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Entry 2019/12/03
Update

映画『アイリッシュマン』あらすじネタバレ感想と結末ラストの考察解説。マーティンスコセッシ監督とデ・ニーロらキャストで描く極上の演技合戦

  • Writer :
  • 黒井猫

暴力と裏切りの支配するアメリカ裏社会
男たちの生き様を描く映画『アイリッシュマン』!

『グッドフェローズ』(1990)『カジノ』(1995)などのマフィア映画の金字塔を製作してきたマーティン・スコセッシが実現まで10年以上の構想と製作費1億5000万ドル超をかけて撮影された映画『アイリッシュマン』。

一時はその膨大な製作費から製作が頓挫していました。

200分を超える上映時間ながらも、その世界観に引き込まれる、スコセッシの映画への情熱がヒシヒシと伝わる作品になっています。

名優デ・ニーロと巨匠スコセッシの9度目のタッグとなるマフィア映画『アイリッシュマン』を紹介します。

映画『アイリッシュマン』の作品情報


(C) Netflix

【日本配信】
2019年(アメリカ映画)

【原題】
Irish Man

【監督】
マーティン・スコセッシ

【キャスト】
ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーベイ・カイテル、レイ・ロマノ、ボビー・カナベイル、アンナ・パキン、スティーブン・グレアム、ステファニー・カーツバ、キャサリン・ナルドゥッチ、ウェルカー・ホワイト、ジェシー・プレモンス、ジャック・ヒューストン、ドメニク・ランバルドッツィ、ルイス・キャンセルミ、ポール・ハーマン、ゲイリー・バサラバ、マリン・アイルランド、セバスティアン・マニスカルコ、スティーブン・バン・ザント

【作品概要】
原作はチャールズ・ブラントの『I Heard You Paint House』(1999)。脚本は『ドラゴン・タトゥーの女』(2011)で脚本・製作総指揮を務めたスティーブン・ザイリアン。

また撮影監督は『ラスト、コーション』(2007)で第64回ヴェネツィア国際映画祭オゼッラ賞を受賞したロドリゴ・プエリトで、マーティン・スコセッシ監督とは、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)と『沈黙 -サイレンス-』(2016)でもタッグを組んでいます。

本作は「De-Aging Process」という新技術を用いて、CCによる特殊効果で俳優の若返りを試みている作品です。また、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシのハリウッドのレジェンド3人に加え、映画界の巨匠スコセッシが描く集大成的作品として注目されています。

映画『アイリッシュマン』のあらすじとネタバレ


(C) Netflix

精肉を運ぶトラックの運転手として働いているフランク・シーラン(ロバート・デ・ニーロ)は肉塊を横流しをしながら生計を立てていました。ある時、トラックに積まれていた商品がなくなるという事件から、会社に訴えられます。

しかし、有能な弁護士ビル(レイ・ロマノ)の手腕により無罪になります。ビルと勝訴を祝うためにレストランに来ると、イタリアンマフィアのボス、ラッセル・ファブリーノ(ジョー・ペシ)を紹介されます。そこでラッセルに気に入られたフランクは組織との関係が密になります。

クリーニング店に出資しているウィスパーズからライバル店を潰してくれと頼まれ、実行します。後日、フランクは組織から呼ばれ、そのライバル店は組織と仲の良いユダヤ系マフィアが投資をしていることを知らされます。そして、フランクはケジメのためウィスパーズを殺めます。

それからフランクの元に組織の汚れ仕事が増えていきます。淡々と仕事をこなすフランクは、ラッセルから全米トラック運転手組合のボスであるジミー・ホッファ(アル・パチーノ)を紹介されます。そして、フランクはジミーの依頼をこなし、認められ、ジミーの右腕として働くこととなります。

その後、イタリアンマフィアの念願であるアイルランド系の大統領が誕生します。しかし、マフィアとの縁のある人物ではなく、ジョン・F・ケネディでした。それにより弟ロバート・ケネディが司法長官に任命され、FBIを使っての捜査や盗聴を行い、ジミーを攻撃し始めます。

