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映画『サクリファイス』あらすじと感想。青木柚×五味未知子×半田美樹らキャストが演じた心境とは【壷井濯監督と出演陣のQ&A収録】2019SKIPシティ映画祭8

  • Writer :
  • 桂伸也

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019エントリー・壷井濯監督作品『サクリファイス』が7月20日に上映

埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにて行われるデジタルシネマの祭典が、2019年も開幕。今年で第16回を迎えました。

そこで上映された作品の一つが、日本の壷井濯監督が手掛けた長編映画『サクリファイス』

かつて新興宗教団体で東日本大震災を予知したという不思議な能力を持った少女や、闇を抱えた過去を持ち、周辺で発生した怪事件の容疑者とされる青年らをめぐる事件を、独特の描写で追ったサスペンス・ストーリーです。

【連載コラム】『2019SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら

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映画『サクリファイス』の作品情報


(c)2018立教大学映像身体学科/Récolte&Co. /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

【上映】
2019年(日本映画)

【英題】
Sacrifice

【監督】
壷井濯

【キャスト】
青木柚、五味未知子、半田美樹、藤田晃輔、櫻井保幸、矢﨑初音、下村花、三坂知絵子、草野康太、三浦貴大

【作品概要】
カルト、災害、未来予知、戦争など、近年世を震撼させるキーワードを緻密に構成し、世界の終わりを予感させるシリアスで独特の雰囲気を持った本作。

本作を手掛けた壷井濯監督は、在学中から篠崎誠監督や黒沢清監督の現場にスタッフとして参加、そんな経験を生かして、初の長編第一作とは思えないスケール感を持った作品に仕上げています。

謎めいた主人公・沖田を『コーヒーが冷めないうちに』『累-かさね-』に出演、7月から公開となる『暁闇』では主演を務めた青木柚が担当。

他にも五味未知子、半田美樹など期待の若手俳優たちがメインキャストを担当する一方で、三浦貴大、草野康太、三坂知絵子といった実力派俳優が脇を固めています。

壷井濯監督のプロフィール


(c)Cinemarche

東京都出身。

日本映画学校(現日本映画大学)卒業後、立教大学現代心理学部映像身体学科に入学し、在学中より、篠崎誠監督『SHARING』『共想』や黒沢清監督『岸辺の旅』の制作にスタッフとして参加しました。

本作は第一回立教大学映像身体学科スカラシップ作品として選出されており、壷井監督としても長編初監督作品となりました。

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映画『サクリファイス』のあらすじ


(c)2018立教大学映像身体学科/Récolte&Co. /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

かつて新興宗教団体「汐(うしお)の会」で東日本大震災を予知していた少女・翠(みどり)。現在はある大学の女子大生として平穏無事な生活を送っていました。

一方、同大学には優秀な成績で高く評価されている学生・沖田がいましたが、そのクラスメートである塔子は、あるきっかけで沖田がかつて猫殺しを行った疑いが見られ、同時に心の闇の部分を持っていると思われる資料を発見、近日学校の周りで連続して発生していた猫殺し事件の犯人は、沖田でないかと疑っていました。

猫殺しは、その殺人の順で猫に番号が付けられており、さらにその番号はある順で一つ飛ばされ、その間に一人の女学生が殺されていたりと、大きな事件として学内でも騒がれていました。

そんなある日、クラスメートだった一人の目立たない男子学生が軍服で登校、「しんわ」という宗教団体に入信したことが話題になります。その「しんわ」はかつて存在した「汐の会」の後継団体であり、その男子学生は、超能力を持ちながら会から逃げた翠を、密かに会に引き戻そうとたくらんでいました…。

映画『サクリファイス』の感想と評価


(c)2018立教大学映像身体学科/Récolte&Co. /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

震災を予測したという一人の少女の登場から、物語は得体の知れない何か非科学的なものを感じさせます。

不穏な行動を見せる宗教団体、猫殺しという猟奇事件とさまざまに登場する要素、そして映像や音声の効果からくる不穏な空気が、しっかりと見る人の気持ちをつかむ一方で、物語には過去に闇を抱えている3人の男女に注意が向きます。

一人は主人公・沖田。表向きは非常に優秀な大学生で、何事もそつなくこなしているように見えて、どこか影があり幼少時に猫殺しを行った疑いを持つ青年。

その沖田に付きまとう塔子という少女。自分に無いものに対して異常に執着を持った彼女は、沖田の過去を執拗に探り、付きまといます。

そして、不思議な能力を持ちながら他人と違う自分に違和感を抱き、その能力を隠して普通に生きようとする翠。

そのタイトルや展開からはどちらかというと超自然的な物語、あるいは残虐なものを想像してしまいがちではありますが、全体的にはこの3人の人間の生きざまに大きなポイントが置かれています。

