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Entry 2021/02/14
Update

映画『シンクロニック』ネタバレ感想と結末評価のあらすじ。タイムトラベルSF映画のユニークな設定を解説|未体験ゾーンの映画たち2021見破録12

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  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第12回

様々な事情で公開の危ぶまれた、中には実力ある映画もお届けする「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第12回で紹介するのは、アンソニー・マッキー主演のSF映画『シンクロニック』。

タイムトラベルを扱う作品は数多くあります。その手段・方法は多種多様、シリアスな作品からコメディまで、様々な映画が誕生しました。

実際にそれが可能になった時、どんな光景が広がり何が起きるのか。様々なクリエイターがこのテーマに挑みました。

そしてまた1つ、ユニークなアイデアで描いた作品が誕生しました。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら

映画『シンクロニック』の作品情報


(C)2019 RED FLOWER FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED.

【日本公開】
2021年(アメリカ映画)

【原題】
Synchronic

【監督】
アーロン・ムーアヘッド、ジャスティン・ベンソン

【キャスト】
アンソニー・マッキー、ジェイミー・ドーナン、ケイティ・アセルトン、アリー・ヨアニデス、ラミズ・モンセフ

【作品概要】
謎のドラックは、タイムトラベルの入り口だった。斬新な設定で描かれたSFスリラー映画。

『モンスター 変身する美女』(2014)、『アルカディア』(2017)とユニークなSF作品を放つ、アーロン・ムーアヘッド&ジャスティン・ベンソン監督コンビの最新作です。

主演は「キャプテン・アメリカ」「アベンジャーズ」シリーズのアンソニー・マッキー。その友人役を「フィフティ・シェイズ~」シリーズのジェイミー・ドーナンが演じます。

『処刑島 みな殺しの女たち』(2012)の監督・主演のケイティ・アセルトン、TVドラマ『バッドランド 最強の戦士』(2015~)のアリー・ヨアニデスが共演した作品です。

映画『シンクロニック』のあらすじとネタバレ


(C)2019 RED FLOWER FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED.

とあるホテルの1室で、若い男女がトリップ体験を楽しもうとドラックを服用します。

ベットの女の目の前に枝が伸び、それが木々の茂る荒野の光景に変わり、奇妙なマスクを付けた原始人のような人物が現れます。

エレベーターで上階に向かった男の前に、砂漠のような光景が広がります。

女にヘビが這い寄ります。なぜか空中にいた男は、砂漠が広がる大地に落下して行きました…。

ニューオーリンズの救急隊員のスティーブ(アンソニー・マッキー)とデニス(ジェイミー・ドーナン)は、救急車を降り現場に向かいます。

住所を間違えた運転手のトムの仕事ぶりをボヤきながら、到着した現場には薬物の影響が残る女がいました。

通報で到着した現場には若い男と女が倒れています。

男は胸を貫通する大きな傷を受けていました。デニスが何があったか聞くと、寝ていたらフランス語の会話と、風の音を聞いたと答えた女。

意識の無い女を診たスティーブは、誤って怪我をします。そこに警官たちが入ってきました。

2人は怪しげな合成ドラッグを服用していました。それを入れた袋には「シンクロニック」と書いてあります。ヘロインでなければ手出しできない、と言う警官。

男を突き刺したのは長い剣のようです。警官たちは凶器が無いか探し回ります。

女の側に落ちていた奇妙な形のメダルを拾いあげたスティーブは、デニスと共に男を搬送します。隣の部屋の壁に、奇妙な形の剣が突き刺さっていました。

次の出動に備え待機中、横になって休むスティーブに濁流に流される棺の記憶が甦ります。そんな彼に18歳離れた子供がいると大変だ、と告げるデニス。

年頃の娘ブリアンナ(アリー・ヨアニデス)は難しい時期を迎えたが、それでも娘を死ぬほど愛しているとデニスは話します。

今日の怪我でHIVに感染していないか、血液検査をしてもらうスティーブ。薬物使用の反応が出ても目をつむるという言葉に、彼は礼を述べました。

晴れた日、ミシシッピ川に面した公園でくつろぐスティーブとデニス。2人は軽口を交わす古くからの友人です。

デニスの妻、タラ(ケイティ・アセルトン)が生まれたばかりの子を見せにきます。独身で多くの女性と関係を持ったスティーブをからかうタラ。

妻は仕事と育児に追われ、長女のブリアンナは悩んでいると打ち明けるデニス。

公園にあるallways(alwaysの誤り?)の文字が刻まれた岩が、ブリアンナのお気に入りの場所でした。

岩の上に座るブリアンナに声をかけるスティーブ。子供の頃から知る彼女が18歳とは考えたくないと、軽い調子で話しかけます。

ブリアンナが何か話そうとした時、スティーブに医師から電話が入ります。重要な内容で2人の会話は途切れました。

行きずりの女と飼い犬のホーキングに残し、スティーブは職場に向かう準備をします。窓の外の木には刻まれた文字や印が残っていました。それを眺め物思いにふけるスティーブ。

