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Entry 2019/03/11
Update

食人映画『ザ・カニバル・クラブ』ネタバレ感想。悪趣味を抑えた風刺作品としてブラジルの格差社会を描く|未体験ゾーンの映画たち2019見破録34

  • Writer :
  • 増田健

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第34回

今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。今回は実にきわどいタイトルの映画が登場します。

他人の死を自らの快楽のために利用する、富裕層・エリート層の人間たちが集う秘密クラブ。

社会に潜む不条理な現実をシニカルかつ衝撃的に、ブラックユーモアを漂わせて描いた作品です。

第34回はブラジル発のホラー映画『ザ・カニバル・クラブ』を紹介いたします。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2019見破録』記事一覧はこちら

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映画『ザ・カニバル・クラブ』の作品情報


(C) Tardo Filmes

【公開】
2019年(ブラジル映画)

【原題】
O Clube dos Canibais

【監督】
グト・パレンテ

【キャスト】
アナ・ルイザ・リオス、タビンホ・テイクセイラ、ペドロ・ドミングス、ゼ・マリア、ブルーノ・プラタ、ロドリゴ・カピストラノ

【作品概要】
真夜中、豪邸で行われる秘密パーティーに集う人々と、その世界に巻き込まれた1人の男を描いた作品です。

この映画はブルックリンホラー映画祭2018で最優秀作品賞・監督賞、イタリアのルッカ映画祭2018で作品賞受賞など、ホラー映画の枠を越えて高く評価されています。

ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。

映画『ザ・カニバル・クラブ』のあらすじとネタバレ


(C) Tardo Filmes

灼熱の国ブラジルに相応しい青い海と砂浜に面した豪邸を、椅子に腰かけた警備員の男が銃を手にして守っています。

この豪邸に住むギルダ(アナ・ルイザ・リオス)は水着姿でカクテルを手に、プールサイドのビーチチェアでくつろいでいました。

彼女の姿をプール掃除をしている使用人の男が、なめるような視線で見つめていますが、彼女はそれに対して不快な様子を見せません。

ギルダの前に夫のオタビオ(タビンホ・テイクセイラ)が現れ、彼女に血の滴るステーキを差し出し、プールに飛び込みます。

オタビオは所用のため、月曜まで家を留守にすることになりました。治安が悪いため、彼は家の警備員であるルシヴァルドを引き連れて外出せねばなりません。

家に残るギルダを守って欲しいと、オタビオは使用人の男に依頼して銃を渡します。こうして彼は妻と使用人を残し家を後にしました。

夫が不在であるその夜、ギルダは使用人はベットで関係を持っていました。

その姿を、オタビオは隠れて目撃していました。しかも彼は目の前で行われている光景に興奮しています。

オタビオは使用人の頭に斧を振り下ろし彼を殺害します。オタビオとギルダの体を血が染めます。

満足げな2人は全裸のまま、使用人の遺体を手際よく解体します。ギルダは夫に対して、楽しんだか尋ねます。

最高だったと答えるオタビオ。2人は解体した肉を調理してゆきます。

出来上がった料理を食し会話がはずむ夫婦。2人はこの行為を心から楽しんでいました。しかし警備員のルシヴァルドが指示した時間に戻らない事に、オタビオは怒りを覚えます。

ようやく遅れて到着し謝罪するルシヴァルドに、ギルダは食事を共にするよう薦めますが、彼は固辞して去ります。

外で警備に付いたルシヴァルドの前にオタビオが現れ、使用人の男は解雇したと告げた後、今度遅刻したらお前もクビだと、彼の勤務態度を高圧的な態度でなじります。

ブラジルの都市、フォルタレザの治安状況について説明を受けるオタビオ。彼は職場で警備業についてのプレゼンを受けていました。

警備会社の役員であるオタビオは、国会議員であるボルジェス(ペドロ・ドミングス)と面会します。2人とも上流階級に所属する人物。

ボルジェスは妻の誕生会に、夫婦で参加するようオタビオを招待します。その際には護衛の警備員も連れてくるよう求めます。

そして火曜日の前回と同じ時間に、ボルジェスが主催する秘密クラブの会合が行われると告げます。

そして会合の場所は、開催の30分前に連絡されるとオタビオに説明しました。

警戒の厳重ぶりにオタビオが理由を尋ねると、ボルジェスはメンバーの一員であるクロヴィスが会合の秘密を洩らし、敵と組んだと話しました。

信じられない驚くオタビオに、私の直感は当たると言い切るボルジェス。クロヴィスはオタビオの警備会社の顧客でした。ボルジェスは自分の部下に彼を警護させるよう依頼します。

