連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」第15回
映画ファン待望の毎年恒例の祭典、今回で11回目となる「未体験ゾーンの映画たち2022」が今年も開催されました。
傑作・珍作に怪作、お約束の展開のアクション映画など、さまざまな映画を上映する「未体験ゾーンの映画たち2022」、今年も全27作品を見破して紹介、古今東西から集結した映画を応援させていただきます。
第15回で紹介するのは、今やB級アクション映画界最大のスター、ブルース・ウィリス主演の映画『サバイバル・シティ』。
2022年、ジャンル映画を愛する世界の映画ファンが注目する、第42回ゴールデン・ラズベリー賞が今回、特別部門を設けると発表しました。
それは”ブルース・ウィリス2021年公開作の最低演技部門”。彼が2021年に出演した全8作品がノミネートされ、その中から最優秀…ではなく、最低演技を見せた作品を選ぶことになったのです。
長年にわたる、ブルース・ウィリスのラジー賞への功績を讃えた快挙(?)と思われます。その審査対象8作品の1本に選ばれた本作、見逃せません!
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CONTENTS
映画『サバイバル・シティ』の作品情報
【日本公開】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
killing field / Survive the Game
【監督】
ジェームズ・カレン・ブレザック
【キャスト】
ブルース・ウィリス、チャド・マイケル・マーレイ、スウェン・テメル、マイケル・シロウ、ケイト・カッツマン、サラ・ローマー、ドナ・デリコ、ザック・ウォード
【作品概要】
相棒の失敗から犯罪組織の人質になった刑事。しかし彼は経験とサバイバル術で生き残りを図ります。『ダイ・ハード』(1988)シリーズでお馴染み、ブルース・ウィリス主演最新作です。
本作監督は、数々のB級映画を生むアサイラムで『アクア・クリーチャーズ』(2014)などの作品を手がけ、『沈黙の鉄槌』(2019)を監督したジェームズ・カレン・ブレザック。
彼はブルース・ウィリス出演の『Fortress』(2021)も監督。当然ながらこの作品も、ラジー賞”ブルース・ウィリス2021年公開作の最低演技部門”の候補作、見事ダブルノミネートを果たしました。
チャド・マイケル・マーレイは『ナイト・サバイバー』(2020)で、スウェン・テメルは『ハード・キル』(2020)、マイケル・シロウは『Fortress』でブルース・ウィリスと共演。
『ミッキー誕生前のウォルト』(2015)でウォルト・ディズニーの妻役を演じたケイト・カッツマン、『ディスタービア』(2007)のサラ・ローマー、ドラマ『ベイウォッチ』(1989~)のドナ・デリコ、『ブラッドレインⅡ』(2007)のザック・ウォードらが出演しています。
映画『サバイバル・シティ』のあらすじとネタバレ
寂れた場所に停めた車から現れる、タトゥーだらけの男ミッキー・ジーン(ザック・ウォード)と悪女風の女バイオレット(ケイト・カッツマン)。
見るからに危険そうな2人組は、イチャつきながら廃倉庫のような建物に入ります。その姿を車の中から、忌々しそうに見つめる2人の男がいました。
それはベテラン刑事のデビッド(ブルース・ウィリス)と相棒のキャル(スウェン・テメル)。キャル刑事に応援を呼べ、と告げたデビッド。
しかし好き放題に振る舞う麻薬組織に怒りを募らせていたキャルは、一味が姿を消す前に逮捕したいと望んでいます。組織のボスを逮捕するまで連中を泳がせよう、とデビッドがなだめても聞く耳を持ちません。
結局キャルに引きずられる形で、2人の刑事は倉庫に乗り込みます。中では先程の男女2人と、フランク(マイケル・シロウ)が何か言い争っていました。
しかしキャルが誤って物音をたてます。それに気付いたギャングたちと、激しい銃撃戦になりました…。
1人車を走らせるキャルに、先程の出来事の記憶が甦ります。撃ち合いの中、デビッドは脇腹を撃たれました。状況は不利と判断した彼は、相棒のキャルに逃げろと叫びます。
キャルを逃がし、応援を呼ぶしか助かる道は無いと彼は判断したのです。その言葉に従ったキャルは、逃げたバイオレットとミッキーの車に気付いて追跡しました。
撃ち合いで負傷したミッキーとバイオレットの車は執拗にキャルに追われ、とある農場の敷地に逃げ込みます。
