ふたりは殺し屋!チックで明るい最凶バディのバイオレンス・ムービー!
仲良し女子高生の2人組、その正体は裏社会に生きる凄腕の殺し屋でした。ところがそな彼女たちも卒業すれば、ただの世間知らずの社会不適合者だったのです。
髙石あかりと伊澤彩織をW主演に迎えた、過激なアクションとバイオレンスで注目の阪元裕吾監督の作品『ベイビーわるきゅーれ』。
今、一番熱くてパワフルな日本映画として注目を集める話題作を紹介します。
CONTENTS
映画『ベイビーわるきゅーれ』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督・脚本】
阪元裕吾
【キャスト】
髙石あかり、伊澤彩織、秋谷百音、本宮泰風、うえきやサトシ、福島雪菜、三元雅芸、辻凪子、仁科貴、飛永翼(ラバーガール)、大水洋介(ラバーガール)、水石亜飛夢
【作品概要】
『最強殺し屋伝説国岡』(2019)や『ある用務員』(2021)、『黄龍の村』(2021)を立て続けに発表した阪元裕吾が手掛ける、本格アクション・ガールズムービー。
舞台『鬼滅の刃』で竈門禰豆子役で注目の髙石あかりと、『るろうに剣心 最終章』(2021)2部作や『G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ』(2021)などのスタントで活躍する伊澤彩織。共に阪元監督の『ある用務員』に出演した2人が可憐で危険な、おまけに非常識な主人公を演じます。
映画『ベイビーわるきゅーれ』のあらすじとネタバレ
コンビニのバックヤードで店長(大水洋介)からアルバイトの面接を受ける深川まひろ(伊澤彩織)。実にグダグダな面接の最中、突然彼女は相手を射殺します。
彼女は殺し屋でした。コンビニの従業員たちも同じ裏社会の住人らしくまひろに襲いかかります。しかし格闘で返り討ちにされていく男たち。
油断した彼女を救ったのは、相棒の杉本ちさと(髙石あかり)です。実はこの高校生2人組、凄腕の殺し屋でした。計画とは違ったものの、無事任務を果たした殺し屋コンビ。
…というのはバイト面接中のまひろの妄想です。ぼーっとしてた彼女は、当然バイトの面接に失敗し、結果は不採用でした。
まひるがアパートの一室に入ると、そこにはちさとと彼女が拷問中の男がいます。2人は本業の殺し屋稼業の依頼を忠実に果たそうと、男を酷い目に遭わせてから始末しようとします。
するとちさとに、人手が足りないからバイトに入ってくれ、との電話が入りました。男をあっさり殺してバイトに向かうちさと。
そんなちさとも勤め先のカフェでは、全く使えないバイトにすぎません。残されたまひろは新たなバイト探しを始め、仕事中のちさとはうっかりお客さんや従業員(辻凪子)にやらかしてしまい、当然ながらクビになります。
腕の立つ殺し屋の2人組が、どうしてこんなに生き辛さを実感しているのでしょうか。数週間前彼女たちはいつも通りターゲットを始末すると、死体の処理を裏社会の始末屋に依頼していました。
任務を終えた2人は、連絡役の須佐野(飛永翼)と会います。2人に対しウチの会社=”組織”の方針で、高校卒業後は表の顔を持つように、就職しなさいと告げる須佐野。
社会に出て自立しろと言われても、今まで勝手きままに生きていた2人に実感はありません。ともかく2人は用意されたアパートで、社会人として共同生活を始めます。
彼女たちが新たに生活を始める場所の近くに和菓子屋がありました。この店の気のいい店主(仁科貴)に因縁をつけ、暴行を加える凶暴なヤクザ者の浜岡(本宮泰風)。
その浜岡の下で、薬物を売りさばく部下を殺したのがちさとまひろの殺し屋コンビでした。息子のかずき(うえきやサトシ)から報告を受け、浜岡は見つかった死体の元に現れました。
そこにいた浜岡の娘、ひまり(秋谷百音)は一発でターゲットを始末した殺し屋の腕前に感心していました。浜岡は犯人捜しをひまりに任せます。
今まで好き勝手に生きていた社会不適合者な“元女子高生”殺し屋コンビ、ちさとまひろの共同生活が上手く行く訳が無く、何かとトラブル続きでした。