それぞれが自分に足りないものにコンプレックスを持ち、普通に生きているようでも、どこかに危うさを抱えている。

そしてそんな3人を取り巻く人たちにも、それぞれ何らかの危うさが見えます。将来有望な社会人候補と見える姿を恋人の前で演じる青年、いつも影にいて目立たない性格だったのに、ある日とある宗教に入信してしまう青年、そして娘とともに宗教に入信し人生をささげてしまった母親。

壷井監督は本作を作る際に、「孤独を恐れず、立っている人を描きたいと思った」と考えたといいます。

この作品の雰囲気にはミステリアスな雰囲気もあり、登場人物は誰もが何らかの闇を抱えた人ばかり。尋常ではない空気を感じますが、普通に現代を生きている我々と、実はそれほどかけ離れたものではないと見ることもできます。

たまたま存在した宗教団体や、過去に起きた猟奇的な事件がつながり、普通には見えない事件が展開する箇所はありますが、それぞれの人間が抱えているものは、今を生きる人であれば誰もが抱えることではないかと考えられるものです。

その意味ではぐっと引き込まれた映像の中で、自身が抱える闇や諸々の問題に対してさまざまな共感を覚え「自分だったら立っていられるだろうか」、または「自分が立っているためには、どうすべきだろうか」とさまざまなことを考えさせられるに違いありません。

そして作品の中で、闇を持ちながらも立っている人々の姿に、自身もこうあるべき、こうなっていたいと感じ、勇気づけられるところもあるでしょう。

映像的な工夫はもちろん、制作者の熱意、何か思いを伝えたいという思いにあふれた作品といえます。

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上映後の監督とキャストのQ&A

20日の上演時には壷井監督と、主人公・沖田役を務めた青木柚さん、翠役を務めた五味未知子さん、塔子役の半田美樹さんと、共演の藤田晃輔さん、櫻井保幸さん、青木陽南さんが登壇、舞台挨拶を行いました。また、壷井監督と青木柚さん、五味さん、半田さんは、会場に訪れた観衆からのQ&Aにも応じました。


(c)Cinemarche

──環境音の使い方、またショット割りなどの手法が印象的でしたが、こういった手法についてどのようなお考えなのでしょうか?

壷井濯監督:(以下、壷井監督)自分で自分の作品を見て、確かに教えていただいた篠崎監督の影響をわずかにでも感じたところはあります。ただ環境音は、それほどこだわっているというわけではありません。

でもこだわりの部分もあり、例えば病室で言い争うシーンの中に子供の声を入れたりしている箇所があります。これはこのシーンの中心が言い争いの部分でありながら、個人のやり取りなど関係なく世界は回っているということを、音で表現できればと考えてやってみました。そんな考えで音を入れたりすることはありました。


(c)Cinemarche

──登場人物によって環境音を使い分けていると感じました。

壷井監督:ありがとうございます。ただ、計算して使い分けたというつもりは全然ありませんでしたが(笑)

僕はあまり計算するタイプではなく、シーン毎で一番いいと思えることをやっているだけで、どちらかというと適当な感じで、その場その場で最善だと思えることを入れることしかできないんです。まず何か計算してやったということは、無いですね。


青木柚 (c)Cinemarche

──主人公の沖田という人物には明確なバックグラウンドが見せられませんが、演じられた青木さんはこのキャラクターについてどのようにどのように考えられましたか?

青木柚:(以下、青木)唯一、中学のときに猫を殺していたという噂があったということが物語では表されていますが、その真偽は不明です。

ただ、彼には表情がないんですが、それは小さいころのエピソードというところかなと思います。というのも僕もそういう部分が分かるところがある。僕は幼いころに(学校の)先生に怒られないためにいろんなことに注意して過ごしていました。

そんなことがあってか、マナーにうるさいところがあって、例えば電車や映画館にいるときにマナーを破っている人を見ると異常なほどに怒りを覚えることがありました。

物語では“境界”という言葉で表されていましたが、沖田にもそういう境界に関わるような経験をしたことで変わっていったのではないか、と持っています。


五味未知子(c)Cinemarche

──俳優の皆さんは、現場でのシーンとかやり取りのお芝居を、どんな風にクリエイションされていったのでしょうか?

