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Entry 2022/08/14
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『マグネティック・ビート』あらすじ感想と解説評価。フランス青年が80年代の冷戦期を生き抜く成長録|2022SKIPシティ映画祭【国際Dシネマ】厳選特集9

  • Writer :
  • 桂伸也

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022国際コンペティション部門 ヴァンサン・マエル・カルドナ監督作品『マグネティック・ビート』

2004年に埼玉県川口市で誕生した「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、映画産業の変革の中で新たに生み出されたビジネスチャンスを掴んでいく若い才能の発掘と育成を目指した映画祭です。

第19回を迎えた2022年度は3年ぶりにスクリーン上映が復活。同時にオンライン配信も行われ、7月27日(水)に、無事その幕を閉じました。

今回ご紹介するのは、国際コンペティション部門にノミネートされ、監督賞を受賞した ヴァンサン・マエル・カルドナ監督作品『マグネティック・ビート』です。

【連載コラム】『2022SKIPシティ映画祭【国際Dシネマ】厳選特集』記事一覧はこちら

映画『マグネティック・ビート』の作品情報

【公開】
2022年(フランス・ドイツ合作映画)

【監督】
ヴァンサン・マエル・カルドナ

【出演】
ティモテ・ロバール、マリー・コロン、ジョゼフ・オリヴェンヌ

【作品概要】
連戦化の80年代を背景に、ミッテラン大統領の選挙勝利に沸くフランスにおいて、一人の青年が兵役に駆られながらも、DJとしての活動に青春を賭ける姿を追ったドラマ。フランスの新鋭、ヴァンサン・マエル・カルドナ監督が作品を手掛けました。

主人公・フィリップを演じたのは、『バーニング・ゴースト』(2019)にて主演を務めたティモテ・ロバール。本作でセザール賞にて有望若手男優賞にノミネートされました。

兄ジェロームを演じたのは、『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)などで知られるクリスティン・スコット・トーマスの息子ジョゼフ・オリヴェンヌ。

ヴァンサン・マエル・カルドナ監督のプロフィール

1980年、フランス・ブルターニュ生まれ。

フランス国立映画学校フェミスの監督学科卒業、卒業時に制作した『Coucou-les-Nuages』がカンヌ映画祭シネフォンダシオンにおいて第2席を獲得、高い評価を得た。

初長編監督作となった本作は、2021年の同映画祭監督週間で、フランス語映画の中から選ばれるSACD賞を受賞し、さらにセザール賞にで新人監督賞も受賞した。

映画『マグネティック・ビート』のあらすじ

冷戦下の80年代、フランスのブルターニュ地方の田舎町でフィリップとジェロームの兄弟は無許可のラジオ放送に没頭し、毎日を過ごしていました。

しかし兵役の時期が迫るフィリップは、その難を逃れようと策を打つも失敗、徴兵により西ベルリンへ渡ることに。

兄の元恋人でフィリップも気になっていた女性・マリアンとはあいまいな関係のまま別れましたが、彼は出発直前に彼女より一本のカセットテープを受け取ります。

このテープに込められた音楽やマリアンの言葉は、彼の人生の道筋を大きく変えていきました。

映画『マグネティック・ビート』の感想と評価

冷戦下の80年代、東西に分かれたドイツ。そしてミッテラン政権発足という国内での大きな節目を迎えたフランス。

冷戦西側的立場にあったフランスでの政治的変革や青春の大きな障壁となった徴兵制、そして主人公フィリップが兵役の中でたどったドイツでの道のりなど、本作は一人の人間の姿を追った物語でありながら、非常に大きな世界を感じさせます。

その中でDJとしての才能を持っていながら、兵役前にはどちらかというと控えめで自身を表現することが難しいフィリップ。

すでにカリスマ性を持ったDJとしてプレイしていた兄の陰に隠れていたり、問題を抱えた家族に翻弄されたりと、迷走を続けていた彼が皮肉にも避けようとしていた兵役の途で自身の道に光を見出します。

本作ではそこからさらに物語が展開していくわけですが、物語を通して見ると、避けようとした徴兵の道へ進むことで、フィリップは自身のDJとしての道を開いていったわけであり、彼は思いもよらなかった道に進んでいったことがわかります。

冷戦という時代でフランスという国において、未来も見えてこない自身の人生において障壁となるであろうと思っていた兵役の中で、フィリップは紆余曲折しながら自身の道を確立していきます。

物語のイメージとしては時代背景の複雑さを強く感じますが、物語に描かれたメッセージとしてはむしろ人々が自分の人生においてさまざまな障壁に対して、いかにそれを乗り越え自己を確立していくかという核心的なポイントが光っており、時代を超えた普遍性が強く感じられる作品であります。

また戦争、徴兵という場を通して、一人の女性への思いとともに、青春のひと時を描いた作品として本作は『シェルブールの雨傘』(1964)『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)などを想起させるところもあります。

結果的に主人公とヒロインとの関係はどこかあいまいですが、愛する人と長きにわたる別れ、そして再び出会い、自身の成長とともに変わっていった相手への想いが、それぞれの胸の内に大きな波を起こすという展開は、主人公が歩んだ運命による影響を大きく感じさせるものとなっています。

まとめ

俳優陣で注目は、やはり主演を務めたフランスの新鋭・ティモテ・ロバール。物語序盤の主人公は、どこかあか抜けない田舎の青年という風貌の表情を見せていますが、物語が進むにつれ一人の自立した男性の表情へと変わっていきます。

その変貌ぶりは、物語の展開とともにフィリップが出くわすさまざまな出来事の影響を受けるという理にかなった表情の変化を感じさせるものでした。

映画というわずかな時間軸の中で、一人の男性の最も大事な部分を描くというミッションにおいて、俳優として非常に優れた表現力、推察力によって貢献しており、セザール賞にて有望若手男優賞にノミネートという評価も十分うなずけるものといえるでしょう。

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