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Entry 2018/12/11
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坂田貴大映画『クマ・エロヒーム』あらすじと感想。気鋭の監督が異色作で描いた現代社会の問題とは| SF恐怖映画という名の観覧車27

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile027

20代の新進気鋭の映画監督、坂田貴大が製作した12月22日(土)公開の最新映画『クマ・エロヒーム』(2018)。

今回は私たちの住む地球とは別の惑星と言う「SF」的設定ながら、「少子化」と言う現代の問題を正面から捕らえた「宗教」的作品である本作をご紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

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映画『クマ・エロヒーム』の作品情報


(C)映画「クマ・エロヒーム」製作委員会

【公開】
2018年(日本映画)

【監督】
坂田貴大

【キャスト】
村上由規乃、古矢航之介、高見綾、本田七海、加賀谷健、渡部剛己

映画『クマ・エロヒーム』のあらすじ


(C)映画「クマ・エロヒーム」製作委員会

子供を作ることを全てとする宗教団体が統治する惑星。

神の子である「ヤヌーカ」を授かれない人間は「罪」とされるこの惑星で、エマ(村上由規乃)とアユム(古矢航之介)は子を作ることの出来ない苦しみを抱えていて…。

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「現代社会の抱える問題」と『クマ・エロヒーム』


(C)映画「クマ・エロヒーム」製作委員会

2007年、当時の厚生労働大臣による「女は産む機械」と言う発言が問題となりました。

女性がビジネスや社会の現場で活躍し始めたことによる晩婚化や賃金の低下などによる、「子供を産みにくい社会」が、人口の減少の引き金となる「少子化」に繋がっていると専門家は指摘しています。

「男女共同参画社会」と「少子化」、この複雑な2つのテーマを『クマ・エロヒーム』は「完全管理社会」を使い描いていました。

「少子化」と「女性の在り方」

本作では惑星を統治する宗教団体によって、子供を産めないことは「罪」とされています。

しかし、「罪」とされるのは子供を授かっていない「女性」だけであり、その原因が夫婦の夫にあったとしても「男性」側が責められることはありません。

「少子化」対策のために幼少時から「自由」を奪い、「子供」を産ませるために「人間性」すらも否定する。

行き過ぎた政策を正当化するために、操作した「世論」を刷り込む行為の恐ろしさを、空虚な世界観で表現しています。

「宗教」と『クマ・エロヒーム』


(C)映画「クマ・エロヒーム」製作委員会

現代社会の問題を描く一方で、実は「宗教」とも繋がりの深い本作。

『クマ・エロヒーム』を鑑賞するうえで、予め知っておくとより深くこの映画を感じることが出来る「宗教」的知識をご紹介します。

宗教的解釈が可能な用語たち

本作には日常生活では聞きなれない様々な単語が登場します。

宗教団体「ヤヌーカの丘」は本作オリジナルのものであり、実在はしません。

しかし、登場する用語の数々は、現実の「宗教」に類似するものがあり、宗教的解釈を可能とさせています。

クマ・エロヒームとヤヌーカ

本作のタイトルにも起用されている『クマ・エロヒーム』という言葉。

「エロヒム」はヘブライ語で「神」を意味し、「立ち上がる」と言う意味を持つ「クム」と合わせ「クマ・エロヒーム」とすることで「神よ、立ちあがってください」と言う意味になります。

エマは純粋に「神」を信仰し、一方でアユムは様々な細工で現在の状況を乗り越えようとします。

同じくヘブライ語で「赤子」を意味する「ヤヌーカ」を授かるため、苦悩する2人。

タイトルである「神よ、立ちあがってください」と言う言葉が、誰の心情を表現したものなのか、が物語の重要なポイントとなります。

アユムとエマ

ユダヤ・キリスト・イスラム教において、創造主ヤハウェ・エロヒムによって創られた最初の人間とされるアダムとエバ(イヴ)は宗教知識に詳しくない方でも聞いたことがあるでしょう。

『クマ・エロヒーム』の主人公、アユムとエマはアダムとエバに語感が酷似しており、前項のタイトルの事も合わせて考えると、アダムとエバをモチーフにしていると推察できます。

禁忌を犯し楽園を追放されたアダムのように、アユムは禁忌を犯してしまうのか、にぜひとも注目してみてください。

創世記22節

“That in blessing I will bless thee, and in multiplying I will multiply thy seed as the stars of the heaven” – Genesis Chapter22 16-17

映画の冒頭で、上記の引用文が表示されます。

この文章は海を割ったエピソードが有名なモーセが著述したとされるキリスト・ユダヤ教の聖典であり、イスラム教における啓典ともされる「創世記(Genesis)」の1文です。

上記の1文が登場する「創世記」の「22節」では、「神」を信仰する「アブラハム」が愛する1人息子「イサク」を生贄に求められ、「神」への信仰と愛から「イサク」を捧げようとします。

その行動を見た「神」が、子を欲していた「アブラハム」に対し、天の星のような、海辺の砂のような数の子供を与えるというエピソードが記述されています。

『クマ・エロヒーム』では自身の過去のトラウマが原因で、妻のエマに子供が出来ずアユムも精神的に追い詰められていきます。

「子を欲している」アユムが、選択と試練を迫られた時、何を選ぶのか。

「創世記」とは異なるものの、どこか雰囲気を感じさせる、引用文の使い方が深い作品です。

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映画『クマ・エロヒーム』のまとめ

先進的な技術を感じさせる一方で、曇天の風景ばかりが使用された「不穏さ」が印象的な本作。

「創世記」を引用し「宗教」色を匂わせつつも、現代社会の問題を正面から描いた異色の和製「SF」映画、『クマ・エロヒーム』は2018年12月22日(土)より池袋シネマ・ロサにて公開です。

新進気鋭の若手監督の才能が光る本作を、是非とも劇場でご覧になってください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile028では、ディズニーの最新映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』(2018)を題材に「インターネット」を題材とした「SF」映画の歴史を紐解いていこうと思います。

12月19日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

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