連載コラム「邦画特撮大全」第91章
今回の邦画特撮大全は『シン・仮面ライダー』を紹介します。
2021年4月3日、「仮面ライダー」生誕50周年企画発表会見での庵野秀明監督による映画『シン・仮面ライダー』の製作発表は、仮面ライダーファン・特撮ファンのみならず多くの人々を驚かせたでしょう。『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』に続き、庵野監督が日本を代表する特撮作品を手掛けるのです。
2021年公開予定の『シン・ウルトラマン』が未だ多くの謎に包まれているように、『シン・仮面ライダー』も解禁された情報はまだまだ少ないのが現状です。
今回は発表された庵野秀明監督のメッセージ、庵野監督による50周年メモリアル映像、ティザービジュアルの3つを基に『シン・仮面ライダー』の内容を予想・考察していきます。
CONTENTS
映画『シン・仮面ライダー』の作品情報
【公開予定】
2023年(日本映画)
【原作】
石ノ森章太郎
【脚本・監督】
庵野秀明
【作品概要】
1971年4月に第1作目『仮面ライダー』の放送が開始され、今年2021年で50周年を迎える仮面ライダーシリーズ。生誕50周年作品として企画された映画作品が本作『シン・仮面ライダー』です。
脚本・監督を務めるのは、今年2021年公開された『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で「エヴァンゲリオン」シリーズを完結させた庵野秀明監督。本作は庵野秀明監督から東映に持ち込まれた企画で、企画メモから今回の製作発表まで足掛け6年の歳月がかかっています。
庵野秀明監督のメッセージ・全文
50年前、当時の小学生男子のほとんどが仮面ライダーという等身大ヒーローに憧れ熱中しました。自分もその一人でした。50年前にテレビ番組から受けた多大な恩恵を、50年後に映画作品という形で少しでも恩返しをしたいという想いから本企画を始めました。
本企画は、子供の頃から続いている大人の夢を叶える作品を、大人になっても心に遺る子供の夢を描く作品を、石ノ森章太郎先生と東映生田スタジオが描いていたエポックメイキングな仮面の世界を現代に置き換えた作品を、そして、オリジナル映像を知らなくても楽しめるエンターテインメント作品を、目指し、頑張ります。
最初の企画メモから足掛け6年。コロナ禍の影響による制作スケジュールの変更から公開はほぼ2年先となりましたが、何卒よろしくお待ち願います。
脚本・監督 庵野秀明
(『シン・仮面ライダー』製作発表時コメントより)
映画『シン・仮面ライダー』を解禁済情報から内容考察!
監督メッセージから読み解く『シン・仮面ライダー』
庵野秀明監督自身の仮面ライダー体験、作品の企画意図と経緯をシンプルな言葉で綴っているメッセージ。その中の言葉でポイントになるのは、「等身大ヒーロー」「石ノ森章太郎先生と東映生田スタジオが描いていたエポックメイキングな仮面の世界を現代に置き換えた作品」の2つではないでしょうか。
まず「等身大ヒーロー」です。現在は仮面ライダーシリーズ、スーパー戦隊シリーズが長く続いているため、等身大ヒーローも一般的です。しかし『ウルトラマン』(1966)をはじめとする円谷プロダクションの作品や、ピープロダクションの『マグマ大使』(1966)、『宇宙猿人ゴリ(スペクトルマン)』(1971)など、当時のヒーローの多くは異星人が変身した巨大なものでした。川内康範が生み出した『月光仮面』をはじめ等身大のヒーローも既に登場していましたが、彼らの多くはコスチュームチェンジでした。また川内康範が生み出したヒーローたちは仏教的な思想が下地にあり神々しさを放っています。
そんな中、登場したのが『仮面ライダー』です。改造手術を受けたことによる「変身」という斬新なSF的設定と、異形のキャラクターが織りなす怪奇ムードな仮面の世界、痛快なアクション。庵野監督が少年時代に衝撃を受けたように、『仮面ライダー』の登場が「エポックメイキング」だったことは間違いないでしょう。「等身大ヒーロー」と明記したのはこうした当時の時代背景を踏まえたものではないでしょうか。
そして「石ノ森章太郎先生」と「東映生田スタジオ」という名前を明記しているのは、もちろん庵野監督の先人たちへのリスペクトです。シンプルに「オリジナル」や「原作」と表現しても良いような気もしますが、『仮面ライダー』は現在でいう所のメディアミックス作品です。石ノ森章太郎によるコミカライズとTVシリーズは、コンセプトは同じですが物語は大きく異なっています。原作者の石ノ森章太郎と制作会社の東映生田スタジオの2つを明記していることから、『シン・仮面ライダー』は萬画版とTVシリーズの2つの仮面ライダーの要素を上手く融合させた作品になると考えていいのではないでしょうか。
