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Entry 2020/09/12
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映画『コントラ』インタビュー|キャスト円井わんと間瀬英正が臨んだ監督アンシュル・チョウハンの世界

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  • Cinemarche編集部

第14回JAPAN CUTS“大林賞”・第15回大阪アジアン映画祭“最優秀男優賞”受賞作『コントラ』は2021年春に劇場公開予定!

北米で最大の日本映画祭である第14回「JAPAN CUTS〜ジャパン・カッツ〜」ネクストジェネレーション部門にて、故・大林宣彦監督の偉業を称えて新設された「大林賞」の記念すべき第一回を受賞したアンシュル・チョウハン監督作『コントラ』。


(C)Cinemarche

第15回大阪アジアン映画祭では最優秀男優賞(間瀬英正)、エストニアのタリン・ブラックナイト映画祭では日本映画初となる最優秀賞と最優秀音楽賞を受賞。また2020年9月26日(土)より開催予定のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020国内コンペティション長編部門にも正式出品され、今後もさらなる評価が期待されています。

このたび、第14回大阪アジアン映画祭での上映および各映画祭での受賞を記念し、主演の円井わんさんと間瀬英正さん、そしてアンシュル・チョウハン監督にインタビュー。作品の制作経緯やキャスト陣が演じられた役について貴重なお話を伺いました。

「後ろ向きに歩く男」と亡き祖父との絆


(C)2020 KOWATANDA FILMS. ALL RIGHTS RESERVED.

──2020年1月に劇場公開された前作『東京不穏詩』以来のインタビューとなりますが、今回の映画『コントラ』を制作するに至った背景をお教えください。

アンシュル・チョウハン監督(以下、アンシュル):私にとって最も重要なことは、自分自身を奥深くまで見つめ直すという行為です。まずは、そのような映画を制作したかったという思いが原点にあります。仮にそのような映画が観客に気に入ってもらえなかったり、理解さえしてもらえなくても、自分自身にとって必要不可欠な映画を作りたいという衝動の方が第一にあるからこそ、今回の『コントラ』という「後ろ向きに歩く男」の映画を制作したのです。

「後ろ向きに歩く」という行為が表しているメタファーには、社会や産業に対する反抗だけでなく、自分自身のやりたいことに反対する周りに対しての返答といった個人的な心情も含まれています。ただ、『コントラ』という作品において最も描きたかったのは、「日本の若い兵士と、まだ見ぬ祖父へ」というメッセージです。

アンシュル・チョウハン監督


photo by 田中館裕介

アンシュル:私は、祖父が亡くなった翌日に生まれました。ですから祖父とは直接会ったことはないのですが、幼い頃の私は生前の祖父が家族たちに見せていた仕草を何故かよくしていたそうです。また、祖父が身に着けていた服しか好んで着ない子どもであったため、母親は仕方なく当時の私には大き過ぎた祖父の服を裁ち、子どもの背丈に丁度いいサイズへと仕立て直してくれたりしました。そして家には祖父がかつて使っていた大きな箱があったのですが、ある時私はそれによじ登って箱の中へと入り、そこで祖父が愛用していた噛みタバコを偶然見つけて食べてしまい、気を失ったことがあるそうです。そんなことが続いたため、家族たちは「祖父の霊が取り憑いているんじゃないか」とわざわざお祓いを頼むほどに私を心配したと聞いています。

映画を通じて今は亡き人が戻ってくる時、その人にとっては何が「生前やり残したこと」だったのか。そして、遺した家族のことをどう感じていたのか。そこには、父と同様に軍隊の経験があり、私との間に説明のできない不思議な絆を持つ祖父に対する思いも重ねています。

また「軍隊」と「芸術」は、私にとっては自身の人生からは決して切り離せないものだと感じています。軍人の家系で生まれた以上そのことを考えずにいることは避けられないし、日本で映画を撮っていく際にも向き合うべきものの一つだと感じていました。

謎めいた人物を「役」として落とし込む

間瀬英正さん


(C)Cinemarche

──間瀬さんは「後ろ向きに歩く男」を見事に演じ、第15回大阪アジアン映画祭では最優秀男優賞を受賞されました。「彼」を演じるにあたってはどのような役作りをされたのでしょうか?