その人里離れた農場には、家族を亡くした元軍人の男エリック(チャド・マイケル・マーレイ)が、傷心のまま他人と交流を断って暮らしていました。
彼は自分の運転ミスで、妻のハンナ(サラ・ローマー)と娘を交通事故で失います。家族の写真を眺め、イヤホンで音楽を聴き酒を飲み、一人思い出に浸るエリック。
カーチェイスをしていた2台の車は、丘を登る一本道を走ります。バイオレットとミッキーは行き止まりで停車し、そこにあったエリックの家に逃げ込みます。
追い付いたキャルも家に入り、3人は様々な物を壊す激しい格闘を繰り広げます。その物音に気付いてエリックは飛び起きました。
2階に逃げたミッキーを追うキャルに、バイオレットが飛び掛かりますが逆に刑事に捕まり、包丁を突き付けられます。慌てて何もするな、と叫ぶミッキー。
そこに猟銃を持ったエリックが現れます。状況が把握できない彼に、ミッキーは恋人が人質に取られたと訴え、隙をついて彼から銃を奪い突き付けます。
手を上げたエリックにキャルは自分は刑事だと説明します。膠着状態の中、ミッキーは自分のスマホをエリックに操作させ、この場所の位置情報を伝え仲間を呼ぼうとしました。
ここは電波が通じないと偽ったエリックを、ミッキーは脅して固定電話へと向かわせます。しかし目で合図を交わしたエリックとキャルは、共に反撃して外に逃げ出します。
キャルは足を撃たれますが、2人は森の中の廃屋の陰に逃れます。状況を説明しエリックに協力を求めるキャル刑事。
ミッキーはキャルの落としたスマホを壊し、刑事が応援を呼べないようにします。フランクからそちらに向かう、早く刑事を始末しろと指示され、銃を持ち2人を追うバイオレット。
キャルは身動きが取れません。そして通報しようと茂みをかき分け、農場の広がる丘を降りていたエリックは、自分の家に向かう車を目撃します。
車には撃たれたデビッド刑事を人質にした、フランク一味が乗っていました。エリックは身を隠しますが、その気配に気付いたフランクは車を停めさせます。
フランクはエリックを発見できません。腹心の部下カリー(ドナ・デリコ)が思い過ごしでは、と進言します。一方負傷したデビッドは、自分の両側に座るギャングの下らない会話にウンザリしていました。
何も見つけられぬフランクは、空に向けて発砲します。エリックが撃たれたと思い、反応したキャル刑事に気付いて銃撃するバイオレット。
事態を察したデビッドは走れと叫びます。エリックは走って逃れますが、フランクはカリーに部下を引き連れて、身を隠した者を追えと命じます。
フランクは残る部下と人質のデビッド刑事を連れ、エリックの家に到着しました。まだキャル刑事を始末出来きず、焦るミッキーとバイオレット。
デビットはエリックの家に連行されます。フランクはミッキーとバイオレットから、キャル刑事と居合わせた農場の男が逃げていると聞かされます。ボスの義兄弟とはいえ、無能なミッキーに苛立つフランク。
岡を駆け上がってきたエリックとキャルは合流し納屋に隠れます。2人の仲間を裏口に回り込ませ、もう1人と共に納屋に入るカリー。
身を隠していたエリックとキャルは、2人のギャングに襲い掛かります。格闘の末もみ合いになった男を射殺し、納屋から飛び出し逃げるエリックとキャル。裏口にいた部下は阻止できず、カリーは逃げた2人に発砲します。
フランクは部下の1人が殺されたとの報告を受けます。一方逃れたエリックとキャル刑事は、無事身を隠していました。
キャルに自暴自棄な態度を指摘されたエリックは、事故で家族を失った苦しみを語りました。彼の心境を理解したキャルに、応援の呼ぶには自宅の電話を使うしかかない、俺は家族と過ごした家に戻ると告げるエリック。
殺された部下の前に仲間を集めたフランクは、今だ逃亡中の2人を始末しろと命じます。彼らが姿を現すと、わざと目に付くように逃げたキャル。
カリーが仲間の男女を引き連れ後を追います。身を隠したエリックは残るフランク、ミッキーとバイオレットが去ると、自宅に向かいました。
エリックの自宅の一室に、2人のおしゃべりなギャングに見張られたデビッドがいます。椅子に縛られた彼の前にフランクが現れます。
捕らえた刑事がデビッドだと確認したフランクは、麻薬組織のボス・マイケルに電話します。今まで組織を苦しめたデビッド刑事を捕らえた、とマイケルは喜びデビットと直接話したがります。
今からそちらに向かい礼をする、とデビッドに告げるマイケル。ギャング一味のボスが到着すれば、デビッドの命は無いでしょう。