一方ヤクザ浜岡の娘・ひまりは渡部(三元雅芸)と共に、凄腕の殺し屋の正体を求めて行動を開始します。そして殺し屋の次のターゲットを探り出すひまり。
その日ちさとは、すっかりダウンしているまひろに代わって1人で任務を果たそうとします。首尾良く彼女はターゲットのアパートに入りますが、そこにはひまりと渡部が待ち伏せしていました。
自分よりもテンションの高いひまりに戸惑うちさと。しかし渡部に殴られ意識を失っている間に、彼女の銃は奪われていました。
目覚めたちさとはターゲットを殺害しますが、浜岡とひまりは彼女の拳銃を使い邪魔になった人物を殺害していました…。
映画『ベイビーわるきゅーれ』の感想と評価
学生時代に製作した殺人カップルを描いた映画「べー。」(2016) で、残酷学生映画祭2016グランプリを受賞した阪元裕吾。
その後、彼は本作に出演している辻凪子と共同監督で『ぱん。』(2017年)、『クレイジーアイランド 奈緒美の愛と青春と狂気の爆走ロード』(2017年)を製作。
そして『ハングマンズ・ノット』(2017年)、『ファミリー☆ウォーズ』(2018)というバイオレンス描写にあふれたブラックコメディを手掛けた阪元裕吾は、この分野の若手監督の第一人者と呼ばれるなります。
更に2019年から2021年にかけて『最強殺し屋伝説国岡』、『ある用務員』、本作そして『黄龍の村』と続々新作を発表、更なる注目を集めました。
彼の様々な映画の中では任侠映画的・Vシネマ的なオーソドックスな雰囲気を漂わせる『ある用務員』。しかしクライマックスとなる殺し屋バトルに突入すると、ジャンル映画ファンのテンションは一気に上がります。
この殺し屋バトルシーンで主人公に挑んだのが、髙石あかりと伊澤彩織が演じるリカとシホの”女子高生殺し屋2人組”。
このキャラクターが、今回紹介した『ベイビーわるきゅーれ』の主人公コンビの原型になりました。
意外な経歴を持つスタントウーマン・伊澤彩織
参考映像:アニメ甲子園2010-2011 伊澤彩織作品 自主制作アニメ『ドロップス』
阪元監督は2人の主演女優に対し、本作は決して『ある用務員』のスピンオフ作品ではないと説明し、女子高生(”元”が付きますが)殺し屋コンビの新たな物語を共に作り上げよう、と説明しました。
スタントウーマンから女優となった伊澤彩織は、『ある用務員』で披露した以上の「打撃系」アクションを本作で披露。その見どころ満載のシーンは、本編を見て確認して下さい。
伊澤彩織が本作で演じた深川まひろの殺し屋稼業以外で見せる姿は、トレーニングに励む姿を除けばゴロ寝でゲームか動画鑑賞三昧、なぜかおでんが好物のいささかコミュ障気味な女の子でした。
伊澤彩織は小学生の頃は引っ込み思案でいじめらた経験を持ち、中学時代に映画に興味を持ち映画製作部に所属するも、孤立気味で1人でクレイアニメーションを製作するようになります。
そのクレイアニメ作品が「アニメ甲子園」や「映画甲子園」で受賞。こうして本格的に映画制作の道を目指した彼女は、日本大学芸術学部映画学科に入学しました。
20歳頃に心身を鍛えたいとキックボクシングジムに通っていた彼女は、商業映画の現場に立ちたいと考えます。そして彼女が参加した現場はアクション部でした。
全く運動経験は無い、おまけに痛いのは嫌いだった…と当時を振り返る彼女ですが、アクション部から誘われた事を機に、スタントのトレーニングを開始します。
こうして新たな道を歩み始めた伊澤彩織。そんな折に彼女の師である、アクション監督そして俳優、そしてアクションクラブ「PASSGUARD」の代表・田中清一の急逝に接します。
生前に「アクションを続けてくれ」と語ってくれた、師の意志を継ごうと彼女は決意し、本格的にスタントウーマンの道を歩み始めました。
様々な作品の現場に立ち、そして本作では激しいアクションと対極の姿であるコミュ障気味な緩い姿を演じ分けてみせた伊澤彩織。この演技で第31回日本映画批評家大賞の、新人女優賞(小森和子賞)賞を獲得します。
