第37回東京国際映画祭オープニング作品『十一人の賊軍』
東京から映画の可能性を発信し、多様な世界との交流に貢献するミッションに則る東京国際映画祭。開催37回目となる2024年は、10月28日(月)に開会され、11月6日(水)まで開催されます。
今回は白石和也監督のオープニング作品『十一人の賊軍』をご紹介します。
2024年11⽉1⽇(⾦)全国公開の映画『十一人の賊軍』は、戊辰戦争の陰で起きた、新潟・新発田藩の歴史的な裏切りをモチーフに、史実から着想を得た名脚本家・笠原和夫の幻のプロットを映画化した作品です。
『仁義なき戦い』(1973)など数々の傑作を生みだした名脚本家が遺した集団抗争時代劇を、「孤狼の血」シリーズ(2018、2021)でその名を馳せた白石和彌監督が、新たなエンターテインメントとして命を吹き込みました。
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映画『十一人の賊軍』の作品情報
【日本公開】
2024年(日本映画)
【原案】
笠原和夫
【監督】
白石和彌
【脚本】
池上純哉
【企画・プロデュース】
紀伊宗之
【⾳楽】
松隈ケンタ
【キャスト】
⼭⽥孝之、仲野太賀、尾上右近、鞘師⾥保、佐久本宝、千原せいじ、岡⼭天⾳、松浦祐也、⼀ノ瀬颯、小柳亮太、本⼭⼒、野村周平、⽥中俊介、松尾諭、⾳尾琢真 、柴崎楓雅、佐藤五郎、吉沢悠、駿河太郎、松⾓洋平、浅⾹航⼤、佐野和真、安藤ヒロキオ、佐野岳、ナダル、⽊⻯⿇⽣、⻑井恵⾥、⻄⽥尚美、⽟⽊宏、阿部サダヲ
【概要】
戊辰戦争の最中、新発⽥藩(現在の新潟県新発⽥市)で繰り広げられた歴史的事件・奥⽻越列藩同盟軍と旧幕府軍への裏切りのエピソードをもとにした物語。
原案者である笠原和夫が、総勢10⼈の死刑囚とひとりの侍が「決死隊」として新発⽥藩の砦を守る任に就くストーリーを創作し、「孤狼の血」シリーズ(2018、2021)の白石和彌監督が、裏切りや策略に満ちた迫力ある集団抗争時代劇に仕上げました。
死刑囚の山田孝之、決死隊の新発田藩の侍に仲野太賀というW主演に、⽟⽊宏や阿部サダヲといった実力派豪華キャストも共演。
映画『十一人の賊軍』のあらすじ
1868年、400年の統治歴史を誇る旧幕府軍と、薩摩藩・長州藩を中心とする新政府軍(官軍)の間で戊辰戦争が勃発。
戦争は次第に激しくなり、京都・江戸だけで治まらず、全国に広がります。奥羽越地域でも新潟の長岡城奪還や新潟湊での壮絶な地上戦など、旧幕府軍による応戦が繰り広げられていました。
しかし、新政府軍と対立する奥羽越列藩同盟に加わっていた新発田藩は、幕府側につくか、官軍側につくかで、揺れ動いています。
密かに新政府軍への寝返りを画策しはじめた新発⽥藩に、官軍の到着が迫っていました。しかし旧幕府派の奥⽻越列藩同盟軍が出兵を求め、新発⽥城へ軍を率いて押しかけてきました。
城から退かない同盟軍と迫りくる新政府軍が鉢合わせてしまっては、新発⽥は戦⽕を免れません。
藩内でもどちらにつくかで争いが絶えず、悩んだ家老の溝口内匠(阿部サダヲ)は、城下が戦火から免れるようにと秘策を練ります。
一方、駕籠屋の政(山田孝之)は、妻が新発田の侍に手籠めにされ、復讐のためにその侍を殺してしまい、侍殺しの罪で死刑囚となりました。牢獄に入れられると、同じように死刑を言い渡された老若男女さまざまな8人の罪人たちがいました。
そこへ政を死んだ兄と思いこむ少し知能の足りないノロ(佐久本宝)が、政を助けようとして捕まり、罪人は9人になります。
死を待つばかりの彼らのもとへ、無罪放免を条件に決死隊になるように、家老からの命令が届きました。その任務は新発田藩への入り口となる山奥の小さな砦を敵から守り抜くこと。
