18年間を共に過ごした義姉弟の切ない恋心
『女の歴史』(1963)の成瀬巳喜男が監督を務めた女性ドラマ。夫に先立たれた女性・礼子と、その義弟・幸司との恋を切なく詩情豊かに描きます。
主演は『二十四の瞳』(1954)の高峰秀子と「若大将」シリーズの加山雄三。
亡くなった夫の弟の幸司を、幼い頃から大切に面倒みてきた礼子。しかし、幸司はいつしか礼子を心から愛するようになっていました。苦しい思いに乱される、切ない女心を映し出す名作です。
映画『乱れる』の作品情報

(C)1964 東宝
【公開】
1964年(日本映画)
【監督】
成瀬巳喜男
【脚本】
松山善三
【編集】
大井英史
【キャスト】
加山雄三、高峰秀子、三益愛子、草笛光子、白川由美、坂部紀子、柳谷寛、中北千枝子、十朱久雄、北村和夫
【作品概要】
名匠・成瀬巳喜男監督作。夫に先立たれた後も嫁ぎ先の酒屋を切り盛りする女性・礼子と、奔放な義弟・幸司との切ない恋物語。成瀬巳喜男が、女性映画の名手と呼ばれるのも納得の傑作です。
主人公の礼子を『二十四の瞳』(1954)の高峰秀子、幸司を「若大将」シリーズの加山雄三が演じます。
共演は三益愛子、草笛光子、白川由美。
映画『乱れる』のあらすじとネタバレ

(C)1964 東宝
静岡県清水の森田屋酒店に嫁いだ礼子は、子供も出来ないまま半年足らずで戦争で夫に先だたれ、店を一人で経営しています。
森田家の次男・幸司は東京の会社をやめ、清水に帰ってきました。女遊びやパチンコに喧嘩と、いつも礼子の手を焼かせています。店を継ぐよう言っても、幸司は耳を貸しません。
近所に安売りのスーパーマーケットができたことから、小売店は苦境に陥っていました。
礼子は、幸司の長姉・久子から持ち込まれた再婚話を断り、ここでずっと暮らしたいとこたえます。
映画『乱れる』の感想と評価

(C)1964 東宝
やり切れない悲恋の物語
18年もの長い間、義理の姉弟として生きてきた二人の純愛を描く名作です。これ以上の悲恋を描いた作品はそうそうないと言えるほど、あまりにも衝撃的なラストを迎えます。
主人公の礼子は、清水の森田家の酒屋を切り盛りする未亡人です。義母のしずと、11歳年下の義弟・幸司と暮らしています。
幸司はいつの間にか礼子を慕うようになり、その純粋な愛に礼子は心乱されます。しかし、彼女は亡き夫のことも心から愛していました。戦時中の恋について語る「どんな気持ちで毎日毎日を生きていたかわからないでしょうね」という礼子の言葉にはとてつもない重みがあります。
高度成長期の日本で、スーパーマーケットに食われていく小売店。礼子の営む酒屋も例外ではありませんでした。安い品に群がる群集心理は、現代社会にも続く大きな問題です。
勝手な都合で礼子を邪魔者扱いする小姑をはじめ、周囲の者たちはあまりにも彼女を軽んじて扱っていました。長女の夫など、酒屋をスーパーにした後は、礼子には月給払って働いてもらえばいいというひどい言葉を吐くのです。
そんな中で、幸司は礼子を大切に守ろうと必死に考えます。しかし、幸司の深い愛を知っても、礼子が彼を受け入れるのは無理なことでした。若者の未来を潰す女として周囲から見られるに違いなく、誰より礼子自身がそう感じていたからです。
姉さんはこの家の犠牲になったんだね、と何度も繰り返して言う幸司。礼子は必死でその言葉を否定します。「私は犠牲になったんじゃない。強情に生きた」それは、まるで礼子が自分自身に言い聞かせているかのような口調でした。この18年間を肯定するためには、礼子はそう言うしかなかったのではないでしょうか。
ただひたすら家と幸司のことを思い、やさしい嘘をついて森田家をあとにする礼子。本当に美しい人というのは、こういう人のことを言うのかもしれません。
しかしそんな彼女を待っていたのは、礼子を追ってきた幸司が事故死するという、あまりにも残酷な結末でした。
やり切れない思いと共に、胸にズシンと残る衝撃的なラストにノックアウトされる名作です。
礼子自身にさえわからない本心

(C)1964 東宝
礼子の本心は、彼女自身にもわからないほど複雑なものだったかもしれません。
彼女は年若く結婚し、たった半年で夫と死に別れました。彼への愛ゆえに実家の酒屋の再建に力を尽くしたのは間違いなく、愛情は本物だったことでしょう。
しかし、18年以上を経ても、色あせない思いだったかどうかは定かではありません。彼女の愛は幻にも近いものになっていたのではないでしょうか。
そんな中で、11歳離れた義弟の幸司から愛を告げられ、礼子はの心は乱れます。動揺するのものの、礼子は女としての喜びを感じずにはいられませんでした。
もう少し年齢が近ければ、彼の思いを受け入れることが叶ったかもしれません。しかし、年若く未来ある青年の将来を自分が手にすることは許されるはずもなく、誰より礼子自身がそうすることを許せませんでした。
すべての思いを振り払って列車に飛び乗った礼子を、純粋な愛を持つ幸司が追ってきます。礼子の頑なな心もとうとう降伏し、自ら彼を誘って銀山温泉の宿へ向かいました。
しかし、とうとう結ばれそうになったその時、礼子は幸司を振り払ってしまうのです。「自分で自分がわからない」と正直に言う礼子。
彼の将来を奪うことが恐くなったのか、それとも何年も恋愛から遠ざかっていた彼女に恐怖心が芽生えたのか、あるいは若い彼が年を重ねた自分に失望することを恐れたのか。恐らくはそれらすべてがないまぜになった感情だったことでしょう。
その後、幸司があまりにも純粋過ぎたことが、思わぬ悲劇を生みます。絶望した彼は飲み過ぎたまま森に入り、崖から落ちて命を落とすのです。その骸を見つめる礼子の哀れな瞳。
夫の死後も貞節を守り実家の店を守ってきたにも関わらず、親族から煙たがられた未亡人。その末に愛した義弟を亡くすなど、まるで懸命に生きた礼子をどこまでも罰するかのような悲しい運命が降りかかります。
しかし、礼子の本当の願いではなかったにせよ、死をもって幸司は礼子だけのものになりました。もう離ればなれになることも、若い女性を妻に迎える彼の姿を見ることもありません。
本作は、女の悲しい性(さが)と共に、本物の恋の成就を描きたかったのかもしれないと思えるのです。
まとめ

(C)1964 東宝
悲しいヒロインの心の内を丁寧に映し出す名作『乱れる』。ただの悲恋物語では終わらない、豊穣な余韻に満ちています。
多くの作品で成瀬監督とタッグを組む高峰秀子が、礼子の切ない心情を見事に演じ切り、加山雄三が繊細な演技で応えています。
大人の恋の喜びと悲しみの詰まった名作を、どうぞじっくり味わって下さい。



































