連載コラム「Amazonプライムおすすめ映画館」第24回
ジョージ・ギャロが監督を務めた、2022年製作のアメリカのサスペンスドラマ映画『ブラッド・チェイサー 呪術捜査線』。
アメリカ・ミシシッピ州では、若者が犠牲となる連続誘拐事件が発生。遺体は体の一部が切り取られていました。
殺人課の刑事ボイドはこの事件の捜査を開始。しかし、事件の異様さから捜査は難航してしまいます。
遺留品からアフリカが関係していると見たボイドは、アフリカ民俗学の権威であるマックルズ教授に協力を要請。教授の知見から、これらの殺人が呪術の生贄の儀式であることが分かり………。
映画『ブラッド・チェイサー 呪術捜査線』のネタバレあらすじと作品解説をご紹介いたします。
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映画『ブラッド・チェイサー 呪術捜査線』の作品情報
【配信】
2023年(アメリカ映画)
【脚本】
ロバート・T・バウアーソックス、ジェニファー・レモン、フランチェスコ・チンクエマーニ、ジョルジア・イアノーネ・ルカ、ジリベルト・フェルディナンド・デッローモ
【監督】
ジョージ・ギャロ
【キャスト】
モーガン・フリーマン、コール・ハウザー、ピーター・ストーメア、ヴァーノン・デイヴィス、ジュゼッペ・ジーノ、ブライアン・カーランダー、ミュリエル・ヒレール、ルーク・ストラット=マクルーア、ジュリー・ロット、デスティニー・ローレン
【作品概要】
『ミッドナイト・ラン』(1988)の脚本を務めたジョージ・ギャロが監督を務めた、アメリカのサスペンスドラマ作品です。
『セブン』(1995)のモーガン・フリーマンがアフリカ民俗学の権威であるマックルズ教授役を、『ワイルド・スピードX2』(2003)や『リーサル・バレット』(2022)のコール・ハウザーが殺人課の刑事ルーカス・ボイド役を演じています。
映画『ブラッド・チェイサー 呪術捜査線』のあらすじとネタバレ
イタリア・ローマ。夜の街を全力疾走している黒人の男がいました。男は立ちはだかる警官を鋭利な刃物で瞬殺し、追跡する刑事の銃撃にも怯まず、闇へと姿を消しました。
アメリカ・ミシシッピ州では、10代の若者が犠牲となる連続誘拐殺人事件が発生。アメリカ警察の殺人課の刑事ルーカス・ボイドは、相棒のマリア・カーシュと一緒に捜査を開始します。
しかし、事件の異様さから捜査は難航。1人目の被害者は14〜15歳くらいの白人の少女で、メスのような鋭いもので両手・性器・両目と瞼を切り取られていたのです。
2人目の被害者は10歳くらいのヒスパニック系の少年で、同様の手口で身体の一部を切り取られていました。
しかも少年の遺体が発見された現場近くで、偶然釣りに来ていた男性の遺体が発見されました。
男性は生きたまま心臓を抜き取られたのち、犯人に手早く喉を切られ殺されていました。
少年の殺害現場には祭壇があり、その壁には謎の文字が残されていました。また、現場からは純金を粉状にしたものや、アフリカ原産のルイボスという植物や謎の薬草があったのです。
これらの遺留品からアフリカが関係していると見たボイドは、アフリカ民俗学の権威であるマックルズ教授に協力を要請。
マックルズ教授の知見から、犯人は祈祷師で、これらの殺人は「ムーティ」という呪術の儀式によるものだと突き止めます。
「ムーティ」とはズールー語で治療や薬を意味するもので、人の肉体を使って治療する呪術です。
製薬会社が、中絶された胎児の幹細胞とワクチンの製造に使うこととコンセプトは同じ。やり方が原始的なだけです。
形而上学(目に見えない本質を追究する学問)な意味でいえば、その考え方は「戦士に関わる伝統」と結びついていて、ムーティは戦士を作るための儀式であり、また戦士にパワーを与えるための儀式でもあるのです。
祈祷師、またはまじない師や呪医と呼ばれる者たちは、何世紀にもわたってムーティを行ってきました。
ビジネスマンや政治家でも、セールスマン、刑事など、人々は個人的な成功とパワーと保護を求めて、ムーティに金を払います。