間瀬英正(以下、間瀬):「後ろ向きに歩く男」を一人の人間として成立させるために、この役にはどのような意味が描かれているのか、この役を通じて何を求めようとしているのかなどをアンシュル監督へのヒアリングによって確認するようにしていました。

実は撮影前には毎週と言っていいほどアンシュル監督のご自宅に通って、映画についての相談をさせていただいていたんです。時にはお食事を振舞っていただくこともあったんですが、撮影にあたって体重を約9キロ減量する必要があったため、その食事もダイエット食にするなど本当に気遣ってくださっていました。

アンシュル監督は今回の役について「彼はある意味ではお化けのような存在でもあるけれど、そうではない存在でもある」「現実的な場所に居過ぎない、そういう人なんだ」とおっしゃっていたんですが、その言葉は演じるにあたって大きなヒントになったと感じています。

オーダーされたことを自分なりの解釈を交えつつも実現していく。まず何よりも、そのことを大切にしています。そしてリハーサルの際にも「それだとやり過ぎだよ」「それだとやらなさ過ぎだよ」という風に今回演じた人物を役としてどう落とし込んでいくか、そのさじ加減を常に探っていました。

前作『東京不穏詩』を超えるために

円井わんさん


(C)Cinemarche

──一方で円井さんは、鬱屈とした感情を内に溜めながらも祖父が遺した何かを探そうとする主人公・ソラを演じています。円井さんご自身はその役柄についてどのような思いを抱かれていますか?

円井わん(以下、円井):実は今回演じさせていただいたソラのセリフは、ほとんど当て書きです。アンシュル監督とは『東京不穏詩』のオーディションを通じて出会い、今回の『コントラ』への出演に関しても『東京不穏詩』が完成した後、まだ撮影を行うかも決まっていない頃にお話をいただいたんですが、その際に監督から「ほぼ、わんのままでいい」と伝えられたんです。

そこで、私も監督に「せっかく一緒に映画を作れるのなら、『東京不穏詩』で飯島珠奈さんが演じられていた主人公のジュン以上に狂った役を演じさせてほしい」とお願いしました。それは前作を観て彼女の演技の凄まじさを思い知らされていたから、出てきた言葉だったと思います。

撮影当時私は20歳だったんですが、「女優・円井わん」にとっての名刺になる、代表作と言える映画と出会うことができたと本当に感じています。

「自ら考えられる女優」へと成長する


(C)2020 KOWATANDA FILMS. ALL RIGHTS RESERVED.

──アンシュル監督は「セリフの当て書き」によってソラという役と彼女を演じる円井さんのつながりを深めたわけですが、他にもどのような「コミュニケーション」を通じてソラと円井さんのつながりを深めていったのでしょうか?

アンシュル:前作のオーディションのおかげで、彼女の人間として女優としての性格がどのようなものか、そして私が『東京不穏詩』の次に撮りたいと考えている役を演じ切ってくれる女優が彼女であると分かったんです。また彼女自身にとっても、今回のソラという役が非常に重要な仕事になるとも感じていました。

女優・円井わんは俳優・間瀬英正と同じように、監督が伝えたいこと、役者に求めていることをどのような状況であってもきちんと実現してくれるタイプだと感じています。だからこそ、彼女が傷ついても、泣いても、おなかがすいてても、非常に厳しく接するようにしていました。19歳と20歳の境目、そんな「今」でこそやらなくてはならないことを経験しなくては、彼女の今後の女優人生にも影響してくる。女優という旅を選んだ以上、これからも様々な役柄と毎回100パーセントの力でもって向き合っていかなくてはいけないわけですから、女優を撮る映画監督が担うべき責任を果たすためにも、私も真剣に彼女と向き合い続けました。

今回の『コントラ』におけるソラは彼女の性格にフィットした役であり、彼女固有の話し方や仕草、カメラを通しての「見え方」も含めて映画そのものと非常にマッチしています。ただ、そうやって女優自身の性格がうまく引き出されている映画、あるいは映画によってうまく引き出せる監督は昨今少なくなりつつあると感じています。むしろ引き出される前に、周囲から演じるよう求められる「女優」像によって押しつぶされてしまうことの方が多々ある。その点においても、『コントラ』は女優・円井わんにとって重要な映画だと感じています。


(C)2020 KOWATANDA FILMS. ALL RIGHTS RESERVED.

