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Entry 2020/10/21
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映画『コントラ』あらすじ感想と考察評価。円井わんと間瀬英正という俳優の存在が大きく心を占めていく|2020SKIPシティ映画祭12

  • Writer :
  • 西川ちょり

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020エントリー/アンシュル・チョウハン監督作品『コントラ』がオンラインにて映画祭上映。国内コンペティション長編部門で優秀作品賞を受賞!

2004年に埼玉県川口市で誕生した「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、映画産業の変革の中で新たに生み出されたビジネスチャンスを掴んでいく若い才能の発掘と育成を目指した映画祭です。今年で17回目を迎え、本年は初めてのオンラインでの開催となりました。

今回ご紹介するのは、国内コンペティション長編部門で優秀作品賞に選ばれたアンシュル・チョウハン監督による映画『コントラ』です。

【連載コラム】『2020SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら

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映画『コントラ』の作品情報

【日本公開】
2020年公開(日本映画)

【監督】
アンシュル・チョウハン

【キャスト】
円井わん、間瀬英正、山田太一、セイラ、清水拓蔵

【作品概要】
日本在住のインド人監督アンシュル・チョウハンが、『東京不穏詩』(2018)に続いて手掛けた長編第2作。

慕っていた祖父が亡くなり、孤独をつのらせていく女子高校生ソラ(円井わん)は祖父が残した戦中日記を夢中で読み耽る。そんな彼女の前に、後ろ向きに歩く奇妙な男(間瀬英正)が時代を遡ってきたかのように現れる。

ワールド・プレミアとなった第23回タリン・ブラックナイツ映画祭でグランプリと最優秀音楽賞を受賞。第15回大阪アジアン映画祭では間瀬英正が最優秀男優賞を受賞。北米最大規模の日本映画祭「JAPAN CUTS ~ジャパン・カッツ!」のネクストジェネレーション・コンペティション部門で大林賞を受賞するなど国内外で高い評価を得ている。

アンシュル・チョウハン監督のプロフィール

1986年北インド生まれ。少年時代を陸軍士官学校で過ごす。大学で文学士号を取得した後、2006年からアニメーターとして働き始める。2011年に東京へと拠点を移し、ポリゴン・ピクチュアズではアニー賞を獲得した「トロン:ライジング」(12)に携わる。

その後オー・エル・エムやスクウェア・エニックスなどで働く。これまでに携わった作品は「ファイナルファンタジーXV」、『GANTZ:O』(16)など。

2016年からはKowatanda Filmsとして活動を始め、日本を舞台に短編映画を制作。2018年の初長編作品『東京不穏詩』は、ブリュッセル・インディペンデント映画祭で最優秀賞を受賞。第13回大阪アジアン映画祭とスレマニ国際映画祭で最優秀主演女優賞を受賞した。

長編映画2作となる『コントラ』も世界各国の映画祭にて様々な受賞を遂げている。

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映画『コントラ』のあらすじ

母が亡くなり、父と祖父と暮らす女子高生ソラ。ある日、帰宅途中自転車が壊れ、ふてくされて家に帰ったソラはいつものように気の合う祖父に大声で呼びかけました。しかし返事はなく、ソラが部屋に行ってみると祖父は亡くなっていました。

祖父が死ぬ直前に読んでいたと思しき日記をソラは父に気付かれぬよう隠れて読みふけります。それは戦時中、特攻隊員として従軍した祖父の戦中日記でした。

ソラは日記から、祖父が遺品を人知れず埋めたことを知り、不可思議な「宝」の探索を始めます。その頃、無言で後ろ向きに歩く奇妙なホームレスの男が街を徘徊していました。ある晩、酒に酔ったソラの父が運転する車がその男を撥ねてしまいます。

父は男を置き去りにして逃げようとしますが、ソラは、父をどなりつけ、男を家に連れ帰り、手当をしました。翌朝、父が男を追い返したことを知るとソラは男を探しに家を飛び出します。

映画『コントラ』の感想と評価

のどかな田園風景が広がる中、自転車を漕いでいた少女が急に動きを止めたかと思うと、彼女はいきなり乱暴に自転車を突き落とします。が、すぐに捨てた自転車のところまで斜面を下り、手こずりながらも引き上げ始めます。

自転車が故障したことに腹を立て、思わず取った少女の激しい怒りのシークエンス。円井わんが、ある種、獰猛ともいえるほどの身振りで、ソラという少女が抱える鬱屈を、表現しています。

早くに母親を亡くし、父とはうまく関係性を築けずにいるソラの事情が徐々に明かされます。自転車の一件があったあと、家に帰ってきたソラは祖父が亡くなっているのを発見します。唯一の心の支えを失ってしまったソラは、孤独感をより一層つのらせていきます。

