々なドラマがあるとご理解頂けたでしょうか。
そんな事を感じながら本作を鑑賞すると、俳優陣の熱演がさらに楽しめるでしょう。
この映画で起きた現象の科学的・合理的説明はありませんが、当初の脚本では「神を呪った」結果、映画に採用されたのは「神に祈った」結果、この奇跡が起きた『ドント・レット・ゴー』。
変更に伴い、ラストも当初の脚本から変化しているかもしれません。しかしこの事実は本作の、必ずしもハッピーエンドと言い切れないラストを解釈する手がかりを与えてくれした。
2人に与えれらえたのは「神による救い」だったのか。それとも「神(悪魔)による試練(呪い)」だったのか。
あなたはどちらだと思いますか?どちらを選ぶかで、2人の未来が希望に満ちたものになるのか、それとも過酷なものになるのか。解釈次第で大きく変わる事でしょう。
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