正装した多くの人々が集まった、ボルジェスの妻の豪華な誕生会にオタビオとギルダは参加していました。酔ったギルダは涼みに邸宅の外に出ます。

広い庭をさまよったギルダは、邸宅から離れた機械室から物音がしていることに気付きます。

そこに近寄ったギルダは、ボルジェスが警備員のルシヴァルドと行為におよんでいる姿を目撃。

動揺したギルダは夫と共に車で誕生会を早々に後にし、その態度に怒ったオタビオと言い争いになります。

翌日、意を決したギルダはボルジェスとの面会に向かいます。ボルジェスと会った彼女は、遠回しに昨日目撃した行為に偏見を持っていない、そして自分は誰にも話さないと告げます。

ところがボルジェスは、何の話か判らない姿勢を見せます。ギルダが戸惑うと、彼は今ここで何が起きているのか判らない、しかし君の話には興味があると問いかけました。

彼の意を悟ったギルダは、昨日の出来事は酔っていて何も覚えていないと言葉を変え、ボルジェスに話を合わせてその場を去ります。

オタビオの元に、秘密クラブの会合が行われる場所が連絡されます。ギルダは秘密クラブに参加できない事を、非常に不満に思っていました。

連れて行きたいがクラブにはルールがあり、君は参加出来ないとオタビオは彼女をなだめると、彼は会合の場所へと向かいます。

三脚に据えられたビデオカメラが置かれた広間を見下ろすように、正装した男たちが並んでいました。

広間に鎖でつながれた裸の男女が現れ、カメラの前で行為におよびます。正装した男たちはそれを黙って見つめています。

凶器を手にした男が現れ、絡み合った男女はクラブの会員たちの前で撲殺されます。その遺体は解体し調理され、会員たちのテーブルに供されます。

ボルジェスは会合に集まった会員に謝意を述べると、クロヴィスは参加出来ない、事故にあってもう2度と秘密クラブには戻らないと告げ、我らの祝祭を中止することは出来ないと語ります。

ボルジェスは我々の忠誠心に乾杯すると、互いに敬意を抱き続けることで、我々は社会のリーダーであり続けるのだと力説します。

彼の演説は上流階級に所属する指導者の敵、秩序を乱す反体制的な人々を攻撃する内容になります。その中には男色家も含まれていました。

演説に熱狂した人々は、ブラジルに乾杯と叫び、手にしたグラスを床に叩きつけて割ります。こうして秘密クラブの会合は終了します。

その頃職にあぶれた1人の男、ジョナス(ゼ・マリア)は職業安定所を訪ねていました。面接官から管理人の職を紹介された彼は、タブレットで写真を撮られ返事を待つよう指示されます。

オタビオはパーティーに参加出来なかったギルダを慰めるためにも、新たな獲物となる使用人を求めていました。2人は職業安定所を訪れます。

2人は係員から渡されたタブレットを操作し、仕事を求め集まった人々の写真を眺めます。そしてジョナスに目を付けました。

自宅に車で戻る2人は、新しい警備員に守られていました。ルシヴァルドの行方を尋ねるギルダに、夫は彼は姿をくらましたと告げます。

夫婦に採用されたジョナスは、指示された住所までの道のりを歩いていました。路上に照りつける太陽の下、彼は皮を剥がれた獣の死体をが横たわっているのを目撃。

その頃自宅に戻った夫婦は、ボルジェスの秘密を目撃したギルダが、直接本人に面会して報告した件で口論になっていました。

ギルダは彼に、パーティーの夜の事は覚えていないと信じさせたと告げ、オタビオはボルジェスに気にいられた人物であり、心配ないと彼女は考えていました。

しかしオタビオは、ボルジェスは自分の地位を守るためには手段を選ばない男だと知っています。秘密クラブのクロヴィスは事故に遭い、警備員のルシヴァルドは姿を消しています。

