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Entry 2021/02/26
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映画『にしきたショパン』あらすじ感想と評価レビュー。阪神淡路大震災と“左手のピアニスト”通じて描く宿命の音楽|銀幕の月光遊戯 74

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第74回

映画『にしきたショパン』が2021年3月20日(土)よりシネ・ヌーヴォ、元町映画館、池袋シネマ・ロサ、大洋映画劇場、3月26日より京都みなみ会館、シネ・ピピア他にて全国順次ロードショーされます。

阪神淡路大震災の記憶を語り継ぎ、局所性ジストニアなどのために左手だけでピアノを演奏する「左手のピアニスト」を応援したいという多くの思いが結集し製作された映画『にしきたショパン』は、本格的な音楽映画です。

水田汐音、中村拳司がピアニストを目指す主役のふたりを演じ、ぴあフィルムフェスティバルなど数多くの受賞歴がある竹本祥乃が本作で長編劇映画監督デビューを果たしました。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

映画『にしきたショパン』の作品情報


(C)2020 Office Hassel

【公開】
2021年(日本映画)

【監督】
竹本祥乃

【プロデューサー】
近藤修平

【キャスト】
水田汐音、中村拳司、ルナ・ジャネッティ、泉高弘、野々村亜梨沙、楠部知子、とみずみほ、茂木大輔

【作品概要】
阪神淡路大震災の記憶を語り継ぎ、局所性ジストニアなどのために左手だけでピアノを演奏する「左手のピアニスト」を応援することをテーマに製作されたヒューマンドラマ。

研究技術員として働きながら「週末映画監督」として世界に挑戦してきた竹本祥乃監督の初長編作品。

2020年アントワープ国際映画祭で審査員賞を受賞したのを始め、コソボ玉座の女王映画祭長編脚本賞、第12回映像グランプリ脚本賞、ミラノ国際映画祭外国語映画部門最優秀長編作品賞を受賞するなど、国内外で高い評価を得ています。

映画『にしきたショパン』のあらすじ


(C)2020 Office Hassel

達磨先生とよばれる高校音楽教師のピアノの門下生である凛子と鍵太郎(けんたろう)は、ピアニストになることを夢見て日々、切磋琢磨していました。

鍵太郎は門下生の中でもずば抜けた実力を持ち、作曲も出来る天才肌。ラフマニノフを得意とし、常に一番を誇っていました。

一方、凛子は、ショパンを好んで弾く努力家タイプ。いつも二番手に甘んじていましたが、鍵太郎のことを素直に敬愛していました。

凛子は音大への進学を希望していましたが、鍵太郎の家は貧しく、ポーランドの音楽学校への入学が認められるオーディションに合格することだけが、彼に残された唯一のチャンスでした。

しかし、オーディションを目前に控えた1995年1月17日、阪神淡路大震災で被災した鍵太郎は、左腕を負傷し、人生を大きく狂わされてしまいます。

鍵太郎に変わって受けることとなったオーディションに合格しポーランドに留学した凛子は、充実した日々を送っていましたが、帰国後、思わぬ試練が待ち受けていました。

映画『にしきたショパン』の解説と感想


(C)2020 Office Hassel

秀逸な音楽映画

主演のひとり、凛子を演じた水田汐音は3歳からピアノを始め、2017年にはベートーヴェン国際ピアノコンクール in ASIAで第1位となるなど、数々の受賞歴がある音楽家です。

劇中、ショパンを始めとする素晴らしい演奏を聞かせてくれますが、その時、その時の凛子の感情に合わせた音を奏でていて見事です。その上、演技の面でも確かな実力を見せており、穏やかでゆったりした関西弁の台詞も心地よく響きます。

転じて、もうひとりの主人公、鍵太郎を演じた中村拳司は、本作のオーディションを受ける前に体験レッスンで初めてピアノの鍵盤に触れたのだそうです。

しかし映画を見ているときは、とてもそんな風には見えませんでした。中村が鍵盤に指を触れしっかりと演奏している全景を撮ったショットもあり、鍵太郎は、疑う余地もない非常に優れた技術を持つピアニストとして、スクリーンの中に存在していました。

