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Entry 2020/03/08
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映画『ハッピー・オールド・イヤー』あらすじと感想レビュー。断捨離を通してモノに宿った思い出と家族の人生が浮ぶ|OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録2

  • Writer :
  • 西川ちょり

第15回大阪アジアン映画祭上映作品『ハッピー・オールド・イヤー』

毎年3月に開催される大阪アジアン映画祭も今年で15回目。2020年3月06日(金)から3月15日(日)までの10日間にわたってアジア全域から寄りすぐった多彩な作品が上映されます。

コロナウイルス流行の影響により、いくつかのイベントや、舞台挨拶などが中止となりましたが、初日から熱心な映画ファンで賑わいを見せ、上映後は拍手が起こることも。

今回はその中から、コンペティション部門で上映されるタイ映画『ハッピー・オールド・イヤー』(2019)をご紹介します。『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のチュティモン・ジョンジャルーンスックジンが主演を務めています。

【連載コラム】『OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録』記事一覧はこちら

映画『ハッピー・オールド・イヤー』の作品情報


(C)2019 GDH 559 Co., Ltd.

【日本公開】
2020年(日本・タイ合作映画)

【監督】
ナワポン・タムロンラタナリット

【キャスト】
チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、サニー・スワンメーターノン、サリカー・サートンシンスパー、ティラワット・ゴーサワン、アパシリ・チャンタラッサミー

【作品概要】
OAFF2016でABCテレビ賞を受賞した『フリーランス』(2015)、OAFF2018で上映された『ダイ・トゥモロー』(2017)など、OAFFで馴染みの深いタイのナワポン・タムロンラタナリット監督の2019年の作品。

ヒロインに『バッド・ジーニアス 危険な天才』たちのリンちゃんことチュティモン・ジョンジャルーンスックジンを起用。断捨離の過程で見えてくる人間模様を描く。

ナワポン・タムロンラタナリット監督プロフィール

映画『ダイ・トゥモロー』(2017)

監督のナワポン・タムロンラタナリット監督は、1984年生まれ。2012年に『36のシーン』で監督デビューを果たし、代表作に『マリー・イズ・ハッピー』(2013)、OAFF2016でABCテレビ賞を受賞した『フリーランス』(2015)、OAFF2018で上映された『ダイ・トゥモロー』(2017)があります。

「AKB48」の姉妹グループとして2017年にタイ・バンコクで結成されたアイドルグループ「BNK48」のドキュメンタリー映画『BNK48: Girls Don’t Cry』の監督も務めています。

映画『ハッピー・オールド・イヤー』のあらすじ

スウェーデンでの四年間の留学を終えてタイに戻ってきたジーンは、ミニマリストとして仕事を続けるために自宅を改装し、自分のオフィスを持つ必要がありました。

ジーンは自宅で洋服を制作しオンラインで発売している兄と母親と一緒に暮らしていますが、兄と母の部屋を2階に設け、一階をオフィスにすることを目論みます。勿論、それは白い壁、白い床、最小限の家具のみを揃えるミニマルなオフィスでなくてはなりません。

ところが今の自宅は物で溢れています。ジーンは兄を説得し、断捨離を決意します。古い携帯、洋服、CDに成績表まで、「想い出に浸るな」、「感情に溺れるな」と自分自身に言い聞かせながら、どんどん捨てていきます。

そんな中、かつての恋人、エームから預かったカメラとフィルムが出てきます。捨ててしまえば、それで彼との関係は完全に終わります。でも、ジーンには彼に対して後ろめたい思いがありました……。

映画『ハッピー・オールド・イヤー』の感想と評価


(C)2019 GDH 559 Co., Ltd.