デニスは妻から、ブリアンナが家を出て大学の寮に入りたいと望んでいると聞かされます。娘がいないと寂しい、と答えるデニス。

出動したスティーブとデニスは、乱暴なトムの運転で廃遊園地に到着しました。

あったのは焼死体です。連絡の手違いにデニスは怒りますが、焼死体の周りに全く火の気がありません。

警官は人体自然発火だ、と呟きます。死体の側に焼けた古風なドアのハンドル、そしてドラック「シンクロニック」の袋が落ちていました。

スティーブは医師の指示で頭部のCTスキャンを受けます。その際、流れ出た3つの棺を思い浮かべたスティーブ。

今日スティーブとデニスが出動したのは、冒頭に登場した男女がいたホテルの部屋です。ベットの上の女は足を蛇に噛まれています。

毒の種類を確認しようと、女に蛇の特徴を訊ねますが答えは要領を得ません。彼女には連れの男がいたと確認できました。

ホテルに蛇がいるなら一大事、しかしルイジアナ州にいる蛇に噛まれた傷と症状に思えません。

彼女の側に「シンクロニック」の袋と、それを購入した煙草店の紙袋がありました。

ホテルの従業員からエレベーターに異常があると聞かされたスティーブとデニス。

調べるとエレベーターシャフトの下に、転落してバラバラになった男の死体がありました。

女を病院に搬送するデニスは、何かの薬を服用するスティーブを苦々しく見つめます。

病院で検査の結果を聞くスティーブ。医師は彼の脳の松果体の上部に腫瘍があると告げました。

松果体は通常、加齢と共に石灰化しますが、スティーブの脳にはそれが見られず、まるで10代のようだと説明する医師。

魂のありか、第3の目とも呼ばれる松果体の働きが、あなたに良い影響を与えているかも、と言葉を続けます。

腫瘍はゆっくりとした死をもたらすのか、スティーブは医師に訊ねました。

同じ頃、両親のデニスとタラに別れを告げ、家を出て大学の寮に向かうブリアンナ。

そして余命は6週間か、60年か判らないが、腫瘍の治療は必要だと言われたスティーブ。

医師は支援団体や代替医療、家族への連絡方法のパンフレットを渡します。スティーブはデニスに電話しようとして止めます。

デニスはブリアンナとバスケをしながら会話を交わします。将来を心配する父と思い悩む娘の会話は、すれ違っていました。

酒場でスティーブの誕生日を祝ったデニスは、彼にランプのオブジェをプレゼントします。

自分の結婚生活への疑念を口にし、気楽な独り身のスティーブをデニスは羨みますが、何の感動も無い10年を過ごしたと応じるスティーブ。

目の前で鎮痛剤を飲んだスティーブに、懸念を口にしたデニス。スティーブは中毒にならないと答えます。

ある夜、スティーブとデニスは大学の寮に出動します。2階のバルコニーに1人が倒れ、1人が眠っていました。

目覚めた女学生に自分は警官ではないと伝え、倒れた学生が何を服用したか尋ねるスティーブ。

彼女はブリアンナも一緒にドラッグを使用したと答えます。その姿はありません。

ブリアンナが座っていた椅子に、「シンクロニック」の袋が残されていました。デニスは妻タラに娘の行方不明を伝えます。

スティーブは「シンクロニック」を売る煙草店を訪れ、それを全て買い取ります。在庫はあるか聞くと、製造中止になったと伝える店員。

このドラックで人が死んだとスティーブが怒鳴ります。それを背後から男が見ていました。

男は店を出たスティーブに、高値で「シンクロニック」を売ってくれと頼みます。強い剣幕で拒絶したスティーブ。

