Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2018/10/10
Update

映画『バーバラと心の巨人』感想と結末の考察。想像力はホラーに通じる|SF恐怖映画という名の観覧車18

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile018

前回のコラムの次回予告では、今週はゾンビ映画を題材としたコラムを執筆する予定でした。

しかし、一足先に鑑賞した映画がとても興味深い映画でしたので、予定を変更し今回は2018年10月12日(金)公開の『バーバラと心の巨人』についてご紹介致します。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

『バーバラと心の巨人』あらすじ


©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

伝説上の「巨人」が実在することを信じ、街や家族を守るために森や浜辺に罠を仕掛け警戒する少女バーバラ(マディソン・ウルフ)。

「巨人」に対する知識と熱量とは裏腹に、学校では「変人」扱いされ、教師からは素行不良で呼び出される毎日を過ごしています。

そんなある日、バーバラのもとに、新任カウンセラーのモル(ゾーイ・ソルダナ)と、イギリスからの転校生ソフィア(シドニー・ウェイド)が現れ…。

『I KILL GIANTS』


©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

本作の原作となったのは日系イラストレーター、ケン・ニイムラによるグラフィックノベルである『I KILL GIANTS』。

アメリカで出版された後に世界各国で出版されたこの作品は、2012年に日本の外務省主催の国際漫画賞にて最優秀賞を受賞するなど、世界各国で評価を集めました。

日本では公開前から話題に


©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

本作は日本ではまだ未公開でありながら、SNSを中心に「あること」で話題になっていました。

それは、「日本版と海外版とのポスターの表現の違い」です。

アメリカにおける『バーバラと心の巨人』のポスターが「巨人にハンマーを持って立ちはだかるバーバラ」が映されているのに対し、日本版は「ポップな背景の前にウサミミを頭につけた少女が空を見上げている」というポスターだったことが広く拡散されていました。

しかし、議論の対象となっていた本国版と日本版のポスターの差異でしたが、結論から言ってしまえばどちらも間違いではありません。

「巨人」との戦いと「現実」との戦い


©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

バーバラは物語の中で、大きく分けて2つのものとの戦いを迫られます。

1つはバーバラが1人で研究し、戦い方を考え抜いてきた「巨人」との戦い。

そして、もう1つは「巨人」との戦いに執着するあまり、おざなりにしてきた「現実」との戦い。

一般的な作品では、この2つの戦いは別々のものとして描かれ、それぞれがすれ違いや共鳴をすることで物語に深みのある面白さをつけています。

しかし、本作ではこの2つの戦いは完全に1つのものとして描かれています。

そのため、どちらを主軸として映画を鑑賞するかにより、物語の表情がガラリと変わることになるため、「日本版と海外版とのポスターの表現の違い」の騒動こそがこの映画の「本質」に迫っているのでは、とすら思えます。

想像力と恐怖の対象


©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

本作は、ジャンルに区別するならば「ホラー」ではなく、「ファンタジー」であり「ヒューマンドラマ」です。

そのため、このコラムとは少し毛色が違った作品となりますが、ホラーに通じる要素がいくつも存在します。

「想像力」


©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

全米で大ヒットした『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017)のように、「恐怖の対象」の存在に気づき、そして「打ち勝つ」ことが出来るのは、成熟していない「子供」であることは、ホラーでは定番の展開です。

その理由は、様々な知識を得ることで現実を理解してしまった「大人」に比べると、まだまだ知らないことが多いからこそ豊かな「想像力」を持つ「子供」の方が、未知のものを理解し得るからに違いありません。

高い「想像力」を持つからこそ、「巨人」との関係を持つことになってしまうバーバラと言う構図は、ホラーに通じるものがあり、またその理由こそが本作の「根幹」になっていると言えます。

「巨人」


©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

本作では「巨人」の存在がはっきりとは描かれてきません。

過去の文献、鳥の教えなどバーバラにとってその存在は確定的なものであれど、転校生のソフィアやカウンセラーのモルなどからすれば、バーバラの「想像の産物」にしか思われず、バーバラは孤独な戦いに身を置くことになります。

アンダース・ウォルター監督がこだわったと話す、この「巨人」の存在の不透明さによる不穏さや、「巨人」の存在を匂わす小道具の数々が本作のホラー的部分を盛り上げており、物語に独特の鬱屈とした雰囲気を与えています。

かと言ってホラーではない本作は、「巨人」との決着に誰しもの生活に密接に関係する「あること」との対峙と成長が描かれていて、鑑賞後には暖かい気持ちになる作品でした。

まとめ


©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

バーバラが「巨人」との戦いの果てに見つける、「目を背けていた大切な物」。

社会で生きる誰もが、バーバラのように何かと戦い、何かに目を背けて生きているはずです。

ホラーではないのにどこか「ホラー」で、それでいて人の心を繊細に描いた『バーバラと心の巨人』は、今週末10月12日(金)より劇場公開が開始。

バーバラと「巨人」との戦いの行方をぜひ劇場でご覧になってみてはいかがでしょうか。

また、本作の監督を勤めたアンダース・ウォルター監督のインタビュー記事を読むことで本作の「物語」をより深く知ることができます。

本作が気になる方や、劇場での鑑賞後、本作をより詳しく知りたい方はぜひ、インタビュー記事をご覧になってください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile019では、今度こそ『ゾンビ』や『28日後…』などのゾンビ映画から探ることの観ることの出来る、怪物を越える恐ろしさを秘めた「人の狂気」に迫っていきます。

10月17日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『にしきたショパン』あらすじ感想と評価レビュー。阪神淡路大震災と“左手のピアニスト”通じて描く宿命の音楽|銀幕の月光遊戯 74

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第74回 映画『にしきたショパン』が2021年3月20日(土)よりシネ・ヌーヴォ、元町映画館、池袋シネマ・ロサ、大洋映画劇場、3月26日より京都みなみ会館、シネ・ピピア他に …

連載コラム

講義【映画と哲学】第9講「“理由”を問うこと:デイヴィドソンの観点から『ある過去の行方』を見る」

講義「映画と哲学」第9講 日本映画大学教授である田辺秋守氏によるインターネット講義「映画と哲学」。 第9講では、「理由」を問うことをドナルド・デイヴィドソンの観点から再考。それを踏まえた上で、アスガー …

連載コラム

『きっと、それは愛じゃない』あらすじ感想と評価解説。イギリス発大人の恋愛ラブストーリーはリリー・ジェームズ主演で“恋愛と結婚”を描く|映画という星空を知るひとよ178

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第178回 多文化が花咲くロンドンを舞台にした“今”のラブストーリー『きっと、それは愛じゃない』が2023年12月15日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町 …

連載コラム

韓国映画『藁にもすがる獣たち』あらすじと感想評価レビュー。韓流キャストが原作・曽根圭介の犯罪小説の“お金にすがりつく人々”の末路を演じる|映画という星空を知るひとよ42

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第42回 曽根圭介による犯罪小説『藁にもすがる獣たち』が韓国スタッフ&キャスト陣で映画化されます。 映画『藁にもすがる獣たち』は2021年2月19日(金)よりシ …

連載コラム

『終末の探偵』あらすじ感想と評価解説。映画で北村有起哉が挑む探偵物語の先の“裏社会のどぶさらい”|映画という星空を知るひとよ128

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第128回 故・松田優作の代表作とも言えるドラマ『探偵物語』(1979)をオマージュしたかのような映画『終末の探偵』。 主人公の探偵を生業とする連城新次郎は、借 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学