Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2025/11/30
Update

『あの海を越えて』あらすじ感想と評価考察。海難事故で47人の命を救った8人がインタビューで“あの日”を語る|いま届けたい難民映画祭2025vol.8

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

連載コラム『いま届けたい難民映画祭2025』第8回

難民映画祭は、難民をテーマとした映画を通じて、日本社会で共感と支援の輪を広げていくことを目的とした映画祭で、世界各地で今まさに起きている難民問題、1人ひとりの物語を届けています

今年で20回目を迎える難民映画祭。それは、「節目」であると同時に、「続いてしまった現実」を映す鏡でもあります。

2025年11月6日(木)〜12月7日(日)開催の第20回難民映画祭では、困難を生き抜く難民の力強さに光をあてた作品をオンラインと劇場で公開。公開される9作品をCinemarcheのシネマダイバー菅浪瑛子が紹介します。

今回紹介するのは、ランペドゥーサ島沖で起きた海難事故で47人の命を救った8人が、あの日を語るドキュメンタリー『あの海を越えて』。

2013年、地中海に浮かぶランペドゥーサ島沖で、アフリカ諸国からヨーロッパを目指す難民を乗せた船が沈没しました。

偶然その場に居合わせた島民8人は、必死に目の前の命を救おうと救助活動を行いました。目の前で生と死と向き合った8人が語る思いとは……。

『あの海を越えて』はオンラインで上映のほか、12月2日(火)にイタリア文化会館(東京)で上映します

【連載コラム】『いま届けたい難民映画祭2025』一覧はこちら

映画『あの海を越えて』の作品情報

【日本上映】
2025年上映(イタリア映画)

【原題】
L’ultima isola(英題:The Last Island)

【監督】
Davide Lomma

【作品概要】
2013年10月3日、地中海に浮かぶランペドゥーサ島沖で、アフリカ諸国からヨーロッパを目指す難民を乗せた船が沈没。多くの死者や行方不明者を出しました。

