Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

映画『幸せの、忘れもの。』あらすじ感想と評価考察。ろう者の女性と夫の“新しい家族”との出会いを通じて問う“本当の幸せ”

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

映画『幸せの、忘れもの。』は2026年5月1日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

耳が聴こえないろう者であるアンヘラと、聴者の夫・エクトル。2人は手話を通して心を通わせ、アンヘラのお腹には新たな命が宿っていました。

“幸せな出来事”であるはずなのに、何かが変わってしまった……“疎外の世界”に引き戻されたアンヘラは、“本当の幸せ”をつかむことはできるのでしょうか。

監督を務めたのは、社会学者でもあるエバ・リベルタ。主演のミリアム・ガルロは監督の妹であり、ろう者の俳優として活動しています。

2人の対話から生まれた短編『Sorda』(2023)を基にした本作は2人の実体験を反映させながら、ろう者・聴者それぞれの立場のすれ違いと疎外感を、繊細な演出で描き出しました。

リアリティと研ぎ澄まされた演出が光る本作は、第55回ベルリン国際映画祭にて観客賞とアート・シネマ賞を受賞。さらに第28回スペインマラガ映画祭では観客賞ほか計3部門、第40回ゴヤ賞でも最優秀新人監督賞ほか計3部門もの受賞を果たしました。

映画『幸せの、忘れもの。』の作品情報


(C)2025. Distinto Films SLU, Nexus Creafilms SL, A Contracorriente Films SL, Diverso Films AIE

【日本公開】
2026年(スペイン映画)

【原題】
Deaf

【監督・脚本】
エバ・リベルタ

【製作】
ミリアム・ポルテ、ヌリア・ムニョス、アドルフォ・ブランコ

【キャスト】
ミリアム・ガルロ、アルバーロ・セルバンテス、エレナ・イルレタ、ホアキン・ノタリオ

【作品概要】
脚本家・監督であり社会学者でもあるエバ・リベルタが監督を務め、監督の妹でありろう者のアーティスト・俳優であるミリアム・ガルロが主演を務めました。

母親になろうと考え始めたミリアムとリベルタ監督の対話から生まれた短編『Sorda』(2023)を制作後、「まだまだ語るべき物語がある」と感じた監督は長編として『幸せの、忘れもの。』を手がけました。聴者である主人公の夫・エクトルは、ある意味では自身を投影させたキャラクターだと語っています。

2人の実体験から生まれたリアリティのある研ぎ澄まされて演出が見る人の心をうち、第55回ベルリン国際映画祭にて観客賞とアート・シネマ賞をはじめ、数々の賞を受賞しました。

映画『幸せの、忘れもの。』のあらすじ


(C)2025. Distinto Films SLU, Nexus Creafilms SL, A Contracorriente Films SL, Diverso Films AIE

聴こえない世界に生きるアンヘラと、優しく寄り添う夫エクトル。二人は手話を通して心を通わせ、「二人の世界」で平穏な日々を送っていました。

そんなアンヘラのお腹には新たな命が宿り、親になる喜びを感じると共にアンヘラには不安もありました。

“幸せな出来事”のはずが、子どもが産まれたことを境に何かが少しずつ揺らぎはじめます。

やがて再び“疎外の世界”に引き戻されるアンヘラ。聴こえない世界で、エクトルとのすれ違いは大きくなっていきます。

アンヘラとエクトルは、“本当の幸せ”をつかむことはできるのでしょうか。

映画『幸せの、忘れもの。』の感想と評価


(C)2025. Distinto Films SLU, Nexus Creafilms SL, A Contracorriente Films SL, Diverso Films AIE

聴こえない世界に生きるアンヘラと、優しく寄り添う聴者の夫エクトル。

2人の間には子どもが産まれますが、ろう者が母になることへの不安を感じているアンヘラ。そんなアンヘラの身を案じて両親も色々世話を焼こうとしますが、それはかえってアンヘラが自分は皆と違うということを突きつけられることでもありました。

出産の際も助産医らの指示を、エクトルの手話による通訳がなければアンヘラは理解できませんでした。また産まれてくる赤ちゃんもろう者である可能性も、アンへラは考え続けていました。