彼女は動と静…静と呼ぶにはダメダメ過ぎる姿を見事に演じ分け、高く評価されました。しかしその背後には現在に至る彼女の経歴と、若き日に過ごした日々の経験が偽らぬ形で生かされているのかもしれません。
破天荒なようで冷めたキャラを演じた髙石あかり
もう一人の殺し屋杉本ちさとを演じたのは髙石あかり。彼女は阪元監督は俳優が演じる役柄に縛りを与えないタイプの監督で、出演者と共に互いに抱いた解釈を尊重しながら演出してくれたと語っています。
彼女は台本に描かれていた「素直で天真爛漫な、ちさと」と「どこか達観している、ちさと」という対照的な姿を、観客にはっきり見せたいと考えていました。
そして脚本に描かれた達観しドライなちさとの姿を、「実は良い人だからふと現れて見えるもの」にだけは、絶対にしたくなかった、とインタビューに答えています。
一見能天気でハチャメチャ、性格が壊れているかに見える破天荒な殺し屋ちさとがふと見せる冷めた表情と、そしてそれを振り切って行動に移して見せるたくましさ。この姿が一見マンガ的で類型的なキャラクターの性格に、深みと説得力を与えました。
ちなみに髙石あかりは撮影時18歳。一方伊澤彩織は大学を卒業し、既にスタントウーマンの実績を重ねていた時期で、実はかなり年齢差があることに気づかされます。
しかし本作の劇中では、深川まひろは殺し以外では社会適応能力ゼロに近いキャラクターで、性格が破綻しているようで実はしっかり者の一面を持つ、杉本ちさとのサポートが欠かせません。
年齢も経歴も異なる2人ですが、劇中では髙石あかりの方が伊澤彩織をリードする姿を見せます。これは2人が的確に登場人物の性格を把握し、その役割を互いに演じきった結果だと評価できるでしょう。
まとめ
マンガ的にカリカチュアされた元女子高生殺し屋コンビの映画、と思われがちな『ベイビーわるきゅーれ』。しかし実は監督と2人の主演女優が登場人物の姿を綿密に作り上げ、描いてみせた作品でした。
その成果は伊澤彩織の日本映画批評家大賞の新人女優賞受賞、そして髙石あかりの躍進につながりました。『ある用務員』のクライマッスで『ジョン・ウィック』(2014)のような殺し屋バトルに登場した女子高生殺し屋2人組が、本作で華麗な進化を果たしたのです。
『ある用務員』はヤクザ映画、遊びの無いノワールな作品だったので、次は遊びしかない映画を作りたいと考えた、と語っている阪元裕吾監督。
アクション映画好きに認められる映画を意識して作った『ある用務員』。しかし『ベイビーわるきゅーれ』をアクションシーンだけの映画にするのは違う、二人を主人公にした場合の魅力は何かと考え、2人の“かけ合い”や“生活感”を描く物語を生み出します。
クライマックスのアクションシーンは、アクション監督の園村健介にお任せしたと語る阪元監督。園村健介はアクション監督を務めた『BUSHIDO MAN ブシドーマン』(2013)で、ジャパンアクションアワード2014のベストアクション作品賞・男優賞の優秀賞、ベストアクション女優賞の最優秀賞を獲得し、今最も期待されるアクション監督の1人です。
自分には理解できないほど、凄いアクションシーンを作ってもらえたと、インタビューに笑って答えた阪元監督。その彼が付けた注文の1つが、(格闘中に)頭真っ白になって凄く冷静になった表情を見せることでした。
実際に演じる伊澤彩織にも話し、当初はなぜここで冷静になる?といった疑問を感じさせたものの、3~4回やってもらった結果、いい表情をとらえることが出来たと振り返る監督。映画のご覧の方なら、その場面がどこに登場したかお判りでしょう。
ハチャメチャな、極端なまでにコミュ障な、問題だらけの2人のキャラクターを描いた映画『ベイビーわるきゅーれ』。しかし2人の主人公がふと見せる表情がキャラクターに深みを与え、監督の狙い通り観客に受け入れられる主人公像を完成させたのです。
増田健(映画屋のジョン)プロフィール
1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。
今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn)