Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2022/12/17
Update

【ネタバレ】ニキータ|結末考察とあらすじ感想。女性暗殺者が真に強くなり“愛と葛藤”のラストで出した“生きざま”|すべての映画はアクションから始まる33

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第33回

日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。

第33回は、1990年製作のフランス映画『ニキータ』

パリを舞台に、暗殺者に抜擢された女性の愛と葛藤をスタイリッシュなガンアクションを交えて贈る、リュック・ベッソン監督作です。

【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら

映画『ニキータ』の作品情報

(C)by Gaomont- Gaomont Production-Cecchi Gori Tiger Cinematografica 1990.

【公開】
1990年(フランス映画)

【原題】
Nikita

【監督・脚本】
リュック・ベッソン

【製作】
パトリス・ルドゥー

【製作総指揮】
クロード・ベッソン、ジェローム・シャロー

【撮影】
ティエリー・アルボガスト

【音楽】
エリック・セラ

【キャスト】
アンヌ・パリロー、ジャン=ユーグ・アングラード、チェッキー・カリョ、ジャンヌ・モロー、ジャン・レノ

【作品概要】
パリを舞台に、政府の秘密工作員となった女性ニキータの愛と葛藤を描いた1990年製作のロマンティック・アクション。

監督・脚本は、『グラン・ブルー』(1988)、『レオン』(1995)のリュック・ベッソン。ニキータ役を、製作当時に彼の妻だったアンヌ・パリローが演じました。

共演は『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』(1987)のジャン・ユーグ・アングラード、『死刑台のエレベーター』(1958)のジャンヌ・モロー、『グラン・ブルー』のジャン・レノ。

音楽を、ベッソンとは何度もタッグを組んできたエリック・セラが担当しています。

映画『ニキータ』のあらすじとネタバレ


(C)by Gaomont- Gaomont Production-Cecchi Gori Tiger Cinematografica 1990.

フランス・パリのある日の深夜に、麻薬中毒の少年少女たちが薬局に忍び込みます。

駆け付けた警察隊との激しい銃撃戦の末、少女を一人残し全員が死亡。彼女は保護しようとした警官を射殺してしまいます。

警察に連行されるも素性を明かさず、男性名の「ニキータ」と名乗った少女は終身刑を言い渡されます。しかし、護送先でボブと名乗る政府の秘密機関に属する男から、工作員になるよう強要されました。

ボブから、これまでの自分の記録を抹消して工作員として生きるか、もしくは死ぬかの選択を迫られたニキータ。一度は逃げようとするも失敗し、観念して訓練を受けることにします。

反発しながらも、教育係のアマンドから女性としての立ち振る舞いを学びつつ、マーシャルアーツやガンシューティングの腕を磨いていくニキータ。

訓練から3年経った23歳の誕生日、初めて外出を許可されたニキータは、レストランでボブからプレゼントを貰います。プレゼントの中身は拳銃デザートイーグルで、彼女に最初の暗殺命令が下ります。

レストランにいたターゲットを撃ち殺し、襲い掛かるその手下を次々仕留めたニキータに、ボブは看護師を勤めるマリー・クレマンという偽名を与え、一人暮らしをさせることに。

そんなある日、ニキータはスーパーで会計係をしていた男性マルコと知り合い、やがて恋仲となります。

同居を始めたニキータとマルコは、ボブからのプレゼントでヴェネチアに旅行に出かけます。バカンスを楽しんでいたニキータでしたが、そこで新たな任務が下ります。

2人の泊まる部屋にはライフルが用意されており、部屋内からの暗殺を命じられたニキータは、マルコにバレそうになりながらも、なんとか任務を遂行。

マルコから帰宅が毎回夜遅くなることを心配されるも、ニキータは看護師のシフトが夜勤続きになっているからと嘘をつき通します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ニキータ』のネタバレ・結末の記載がございます。本作をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

次に、ソ連大使が本国へ送る機密情報を奪取する任務を命じられたニキータは、現場の後始末を行う“清掃人”ヴィクトルと行動を共に。

ところが、ヴィクトルの強引なやり方に計画が狂ってしまい、大使館に潜入して機密情報入手には成功するも、ヴィクトルや多くの大使館員たちが命を落としてしまいます。

憔悴して帰宅したニキータに、今の仕事を辞めろと告げるマルコ。彼はニキータの本当の稼業を知っていたのです。

マルコの深い愛情に涙するも、ニキータは彼の前から姿を消します。

数日後、ニキータと連絡が取れなくなったボブがマルコを訪ねます。マルコは彼女から託された機密情報が記録されたマイクロフィルムを渡し、「ニキータを守ってほしい」と頼みます。

ボブは出来るだけのことはすると答えつつ、「お互い寂しくなるな」とつぶやきました――

強くて闘う女に惹かれる監督

エルトン・ジョン『ニキータ』PV

リドリー・スコット、ジェームズ・キャメロン、ポール・ヴァーホーベン…彼ら男性映画監督に共通するのは、“強くて闘う女性”がテーマの作品を集中して撮ることにあります。

たとえ主人公ではなくとも、歴史劇だろうと現代劇だろうとSFだろうとジャンルを問わず、必ず1人は男に負けないタフな女性が登場するのが、彼らの作風です。

リュック・ベッソンも間違いなくその中に含まれる監督で、本作『ニキータ』は、ベッソンの理想とする女性像を決定づけた作品です。

当時の妻で女優のアンヌ・パリローから「秘密と神秘の匂いを感じ取った」というベッソンは、飛行機に乗った際にウォークマンで聴いたエルトン・ジョンの『ニキータ』から本作を着想。

「男と女を比べたら女の方が強いと思う。(中略)主人公が男だったら、僕は監督を引き受けなかった。僕は女のあいまいな部分に惹かれたんだから。映画を撮りながら、もっと女を理解したいと思って」(「キネマ旬報」1991年3月下旬号)

日本公開時のインタビューでベッソンがこう語ったように、泣きながらも非情に暗殺任務を遂行し、一方で愛を求めるニキータは、まさに曖昧さが魅力的な女性となっています。

「泣き虫の暗殺者」と宣伝キャッチコピーにあったように、パリローが実に泣き顔が映える女優だったのも大きくプラスになっていると思います。

スタイリッシュなガンアクションに注目

(C)by Gaomont- Gaomont Production-Cecchi Gori Tiger Cinematografica 1990.

本作の見どころと言えるガンアクションも、ニキータが初めて任務を行うレストランでの銃撃戦は、トータルにして1分弱のシーンにもかかわらず、9日間かけて撮影。

ニキータが撃ったデザートイーグルの弾が壁を突き破って敵を仕留めるショットなどは、ベッソンらしいマニアックな構図といえます。

ベッソンとは気心の知れたエリック・セラによる劇伴も、脆くも力強いニキータをイメージさせる効果を生んでいると思います。

本作のスタイリッシュさと比べると、ハリウッドリメイク版『アサシン 暗・殺・者』(1993)が銃撃や爆破シーンが増しましになっているのは、ある意味でやむを得ないといったところでしょうか。

エリック・セラ『The Dark Side Of Time』PV(『ニキータ』主題曲)

日夜闘っているのは女性

テレビドラマシリーズ「NIKITA/ニキータ」

リメイク版の『アサシン』に、97年と2010年にはテレビドラマシリーズも製作されるなど、年代を越えてもさまざまなバリエーションを生んだ『ニキータ』。

ただ生みの親であるベッソンも、『ジャンヌ・ダルク』(1999)、『アデル/ファラオと復活の秘薬』(2010)、『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』(2011)、『LUCY/ルーシー』(2014)と、ひたすら“強くて闘う女性”にこだわり続けます。

製作と脚本を担当した『コロンビアーナ』(2011)も、『レオン』に登場した少女マチルダが成長して暗殺者になるというプロットが元でした(マチルダ役のナタリー・ポートマンに主演を断られ、宙に浮いていた脚本を変更)し、現時点の監督最新作『ANNA/アナ』(2020)も、明らかに『ニキータ』の焼き直し的な内容でした。

「女の方が日夜闘っていて鍛えられていると僕は思うよ」(「キネマ旬報」1991年3月下旬号)

「女性を理解できる」まで、リュック・ベッソンは映画を撮り続けることでしょう。

次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。

【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら

松平光冬プロフィール

テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。

2010年代からは映画ライターとしても活動。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219


関連記事

連載コラム

『サバイバー2024』ネタバレあらすじ感想と結末の解説評価。SFサバイバルアクション映画おすすめ“人類の希望は1人の男に託された!”|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー77

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第77回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞す …

連載コラム

『ゴジラ対ヘドラ』カルト映画として再評価される内容と解説。坂野義光が監督デビュー作品に秘めた真意とは|邦画特撮大全25

連載コラム「邦画特撮大全」第25章 先月11月はゴジラの誕生月という事で、ゴジラシリーズを特集しました。 しかしたった4回の連載で「ゴジラ」シリーズの魅力を語り尽くすことは出来ません。そのため今月12 …

連載コラム

『ミザリー』ネタバレあらすじ結末と感想評価の考察。怖すぎる熱狂的なファンに監禁されたベストセラー作家の恐怖|サスペンスの神様の鼓動56

サスペンスの神様の鼓動56 自動車事故に遭い、人里離れた山小屋に監禁されたベストセラー作家が遭遇する、熱狂的なファンの恐怖を描いた映画『ミザリー』。 数々のホラー小説を発表してきた、スティーブン・キン …

連載コラム

『こんにちは、母さん』あらすじ感想と評価解説。山田洋次映画で女優・吉永小百合が‟知られざる母”の一面を魅せる|映画という星空を知るひとよ165

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第165回 時代とともに家族の姿を描きつづけてきた山田洋次の90本目の監督作品『こんにちは、母さん』。 日本の誇る名女優吉永小百合が主演、その息子役に映画やドラ …

連載コラム

香港映画『私のプリンス・エドワード』あらすじと感想レビュー。男女の差異と結婚に対する意識の相違|OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録7

第15回大阪アジアン映画祭上映作品『私のプリンス・エドワード』 毎年3月に開催される大阪アジアン映画祭も今年で15回目。コロナウイルス流行の影響により、いくつかのイベントや、舞台挨拶などが中止となりま …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学