そんな海難事故に遭遇した8人の島民は、目の前の命を救おうと必死に救助活動をし、47人の命を救いました。

2013年の海難事故から10年以上経った今も、命懸けで地中海を渡りヨーロッパを目指す難民の数は減らず、死者や行方不明の数も減っていません。

そんな過酷な現実を映し出しつつも、島民のインタビューを通して、人々の絆や希望を感じさせるドキュメンタリー。

映画『あの海を越えて』のあらすじ

地中海に浮かぶ自然豊かな美しい島・ランペドゥーサ。

地中海をバックに配置された椅子に座り、8人の男女がランペドゥーサ島にやってきた時のこと、かつての島での暮らしを語り始めます。

次第に彼らが語り始めた“あの日”の記憶……。

“あの日”とは、2013年10月3日、ランペドゥーサ島沖で起きた海難事故が起きた日です。

アフリカ諸国からヨーロッパを目指す難民を乗せた船が沈没、多くの人が海に投げ出されました。

事件に遭遇した8人は、イタリア政府らに救助を要請しますが、条約違反になると救助をしようとしません。

目の前にある命を見捨てることはできないと、8人は救助活動を行いました。

47人の命を救った彼らでしたが、救えなかった命、多くの亡くなった人々を目にしました。

恐怖、悲しみ、戸惑い……当時の感情をありありと語る8人。

そんな彼らと救助した難民の絆は今も続いている、国や言語を超えた人々の絆がそこにはあったのでした。

映画『あの海を越えて』の感想と評価

2013年10月3日、地中海に浮かぶランペドゥーサ島沖で、アフリカ諸国からヨーロッパを目指す難民を乗せた船が沈没しました。

海難事故に遭遇し、47人の命を救った8人の島民がいました。

8人のインタビューを中心とした本ドキュメンタリーでは、当時の様子などは映し出されず、その日に何があったのが詳しく説明されるわけでもありません。

しかし、当時のことを語る8人のリアルな声を通して、その時の恐怖や必死になって助けようとした、助け合う人の姿がそこに感じられます。

ただ、助けたい、その一心であったという彼らの言葉に、もし自分がその場にいたら同じ行動ができただろうか、と問いかけずにはいられません

また、本ドキュメンタリーにおいて印象的なのは地中海、そしてランペドゥーサ島の美しさではないでしょうか。

しかし、本ドキュメンタリーで浮き彫りになるのは、美しいだけではない地中海の姿です。

多くの人が命を落とし、行方不明のままの人もいるもいう残酷な現実が、そこにあるからです。

だからこそドキュメンタリーの映像自体も、ただ美しいだけではないことを意識させる絵作りになっているといえます。

特に印象的なのは、8人がインタビューをしている場所です。

椅子が置かれた後ろは崖になっており、眼下には地中海が広がっています。

青々とした地中海の美しさとともに、生と死の狭間を意識させるようなロケーションであることに気づくでしょう。

難民の人々にとって地中海は、生きるか死ぬかの場所であり、大切な人を亡くした場所であるかもしれません。

今もなお多くの難民が命懸けで地中海を渡り、命を落とす人や行方不明の数は減っていない現実に思いを馳せると共に、誰かに手を差し伸べる人でありたいと思うドキュメンタリーです。

まとめ

地中海に浮かぶランペドゥーサ島沖で起きた海難事故で47人の命を救った8人が、あの日を語るドキュメンタリー『あの海を越えて』。

8人が語る“あの日”の記憶には、救えなかった命に対する言葉にできない思い、後悔……など今も消えない様々な思いがあります。

しかし、そのような辛い思い出だけではなく、あの日助けた難民と、8人の絆は今も続いており、そこには人種や国籍を超えた繋がりを感じることができます。

第20回難民映画祭は2025年11月6日(木)〜12月7日(日)までオンラインにて開催されます。

難民映画祭詳細はHPにて

【連載コラム】『いま届けたい難民映画祭2025』一覧はこちら



関連記事

連載コラム

『ディヴァイン・ディーバ』LGBT映画から学ぶ、生き方と愛の多様性|映画と美流百科6

連載コラム「映画と美流百科」第6回 今回は、9月1日(木)から公開予定の『ディヴァイン・ディーバ』をご紹介します。 キャッチコピーは、ブラジル発“ドラァグクイーン版”「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ …

連載コラム

役所広司最新映画『オーバー・エベレスト』あらすじと感想レビュー。雪山を舞台に日中合作による超大作|TIFF2019リポート15

第32回東京国際映画祭・特別招待作品『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』 2019年にて通算32回目となる東京国際映画祭。令和初となる本映画祭は2019年10月28日(月)に無事開催の日を迎え、11月 …

連載コラム

映画『シュテルン、過激な90歳』感想と考察評価。笑わないヒロインがなぜか楽しげで、名曲サマータイムを歌う場面は必見!|2020SKIPシティ映画祭6

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020「国際コンペティション部門」エントリー作品 アナトール・シュースター監督の『シュテルン、過激な90歳』がオンラインにて映画祭上映 2020年9月26日(土)~1 …

連載コラム

映画『マローボーン家の掟』あらすじと感想。結末まで青春とホラーの新感覚が織り成す後味とは|SF恐怖映画という名の観覧車43

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile043 以前、「ホラー映画は嫌い」と言っていた知人がいました。 その理由を詳しく訪ねてみると、ドキッとさせられる描写が苦手なのかと思いきや、ホラ …

連載コラム

映画『妖怪大戦争ガーディアンズ』ネタバレ結末感想とあらすじ解説。キャストの寺田心と共にファンタジックな令和版へ【邦画特撮大全95】

連載コラム「邦画特撮大全」第95章 今回の邦画特撮大全は『妖怪大戦争ガーディアンズ』(2021)を紹介します。 2021年8月13日(金)から劇場公開されている映画『妖怪大戦争ガーディアンズ』。 20 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学