デニスはブリアンナを探す様々な手を尽くしますが、娘は死んでいないと噛みつくタラ。夫婦は険悪な関係になっていきます。

ある夜スティーブは、誰かが自宅に忍び込んだと気付きます。侵入者は「シンクロニック」を買おうとした男でした。

危害を加える意図は無い、と男はケルマーニ博士(ラミズ・モンセフ)だと名乗ります。

自分は「シンクロニック」を開発した化学者だと言うケルマーニ。彼は違法にならない合成ドラッグの製造に従事していました。

幻覚物質DMTに似たドラッグを開発していたと語る彼は、スティーブの松果体に異常があると聞き、話し始めます。

「シンクロニック」は松果体に働きかけ、通常と異なる別の感覚で時間を体験させる。

それは同じ場所であっても、針を落とす場所で異なる音が流れるレコードのようなもの。

「シンクロニック」はそのレコード針の役割を果たす、と説明するケルマーニ博士。

大人は部分的にしか過去に行かず、過去の側から見れば幽霊のような存在に過ぎない。

しかし松果体が活性化している若者が使用すると、実体を持ち過去を訪れ、時にはそのまま帰えらないと告げました。

「シンクロニック」は過去へのタイムトラベルを可能にする薬品です。

それに気付き製造を中止し、販売中の「シンクロニック」を回収・処分しようと店舗を回り買い集めた博士。

最後に訪れたのがスティーブが購入した店でした。「シンクロニック」は全て焼いて処分したと告げるスティーブ。

彼は博士を帰します。しかしゴミ箱の中に「シンクロニック」が残されていました。

腫瘍の放射線治療を受けつつ、救命士の仕事を続けるスティーブ。その姿にデニスは疑念を抱いています。

デニスに対し共に医学を学んでいた頃、物理学に興味を持っていたスティーブは、アインシュタイン博士のあるエピソードを話します。

アインシュタインの友人、ミケーレ・ベッソが亡くなった際、彼の妻にこんな手紙を送りました。

「彼はこの奇妙な世界を去りましたが、何の意味もありません。私たちのような物理学を信じる者には、過去・現在・未来など頑固な幻想に過ぎないのです」

放射線治療の後遺症で吐いたスティーブ。デニスは本部からモルヒネの在庫が合わないと聞き、彼を疑います。

娘が行方不明になって以来、妻との関係が険悪なデニスは、家に帰らなくなっていました。

ある日、ブードゥ教の扮装をした男の救護に向かった2人。酔ったその男とは話しが通じません。

吐いてしまったスティーブを見て、モルヒネの件を追求するデニス。スティーブもお前は良き妻や家族に対する、不満しか口にしないと責めます。

2人は搬送すべき男の前で喧嘩を始め、その場を去るスティーブ。

スティーブは自宅に戻り酒を口にします。TVは行方不明のブリアンナについて報じていました。

ゴミ箱の中にあった「シンクロニック」を手に取り、服用するスティーブ。

何も起きない様子です。TV放送が終わりスイッチを切ろうとした時、彼の周囲の光景が変化し始めます。

以下、『シンクロニック』のネタバレ・結末の記載がございます。『シンクロニック』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019 BW2 ABYSS HOLDINGS PTY LTD AND SCREEN QUEENSLAND PTY LTD All rights reserved.