考え過ぎだとなだめるギルダに対し、彼はやがてあの日見たことを後悔することになると断言します。

陽射しが照りつける中バス停から歩いて来たジョナスは、ようやくオタビオとギルダ夫婦の邸宅に到着しました。早速仕事が与えられ、ビーチチェアのギルダの前で芝刈りを行います。

オタビオは新たに雇った警備員に対していつもの倍、3~4倍警戒し、不審な人物には発砲してから名前を聞けと命じます。

それでも安心できないオタビオは、部屋で休むジョナスを訪ねると家を守るためと称して、彼にも拳銃を渡し持たせます。

夜が更けると、またジョナスの部屋に人が訪ねてきます。彼が銃を手にドアを開けると、そこに立っていたのはギルダでした。彼女の誘いで2人は関係を結びます。

邸宅に2人組の男が現れ、警備員の喉をかき切り邸宅に侵入します。銃声が鳴り響き、ジョナスとギルダも事態に気付きます。

銃を手にした侵入者は夫婦の姿を探し求めます。寝室に誰もいないと知ると、2手に別れて邸内を調べました。

かくし部屋に気付いた1人は、潜んでいたオタビオが振り降ろした斧によって殺されてしまいます。

もう1人はギルダを見つけ、彼女に銃を向けますがジョナスによって射殺。

ジョナスは主人に命じられ、侵入者と警備員の3つの遺体を砂浜に埋め始末しまいた。

動揺するギルダに対して、オタビオはボルジェスは自分が指示した襲撃だとは決して認めないと告げ、今後どう振る舞うか相談します。

ギルダが計略を思いつきました。オタビオはボルジェスに妻が殺されたと連絡します。しかし犯人の1人を殺し、もう1人を捕えていると報告しました。

オタビオは突然起きた事態に動揺し、相談を持ち掛けた姿を装ってボルジェスを信用させます。

そうすれば必ずボルジェスは事態の収拾と口封じに現れます。それを待ち受けて殺害する計画でした。

ジョナスにも協力させて、その後彼を殺し夫婦で食べてしまう。そしてジョナスに罪を被せ、周囲には彼は失踪したと説明して、真相を闇に葬りました。

誰も疑わない計画を思いついた夫婦は、互いの信頼と奇妙な愛情を確認し合います。

以下、『ザ・カニバル・クラブ』ネタバレ・結末の記載がございます。『ザ・カニバル・クラブ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C) Tardo Filmes

オタビオから連絡を受けたボルジェスは、2人の護衛を引き連れ夫婦の邸宅に現れました。

オタビオは泣き崩れた姿で、ボルジェスと護衛の1人を一室に案内します。そこでジョナスの手を借り2人を殺害します。残る護衛も誘い込み始末。

事は首尾よく運び、血に染まって喜ぶオタビオとギルダ夫婦。しかしまたしても人の命を奪ったジョナスは思い悩んでいました。

使用人室で拳銃を手に、ジョナスは立ち去るべく荷物をまとめます。彼は自分のベットの下に路上で見た獣の死体を目撃しますが、それは彼の見た悪夢でした。

その部屋にオタビオが現れます。車にある死体の処分を頼みたいとジョナスに語りますが、それはジョークだと告げ上機嫌に笑います。

オタビオはこれから外出し、新たな警備員を連れて戻ってくると彼に告げます。その間邸宅と妻を守って欲しいと、ジョナスに対して依頼しました。

その夜、主人の留守にギルダとジョナスは行為に及びます。それはジョナスを殺害するための罠でした。斧を手にしたオタビオが現れると、ギルダは彼を油断させようとしたのです。

オタビオが斧を振り下ろした瞬間、気付いたジョナスは身をかわします。斧はギルダの体に打ち込まれ彼女は絶命。

妻の姿を見て驚き、嘆き悲しむオタビオ。その彼をジョナスは与えられた銃で射殺します。

翌朝太陽の照り付ける中、血まみれでプールサイドに座っているジョナス。これからどうしたものか、彼は途方に暮れた表情をみせました。

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映画『ザ・カニバル・クラブ』の感想と評価


(C) Tardo Filmes

猟奇趣味控え目の皮肉に満ちた“食人映画”

