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Entry 2021/03/20
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映画『関公VSエイリアン』あらすじ感想評価とレビュー解説。特撮監督・高野宏一が台湾で手がけた“幻の作品”|OAFF大阪アジアン映画祭2021見聞録6

  • Writer :
  • 森谷秀

大阪アジアン・オンライン座特集企画《台湾:電影クラシックス、そして現在》上映作品『関公VSエイリアン』

2021年3月5日(金)から同月14日(日)まで、10日間に亘って開催された第16回大阪アジアン映画祭。通常のスクリーン上映に加え、本年度は「大阪アジアン・オンライン座」と題したオンライン上映も開催されました。

今回はそのオンライン座における特集企画《台湾:電影クラシックス、そして現在》の一本として上映された、『関公VSエイリアン(デジタル・リマスター版)』をご紹介。

円谷英二の愛弟子である高野宏一が特撮監督を務めている、特撮映画・カルト映画マニア必見の幻の作品です。

【連載コラム】『OAFF大阪アジアン映画祭2021見聞録』記事一覧はこちら

映画『関公VSエイリアン(デジタル・リマスター版)』の作品情報

【公開】
1976年(台湾映画)

【原題】
関公大戦外星人(旧題:戰神)

【監督】
チェン・ホンミン

【特撮監督】
高野宏一

【リマスター版製作】
パン・ホーチョン

【キャスト】
グー・ミンルン、チェン・ヨウシン、タン・チン、ツェー・リンリン

【作品概要】
中華圏の映画ファンや特撮ファンの間で、伝説のカルト映画として語り継がれていた『戰神』。しかし1982年の豪雨の被害を受けネガやプリントが消失してしまっていたのです。

香港のパン・ホーチョン監督が2010年に本作の版権を購入し、奇跡的に残されていたVHSを基にデジタル・リマスターしたのが本作『関公VSエイリアン』です。なお特撮監督は円谷英二の愛弟子である高野宏一監督が務めています。

特撮監督:高野宏一プロフィール

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1935年生まれ。東宝に入社し円谷英二に師事。一旦映画業界を離れた後、石原裕次郎・主演の『太平洋ひとりぼっち』(1964)の特撮カメラマンとして参加。

円谷プロダクションに入社後、『ウルトラQ』(1966)の特撮班・チーフカメラマンを経て、『ウルトラマン』(1966~1967)より特撮監督に就任。『ウルトラマン』では全39話中34話、『ウルトラセブン』(1967~1968)では全49話中27話の特撮を担当。その後、数多くの作品で特撮監督を担当します。

1981年に円谷プロダクションの取締役就任。1990年代以降は『ウルトラマンティガ』(1996~1997)、『ウルトラマンコスモス』(2001~2002)など、2003年に取締役を退任するまでの間に数多くの作品に監修・スーパーバイザーの立場で参加しています。2008年逝去。

映画『関公VSエイリアン(デジタル・リマスター版)』のあらすじ

完璧な関羽像を彫ることに人生を捧げて来た彫刻家のチャオ。チャオは今彫っている関羽像が生涯最後の作品になると思い、緑内障で失明する可能性があるにもかかわらず、日夜作業を続けます。

科学者となったチャオの息子チャオチュンは、父の身を案じ何度も忠告をしますが聞き入れてもらえません。さらにチャオは「完全無欠の関羽像には神通力が宿る」と信じているのです。科学者であるチャオチュンにそんな父を理解はできませんでした。

そんなある日、天変地異が香港を襲い、UFOに乗ってやって来た宇宙人によって街が破壊されていきます。科学者たちが開発した武器も、宇宙人の圧倒的な科学力には全く歯が立たちませんでした。

チャオは大混乱の中でも関羽像から一時も離れず、人々を救ってほしいと関羽像に祈ります。すると関羽像は不思議な霊力を発揮して巨大化するのでした。

映画『関公VSエイリアン(デジタル・リマスター版)』の感想と評価

人間の祈りが関羽像を巨大化させ敵を討つ『関公VSエイリアン(デジタル・リマスター版)』。大映が製作した特撮映画「大魔神」シリーズを思わせる作品となっています。

また巨大なヒーローが宇宙人を倒すという本作の構図も『ウルトラマン』を連想させます。

本作のヒーローである『三国志』の英雄・関羽は中国では神格化されており、民間に広く信仰されていました。

中華人民共和国成立以前、関羽の誕生日には学校が休日となっていたことからも、その人気の根強さがわかります。

日本でも横浜中華街をはじめ、神戸や長崎に関羽を祀った“関帝廟”があり、神様となった関羽の姿を見ることが出来ます。

敵である宇宙人は大きな頭に白い体、触角と昆虫的な複眼、むき出した歯と、今日の日本の特撮作品やハリウッド製SF映画に登場する宇宙人とは一風変わった独特な風貌なのが興味深いです。

一方、「大きな頭脳とそれに由来する強大な科学力」という宇宙人の設定自体は、H・G・ウェルズの小説『宇宙戦争』に登場した火星人以降のステレオ・タイプなものでした。

では肝心の本作の特撮場面の特徴をみていきましょう。

まず一番に気付くのはミニチュアセットの広さです。敵の宇宙人3体を同時に収めたショット、それに加え巨大関羽像と宇宙人の対峙したショット、さらに関羽と宇宙人の戦闘を移動カメラで追っている点からも、本作のミニチュアセットがかなり広大に作られているのがわかります。

関羽の武器はやはり「青龍偃月刀」で、ウルトラマンの光線技やゴジラの放射熱線のような光学合成による描写は比較的少なめです。

全体的に肉弾戦と殺陣、爆発を基調としたアクションが繰り広げられていました。

高野宏一監督が手がけたこともあり、往年の東宝特撮作品・円谷作品に連なるダイナミックなミニチュア特撮を堪能できます。

まとめ

1970年代から80年代には、台湾映画の本作『関公VSエイリアン』を初め、香港のショウ・ブラザーズが『中国超人インフラマン』(1974)に造形会社のエキスプロ、『北京原人の逆襲』(1977)に有川貞昌監督と造形師の村瀬継蔵を招聘するなど、日本の特撮技術が東アジアを中心とした海外へ移植されていきました。

奇跡的に復活した伝説のカルト特撮『関公VSエイリアン』は、日本の特撮技術の海外輸出を考える上でも重要な作品だとも考えられます。

【連載コラム】『OAFF大阪アジアン映画祭2021見聞録』記事一覧はこちら




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