新発田藩の少数の侍も決死隊に加わって砦に向かいます。その中には、官軍と戦おうとしない新発田藩に不満を募らせている鷲尾兵士郎(仲野太賀)もいました。
砦に通じるたった一つの吊り橋を渡って、死刑囚たちで固められた決死隊が砦に到着。ここから、壮絶な戦いが始まります。
映画『十一人の賊軍』の感想と評価
勇気と覚悟が魅了するドラマが展開
1868年の戊辰戦争を皮切りに、旧幕府軍と官軍との戦いが日本のあちらこちらで起こります。本作は、旧幕府を擁護する奥羽越列藩同盟に加盟していた新発田藩の寝返りをモチーフにして制作されました。
官軍、旧幕府軍どちらの眼も欺きたい新発田藩は、死刑囚の罪人たちを決死隊と称して、ある任務に就かせました。それは砦を死守することでした。
罪人たちは、剣術の出来る者はほんのわずかで、ほとんどが名もなき貧しい藩民です。その罪状も、侍殺し、賭博罪、火付け、女犯、密航、一家心中、姦通、辻斬り、強盗殺人、脱獄幇助とさまざま。
一般的に考えれば、怖ろしいことをしでかした罪人たちなのですが、罪を犯すにはそれだけの理由があり、その頃の虐げられた市井の人々の暮らしぶりが伺えます。
侍と罪人。身分に大きな隔たりがある彼らから結成された決死隊は、てんでばらばらです。チームワークなどないのも当然でした。
罪人の命などなんとも思っていないのが見え見えの新発田藩の侍たちの中で、唯一、鷲尾兵士郎が死刑囚たちに生き残るための道を説きます。
生き残るために決起し、次第に一つになっていく罪人たちの底知れぬ勇気と覚悟を秘めた決死の姿が、観る者を155分という長い物語へ惹きこみます。
迫力満点の激闘シーン
本作一番の見どころは、賊軍といわれる11人の戦いぶりにあるのではないでしょうか。
キャストの⼭⽥孝之や仲野太賀のアクションをはじめ、火縄銃を使う鉄砲隊に加え、大筒と呼ばれた大砲も登場。ダイナミックな爆破シーンは見応えたっぷりです。
そこにあるのは、爆破によって弾き飛ばされながらも、鉄砲や刀で応戦する賊軍の姿。大軍を引き連れた敵に対する11人の賊軍の生死をかけた戦いぶりから眼が離せません。
敵となる大軍を前にして、主人公・政が強烈な表情と振り絞るような叫び声をあげます。「見とけよ、外道ども」「くたばりやがれぇぇ」と。
敵への叫びですが、自分たちに課せられた運命に対する抗いや理不尽な社会に向かっての反骨精神の現れとも思え、精一杯の怒りが感じられます。彼の心からの叫びに胸を打たれるに違いありません。
歴史的勝利者となる官軍目線で、旧幕府軍は「賊軍」といわれていますが、本当の勝利者は誰なのでしょう。勝つことだけが勝利と言っていいのかと、考えさせられます。
まとめ
戊辰戦争時の歴史的な裏切りという史実から着想を得て生まれた、集団抗争時代劇『十一人の賊軍』。
「集団劇」とは、ひとりのヒーローではなく、チームワークで敵に打ち勝とうとするスタイルの劇のことです。
本作での決死隊は、社会において罪を犯した人たちで、個性も強く、最初は全くチームワークなど感じられません。ですが、次第にお互いを意識し合いまとまっていきます。
新発田藩×官軍(新政府軍)×賊軍(旧幕府軍)と、周囲を敵に取り囲まれながらも、生きることへの強い思いが皆を奮い立たせ、自分の正義を貫こうと戦うその姿は、まさしく新しいヒーローと言えるでしょう。
主演を務める山田孝之と白石和彌監督は、『凶悪』(2013)以来のタッグとなり、現在社会でも通じる問題を孕んだアツい人間ドラマを魅せる作品となっています。
映画『十一人の賊軍』は、2024年11⽉1⽇(⾦)全国公開です。
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星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。