ムーティが個人的な力を与え、優位に立たせてくれると信じているからです。
ムーティに使われる人の肉体の部位によって効果は変わるため、求めるパワーに応じて必要な部位を取り出します。
性器は男に精力と幸運をもたらし、目は先見の明と明確な展望、脳は知識と政治的権力を与えてくれます。ですが、求めるパワーを得るためには、神々を目覚めさせなければなりません。
神々を目覚めさせるには、生きたまま身体の一部を切り取られる犠牲者の耳をつんざくような叫び声が必要不可欠。悲鳴が強烈であるほど、ムーティの効果は増すのです。
それから切り取られた犠牲者の身体の部位は血や薬草、土や金などと混ぜ合わせます。それがパワーを集め、維持するのに役立つと信じられているからです。
こうして出来上がった霊薬を、求めるパワーを得るために客か祈祷師が飲みます。それで無敵の戦士になれると信じて。
ボンドにそう説明した後、マックルズ教授は「壁にはスワヒリ語かズールー語で、“ここでパワーを手に入れ、この私自身がパワーとなる”と記されている」「この2件の殺人はただの儀式の準備にすぎない。祈祷師が仕事をするための景気づけだ」といいました。
映画『ブラッド・チェイサー 呪術捜査線』の感想と評価
作中で起きた殺人は、アフリカで何世紀にもわたって行われている治療と称した呪術による儀式殺人「ムーティ」によるものでした。
ファーナーの依頼を受けた祈祷師のランドクが行うそれは想像以上にグロくて、背筋が凍りつくほど恐ろしいです。
しかもランドクはアメリカだけではなく、ヨーロッパ中で同様の事件を起こしていました。それが全てファーナーの依頼で行ったことなのかは作中で明言されていません。
残忍なことを何の躊躇いもなくやるランドク。彼は鋭いナイフ1本で立ちはだかる警官隊に立ち向かい、イタリアとアメリカで4人の警官を刺殺または瀕死の重傷を負わせます。
作中で見せるランドクの驚異的な身体能力は、自らが行うムーティによって得た力なのか。凄いですが、そう思うとゾッとします。
ランドクがマックルズ教授の居場所をすぐに突き止めることができたのは、彼らが9ヶ月前に知り合い、ローマでの講義後も連絡を取り合っていた仲だからでしょう。
味方だと思われたマックルズ教授が、まさか犯人のランドクと繋がっていたなんて、思いもしなかった衝撃の事実が物語の終盤で明かされます。
ですがマックルズ教授とランドクは仲間というわけではなかったようで、マックルズ教授によって逃げたランドクは捕まり殺されました。
作中で開封されなかった、ラヴァッツィ刑事宛てに送られた差出人不明の荷物。
ランドクのものと思われる目玉を、ボイドはなぜ躊躇なく食べて「よし」と言って笑ったのか、謎が深まる物語の終わり方でさらに観る人を釘付けにします。
まとめ
呪術に精通したアフリカ民俗学の権威である大学教授と、心に傷を負うアメリカのベテラン刑事が、イタリアとアメリカで起きた連続誘拐殺人事件を追うアメリカのサスペンスドラマ作品でした。
本作の見どころは、現代でもどこかで行われているといわれている呪術による儀式殺人「ムーティ」と、事件を収束するべく奮闘するイタリアとアメリカの刑事たちの姿です。
コール・ハウザー演じるボイドは、自分のせいで最愛の妻子を失い、今も心に傷を負っているベテラン刑事です。
作中ではボイドが悪夢に苦しむ姿が描かれています。物語の終盤にボイドが墓参りする場面で、その理由が明らかとなりました。
さらにボイドは、相棒のマリアが人知れず瀕死の重傷を負っていたことに加え、味方だと思っていたマックルズ教授が犯人のランドクと繋がりがあったことを隠していたことを知って精神的に限界を迎えたのか。
マックルズ教授から送られた目玉を1つ食べました。モーガン・フリーマン演じるマックルズ教授の謎めいた行動と、このボイドの姿は観る人に強烈な印象を残すことでしょう。
戦慄の儀式殺人による連続誘拐殺人事件の謎解きというミステリーと、スリリングでエンタメ要素満載なサスペンスドラマ映画が観たい人にオススメな作品です。
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