Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2018/09/28
Update

映画『バーバラと心の巨人』感想と評価。少女の内面を描くイマジネーションの世界|銀幕の月光遊戯4

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第4回

こんにちは、西川ちょりです。

今回取り上げる作品は、TOHOシネマズ シャンテ他にて10月12日より公開される『バーバラと心の巨人』です。

『ベイ・マックス』のキャラクターを手がけたジョー・ケリーと日系のイラストレーター、ケン・ニイラムによるグラフィックノベル『I KILL GIANTS』を実写化!

「ハリー・ポッター」シリーズで知られるクリス・コロンバスがプロデュースし、デンマークのアンダース・ウォルターが監督を務めた少女の苦悩と再生の物語です。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『バーバラと心の巨人』のあらすじ


©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

いつもうさ耳のカチューシャをつけた風変わりな少女バーバラは、今日も一人、森にやってきました。きのこの菌をとって、液体にまぜ、それらを木の枝になすりつけるなど、様々な奇妙な作業を行っています。

彼女にはある使命がありました。

誰も知らないけれど、バーバラだけが知っている。やがて巨人が街に襲来することを。自分は選ばれしもの。“コボレスキー”の力を借りて巨人を倒して街を守るのだ!

そのため、巨人を退治するための罠を作ったり、前兆をおまじないで封じるなど、忙しい日々を送っているのでした。

姉のカレンは働きながら、バーバラと弟(バーバラには兄)を世話していますが、弟はテレビゲームにうつつを抜かしているし、バーバラは、おかしなことばかりやっているしで、少々疲れ気味です。

そんなある日、バーバラが海岸にいると、一人の少女が声をかけてきました。イギリスのリーズという街から転校してきたソフィアでした。

バーバラは彼女を拒否しますが、スクールバスに乗るのも同じ場所だし、まだ他に友達もいないソフィアは何かとバーバラに近づいてきます。

バーバラは学校では明らかに浮いていて、孤独で、皆からは変わり者と見られていました。何かとちょっかいを出してくるイジメっ子のテイラーと一触即発の状況となった時、カウンセラーのモル先生から呼び出だされます。

最近赴任してきたモル先生は、バーバラになんとかして心を開かせようとしますが、バーバラは、時間がない、忙しいと言っては、逃げ出すのでした。

ある日、バーバラは近づいてきたソフィアに巨人のことを話します。半信半疑ながら話に耳を傾けるソフィア。

バーバラを襲おうとしたテイラーの足をソフィアがひっかけてバーバラを救ったことから、二人は“友だち”になります。

しかし、バーバラの行動は次第に過激になっていき、ソフィアは彼女を心配し始めます。

モル先生も、バーバラが巨人と戦おうとしていることを知ります。巨人などいないのだと諭しますが、バーバラは、悲壮な表情で「巨人は憎悪そのもの。壊すのではなく、何もかも奪っていく」と叫ぶのでした。

怒りや悲しみで頭がいっぱいだったバーバラは、自分の肩に手をふれたソフィアを思わず、殴ってしまいました。

そこへ現れたのがテイラーでした。この前のお返しにやってきたのです。テイラーに襲われたバーバラをソフィアは抱きかかえて、家に送っていきました。

目覚めたバーバラは自分が二階に寝ていることに気が付きました。二階にいるだなんて! 彼女は二階をずっと避けてきたのです。

バーバラはコップに水を入れて持ってきたソフィアに「なぜ二階に運んだの!?」と怒りを顕にしました。

バーバラは学校に来なくなってしまいました。モル先生とソフィアは家を訪ね、姉に話を聞きました。姉もバーバラが学校に行っていないことに気がついていませんでした。

毎日、忙しすぎて、頑張ったけれど、これが精一杯だ、と涙ぐむ姉に、モル先生は「よく頑張ったわ」と声をかけるのでした。

バーバラの秘密を知ったモル先生とソフィア。モル先生はバーバラをみつけ「巨人なんていないわ。現実から目をそらしては駄目!」と諭しますが、バーバラは激しく反発します。

街に嵐が来ると天気予報が伝えていました。竜巻が発生するかもしれないとのこと。いよいよ、巨人が襲来するのでしょうか!? その時バーバラのとった行動とはどのようなものだったのでしょうか!?