キャル刑事は丸腰の状態でギャングたちに追われ、家の住人エリックは中の状況を知らぬまま、家に忍び込もうとしています。
傷付けられ、捕らわれの身のデビッド刑事に残された時間はわずかです。絶体絶命の彼は、言葉だけを武器に窮地から脱出できるでしょうか…。
映画『サバイバル・シティ』の感想と評価
悪党一味の人質になったブルース・ウィリスが、サバイバルスキルを駆使して敵を翻弄する、心理戦サンペンス・アクション映画!……を期待した人は、開いた口がふさがらなかったでしょう。
人質となったブルースを脇に置いてカーチェイスを展開、裏山のさびれた畑(果樹園?)を目いっぱい使って、イイ歳の大人たちが鬼ごっこをします。
サバイバルゲームをたしなむ人なら、「楽しそうだなぁ」と思うかもしれません。しかし肝心なところで撃たない、なぜ発砲せずに格闘戦になだれ込むのだ、とツっこみどころが満載です。
いやいや、これもカーチェイス・銃撃戦、そして格闘を楽しんで頂こうとのサービス精神です。これをご都合主義と呼んではいけません。
ブルース・ウィリスには相棒だけでなく、頼もしい助っ人が参戦します。しかしこの助っ人は不幸にも、とばっちりで事件に巻き込まれる、『ダイ・ハード』の遺伝子が実に濃厚なキャラクターです。
一方敵対する麻薬組織の構成員は、バカップルにおしゃべりな無能野郎、銃の引き金を引かない、引いても当たらない女など、実にデタラメな連中でした。
こいつらのまとめ役がブチ切れるのも当然、おまけにボスから無茶苦茶怒られる…、これは中間管理職の悲哀を描いたものでしょうか。
なんとも物凄い内容です。しかしアクション映画ファンなら、本作は様々な要素が楽しめるお得な作品と感じるはずだ、と紹介しましょう。とはいえ、本作にラジー賞から声がかかるのも納得の作品です。
どうしてこうなった、ブルース・ウィリス!
流石に最近は減りましたが、ハリウッドの有名俳優が残念な映画に出演すると「金に目がくらんだ」「ギャラ目当て」だの、辛辣な言葉を口にする映画通の方は世界中に存在します。その多くはラジー賞のファンでしょう。
ハリウッドスターと言われる俳優が出演作品を決めるのに、当然人によって様々な方針があります。自分の出たい作品優先する、仕事よりプライベート優先、ギャラなど条件で決める…これは仕事に向き合う各個人のスタイルというものです。
では、近年「B級映画」への出演の多いとされるブルース・ウィリス、どんな背景があるのでしょうか?今も『ダイ・ハード』シリーズが注目される彼の、改めて近年のキャリアを振り返ってみましょう。
『シン・シティ』(2005)などのロバート・ロドリゲス監督作品、シルヴェスター・スタローンが監督した「エクスペンダブルズ」(2010)シリーズ。
そしてウェス・アンダーソン監督の『ムーンライズ・キングダム』(2012)に、異色のSF映画『LOOPER ルーパー』(2012)…。2000年以降この時期までの、ブルース・ウィリスの出演作は多様で輝いていた、と評して良いでしょう。
しかし彼にとって看板シリーズの映画、『ダイ・ハード ラスト・デイ』(2013)の興行がアメリカで振るわなかった…日本を含む全世界では、まずまずのヒット作ですが…この作品以降、何かがおかしくなりました。
『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』(2014)でギャラが折り合わず、降板したブルース・ウィリス。この一件でスタローンとの確執が生まれ、同世代のアクション俳優との共演が難しくなったと言われています。
そしてウッディ・アレン監督の『カフェ・ソサエティ』(2016)への出演が決まりながら、撮影開始数日後に降板が発表されたウィリス。彼の役はスティーヴ・カレルが引き継ぎました。
公式には舞台劇に出演のため、と説明されますが、あまりに不自然な時期の発表。どうもセリフをしっかり覚えておらず、共演者との演技に問題があったと噂されます。以降アート系映画への起用も敬遠され始めます。
この後プロデューサー、ランドール・エメット(『アイリッシュマン』(2019)など、膨大な映画を製作している大物です)が製作する作品への出演が増えたウィリス。本作も彼の製作映画の一つです。
ランドール・エメットがウィリスに与えた仕事は、まず全米劇場公開されることの無いビデオ・配信向け映画。一説では彼はこの仕事で、1週間の撮影で100万ドルの報酬を得たと言われていましたが、現在はどうでしょう?