スティーブの自宅であるはずの場所は、未開の湿地帯に変化しました。彼の体もこの世界で実体化していきます。

水の中にいたスティーブが、慌てて飛び乗ったソファも消え去ります。「現在」に属するものは彼以外消失しました。

周囲の物に触れることも、花の香りを嗅ぐことも可能です。しかし彼の体が不安定化した時、突如襲ってくる鎧姿の男。

それは新大陸を征服に現れたスペイン人でしょうか。おぼろげな姿となったスティーブを幽霊と思ったようです。

スティーブが剣から身をかわした時、彼は元の時代の自宅に帰っていました。彼を不安そうに見つめる飼い犬のホーキング。

彼の体は泥水で汚れ、床には剣で傷付けられた跡が残っていました。

ケルマーニ博士が話した、「シンクロニック」服用による過去へのタイムトラベル現象が起きたようです。

それを証明し、万一の場合にデニスに残そうと、タイムトラベル実験を撮影しながら行うスティーブ。

彼は「シンクロニック」を飲むと7分間だけ、現在地と同じ過去の場所を訪れるとカメラに説明します。

ドラックを飲んだブリアンナは、こうして過去のいずれかの時代に姿を消した、必ず救出方法を探すと話すスティーブ。

カメラの映像からスティーブは消えて行きます。今度は原始人のいる氷河期時代に到着したようです。

7分後、凍え死にしそうな彼がカメラの映像に現れました。前回とは違う時代に跳んだ、ドラックを使用した場所が違った結果だと説明するスティーブ。

今回は防寒着を着込み、薪を用意して同じ場所で実験を再開します。すると先ほど同じ氷河期時代に到着しました。

火を起こし暖をとっていると、原始人の男が現れます。彼との物理的接触は可能でした。敵意は無いと示し、原始人と火を囲むスティーブ。

現在に戻った彼は、「シンクロニック」が効力を発した場所が、到着する時代を決定するとカメラに語ります。

しかし7分後に戻って来るなら、ブリアンナが消えた理由は謎のままでした。

デニスとタラ夫婦の心は離れていました。放射線治療を受けるスティーブの脳裏に流された棺が、かつて公園の岩に座るブリアンナと交わした会話が甦ります。

デニスの人生が絶不調だった時、俺がタラと出会い、2人を引き合わせた。そして君が生まれた。君は父と同じになる必要はなく、幸せになるといい。

記憶の中で彼は、ブリアンナにそう伝えていました。

その頃デニスは1人、公園にある岩に座っていました。治療から帰るスティーブは、ケルマーニ博士が自殺したニュースを聞きます。

また実験を試みるデニス。彼は「シンクロニック」を使用した者が、過去からコインやドアノブを持って現在に戻ったと気付いていました。

自分は過去に物を持って行けた。今回は過去に愛犬ホーキングを連れて行き、共に帰還できるか試みるスティーブ。

彼が到着したのは、人種差別が激しい1910~20年代でしょうか。白人の家の中に現れた彼は、不審者と叫ばれ逃げました。

7分を過ぎても元の時代に戻れません。そこで彼は夜まで身を隠し、「シンクロニック」を服用しあの白人の家に忍び込みます。

服用後7分間が過ぎる前に、住人が姿を現します。白人に殴りかかりますが、体は不安定で接触することができません。

ホーキングが離れました。引綱を掴みましたがそこにKKK団員が現れ発砲します。

スティーブは現代に戻ることが出来ました。しかし手元にはホーキングの引き綱の一部しかありません。

家の外に不安定な姿のホーキングが見えました。消えゆく愛犬を見守るしかないスティーブ。

薬の効果が切れる7分後、現代に戻るには同じ場所にいる必要があります。ブリアンナはそこを離れたため戻れなくなったのです。

過去で「シンクロニック」を使用しても、現代に帰還できると確認できました。

しかし物であれ動物であれ身に付けるか接触しないと、共に時間を越えることはできません。

残る「シンクロニック」は僅かです。愛犬ホーキングを連れ戻すことを断念するスティーブ。

仲が良かった頃の、タラとの会話を思い出すデニス。共通の友人スティーブについて語っていました。

ニューオーリンズをハリケーン・カトリーナが襲った際、スティーブの両親と幼くして死んだ妹の棺は流されます。

連絡を受けたスティーブとデニスが駆けつけた時、棺の蓋は略奪者の手で開けられ、それを見たデニスは気絶します。

しかしスティーブは、妹の遺骸を自ら棺に戻しました。それが彼の30歳の誕生日だと話すデニス。

その頃1人酒を飲み、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と違い過去は地獄だと毒づくスティーブ。

