Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/04/28
Update

映画『食べる虫』あらすじ感想と評価解説。金子由里奈監督が死を望む少女と記録する少女の小旅行を描く|インディーズ映画発見伝6

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第6回

日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」第6回

コラム第6回目では、金子由里奈監督の映画『食べる虫』をご紹介いたします。

“明後日は私の誕生日。私が死ぬ映像を撮ってくれる方を探しています。”

誕生日に死にたいと思っているみずきとそれを記録するゆみ。死ぬ映像を撮るはずの旅が、見知らぬおじいさんの家に泊めてもらったことから変わり始める。

自ら配給・宣伝も手がける金子由里奈監督の奇妙でどこか幻想的な映画です。

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら

映画『食べる虫』の作品情報

【公開】
2016年(日本映画)

【監督・脚本・編集】
金子由里奈

【キャスト】
加藤友美、池嵜瑞希、計良元宏

【作品概要】
監督を務めた金子由里奈監督は立命館大学映画部で映像制作を開始し、短編映画やMVを手掛け、2018年に山戸結希監督プロデュース企画「21世紀の女の子」で唯一の公募枠で選ばれ、伊藤沙莉主演『projection』を監督します。

2019年には自主映画『散歩する植物』がぴあフィルムフェスティバル2019のアワードに入選、初の長編作となった『眠る虫』はムージックラボ2019でグランプリを受賞します。

2018年5月には、監督が自ら主演と撮影も担当する映画を集めた「自撮り映画祭」を主催するなど多彩な活動を行っている新鋭監督です。

映画『食べる虫』のあらすじ

明後日は私の誕生日。私が死ぬ映像を撮ってくれる方を探しています。
面白そう。撮りたいです。

SNSを通じて知り合ったゆみとみずき。
誕生日に死にたいと考えているみずきは行きたい場所に向かい、ゆみは同行しながらカメラを回し続けます。

「なんで死にたいか聞かないの?」とみずきは問いかけますがゆみは答えません。

目的の湖にたどり着いた2人でしたが、日が暮れ照明もなく撮影を続けることは難しくなってしまいました。
困った2人は灯りのついている一軒の家に向かい、泊めてもらいます。

死ぬ時の撮影をしにきたはずが2人は泊めてくれたおじいさんとも仲良くなり…

映画『食べる虫』感想と評価

誕生日に死にたいと考えているみずきと、その映像を撮ることを名乗り出たゆみ。
冒頭、カメラを回しトイレで用を足す自分自身を撮影するゆみが映し出され、みずきと合流するまでもずっとゆみはカメラを回し続けます。

なぜカメラを撮っているのかみずきに聞かれたゆみは「怖いから撮っているのかな、いや暇だから撮っている」と答えます。しかし、おじいさんの家に泊まった後からゆみは撮らなくなります。ゆみのカメラ視点と共に映し出されていた映像が俯瞰に変わっていくのです。

本作はInstagramのストーリー越しに朝日を見て「綺麗だな」と思う自分を疑って脚本を書き始めたと金子由里奈監督は言っています。

スマートフォンが普及した現代において私たちはどこかでフィルター越しに景色や物事を見ることが増え、直接対峙しなくなっているように感じます。消費するスピードも早くなりました。だからこそ写真を撮って思い出を目に見える形で残しておこうとするのかもしれません。

記録をすることにどこかこだわっているゆみの心情を劇中ではっきりと語ることはありませんが、フィルター越しに見ることで安心する気持ちと残しておこうとする気持ちがあるように見えます。

また、みずきの死にたいと願う理由も劇中で語られることはありません。自分とは違い、物おじしない強引さのあるゆみに驚きつつも共に過ごし、ご飯が美味しいと笑います。

おじいさんの家で過ごす2人はどこか現実世界から離れた不思議な空間にいるような、奇妙でありながら穏やかな時間が流れます。

そしてまた喧騒の新宿で2人は別れ、現実に戻っていきます。まるでそれまで共に過ごした時間が嘘だったかのように。

静かな田舎のおじいさんの家での時間と、都会の喧騒の対比により、加速する消費の中で何かを残そうと不安になる気持ちや漠然とした不安がふっと消えていくような不思議な心地よさが感じられます。

まとめ

金子由里奈監督による死にたい少女とそれを記録する少女の小旅行を描いた映画『食べる虫』。

死ぬ時の映像を撮るはずが、見知らぬおじいさんの家に泊まり、共に食事をし、時間を過ごしまた日常にかえっていく…
現実であるはずなのにどこか幻想的で奇妙な時間が流れていきます。

都会の喧騒と田舎の対比により何かに焦り、漠然とした不安を抱えていた現代人の心がふっと軽くなるような不思議な映画です。

金子由里奈Twitter

次回のインディーズ映画発見伝は…


(C)白波製作委員会

次回の「インディーズ映画発見伝」第7回は、立命館大学での卒業制作で制作された長尾淳史監督『白波』

カナザワ映画祭2017期待の新人監督、熱海国際映画祭ニュージェネレーション部門、京都国際学生映画祭Japan Focus部門など国内映画祭での上映された作品です。

中学生の響介は喘息をわずらい、琵琶湖に浮かぶ島で母と2人暮らしていた。そんなある日、島で不発弾が発見され…。

次回もお楽しみに!

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら





関連記事

連載コラム

映画『17歳の瞳に映る世界』あらすじ感想と評価解説。エリザヒットマン監督の“大人になる旅路”の少女を追ったロードムービー|映画という星空を知るひとよ71

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第71回 ベルリン国際映画祭銀熊賞、サンダンス映画祭2020ネオリアリズム賞を獲得した『17歳の瞳に映る世界』が、2021年7月16日(金)より、TOHOシネマ …

連載コラム

リム・カーワイ映画『どこでもない、ここしかない』感想レビュー。シネマ・ドリフターの暖かな視点|銀幕の月光遊戯6

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第6回 こんにちは、西川ちょりです。 今回取り上げる作品は、11月3日(土・祝)より16日(金)まで池袋シネマ・ロサにて2週間限定レイトショー上映されるのを皮切りに全国順次 …

連載コラム

映画『ともしび』感想解説と内容考察。シャーロット・ランプリングの演技力と心理劇|銀幕の月光遊戯18

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第18回 ベルギーのある小さな都市で慎ましやかに暮らしていた女性は、夫が罪に問われ収監されたことから、狂おしいまでの孤独に陥っていく…。 イタリア出身の新鋭監督アンドレア・ …

連載コラム

映画『アウェイク/AWAKE』ネタバレあらすじ感想とラスト結末の評価。眠ることの出来なくなった世界で起こる崩壊と再生の物語|Netflix映画おすすめ43

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第43回 平和な日常が突如終わりを告げ、不安とパニックの渦中へと引きずり込まれる絶望感を描いた映画の数々。 私たちの身にもいつ起きるか分から …

連載コラム

ギルティ/THE GUILTYネタバレ考察とリメイク版の結末あらすじ感想。どんでん返しにジェイク・ギレンホールが挑んだハリウッド映画の内容とは⁈| Netflix映画おすすめ62

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第62回 2021年10月1日(金)にNetflixで配信されたクライムサスペンス『THE GUILTY/ギルティ』。 同タイトルのデンマー …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学