ストレートに訴えかけてくるタイトル。冒頭から描かれる上流階級夫婦の殺人と食人の光景。

インパクトを持った描写が登場する本作は意外にもR15+指定。それも悪趣味シーンではなく、ベットシーンを対象にした指定かなだろうと、思えなくもありません。

この映画の猟奇趣味は実は控え目です。調理されて出て来る料理も、見た目はお上品な姿で登場します。徹底した猟奇趣味を期待した人は、肩透かしをくらうかもしれません。

カニバリズムを扱ったこの作品のジャンルは、人によってはホラーだけでなくコメディとも捉えられています。ただしギャグが散りばめられたドタバタ喜劇ではありません。

上流階級、富裕層のエリートと呼ばれる人々の秘められた姿を、ブラックユーモア的な視点で風刺した作品といえるでしょう。

なんとも困った“ブルジョワジーの秘かな愉しみ”

一般庶民とかけ離れた生活を行い、異なるルール・価値観に従って生きる上流階級の人々。その姿は時に憧れと羨望を持って、時に皮肉を持って描かれてきました。

映画の意図は猟奇的な描写を描くことでは無く、一般庶民の常識とかけ離れた世界に住み、そして様々な欲望に貧欲である富裕層の人々への風刺にあることは明白です。

この作品はホラー映画というより、シュールとユーモアを交えたルイス・ブニュエルの映画に近い性格を持っています。

この映画は、取り澄ましながらも食欲・性欲に溺れている、上流階級の人々の偽善を描いた、アカデミー外国語映画賞受賞作『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』と似た作品です。

高尚な映画よりホラー映画が、また奇妙な描写がお好みの方は、同じテーマながらB級ホラーに徹したブライアン・ユズナ監督の『ソサエティー』を思い浮かべるでしょう。

参考映像:『ソサエティー』(1990)

上流階級の退廃を、本作とは違う形での「食人」や、当時ブームであった特殊メイク技術をフル活用して、可笑しくも奇妙に描いた作品です。

『ソサエティー』の特殊効果は、ハリウッドで活躍し現在は日本で後進の指導に当たっている、スクリーミング・マッド・ジョージが存分に腕を振るった作品としても有名です。

『ザ・カニバル・クラブ』の持つ怪しげな世界が、どの様なものかお判り頂けたでしょうか。

奇抜な表現に挑むグト・パレンテ監督

参考映像:『Inferninho』(2018)

この奇抜な映画を撮ったブラジルのグト・パレンテ監督は1983年生まれ。彼は監督デビュー作以来、コメディ・ドラマ・SF的な映画を、ファンタジー要素を交えて描いています。

彼がペドロ・ディオゲネスと共同で監督・脚本を務めた最新作『Inferninho』は、ドラマ映画と紹介されていますが、予告を観ても実に奇抜な作品だと理解できます。

『Inferninho』の日本での公開は未定ですが、ブラジルから興味深い映画が産まれていることは確かです。

ホラー映画の枠に収まらない、ユニークな作品を手がけているグト・パレンテ監督の今後に注目して下さい。

まとめ


(C) Tardo Filmes

2000年代には経済成長著しい国、「BRICs(ブリックス=ブラジル、ロシア、インド、中国)」の1国であったブラジル。しかし経済成長の陰でインフレが進み、貧富の差は拡大しました。

2014年からは経済危機に陥り2016年には失業率は10%を越える状況になります。その最中開催されたリオオリンピックでは、世界的に治安問題が大きな話題となりました。

『ザ・カニバル・クラブ』の背景には、その様なブラジルの社会的背景が潜んでいるのです。

貧富の格差が世界的に拡大している現代ですが、さすがに日本でブラック企業と言われる職に就いても、多分、食べられてしまう事はまず無いでしょう。

しかし死ぬまで働かされる可能性は、残念ながら大いにあります。映画に描かれた「食人」が何を風刺しているのかは、どこの国に住む人にとっても実に明白です。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…


(C)2018 Oda Film Production LLC (C)2018 Pimanov&partners Co.

次回の第35回は第二次世界大戦下のロシアの地で、ドイツ戦車部隊に立ち向かう1両の戦車の活躍を描いた戦争映画『タンク・ソルジャー 重戦車KV-1』を紹介いたします。

お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2019見破録』記事一覧はこちら

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