エクトルは向き合おうとしますが、赤ちゃんが産まれると赤ちゃんにつきっきりになってしまいます。聴こえない世界を生きるアンヘラは二人の世界が揺らぎ、“疎外の世界”に引き戻されてしまったことに孤独や不安を募らせます。

些細なすれ違いから少しずつ溝が大きくなっていく2人の様子を繊細に描き出した本作は、ろう者と聴者の問題だけではない、母になること、父になることへの戸惑いやすれ違いを描いているといえます。

本作で主演を務めたミリアム・ガルロは監督の実の妹であり、ろう者の俳優です。

まさに、母になることを考えていたミリアムと監督の対話から生まれた短編『Sorda』(2023)を元に作られた本作はそれぞれの立場が投影されているからこそのリアリティがあります。

ミリアムは、ろう者が妊娠出産をすることは、聴者よりもさらに大きな壁があると感じており、その不安がアンヘラに投影されています。

一方で、監督はろう者の妹に寄り添いサポートしようと務めていましたが、自分が妹に与えているエゴや疎外感にはどうしても気づけない部分があるのでしょう。

それぞれが共に生きていくには、衝突することもあります。それでも、対話を通して互いに生きていく道を見つけることはできる、そんな希望も感じられる映画です。

まとめ


(C)2025. Distinto Films SLU, Nexus Creafilms SL, A Contracorriente Films SL, Diverso Films AIE

聴こえない世界を生きる女性とその家族の姿を描いた映画『幸せの、忘れもの。』。

脚本・監督であり、社会学者としても活動する新鋭エバ・リベルタ監督が、妹であり俳優のミリアム・ガルロを主演に迎え、2人の実体験を投影し作り上げました。

アンヘラの目線で聴こえない世界、補聴器をつけて雑音が耳を突き刺す世界を用いた演出など、リアリティのある演出も観客を惹きつけます。

映画『幸せの、忘れもの。』は2026年5月1日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー。



関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『ゼログラビティ』ネタバレ結末あらすじと評価考察。究極の宇宙サバイバルをサンドラ・ブロックで描く

宇宙の静寂に取り残された2人の宇宙飛行士の物語『ゼログラビティ』 『ゼロ・グラビティ』は、アルフォンソ・キュアロン監督が『ROMA』以前に監督賞を受賞したSF映画です。 キャストは、2002年の『トゥ …

ヒューマンドラマ映画

『愛のくだらない』あらすじ感想と評価解説。田辺弁慶映画祭グランプリ受賞の野本梢監督が描く“リアルな体験” 

映画『愛のくだらない』が、2021年8月27日(金)より田辺・弁慶映画祭セレクション 2021、テアトル新宿にて1週間限定公開、他全国順次公開されます。 『横道世之介』の沖田修一監督や『あのこは貴族』 …

ヒューマンドラマ映画

映画『空に住む』あらすじネタバレと感想内容。三代目JSB主題歌の世界観を多部未華子×岩田剛典で描く

映画『空に住む』は、2020年10月23日(金)からロードショー 映画『空に住む』は、『EUREKA ユリイカ』の青山真治監督が7年ぶりに長編映画を制作し、多部未華子と初タッグを組んだ人間ドラマです。 …

ヒューマンドラマ映画

映画『東京不穏詩』感想レビューと評価。女優・飯島珠奈が全てを捧げて演じる夢と愛に裏切られた女の“魂の叫び”

夢や愛に裏切られ、その時ひとはどうなるのか。人生に溺れた女の物語 映画『東京不穏詩』が2020年1月18日(土)より、シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開されることが決定しました。 「夢も …

ヒューマンドラマ映画

映画『さよならくちびる』あらすじネタバレと感想。ハルレオの門脇麦&小松菜奈の演技と演奏に注目!

映画『さよならくちびる』は、2019年5月31日(金)より全国ロードショー! 突然解散を決めた人気デュオの“ハルレオ”。付き人のシマと共に行く解散ツアーを描く音楽エンターテインメント。 音楽劇であると …

Cinemago|想像力の海へ、シネマダイビング。
ACT1|次の物語は、人からはじまる。
Cinemagoオンラインショップ|DVD・鑑賞チケット・オリジナルグッズ
『血を吸うスマトラオオコンニャク』
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学