ジミーは陪審員の買収などあの手この手を使って捜査をかわします。ある日、ケネディ大統領がダラスで狙撃されます。ケネディ大統領の死後、ジミーは組合年金の不正運用で詐欺罪となり、逮捕されます。

ジミーは逮捕され、投獄されている間に部下のフィッツ(ゲイリー・バサラバ)に年金の運用を任せますが、裏切られます。そこでジミーはユダヤ人のドーフマンに命じてフィッツのマフィアへの融資を止めます。怒ったラッセルは、フランクにドーフマンへの威嚇射撃を命じます。

また、別の組織のボスのトニー・プロ(スティーブン・グレアム)が恐喝により投獄されます。トニーはジミーに年金を取り返してほしいと頼みますが、ジミーは断り、喧嘩になります。

それから数年経ち、ニクソンが大統領になります。ニクソン大統領の特赦によりジミーは刑務所から出所します。フィッツは全米トラック運転手組合のボスとなり、トニーと親しくしていました。ジミーは再び全米トラック運転手組合のボスとなるためにトニーと会いますが、再び喧嘩をしてしまいます。

どうしても再び返り咲きたいジミーは組合がマフィアと関係を持っていることを公表したり、マフィアへの融資を止めたりします。そのことで怒ったラッセルはフランクにジミーに忠告することを命じます。その時、ラッセルはフランクに世界に3人しか持っていない指輪を渡します。

組織と友人であるジミーとの板挟みになったフランクはジミーに渋々忠告します。しかし、ジミーはこの組合は俺のものだと言って聞き入れませんでした。

その後、ビルの結婚式に参加するためラッセル夫妻とフランク夫妻はデトロイトに向かいます。その道中、フランクはジミーと連絡を取り、トニーとの和解のため結婚式に参加してほしいと頼みます。最初は断っていたジミーもフランク同席の下、トニーと和解することを了承します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『アイリッシュマン』ネタバレ・結末の記載がございます。『アイリッシュマン』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C) Netflix

その夜、フランクはラッセルからジミーの殺しを命令されます。翌朝、デトロイトへ飛行機で向かい、ジミーの義理の息子チャッキー(ジェシー・プレモンス)とトニーの部下のサリーと合流してジミーに会いにいきます。

ジミーを会談の行われる家に連れていき、ジミーとフランクは家に入りますがそこには誰もいません。家から出ようとしたジミーをフランクは背後から頭部に2発銃弾を撃ちこみ、殺します。

数日後、ジミーの失踪はニュースとなって報道されています。そのニュースを見たフランクの娘ペギーは、ジミーの失踪と父フランクが関係していることに気づき、絶縁となってしまいます。ジミーは殺害されたのち、燃やされ灰になっていました。

サリーの裏切りにより、ジミー殺害の関係者としてマフィアの大勢が目をつけられ、逮捕されます。ラッセルは囮捜査にかかり、フランクは適当な罪を受け、逮捕されます。そしてフランクとラッセルは共に刑務所に入れられます。

時は経ち、刑務所生活の中でラッセルもフランクも老人になっています。ラッセルは自分一人では生活できず、パンも食べられないほどに老いていました。ラッセルはフランクにジミーの件はやりすぎたと反省していました。そしてラッセルは心臓発作で亡くなります。

出所したフランクは妻にも肺癌で先立たれ、組織の仲間は全員死に、娘とは絶縁となりフランクは孤独となります。刑務所での生活によって戦時中に発症していた関節炎が悪化し、杖がないと歩けない状態になっていました。そのため、介護施設で自身の終活をしながら暮らしていました。

そこに、ジミー失踪の真実を教えてほしいとFBIがフランクの元へやってきます。しかし、フランクはマフィアの掟である秘密を話さないことを徹底し、話しませんでした。フランクは教会で今までの行いに対して懺悔をします。

ある日、看護師にジミーの写真を見せても、看護師はジミーのことを知りませんでした。そこでフランクは時の流れを痛感します。

その日の夜、神父と一緒に祈りを唱えます。フランクは神父に出ていく際、少し扉を開けてくれと頼みます。少し開いた扉を遠い目で見つめ、フランクはクリスマスを独り過ごします。

映画『アイリッシュマン』の感想と評価


(C) Netflix

1990年に『グッドフェローズ』、また1995年には『カジノ』でマフィア映画を手掛けてきたマーティン・スコセッシ監督と、ロバート・デ・ニーロの約22年振り9度目のタッグとなる本作品『アイリッシュマン』はスコセッシの集大成と言える作品です。

その脇をハリウッドを代表する名優アル・パチーノ、ジョー・ペシが固めています。激しいアクションはなく、淡々と重厚な物語は進みますが、スコセッシの見事な演出、カメラワーク、編集、音楽により上映時間3時間半を感じさせない作品となっています。これは、Netflixだからこそ製作できた超大作でしょう。

ジミー・ホッファ失踪事件を描く実録マフィアもの


(C) Netflix

作中に登場するアル・パチーノ演じるジミー・ホッファは実在した人物で、労働者階級のカリスマ的存在であり、ケネディ大統領に次ぐ権力の持ち主でした。ケネディ暗殺を企てた人物の一人と噂される人物でもあります。

ホッファは1957年から1967年まで全米トラック運転手組合チームスターのトップに君臨し、マフィアと密な関係を築きます。しかし1967年に投獄され、出所したのち、1975年にデトロイト近郊のレストランに出かけたまま失踪してしまいます。

ロバート・デ・ニーロ演じる、ホッファの右腕を務めていたフランク・シーランがライターのチャールズ・ブラントに自分の過去を語るシーンから始まります。それによって書かれたノンフィクション『I Heard You Paint House』(1999)が本作の原作となっています。

その本を読んだスコセッシが2007年から構想し、実現まで10年以上の年月をかけたと言われています。また、「物語の流れから俳優の候補を絞るうちに、結果的に古株を集める形となり、これは意図していなかった」とNetflixで同時公開されているドキュメンタリーの中で語っています。

ちなみに、映画の中で繰り返し登場する“Painted”とはマフィア同士の合言葉で“Kill”と同じ意味を持ちます。

ハリウッドのレジェンドたちが魅せる映画愛


(C) Netflix

本作ではスコセッシとデ・ニーロが幼少から過ごしてきた世界観を35mmフィルムカメラを用いて描いており、映像の魔術師フェデリコ・フェリーニの影響による、スコセッシイズム溢れる流麗な長回し、美しい音楽に観客は魅了されます。

そして本作で用いられた、1台のカメラに3つのレンズをつけることでマーカーなしにCGによる若返りの特殊効果を施す「De-Aging Process」という新技術によって、若返ったデニーロとペシの演技も見どころです。

これまでの、スコセッシによるマフィア映画の中でも集大成的作品となる映画『アイリッシュマン』は、物語としては権力と権力の板挟みという点で深作欣二の『仁義なき戦い』(1973)やキム・ソンスの韓国映画『アシュラ』(2017)を想起させますが、エネルギッシュで動的な映像の『グッドフェローズ』『仁義なき戦い』『アシュラ』とは正反対のどっしりとした映像で静的な作品となっています。

しかし本作には、そんな静的ながらもハリウッドの名優と巨匠の並々ならぬ映画愛が溢れています。それは、2019年10月に「マーベル作品は映画ではない」と言い、批判を喰らったスコセッシのアンサーかもしれません。

また映画最後で描かれる、仁義を捨て、友人を殺害したマフィアの悲惨な終活とフランクの懺悔は、スコセッシを含むマフィアを演じ生きてきた男達の“死生観”と“宗教観”を色濃く反映したものでしょう。とても心に響くシーンとなっています。

スコセッシによる、この新しいマフィア映画の傑作を全ての人に見てほしいです。それほどに贅沢な映画体験を与えてくれること間違いなしの作品となっています。

まとめ


(C) Netflix

スコセッシが長年の思いの末、ようやく公開された映画『アイリッシュマン』は何度でも見たくなる魅力的な映画です。間違いなく、2020年オスカー賞レースに絡んでくる作品でしょう。

できることなら劇場で多くの人々と、この重厚でビターながらも華やかな映像体験を共有したかったです。

富と権力が支配する暗黒社会を駆け抜ける男達の半生を是非、堪能してください。



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