それでもあのブルース・ウィリス出演作なら、広く海外でのセールス可能。製作には多くの出資者が集まり資金調達も比較的楽です。ちなみに本作、プロデューサーの名が付く人物が30名以上います…。
こうして「ブルース・ウィリスの出演時間は15分」「出資者に理解を得やすい『ダイ・ハード』タイプの映画」「ラストはウィリスのセリフで終わる」、と揶揄される映画が続々誕生しているのです。
これがどんな作品を意味するのかは、「未体験ゾーンの映画たち」ファンなら絶対に想像できるでしょう。
撮影現場では愛される世界的映画スター
なるほどブルース・ウィリス、ラジー賞にイジられる訳です。作品の出来のみならず、他の業界関係者から孤立気味で(彼には共和党支持者…という一面もあります)、ラジー賞関係者が安心して、遠慮なく叩ける人物と知ると…、少し気の毒な気もします。
しかしこういった作品での、撮影現場の彼の評判は決して悪くありません。本作監督のジェームズ・カレン・ブレザックは、出会った時から良い関係をもてた、扱いやすい人物だとインタビューで答えています。
大スターとの仕事は難しくないかと問われ、撮影現場では彼と冗談を言い合えた、雰囲気を明るく保ってくれる人物だと語っているブレザック監督。
また本作でウィリスの相棒の刑事を演じたスウェン・テメルも、彼との仕事は退屈しない。彼は常に温かく接してくれる人物で、本当のパートナーのように感じながら共演できた、と証言しています。
無論リップサービスはあるでしょう。しかし近年の作品の、ウィリスの撮影現場での評判を調べても、悪い評判を目にする機会はありません。
俳優として成功するまでに様々な職業…肉体労働や原発の警備員、私立探偵まで経験しているブルース・ウィリス。
ドラマ『こちらブルームーン探偵社』(1985~)、『ダイ・ハード』で成功を収めても、失敗作と評される作品にも出演するなど、彼はキャリアを築く上で様々な辛酸を味わいました。
製作前にギャラでもめることがあっても、撮影が始まればムードメーカーに徹する好人物のウィリス。苦労人だけに、現場でわがままを通すスターでは無いようです。
まとめ
ラジー賞ノミネートも当然、ツっこみどころ満載です。だけどアクション映画ファンは憎めぬ作品『サバイバル・シティ』、いかかでしょうか?
何も考えずに見れる映画が大好きという方、女性に露出度の高さは求めぬ紳士ですが、強いおネエさんの格闘シーンは大好き、という方におススメしたい映画です。
ブルース・ウィリスについてジェームズ・カレン・ブレザック監督は、この映画に脚本に無いアドリブ演技を、いくつも持ち込んでくれたと紹介しています。
他の現場のエピソードでも、ウィリスは撮影現場で演技を変えたり、アドリブで演じるのが大好きなようで、それを歓迎する監督・演出家との相性は非常に良いようです。
一方で『カフェ・ソサエティ』を降板したエピソードを紹介しました。公式の理由はブロードウェイ版の、スティーブン・キング原作の「ミザリー」の舞台に立つためです。
この舞台劇「ミザリー」で作家役を演じたウィリスですが、その演技は酷評されたようです。どうやらアドリブが大好きな彼は、台本通りに決められた演技を演じさせる作品や演出家とは、相性が悪いように思われます。
これはウィリスの良し悪しではなく、彼の演技スタイルに起因するものと考えます。映画を愛する皆さんはどうお考えでしょうか。
執筆時点では第42回ゴールデン・ラズベリー賞、まだ発表されてません。しかし私は本作は、”ブルース・ウィリス2021年公開作の最低演技部門”には、選ばれないと予想します。
これが”最低作品賞部門”なら、ツっこみどころ満載の愛すべき作品ゆえに、有力候補になったでしょう。しかしこれでも受賞しないと思いました。
“最低助演部門”なら本作は本命、と考えますが、「出演時間は15分」の作品が他にもあるようで、この基準でもライバルが多く受賞は難しそうですね。
発表前に宣言しておきます。ラジー賞”ブルース・ウィリス2021年公開作の最低演技部門”、本作はおそらく受賞しません。
受賞するのは「ブルース・ウィリスが、15分間以上出演した作品」だと断言します。…でも、ノミネート8作品とも「出演時間は15分」以下だったら、どうしましょう?
次回の「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」は…
次回の第16回は救急隊員が負傷者として乗せたのは、自爆ベルトを付けたテロ実行犯だった!ノンストップ・サスペンス映画『ドント・ストップ』を紹介いたします。お楽しみに。
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増田健(映画屋のジョン)プロフィール
1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。
今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn)