連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第17回
日本公開を控える新作から、カルト的評価を得ている知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を網羅してピックアップする連載コラム、『すべての映画はアクションから始まる』。
第17回は、2006年公開のシルヴェスター・スタローン主演の『ロッキー・ザ・ファイナル』。
1976年の第1作『ロッキー』からなる、伝説的ヒットシリーズの完結編となります。
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CONTENTS
映画『ロッキー・ザ・ファイナル』の作品情報
【日本公開】
2006年(アメリカ映画)
【原題】
Rocky Balboa
【監督・脚本】
シルヴェスター・スタローン
【製作】
ウィリアム・チャートフ、チャールズ・ウィンクラー、ケビン・キング、デビッド・ウィンクラー
【撮影】
クラーク・マシス
【編集】
ショーン・アルバートソン
【キャスト】
シルヴェスター・スタローン、バート・ヤング、トニー・バートン、マイロ・ヴィンティミリア、アントニオ・ターヴァー、ジェラルディン・ヒューズ、ペドロ・ラヴェル
【作品概要】
ボクサーのロッキー・バルボアを主人公にした、2006年公開の「ロッキー」シリーズ完結編。ボクシングを引退し、妻エイドリアンを亡くしたロッキーが、再びリングに上がり現役世界王者との闘いに挑みます。
第4作『ロッキー4/炎の友情』(1986)以来、スタローンが監督・脚本・主演の3役を務めます。バート・ヤング、トニー・バートンといった前作からの主要キャストも集結。
ロッキーと闘うボクサーのディクソンを演じたアントニオ・ターヴァーは、撮影当時は世界ライトヘビー級王者を保持する現役プロボクサーでした。
映画『ロッキー・ザ・ファイナル』のあらすじとネタバレ
参考映像:『ロッキー・ザ・ファイナル』(2007)
1975年に、ボクシングヘビー級王者アポロ・クリードとの死闘を皮切りに、リングで情熱を燃やし続けたロッキー・バルボア。
それから約30年経ち、すでに現役を退いた彼は、地元フィラデルフィアで、「エイドリアン」という店名のイタリアン・レストランを経営していました。
店名の由来となった愛妻エイドリアンはガンで他界しており、息子ロバート(ジュニア)も成人して自立。
来店客に現役時代のエピソードを語るなど、地元でも親しまれる存在となっているロッキー。
ですが、エイドリアンの命日にもかかわらず、墓参りに来ない息子ロバートを寂しく思いながら、義兄ポーリーとともに、亡き妻との思い出の地をまわるのでした。
ある夜、ロッキーは馴染みのバーで働く中年女性マリーと出会い、親しくなります。
実は彼女は、少女時代にロッキーに夜遊びをたしなめられたことがあるも、その時の言葉を教訓に更生、現在はシングルマザーとして、息子ステップスを育てていました。
そんな中、スポーツテレビ局HBOの企画で、現世界ヘビー級チャンピオンであるメイソン・ディクソンと、レジェンドボクサーであるロッキーとのシミュレーション試合が組まれます。
現役の王者でありながら、その圧倒的な強さのために人気が得られずにいたディクソン。ですが、過去の戦績データを元にしたシミュレーション試合でロッキーの勝利となり、憤るのでした。
一方のロッキーも、偶然目にしたテレビ番組で、‟過去の人”扱いされたことに憤慨したのと同時に、ボクサーへの復帰欲を高めます。
しかし、大人になっても「ロッキーの息子」としか扱われない境遇に耐え切れないロバートは反対。
それでも、ボクシング協会にライセンスの再申請を願い出たロッキーに、協会員たちは嘲笑を浮かべます。
そんな彼らに、「挑戦しようとする人間を止める権利は誰にもない」と真摯に訴えかけ、ついに現役復帰の許可を得るのでした。
復帰戦を小規模での会場で行うつもりだったロッキーでしたが、テレビ局からディクソンとのエキシビションマッチが申し込まれます。
先のシミュレーション企画の反響を高さを受けたHBOの思惑と、ディクソンの人気回復を狙った彼のマネージャーの画策によるものでした。
思わぬ試合オファーに困惑するロッキーでしたが、親しくなったマリーとステップス母子の激励もあり、大舞台での復帰戦を承諾します。
ロバートは、「観衆の笑い者になるのが目に見えている」と言うも、「自分の弱さを他人のせいにしている。それは卑怯者のすることだ」とロッキーは一喝。
さらに、「お前は卑怯者になるな」と諭すのでした。
かつての親友アポロのトレーナーで、ドラゴ戦でもセコンドに付いたデュークの助けも借り、体力づくりに励むロッキー。
そんな父の姿に心動かされたロバートも帯同し、セコンドを買って出るのでした。
映画『ロッキー・ザ・ファイナル』の感想と評価
参考映像:『ロッキー・ザ・ファイナル』(2007)
三度目の正直となったシリーズ完結編
元々は第3作『ロッキー3』(1982)で終わる予定だった「ロッキー」シリーズ。しかし、その予定は二転三転し、第5作『ロッキー5/最後のドラマ』(1990)で幕を閉じます。
ところが、その出来に圧倒的な「否」の声が上がり、シルヴェスター・スタローンも「第5作は失敗だった」と公に認めるなど、後味の良い幕切れとはなりませんでした。
1990年代になると、アーノルド・シュワルツェネッガーやジャン=クロード・ヴァン・ダム、ブルース・ウィリスといった、アクション映画界の新たなスターが台頭してきたこともあってか、スタローンのキャリアは次第に下り坂に。
『クリフハンガー』(1993)や『スペシャリスト』(1994)のような超大作・話題作こそあれど、キャリアの絶頂だった80年代中期の頃のようなヒット作に恵まれなくなります。
ただ一方で、非アクションで臨んだクライムドラマ『コップランド』(1997)や、アニメ映画『アンツ』(1998)では初の声優を務めるなど、キャリアの幅を開拓しつつもありました。
そんな中、スタローンは「ロッキー」と「ランボー」の完結編を構想します。
『ランボー3/怒りのアフガン』(1988)が興行的にも批評的にも芳しくなかったことと、何より『ロッキー5』が失敗に終わったことで、しっかりと自身のヒットシリーズの有終の美を飾りたいという思いがあったようです。
具体的には、スタローンは1999年から「ロッキー」の完結編製作に向けて動くも、製作費の調達や脚本の練り直しに苦慮。
初期段階の脚本では、クラバー・ラングや、病でボロボロの体になったイワン・ドラゴといった、過去の対戦相手も登場する予定だったとか。
また、スタローンとしては「ランボー」の完結編を先に作りたかったようですが、製作会社MGMの強い意向により、後回しになったという経緯もあります。
とにもかくにも、最初の構想から実に6年の歳月をかけ、本当のシリーズ完結編となる本作『ロッキー・ザ・ファイナル』が完成。
もっとも、黒歴史扱いされがちな第5作のプロットを引き継いだ箇所も、いくつか見受けられます。
有名すぎる父ロッキーに不満をぶつける息子ロバートという親子関係は、第5作でも描かれていますし、ロッキーの人気に苦しみ嫉妬する王者のディクソンは、ロッキーがマネージャーを務めた青年トミー・ガンともダブります。
本作は、第5作のリメイクでもあるのです。
59歳のスタローンが繰り出す驚異のボクシング
参考映像:『ロッキー・ザ・ファイナル』(2007)
第5作が不評に終わった最大要因が、クライマックスのストリートファイトだった反省を活かしてか、本作ではしっかりとボクシングシーンを持ってきています。
このクライマックスには、1977年に引退するも、その10年後に現役復帰したボクサー、ジョージ・フォアマンの影響があるとされます。
彼は94年に、当時王者だったマイケル・モーラーとのタイトルマッチに挑み、45歳にしてWBA・IBF世界ヘビー級王者に返り咲きました。
スタローンは、この一戦に触発され、本作を構想したと云われています。
6ヵ月間の体力トレーニングを続けたスタローンは、そのテンションを維持すべく、クライマックスのボクシングシーンから撮影をスタート。
対戦相手ディクソンを演じたアントニオ・ターヴァーは、撮影時37歳で実際のライトヘビー級王者でした。
加減しているとはいえ、当時59歳のスタローンは試合シーンのリアリティを出すために、そんな現役選手と実際に殴り合いをしたのですから、まさに人間離れしているとしかいえません。
なお本作にはラストが異なる別バージョンもあり、それは、最終ラウンドでディクソンからダウンを奪ったロッキーが、判定で勝利するというものでした。
しかし主人公とはいえ、復帰間もないロッキーが現役王者に勝つのは無理があるとして、劇場公開版では差し替えられたものの、この別バージョンはDVDの特典映像として収録されています。
ロッキー・サーガは終わらない
参考映像:ゴールデングローブ賞のプレゼンターを務めるシルヴェスター・スタローンとカール・ウェザーズ
ようやく大団円で幕を閉じた本作『ロッキー・ザ・ファイナル』には、格言ともいえるセリフが盛りだくさんです。
「誰にも胸に秘めた夢があるのだから、それを実現しようとする心意気を尊重しろ」、「好きなことに挑戦しないで後悔するより、醜態をさらしても挑戦するほうがいい」といったロッキーのセリフ。
また「心は歳をとらないことを証明して」とロッキーを激励するマリーのセリフは、明らかにスタローン自身の心情を反映した言葉でしょう(彼自身が全てのセリフを書いているのですから、当然といえば当然ですが)。
でも、「ロッキー」シリーズがこれで終わりではないのは、多くの人がすでに知っています。
『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)からなるスピンオフは、アポロの遺児アドニスが主人公でありながら、ロッキー・サーガの物語でもあります。
安易に使われがちな「映画史に残る」というフレーズですが、「ロッキー」こそ映画史に残るシリーズであることに、異論を唱える余地はないでしょう。
次回の連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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