「断捨離」を試みようとする若い女性の物語は、モノを捨てるという行為を通して、モノに宿った思い出と家族の人生を浮かび上がらせます。

比較的わかりやすい教訓が得られそうな風刺的な作品なのかと見ていると、どうしてどうして、これが結構な曲者なのでした。

何よりもチュティモン・ジョンジャルーンスックジン扮するヒロイン・ジーンのキャラクターの“くずっぷり”が痛快です。彼女はミニマリストを名乗り、モノで溢れた家を整理するため、全てを捨てるという行為に及びますが、その際、リノベーションを依頼している友人に、以前彼女からもらった誕生日プレゼントを捨てているのを知られ、傷つけてしまいます。

反省したジーンは、人にもらったモノを返しに回ることになるのですが、いつの間にか借りていたモノを返すことになっていて、その数が半端ないのに驚かされます。

そもそもなぜこんなに人にモノを借りたまま返していないのか? 修理を頼まれた物をそのまま何年も持っているとはどういうことなのか? 友人に手に入れてと頼まれたアナログレコードを手放すのが惜しくなって手に入らなかったと告げていただなんて! と思わずあれやこれやとつっこみたくなります。

記念に撮った写真をあとで送るねっと言って絶対送ってこない友人というと、大概の方は思い当たるフシがあるのではないでしょうか。ジーンはその手の人物と考えていただいてよいかと思われます。

チュティモン・ジョンジャルーンスックジンのどことなくとぼけたような表情と、ひょうひょうとした様子が実にいい味のおかしみを醸し出しており、そのユーモラスなスタイルが本作の魅力のひとつになっています。

しかし、彼女が、一連の返却の中で、さまざまな表情を見せていくに連れ、本作が「感情」の映画であることが明らかになっていきます。

他人の感情に極めて鈍感であるように見えたジーンが実はその「感情」に振り回されたくないがゆえに(臆病であるがゆえに)あえて鈍感であり続けているのではないか、その理由はどうやら不在の父親との関係にあるのではないかと推察されるのです。父は妻子を捨てて出ていったらしいのですが、映画はあえて事細かに事情を説明することはせず、観るものに委ねています。

後悔や怒りや愛惜や嫉妬といった感情は勿論のこと、そのような具体的な言葉をもたない繊細な心の機微ともいうべき「感情」をも、ナワポン・タムロンラタナリット監督は、見事にフィルムに収めています。

ゆるゆるとした動きを見せるカメラは、ジーンの顔を頻繁にクローズアップでとらえ、動揺し続ける彼女を静かに、冷静に見つめ続けます。

多くの作品は、2時間という上映時間の中で主人公を多少なりとも成長させるものですが、本作ではヒロインをあえて成長しないヒロインとして描き、他人の想い出(本作では母の想い出)を捨て去るのは許されるのかという究極の命題を残しながら、ウェルメイドにおさまらない曲者として私たちを魅了するのです。

まとめ

ナワポン・タムロンラタナリット監督は、観客を笑わせる手法を心得ています。ベッドに誕生日プレゼントにもらった巨大な熊のぬいぐるみが置かれていて、ヒロインがそれを見下ろしています。このショットだけでもおかしいのですが、次のカットでは熊は顔に黒いゴミ袋がかぶせられ足だけが入りきらずに突き出ています。

こうしたジャンプカットが実に効果的に使われているのです。ヒロインの決断や、迷いを1つのカットでズバっと表現し、そこにヒロインの顔のクローズアップを重ねることで彼女の内面が鮮やかに映し出されます。

チュティモン・ジョンジャルーンスックジンは、『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)のシャープでシリアスなヒロインとはひと味もふた味も違ったユーモラスな側面をみせ、演技の幅の広さを証明しています。

彼女は、NETFLIXで配信されているタイのドラマ『スリープレス・ソサエティ:不眠症の女 全13話』でも主演していますので、気になる方はチェックしてみてください。

『ハッピー・オールド・イヤー』は、2020年3月12日(木)の13:10よりABCホールにて上映されます。

【連載コラム】『OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録』記事一覧はこちら


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