映画『バーバラと心の巨人』の感想と評価

少女を取り巻く恐怖の本質とは?


©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

バーバラはまだ思春期前の少女です。思春期前後の少女の心を覆う得体の知れない恐怖と不安は、古今東西、多くの作家によって描かれてきました。本作もその系譜の作品と言って良いでしょう。

ロングアイランドの風景はどこか寂しげで陰鬱で乾いた印象ですが、これもまた、バーバラに見える“世界”なのでしょう。実際はベルギーやアイルランドでロケされたそうです。

何かを真剣に見つめる少女の横顔から映画は始まり、静かに誰かが来るのを待っているように鎮座する森が現れます。彼女は意を決したように進んでいきます。

彼女が行っている行為は、最初はなんだか手が込んだごっご遊びにも見えますし(彼女の描く絵や工作がポップなので!)、重度の” 中二病”のようにも感じられますが、やがて、彼女の心が怒りに満ち、悲壮感漂う壮絶な思いに満ちていることがわかってきます。

人間が怪物を恐れるのはそれが得体の知れないものだからですが、バーバラは、「人は未知のものを恐れるけれど、私は大丈夫」とソフィアに語ります。後半、彼女が本当に恐れているものがなんであるのかが明らかになっていきます。

何かに深く傷ついている少女の姿は痛々しく、カウンセラーや、イギリスから来た転校生が、バーバラになんとか近づこうとして拒絶される姿をただ、ハラハラと見守るしかありません。

そこにハイエナのようにやってくるいじめっ子がいることに絶望すら感じます。このいじめっ子にとってはバーバラの存在が「脅威」なのでしょう。

孤立して誰にも迎合しないバーバラの姿は彼女にとってまさに「未知のもの」で恐怖に値するのです。だから構わずにはいられないのでしょう。

ただし、バーバラも負けていません。ただのいじめっ子、いじめられっ子の物語ではなく、二人のバトルは、至極日常的な光景にすら見えます。バーバラにとっては巨人の来襲に備えることで忙しいのに邪魔をされている、くらいの認識なのかもしれません。

固定概念を覆す新しい目の存在


©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

一方、バーバラに手を差し伸べようとするソフィアの純真さが物語の大きな救いになっています。彼女も、そしてカウンセラーの先生も、新しく街にやってきた新参者です。

古くからバーバラを知っている人々は、例えば兄は彼女を「オタク」と呼び、クラスメイトは「変わり者」と呼ぶように、枠にはめてしまうことで変に慣れてしまっているのです。姉は毎日のことで手一杯で、誰も彼女を救いだそうとしていません。

固定されて恒常化された社会に新しい目が入ることの大切さを思わずにはいられません。そして、ソフィアとカウンセラーがどちらも女性であることもこの物語にとってはとても重要な意味を持っています。

ダークファンタジーの要素は?


©I KILL GIANTS FILMS LIMITED 2017

勿論、バーバラの幻想世界も大きなみどころの一つです。「ハリー・ポッター」シリーズほどの予算はなく、様々な工夫がなされていることが却って新鮮な画作りを可能にしました。

家の階段に現れる怪物のような木々のシルエットや、迫り来る嵐の中、波が異様に膨れ上がる迫力ある海の姿は勿論のこと、クライマックスでの対決シーン、森の中で廃列車が燃え上がる美しくも幻想的なショット、バーバラが作る手作り小物に至るまで、ダークファンタジーとしての魅力的な要素がたっぷり詰まっています。

とりわけ、バーバラの手作りによる様々なアイテムは、子供の頃にときめいたもの、想像したものを思い出させ、なにか懐かしいような、愛しいような気分にさせてくれるのです。

スポンサーリンク

スタッフとキャスト紹介

プロデューサーのクリス・コロンバスは、24歳の時にスティーヴン・スピルバーグの目にとまり、まず脚本家としてキャリアをスタートさせました。『グレムリン』(1984)、『グーニーズ』(1985)の脚本家として名をはせます。

1987年、『ベビーシッター・アドベンチャー』で監督デビューを果たし、その後、『ホーム・アローン』(1990)、『ミセス・ダウト』(1993)、『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001)『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002)などを監督しヒットを飛ばします。

プロデューサーを務めた『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』(2011)はアカデミー賞の作品賞を含む4部門にノミネートされました。

そんなクリス・コロンバスが今回見出したのは、ジョー・ケリー(原作)と、日系イラストレーター、ケン・ニイラムによるグラフィックノベル『I KILL GIANTS』です。コロンバスと意気投合したケリーが脚本、制作を担当しています。

監督に抜擢されたのはデンマーク出身のアンダース・ウォルターです。不治の病の少年と病院で清掃員をする青年の交流を綴った短編映画『HELIUM』(2013)で、第86回アカデミー賞短編賞を授賞した実力派です。今回が初の長編作で、少女・バーバラの世界を見事に表現し高い評価を得ました。

バーバラに扮したのはマディソン・ウルフ。2002年生まれの現在16歳。『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015)、『ジョイ』(2015) 、『死霊館 エンフィールド事件』(2016)など話題作に出演している若き実力派です。

彼女の演技なくしては物語が成り立たなかったと思えるほどの名演で、今後が楽しみな若手女優の一人として多くの人の記憶に刻まれることとなるでしょう。

まとめ

なぜ、巨人は現れ、彼女を襲うのか? “いつか必ず来るその時“とは、巨人の襲来を意味しているのか? 

巨人に立ち向かおうとする少女の苦悩と再生の物語『バーバラと心の巨人』は、10月12日(金) TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開されます!

次回の銀幕の月光遊戯は…

次回の銀幕の月光遊戯は、10月27日(土)より公開のジェームズ・サドウィズ監督の『ライ麦畑で出会ったら』をご紹介いたします。

お楽しみに。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『ブータン 山の教室』感想評価と内容解説。初監督のドルジが“世界一幸福度の高い国”から「真の幸せ」を問う|OAFF大阪アジアン映画祭2021見聞録2

第16回大阪アジアン映画祭上映作品『ブータン 山の教室』 毎年3月に開催される大阪アジアン映画祭も今年で16回目。2021年3月05日(金)から3月14日(日)までの10日間にわたって、アジア全域から …

連載コラム

映画『リーサル・ソルジャーズ』ネタバレ感想。メル・ギブソンの息子マイロは親父よりも危険な男を演じた⁈|未体験ゾーンの映画たち2019見破録30

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第30回 今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。様々な58本の映画が公開中ですが、今回はガ …

連載コラム

冬薔薇(ふゆそうび)あらすじ感想と評価解説。伊藤健太郎らキャストが紡ぐ“寄る辺なき者たち”|映画という星空を知るひとよ98

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第98回 映画『冬薔薇(ふゆそうび)』は、多彩な想像力で日本映画界を牽引する阪本順治監督が、主演・伊藤健太郎のために脚本を書き下ろしたオリジナル作品。 生い立ち …

連載コラム

『呪詛』ネタバレ考察感想と結末のあらすじ解説。元ネタのモデルは“鬼子母神と大黒天⁈”|Netflix映画おすすめ103

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第103回 今回ご紹介するNetflix映画『呪詛』は、2019年富川国際ファンタスティック映画祭に出品され、2022年3月台湾で公開される …

連載コラム

『生まれてよかった』あらすじ感想評価と内容解説。韓国映画が大阪アジアン映画祭にて受賞“来るべき才能賞”の快挙!|OAFF大阪アジアン映画祭2021見聞録5

第16回大阪アジアン映画祭「来るべき才能賞」受賞作 『生まれてよかった』 2021年3月14日(日)、第16回大阪アジアン映画祭が10日間の会期を終え、閉幕しました。グランプリと観客賞をダブル受賞した …

U-NEXT
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
山田あゆみの『あしたも映画日和』
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学