連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第117回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第117回は、ショーン・パトリック・オライリー監督が演出を務めた、映画『ザ・ローブ THE HEROES HIGHT VOLTAGE』です。
世界中が「パルス」と呼ばれる災害に見舞われ、数十億人が死亡。急性放射能症候群による影響で特殊能力を持つ「超人」が誕生しました。
特殊能力を犯罪に利用する超人も現れ、社会が不安定になったため、アメリカは超人に対する法を整備し、「サン・ティブロン」という超人専用の巨大刑務所を設立。
中でも際立った天才、ジュリア・ローブこと通称ザ・ローブなどが収容されていました。
虐げられた超人たちを開放するため、ザ・ローブは超能力チームを結成し、サン・ティブロンを脱出しようとします。
映画『ザ・ローブ THE HEROES HIGHT VOLTAGE』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
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CONTENTS
映画『ザ・ローブ THE HEROES HIGHT VOLTAGE』の作品情報
【公開】
2023年(アメリカ映画)
【原作】
グランド・チャステーンのSFグラフィック・ノベル『Corrective Measures』
【監督・脚本】
ショーン・パトリック・オライリー
【キャスト】
ブルース・ウィリス、マイケル・ルーカー、トム・キャヴァナー、ブレナン・メヒア、ケヴィン・ゼガーズ、ダン・ペイン、ヘイリー・セイルズ、ジョン・デサンティス
【作品概要】
『アンダー・ザ・シー ぼくたち海底王国パトロール隊』(2018)で脚本・監督を務め、自らも声の出演をしたショーン・パトリック・オライリーが脚本・製作・監督を務めた、アメリカのSFアクション作品。
グランド・チャステーン原作の人気SFグラフィック・ノベル『Corrective Measures』を映像化。ヒューマントラストシネマ渋谷&シネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2023」上映作品です。
「ダイ・ハード」シリーズや『ミスター・ガラス』(2019)のブルース・ウィリスが主演を務め、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズのマイケル・ルーカーと共演しています。
映画『ザ・ローブ THE HEROES HIGHT VOLTAGE』のあらすじとネタバレ
世界中が「パルス」と呼ばれる災害に見舞われ、主要都市も荒廃し資源不足に陥り暴動が発生。
急性放射線症候群で数十億人が死亡し、遺伝子の突然変異は100倍に増加。その影響で特殊能力を持つ「超人」が誕生しました。
その特殊能力を犯罪に利用する超人も現れ、社会が不安定になったため、アメリカは超人に対する法を整備し、彼らを取り締まりました。
そして「サン・ティブロン」という超人専用の巨大刑務所を設立。超人たちのなかでも際立った天才、ジュリアス・ローブこと通称「ザ・ローブ」や、自ら裁きを与える自警行為で50名以上の犯罪者を殺害したウォルター・ロックこと通称「ペイバック」などが収容されていました。
サン・ティブロンは通称「監督」と呼ばれる刑務所長のウォルトン・デヴリンが、マスコミや世間から非難されるほど厳しく管理しており、刑務所内では「ナリー」という装置によって超人たちの特殊能力は無効化されていました。
さらに刑務所内の照明や水、食事にも能力無効化の成分が含まれています。つまりどんな強力な特殊能力を持つ超人でも、ここではただの人間です。
他人の気持ちが分かる「共感」の能力を持つ超人ディエゴ・ディアスが、軽犯罪でサン・ティブロンに新たに収容されることに。
ディエゴは、サン・ティブロン初の囚人であるゴードン・トゥイーディーこと通称「ザ・コンダクター」から、厳重かつ特別なセキュリティーの独房に収容されたザ・ローブの存在を知らされます。
5回目の仮釈放の審理を却下されたザ・ローブは、デヴリンから「“囚人ファイト”が上にバレて賭けで儲けられなくなった」、「だから定年退職前に、お前の全財産10億ドルを私に寄越せ。拒否すればロボトミー手術をしてお前の自慢のマインドをズタボロにしてやる」と脅迫されました。
ロボトミー手術とは、うつ病・統合失調症・その他の人格障害などの精神疾患を患者から取り除くことを目的とした精神療法ですが、頭蓋骨に穴を開け、脳の前頭葉の一部を切除するという非人道的なものです。
その後、ローブはサン・ティブロンに勤務する女医のイザベル・ジョセフスによる健診を受けに医務室へ行きました。
しかしその健診に、騒ぎを起こして医務室に送られたペイバックが乱入。イザベルの首を絞めて気絶させたうえで、大金を盗み大勢を殺した重犯罪者であるザ・ローブを殺そうとします。