半田美樹:私が演じた塔子は、事件の内容や「しんわ」のことを情報として伝える役を持つことがすごく多かったので、ちゃんと言葉を残すということを一番大事にしようと考えていました。

また塔子はわがままなところがあり、どんどん人の領域に土足で踏み込んでしまうようなというところがあるんですが、そこは塔子という人柄というよりも、シーンそれぞれに合った感情を大事にして演じることを心掛けました。そういう話も壷井監督と話をしたりもしましたし。

五味未知子:翠は感情を表に出さず秘めるタイプだと思ったので、演じる際にそういった部分を意識しました。例えばカフェで沖田と話すシーンがありましたが、自分のお母さんが宗教に入って変わってしまったりとか、お母さんがどうにかなってしまったり、そんな話をしています。

それは辛くて悲しいことだと思うので、普通であればやっぱり思い出しながらすごく悲しい気持ちになったり、いろんな感情がわいたと思うんです。

でもそこで感情を出すのではなく、実は自分の中に秘めた感情がすごくいっぱいある、というような表情を表現しようと思い、一個あった出来事を淡々と話しながら、自分自身で本当にやったことみたいにそれを思い出しながら演じました。

青木:僕は例えば、あるスクラップに猫の殺害事件に関する記事が貼ってあり、それを読み上げるようなシーンなんかで意識しました。

壷井監督と最初に沖田という人物についての話をしたときに“普通の人間だったらこういう反応をするけど、沖田は絶対そういう反応をしない”ということを、壷井監督からは明確におっしゃっていただいたりして。

だから例えば”そういうのは人間らしくない、ということを表現するの沖田だ”ということを自分の中で意識していたので、とあるシーンのセリフではすごくありえないグロテスクな表現が含まれていましたが、沖田的には普通のセリフという感じでさらっと言ってみたり、そんな風に演じさせていただきました。


半田美樹 (c)Cinemarche

──前回、クライマックスのシーンで使われる音楽の使い方が印象的でしたが、どなたかの作品から影響を受けたりしていたのでしょうか?

壷井監督:僕はこれまで結構脚本や撮った映画作品に対して「アニメみたいだね」とかよく言われたことがあり、正直あまりいい気分はしませんでした。ただ今回は逆にいっそ振り切ってそういうことをやってみようか、と思いついてやってみたところがあります。あのクライマックスのシーンは、実は庵野秀明さんの『新世紀エヴァンゲリオン』を参考にしたんです。

なので誰もが知っている歌が流れるところも『新世紀エヴァンゲリオン』みたいな感じを意識しました。でもそれはあの作品が好きでというよりは、今回は恥ずかしがらず、変に斜に構えずにそういうものなんだと考えて、参考にしてやってみました。

『新世紀エヴァンゲリオン』も、自分の作品には「あれっぽいね」と言われることが多くて、何でおなじといわれるのかなと考えるところもあるんですが。でもそう考えつつ、あの作品で好きじゃない部分もたくさんある一方で、でも確かにどうしても惹かれちゃうところもたくさんある。参考にした際には、そんなことも思っていました。


櫻井保幸 (c)Cinemarche


藤田晃輔 (c)Cinemarche


青木陽南 (c)Cinemarche

国内コンペティション長編部門「最優秀賞」受賞コメント

21日に行われた映画祭のクロージングにて、本作が国内コンペティション長編部門で「最優秀賞」を受賞したことが発表されました。壷井監督は、笑顔で受賞の喜びを語りました。


(c)Cinemarche

壷井監督:先程の(クロージングの)スピーチでも言いましたが、この映画祭で受賞できてよかったと思いました。本当に多様性がある映画祭だし、ここで受賞できたことは、本当に自分にとって大きなことだと思いました。

ここには映画祭の間、一週間通い続けたんですが、本当に多様性がある映画祭だなと思ったんです。赤ちゃんを連れてきたお客さんが、三池崇史監督の過激な映画を見たり、『恐怖のメロディ』のラブシーンを見たりして(笑)、それでまた赤ちゃんをだっこして帰る、って。

本当に多様性を感じます。そして今、映画界ではそういうことが多分一番大事なことなんじゃないかと思っているところもありますので、受賞できて本当に幸せに思っています。

まとめ


(c)Cinemarche

今回『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭』に、国内コンペティション長編部門で応募しノミネートされた作品の中でも、特に異彩を放っていた本作。

しかしその表面的なものは、実際に監督が見る人に向けて放つメッセージ的なものをさらにアピールする一つの存在に過ぎないようでもあります。

決して“ドキドキした”という思いにとどまらず、人生に違和感を覚えているような人、絶望を感じている人には、前向きに“何かをしなければならない”と考えさせてくれるようなモチベーションを与えてくれるでしょう。

クールな雰囲気の中で、最後には気持ちをポジティブにしてくれるものとなっています。

【連載コラム】『2019SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら

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