メモリアル映像から読み解く『シン・仮面ライダー』
参考映像:生誕50周年「仮面ライダー」メモリアル映像
次は庵野秀明監督が構成した生誕50周年「仮面ライダー」メモリアル映像を基に、『シン・仮面ライダー』を読み解いていきます。主題歌「レッツゴー‼︎ライダーキック」(作詞:石ノ森章太郎、作曲:菊池俊輔)に合わせて、本篇の映像を構成した1分40秒ほどの映像です。
まずポイントは主題歌が藤浩一(子門真人)による歌唱のものではなく、シリーズ前半で使われた主演の藤岡弘、が唄うバージョンが使用されています。『仮面ライダー』という番組タイトルの出るカットは、ファンからは「旧1号」と呼ばれる青黒い彩色のものでこれもシリーズ前半のもの。
またショッカー戦闘員の映像は一般的に知られた覆面タイプではなく、ベレー帽を被り、顔をペイントした初期タイプのものが使われています。登場しているショッカーの怪人も、蝙蝠男(第2話登場)やサラセニアン(第4話登場)など、マスクの下に演者の実際の目を眼窩に覗かせた異形性の強いシリーズ最初期の怪人たちです。
第1作目の『仮面ライダー』は“怪奇アクション”をコンセプトに製作されていました。このメモリアル映像には、怪奇色がもっとも濃厚だった頃のシリーズ初期の映像で構成されているのです。
次に注目したいのがアクション面です。まず仮面ライダーが宙を舞うトランポリンアクション、バイクアクションを分割画面で見せています。仮面ライダーはバッタの能力を持った改造人間です。トランポリンアクションはバッタの跳躍力を活かしたアクションです。そして仮面“ライダー”と名乗る以上、バイクアクションは欠かせないでしょう。
本郷猛が仮面ライダーへ変身するカットは、後期の変身ポーズをとるものではなく、バイク「サイクロン」で走りベルトに風圧を受けて変身するというシリーズ初期の映像が使われています。そして最後に一文字隼人/仮面ライダー2号の変身が挿入されています。
このメモリアル映像からは読み取れるのは、庵野秀明監督がどういった点を「仮面ライダーの肝」と考えているかです。シリーズ初期の強い怪奇色、仮面ライダーたる所以のバイクアクション、バッタの改造人間であるという特性を活かしたトランポリンアクション。メモリアル映像がこの3点を中心に構成されていることから、『シン・仮面ライダー』は作品の根底に、シリーズ初期への原点回帰があるものと考えてまず間違いないと思います。
ティザービジュアルから読み解く『シン・仮面ライダー』
黒いロングコートと赤いマフラーをはためかせ、負傷したのか左腕を押さえ身構えている仮面ライダーのティザービジュアルも同時に発表されました。変身ベルトと複眼は光っていますが、逆光で描かれているため、その姿はほとんどが闇の中で詳細は判りません。このティザービジュアルは、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021)の監督のひとりでコンセプトアートディレクターも兼任した前田真宏監督によるものです。
このシン・仮面ライダーのビジュアルを見て、『スカルマン』を思い起こした方もいるのではないでしょうか。『スカルマン』とは、いわば仮面ライダーの原点とも言えるものです。
東映の平山亨プロデューサーが最初に提案した『マスクマンK』から試行錯誤を繰り返し、『仮面天使マスクエンジェル』『十字仮面・クロスファイヤー』と企画は変遷していきました。
石ノ森章太郎が描いた白いヘルメットに赤い十字のクロスファイヤーのデザインは、製作局の毎日放送からOKが出ました。しかし石ノ森章太郎は「インパクトに欠ける」とデザインを描き直し、提出したものがスカルマンです。白い骸骨のマスクに赤い大きな目と赤いマフラーのヒーロー。配色はクロスファイヤーを引き継いでいますが、骸骨という異形性の強いものとなりました。しかしこのデザインは諸般の事情から没となり、現在の仮面ライダーの姿となったのです。『スカルマン』自体は石ノ森章太郎の手により100ページの読み切り漫画として執筆されました。
庵野秀明監督がこれまで手掛けてきた作品は、監督自身が影響を受けた作品のオマージュがふんだんに盛り込まれています。その場合オマージュの対象となった作品のみならず周辺作品の要素も多く取り込まれています。
そのため『シン・仮面ライダー』に、仮面ライダーの原点たる『スカルマン』の要素が取り込まれるのも不思議ではないでしょう。
まとめ
製作が発表されたばかりでまだまだ未知の部分が多い『シン・仮面ライダー』。
発表された庵野秀明監督のメッセージ、仮面ライダー生誕50周年メモリアル映像、ティザービジュアルの3つから推察するに、シリーズの原点をベースに異形の仮面のヒーローが現代に蘇える作品と考えて間違いはないでしょう。