「シンクロニック」は残り3錠しかありません。スティーブはブリアンナが消えた大学寮の2階のバルコニーに向かいます。

撮影しながら「シンクロニック」を服用するスティーブ。2階にいた彼は、過去に到着すると同時に地上に落ちました。

ブリアンナの名を呼びますが、反応はありません。そこにはブードゥー教の儀式を行う男たちがいます。

彼らはスティーブを召喚した精霊だと思います。男たちに追われ、元の高さに戻るように木に登るスティーブ。

彼は大学寮に帰れました。現在にある物が、過去の世界に跳んだ自分をつなぎ止める鍵だと気付きます。

現れたブリアンナのルームメイトは、彼女はどこか別の場所に移動し、ドラッグを使用したようだと告げました。

久々に酒場でデニスと会うスティーブ。ブリアンナが消えて以来、妻とは離婚同然だと話すデニス。

苦しい胸の内を語り、ブリアンナに会いたいと泣くデニスに、自分の人生は知っての通り最悪だと告げるスティーブ。

お前は独身の俺に、ジェームズ・ボンドの姿を見ているかもしれないが、実際はチャーリー・シーンだと自嘲します。

お前がタラと築いた家庭を羨ましく思っていた、そう言葉を続けます。

俺は脳に腫瘍がありいずれ死ぬ、残る人生は有意義なものとしたい、と語るスティーブ。

事情を聞かされていなかったデニスは怒ります。モルヒネを横領していたのは同僚のトムと告げ、2人はわだかまりを解きました。

物事には死より悪いものがあると語ったスティーブは、家族の墓の前でデニスにタイムトラベルを撮った映像を見せます。

デニスは証拠を見て事態を理解しました。ブリアンナを連れ戻すと告げるスティーブに、帰れる保証は無いので自分がやると言うデニス。

「シンクロニック」を使った過去への旅は、松果体が活性化しているスティーブにしか行えません。

デニスを説得した彼は、娘が時間の中で迷子になったら、どんな行動をすると思うと彼に尋ねます。

未来に向けたメッセージを残すと思う、と答えたデニス。

2人は公園の、ブリアンナがお気に入りだった岩に向かいます。そこにはallwaysと刻まれていました。

岩に座ると、残る2錠のうち1つを口にするスティーブ。彼は無事戻ったら全て説明すると話します。

スティーブは岩に刻まれたメッセージを、ありがちなスペルミスだと言います(alwaysを誤って書く例が多い)。

ブリアンナの未来にあてたメッセージなら、目に付くよう故意に間違えたのでしょうか。all waysで「全ての方法」という意味でしょうか。

昔娘に質問されて、人生はどう死ぬかではなく、無限の可能性の中でどう生きるかだと気付かされた、と語るデニス。

彼が娘に語った最後の言葉を告げようとした時、スティーブの姿が消えました。

岩に腰かけた彼が着いたのは、南北戦争の戦場と化したニューオリンズでしょうか。

そこは砲弾が降り注ぐ場所でした。スティーブは足を負傷しますが、土嚢が積まれた陣地の中に飛び込みます。

そこには無数の戦死者の遺体がありました。ブリアンナの名を呼ぶスティーブ。

現代ではデニスが、妻タラにたまらなく君が必要だ、と電話をかけていました。

スティーブはブリアンナの姿を見つけ、2人は抱き合って喜びます。推測通り彼女はあの岩からタイムトラベルしていました。

どうしてここに来たと聞かれメッセージのおかげ、とスティーブは答えます。何の意味か判らないブリアンナ。

ともかく家に帰ろうと、最後の「シンクロニック」を彼女に飲ませるスティーブ。

効果が切れる時あの岩にいれば、彼もブリアンナと共にいれば現代へ帰れます。2人は岩を目指します。

薬の効果が現れたら、何か現在の物体が現れる。その時にその場にいないと、元の時代には永遠に帰れないと説明するスティーブ。

「シンクロニック」の効果が現れ始めます。2人は岩にたどり着きましたが、そこに男が現れます。

それは銃を持った男です。スティーブを逃亡奴隷と判断した男は銃を突き付けます。

彼女を岩にとどまらせ、男の指示に従いひざまずくスティーブ。

ブリアンナの姿が消え始めます。男は不発弾を踏み粉々に吹き飛びますが、彼女の姿はありません。

スティーブはブリアンナが消えた岩の上に座ります。その岩には文字が刻まれていません。

現在のニューオーリンズに戻ったブリアンナは、父デニスと再会していました。

「シンクロニック」の効果の余韻でしょうか、岩の上におぼろげな姿のスティーブが座っていました。

消えゆくスティーブと握手を交わすデニス。2人は黙って見つめ合います。

岩に文字を刻んだのはスティーブでしょうか。

その文字はallways。alwaysであれば、「いつまでも」を意味します…。

映画『シンクロニック』の感想と評価

参考映像:『ある日どこかで』(1980)

バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)はデロリアン、『TENET テネット』(2020)は逆行装置。映画の中では様々な手段で時間を旅行します。

中には持って生まれた特殊能力で時間を旅する人物を描く、SFとはまた違う切り口の『アバウト・タイム 愛おしい時間について』(2013)のような作品もありました。

本作で登場する脳内の器官・松果体。現在は研究が進みましたが、過去には哲学者に「魂のありか」と呼ばれ、ヨガの世界ではチャクラの1つとされています。

この器官が覚醒すれば「第3の目」になり、超能力が使えるという設定は、発展して手塚治虫の漫画「三つ目がとおる」や、「ドラゴンボール」の天津飯など、様々な作品に登場します。

『シンクロニック』は個人の能力として働く松果体と、ドラッグの合わせ技で過去へ旅する、時間は超えるが空間は超えないタイムトラベルを描きます。

中々ユニークな設定の作品です。他にどんな変わり種タイムトラベルがあるでしょうか。

行きたい時代のアイテムを身に付け催眠術を利用する、なりきりと思い込みで時間を旅する、リチャード・マシスン原作・脚本の『ある日どこかで』(1980)という映画があります。

公開時人気が無かった『ある日どこかで』は、後に注目されSFファン以外からも支持され、クリストファー・リーヴにとって『スーパーマン』(1978)に並ぶ代表作になりました。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と異なる「暗い時間旅行」


(C)2019 RED FLOWER FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED.