円井:それは強く感じています。多分ですが、まずソラみたいな役は今後演じられないと思う。それに「私にしかできなかった」と感じられるような役をくださり、ここまで真剣に役者と向き合ってくれる監督もいなかったですから。今回の現場では、とにかく色々なことを得ることができました。

クランクインの時には、正直「芝居をする」ということ自体にまだ不安を感じている自分もいたんです。でも『コントラ』の撮影を経てからは、芝居をすることが楽しく仕方がなくなっちゃって、どの現場でも堂々としていられるようになった。また以前は「演じる上であまり良くないことかも」と少しためらっていた監督とのディスカッションも、アンシュル監督との現場以降は密に行えるようになるなど、多くの成長をさせてもらえるようになりました。

監督に言われたことをただやるだけでは絶対につまらない。監督の意図を的確に演じることも意識しつつも、監督の言葉から自身自身で考えを深めていくことで、その役をより面白く演じる頃ができるんだと気づけたんです。

インタビュー/出町光識
撮影/田中舘裕介・Cinemarche編集部
構成/河合のび

アンシュル・チョウハン監督プロフィール

1986年生まれ、北インド出身。陸軍士官学校で訓練を受け、大学で文学士を取得した後、アニメーターとして2006年からパプリカスタジオにて働き始める。

2011年に東京へと拠点を移し、ポリゴン・ピクチャーズにてエミー賞を獲得した『ディズニーXD トロンuprising』をはじめ『ファイナルファンタジーXV』、『キングズグレイブ:ファイナルファンタジーXV』、『キングダムハーツ3』『GANTZ:O』等の制作に携わった。

2016年からはKowatanda Films(コワタンダ・フィルム)として自主映画の制作を開始。長編第一作である前作『東京不穏詩』と第二作『コントラ』は世界各国の映画祭にて多数の賞を獲得している。

アンシュル・チョウハン監督の『東京不穏詩』は、Vimeoにて配信開始!

円井わんプロフィール

1998年生まれ、大阪府出身。役者を目指し高校卒業を機に上京、偶然の出会いをきっかけに内田英治監督作『獣道』(2017)にキャスティングされ、同作が映画初出演となった。その後、映画・ドラマ・MV・CM等の映像作品に多数出演。

初の長編主演作である『コントラ』では2019年にエストニアのタリンで・ブラックナイト映画祭オフィシャルセレクションにて、グランプリと最優秀音楽賞の二冠を獲得。また2020年には自ら企画キャスティングを行い、YouTube配信連続モキュメンタリードラマ『コウキの雨鳴き-About Kouki-』を制作し、ZOOM演劇集団「劇団テレワーク」への出演など、分野を問わず幅広く活動を続けている。

間瀬英正プロフィール

1978年生まれ、愛知県出身。青年座研究所を経て舞台を中心に活動。2015年は文学座・西川信廣演出の舞台「赤シャツ」に山嵐役で出演、2016年に一年間飯島早苗作「ハルらんらん♪」で新聞記者・夏井役、 2019年に「毛皮のマリー」でマリーに翻弄される水夫を演じた。2020年2月に上演した「グロリア」ではPTSDに苦しむローリンを演じ好評を得た。

映画『コントラ』では、第15回大阪アジアン映画祭にて最優秀男優賞を受賞。またイラストレーターとして広告・出版等に作品を提供しており、『コントラ』でもソラの祖父が遺した戦中日記という形で自身の描いたイラストを提供している。

映画『コントラ』の作品情報

【製作】
2019年(日本映画)

【劇場公開予定】
2021年

【監督】
アンシュル・チョウハン(Anshul CHAUHAN)

【キャスト】
円井わん、間瀬英正、山田太一、小島聖良、清水拓蔵

【作品概要】
『東京不穏詩』のアンシュル・チョウハン監督の長編第二作。戦争の記憶と地方の鬱屈、経済格差や父と娘の相克、日本の現代社会の問題をモノクロ映像で捉えながらも、これまでにない幻想と現実を描き出す。

北米で最大の日本映画祭である第14回「JAPAN CUTS〜ジャパン・カッツ〜」ネクストジェネレーション部門にて、故・大林宣彦監督の偉業を称えて新設された「大林賞」の記念すべき第一回を受賞。さらに第15回大阪アジアン映画祭では最優秀男優賞(間瀬英正)、エストニアのタリン・ブラックナイト映画祭では日本映画初となる最優秀賞と最優秀音楽賞を受賞している。

映画『コントラ』のあらすじ

地方に住む女子高生ソラ(円井わん)は、同居していた祖父が亡くなった日、祖父が遺した第二次大戦中の戦中日記を見つける。

時を同じくして、ソラの住む町に、後ろ向きにしか歩けないホームレスの男(間瀬英正)が現れ、ソラの父(山田太一)が男を車で轢いたことをきっかけに、ふたりの不思議な交流が始まり…。





アンシュル・チョウハン監督の『東京不穏詩』は、Vimeoにて配信中!

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