ソラは祖父の遺品である戦中日記を手にします。戦時中、特攻隊員として従軍し、奇跡的に生き残った祖父は、生前、戦争の体験をソラに伝えることはありませんでしたが、日記には上官から受けた非道な仕打ちや、様々な感情の吐露が絵と共に綴られていました。ソラは、時に同じく遺品である飛行眼鏡をつけながら、戦中日記を夢中になって読みふけります。

映画の中で何度も登場するその日記は、実際の兵士が遺したものかと見間違えるほどリアルである上に、ヴィジュアル的にも非常に魅力的なものとして映ります。そこに描かれた素晴らしくも心を打つ絵は、後ろ向きに歩く不思議な男として登場する間瀬英正が手掛けたものだそうです。

太平洋戦争を知らない世代が身近に戦争に触れる機会は年々失われています。実際に従軍した経験のある方は勿論、幼い頃に空襲を経験した方々も皆、高齢になり、次の世代はもう自身の経験としてそれを語ることはできません。社会が徐々に右傾化しているのもそのこととまったく無縁ではないでしょう。

祖父が遺した日記は、ギリギリのところで、「戦争の記憶を次世代に継承する」役割を果たしたといえるのでしょうか。そんな中、現れるのが、後ろ向きに歩く何もしゃべらない男です。

車にぶつかってきた男を置き去りにして逃げようとする父を説得して、ソラは彼を家に連れ帰り、奇妙な共同生活が始まります。異端者であった男はやがてソラたちの空間に溶け込んでいきます。

この男を演じる間瀬英正は、弱々しくおぼつかない風情でいるかと思えば、時にはっとさせられるような精悍な表情を見せ、また時にユーモラスな暖かさを醸し出します。観客にとっても、最初は奇異な存在としか思えなかった男が、愛らしくさえ感じられるようになっていきます。

しかし、異端で無垢な存在が傷ついたものを癒やして行くという物語のよくあるパターンに本作がおさまることはありません。ヒロインが取った思いがけない野蛮な行動は、ヒロインの心の傷の深さと悲しみを改めてクローズアップすると同時に、人間が持つ加害性を剥き出しにします。

田舎町で暮らす思春期の少女のどうしようもない閉塞感と孤独を描くことと、過去の大戦の記憶の継承を描くという2つのテーマが交錯し、共鳴し合う本作において、この場面はひとつの頂点にあるといえます。そしてその後、異端の男がとった行動こそが、「継承」の完遂なのかもしれません。

まるで西部劇の一場面を観ているかのようなラスト。慟哭のような響きは、亡くなった祖父への返歌の印でもあるのでしょうか。

胸騒ぎを覚えつつ、ラストシーンを見つめながら、円井わんと間瀬英正という俳優の存在が大きく心を占めていくのを感じていました。

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まとめ

日本在住のインド人監督アンシュル・チョウハンが、『東京不穏詩』に続いて手掛けた長編第2作は144分の大作ですが、長さをまったく感じさせません。アンシュル・チョウハン監督は現在の日本社会の矛盾とそれ故の生き辛さに目を向けます。

上記に述べた2大テーマ以外にも田舎特有の人間関係や、力関係が描かれ、父と従兄弟の確執が浮かび上がります。

従兄弟は明らかな悪役として登場しますが、山田太一演じる父もまた、一見、人が良さそうに見えつつ、娘に本気で向かい合おうとしない人物として描かれています。

もしかして、父は娘とぶつかり合って、行動を共にしたことで、分かりあえたと満足しているのではないか? 祖父が森に埋めたという遺品を巡るエピソードは、一見めでたしめでたしのように進行しつつ、父と娘の距離を寧ろ遠ざけたのではないでしょうか。

一方、従兄弟の家の娘もまた、父を恥じています。出ていくことも戻ることも出来ずに背を向け立ちつくし家族を戸惑わせるわずかなショットが強い印象を残します。

それは父と娘という問題だけでなく、若い女性の人生の選択肢の息苦しいまでの希少さを表しています。客を持て成すために、一緒に食卓につくことを許されない女性たちの姿が、2020年代にも見られる現実があります。さらに悪いのは、周りの多くの人はそのことに何の疑問も持っていないことです。それはまた、この田舎にだけ蔓延る慣習というわけではありません。ソラの苦悩の根源、闘いの対象もまさにそうしたものにこそあるといえます。

タイトルの“コントラ”は、英語のcontraから来ており、「反対の」、「逆の」という意味です。それは、後ろ向きに歩いていく男を指すものであると共に、この小さな集落の、ひいてはこの日本という国の環境と体制に抗う少女の姿も意味しているのです。

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