巧みな映画技術と中村拳司の演技力、水田の演奏技術という相乗効果があったからこそでもありますが、天才肌のキャラクターが実際そのように見えるように演じられるには、並々ならぬ努力がなされたことと想像できます。

ぴあフィルムフェスティバルなど数多くの受賞歴があり、本作で長編劇映画監督デビューを果たした竹本祥乃監督は、自在なカメラワークで彼らが演奏する姿を捉え、鮮烈な印象を残します。

とりわけ、凛子の音楽室での演奏を真上から撮るショットは、その後、鍵太郎が凛子を上から覗き込むシーンと対になっていて愉快なリズムを作リ出していますし、舞台上の演者の側から、客席を背景に固定カメラで映されるコンクールのシーンは、非常に緊迫した情景を作り出すのに成功しています。

震災の記憶と「左手のピアニスト」という主題


(C)2020 Office Hassel

物語は高校時代の鍵太郎と凛子が互いにリスペクトし合う微笑ましい光景から始まります。幼馴染であるふたりは、ピアニストになるのを夢見て、共に切磋琢磨します。しかしふたりの家庭の経済状況が明らかになっていくにつれ、優等生であった鍵太郎の心に暗い陰りが見え始めます。

その中で起こった阪神淡路大震災により、鍵太郎は左手を負傷し、人生を大きく狂わされてしまいます。被害を受けずにすんだ凛子の人生も急展開を見せ、鍵太郎が歩むはずだった道を彼女が進むことに。互いに敬愛しあっていた2人の仲は複雑にねじれ、鍵太郎の中には愛憎渦巻くものが生まれてしまいます。

こうした震災の傷跡とそれをどう乗り越えていくかという問題と共に描かれるのが、「左手のピアニスト」という主題です。

「左手のピアニスト」とは、局所性ジストニアなどのために左手だけで演奏するピアニストのことをいいます。彼らは5本の指で両手の演奏に負けない豊かな響きを奏でます。

左手のピアニストとして活躍する方々や、「左手のピアノ曲」の作曲で知られる作曲家の近藤浩平にインタビューを重ね、『にしきたショパン』のシナリオは完成しました。そして劇中では、近藤浩平作曲の左手のピアノ曲が、重要な役割で登場しています。

才能に恵まれた人の中でもさらに突き抜けたほんの一握りの人のみが栄冠に輝くという厳しい音楽の世界で、不運に見舞われながらも諦めず「魂に響く音」を追い求める姿が、凛子、鍵太郎というキャラクターに投影されています。

凛子と鍵太郎の関係がどのように移り変わっていくのかが、物語の大きな見どころとなりますが、ふたりは単なる「友情」や「嫉妬」あるいは「愛憎」「絆」といった単純な言葉では言い表せない、ある種の「宿命」で結ばれているように見えます。

竹本祥乃監督はそんな傷だらけのふたりをドラマチックに描いてみせ、観るものの心をがっちりと掴んで離しません。

まとめ


(C)2020 Office Hassel

タイトルにある「にしきた」とは「西宮北口」のことで、阪神淡路大震災では、阪急電鉄西宮北口駅周辺も大きな被害を受けました。

『にしきたショパン』は西宮北口をはじめ、兵庫県立西宮高等学校、神戸女学院大学、西宮東卸売市場、夙川公園など、震災を記憶している阪神間の各所で撮影が行われました。

1995年から26年もの年月が過ぎた2021年。スクリーンに映し出される阪神間の風景は、主人公ふたりの姿を静かに見守っているかのような、優しさを感じさせます。

映画『にしきたショパン』は、2021年3月20日(土)よりシネ・ヌーヴォ、元町映画館、池袋シネマ・ロサ、大洋映画劇場、3月26日より京都みなみ会館、シネ・ピピア他にて全国順次ロードショーされます。

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