コンビで監督し、製作・脚本・撮影・編集と様々なパートを手分けして担当、次々奇抜なSF映画を生み出すアーロン・ムーアヘッド&ジャスティン・ベンソン。

2人が高い評価を受けた『アルカディア』に続き製作したのが本作。松果体への刺激が人間の能力を開花させる設定は、H・P・ラヴクラフトの短編小説「彼方より」の影響だと語っています。

この映画のアイデアは、バラ色のタイムトラベル映画、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のアンチテーゼとして誕生しました。

多くの人にとって、過去は明るい世界ではないだろう。そもそも『バック・トゥ~』の主人公マーティが黒人だったら、とんでもない目に遭うのではないか、というのが企画の原点です。

その舞台に、有色人種にとって複雑な歴史を持つニューオリンズはうってつけです。また同時に「シンクロニック」のような、デザイナードラックが蔓延する地でもあります。

そして監督たちが長期間住みたい、多くの映画製作に関わる人々が働きたいと思う場所はどこか。様々な検討の末、撮影場所にニューオリンズが選ばれました。

『アルカディア』を見て気に入ったエージェントのお陰で、幸運にも本作の脚本はアンソニー・マッキーとジェイミー・ドーナンの目に触れました。

こうして2人の出演も決定し、従来の彼らの作品とは異なる、スケールの大きなSF映画が誕生したのです。

本作を深く考察するファンが続出!


(C)2019 RED FLOWER FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED.

あらすじネタバレ紹介では、重要な役割を果たす岩に刻まれた文字を紹介しました。

この文字に類する言葉は、劇中に様々な形で登場しています。その意味を巡り、映画を深堀りした人々が様々な解釈を表明し、ちょっとした盛り上がりを見せています。

他にも主人公の名はスティーブ、彼の飼い犬はホーキング。世界的理論物理学者で、映画『博士と彼女のセオリー』(2014)に描かれたスティーブン・ホーキング博士にちなむものです。

また劇中にアインシュタイン博士の手紙が引用されますが、主人公の飼い犬は『バック・トゥ~』のドクの愛犬、アインシュタインと同じ犬種。

他にも主人公の家の外にある木の使い方や、セリフや細かい描写に深く解釈したいものが盛りだくさん。

タイムトラベルを扱った、難解だが考察しがいのある映画、『ドニー・ダーコ』(2001)や『バタフライ・エフェクト』(2004)同様、本作も様々な議論を呼んでいます。

ただし、裏を返せば明確な答えを提示しない映画です。何だかよく判らない説明不足のSF映画、そんな感想も多いようです。

それでも見れば見るほど奥深い要素を持つ映画だと、強調しておきましょう。

まとめ


(C)2019 RED FLOWER FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED.

予想に違わぬユニークな、SFファン必見の映画『シンクロニック』。深堀りが楽しい作品です。

本作はニューオーリンズの歴史を知るにも最適。ハリケーン・カトリーナで被害を受けた以降、復興支援も兼ねてこの地は多くの映画のロケ地になりました。

劇中の登場する廃墟となった遊園地も、ハリケーン被害で廃墟化した場所。以降様々な映画のロケ地に使用されています。そんな点にも注目して下さい。

ニューオーリンズを背景に描かれた本作の登場人物は、皆が何らかの孤独を抱えた人物です。

そんな人物が奇妙なタイムトラベル体験を通じ、ある境地にたどり着く。寂しげで美しい風景の下で描く本作のストーリーに、多くの人が魅了されています。

最初に紹介した異色のタイムトラベル映画、『ある日どこかで』は詩的で美しく、そして「幸福なバットエンド」を迎える作品です。

『シンクロニック』も同様です。優れたSF作品には詩的な要素がある、そう思いませんか?

次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…


(C)2019 Shaw Brothers Pictures International Limited, J.Q. Pictures Limited. ALL RIGHTS RESERVED

次回第13回は、誰が敵で誰が味方か!国際テロ組織を相手に世界各地で死闘を繰り広げるアクション映画『インビジブル・スパイ』を紹介します。お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら




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