ちょうどそこへディエゴが通りかかり、ペイバックを取り押さえました。このザ・ローブを救った行為により、ディエゴは囚人たちから一目置かれる存在となります。
そしてディエゴはザ・ローブの独房に呼ばれ、扉越しに対峙した彼から「食堂の当番を代わってくれ、ダリウスは手根管症候群でね」と頼まれました。
ディエゴが「僕に借りがあるのに?」というと、ザ・ローブは「俺の分のデザートを譲っただろう、友人にもなってやる」と答えました。
ディエゴはその場ですぐ返事はしませんでしたが、ザ・ローブからの頼みを引き受けることにしました。
ディエゴはゴードンに、食堂当番の仕事を教えてくれと頼みます。この時、ゴードンは20年の刑期を務めたものの刑務所内で自分の居場所を持てていないことを再認識させられたうえに、仮釈放の心理を却下されてしまい、気分はどん底でした。
そんなゴードンに、超人のダリウス・デソウザがスプーンと針金を手渡します。ゴードンは看守の目を盗み、それを使ってナリーを外しました。
そしてディエゴに「どん底の私と友達になってくれてありがとう」と感謝を伝えたうえで、ザ・コンダクターと呼ばれる理由を知らしめるために自身の能力を発動します。
ゴードンの能力は、体に電気を通し操る「伝導体(コンダクター)」です。
ゴードンの「伝導体」により、食堂で火災が発生。食堂にいた看守のボブが殺害され、刑務所の発電機も停止させられたのです。
非常用発電機もダメになりましたが、なんとか電力が復旧し、ペイバックや超人のダイヤモンド・ジムらによる庭での暴動はナリーから発せられる強烈な電流によって鎮圧されました。
デヴリンの指示の下、看守たちが囚人たちを独房に戻している頃、騒ぎを起こした張本人であるゴードンは1人、医務室で感傷に浸っていました。
鉄格子のない景色を堪能するゴードン。看守のモラレスに捕まり、撲殺されました。
ゴードンの始末を命じたデヴリンは、ザ・ローブが何か計画を立てていると察し、彼から特別扱いされているディエゴを呼び出します。
時間の流れが遅くなっている懲罰房を案内してディエゴを軽く脅したうえで、デヴリンは、ザ・ローブから聞いたことは全て自分に報告するよう命じました。
映画『ザ・ローブ THE HEROES HIGHT VOLTAGE』の感想と評価
超人専用の巨大刑務所「サン・ティブロン」の中で、厳重かつ特別なセキュリティーで封じられた独房にいる超人ザ・ローブ。
作中で彼の人の心を操る能力(マインド・コントロール)が使われたのは、ダニーを操った時だけでした。
ですがザ・ローブにはもう1つ、他者と自分の精神を入れ替えるという特殊能力を持っていたことが、物語の終盤で明かされたのです。
それはザ・ローブを調べ知り尽くしていると自負するデヴリンでさえ知らなかった能力。観ている人もビックリ仰天することでしょう。
ザ・ローブが水面下で実行していた計画とは、暴動を起こして虐げられている仲間を解放すること。
ザ・ローブのおかげで自分の能力を取り戻した超人たちはもちろん、デヴリンに虐げられていたジョンソンたち刑務所の者たちの心も救われました。
ゴードンをはじめ、ダイヤモンド・ジムやペイバックたち超人が日頃の鬱憤を晴らしていく暴動シーンは、彼らそれぞれの能力に心が躍りますし、どこかスカッと爽快な気持ちになります。
そして諸悪の根源たるデヴリンが懲罰房行きになりいなくなったため、どこかピリリと張りつめていた刑務所内部の空気が変わり、ジョンソンたちの顔は晴れやかなものでした。
能力を使って犯罪をしたものの正義の天才ザ・ローブと、恐怖と権力で超人と看守を虐げ従わせている邪悪な刑務所長デヴリンの、対話による心理戦はスリリングでとても面白いです。
まとめ
人の心を操る能力(マインド・コントロール)を持つ超人ザ・ローブが、日々虐げられている仲間を護るべく立ち上がる、アメリカのSFアクション作品でした。
エンドクレジット前、デヴリンの強い推薦により、3年の刑期を終えたダリウスの釈放が決定したと、彼に言い渡される場面が描かれています。
釈放を言い渡されたダリウスは、「蟻(アント)よりキモイのは?」「“伯父(アンクル)”さ」と冗談を言うほどに喜びました。
エンドクレジット後、「パルス・ウォッチ」という報道番組のキャスター、サラとグレンが、サン・ティブロンに関する新たなニュースを伝えている場面が描かれていました。
「サン・ティブロンで暴動が起きた後、囚人が1名脱獄しました」、「デヴリン監督の退職日に、囚人は能力を取り戻しました」。
「その原因は不明ですが、現在その囚人は再び能力を封じられ、独房に入れられました」、「脱獄した囚人は通称ツェッド、逃亡中の様子が撮影されましたが、撮影者は殺されました」。
ツェッドが撮影者を殺そうとする映像が流れ、サラは「皆さん、屋内にとどまり、戸締りをしてください」、「彼はウイルスをばらまく吸血ゾンビです」と言いました。
超能力者と人間の差別による苦しみと戦いを描いた、スリリングでクレイジーなアメコミ発のSFアクション映画が観たい人に、とてもオススメな作品です。