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映画『金子差入店』あらすじ感想と評価考察。北村匠海VS丸山隆平で演じる‟塀”で区切られる社会の感情|映画という星空を知るひとよ253

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第253回

刑務所や拘置所に収容された人への差入を代行する「差入屋」。

収容された人に差入するルールを熟知した「差入屋」が差入を代行し、また様々な事情から面会に行くことができない人たちに代わって、面会室へ出向きます。

映画『金子差入店』は、そんな差入店を営む家族と、彼らが巻き込まれる不可解な事件を描く、ヒューマンサスペンスです。

映画『金子差入店』は、2025年5月16日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー

監督は、「東京リベンジャーズ」シリーズなどの助監督だった古川豪です。ある時、目に留まった拘置所の差入店から、「差入屋」についてのオリジナル脚本を描き、映画化したと言います。

主役の夫婦を演じるのは、『泥棒役者』以来8年ぶりの映画の主役となる「SUPER EIGHT」の丸山隆平、その妻に真木よう子。「差入屋」という家業を営む上での悩みや苦しみをリアルに体現します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『金子差入店』の作品情報


(C)2025「金子差入店」製作委員会

【日本公開】
2025年(日本映画)

【脚本・監督】
古川豪

【製作】
「金子差入店」製作委員会

【主題歌】
SUPER BEAVER「まなざし」(ソニー・ミュージックレーベルズ)

【キャスト】
丸山隆平、真木よう子、三浦綺羅、川口真奈、北村匠海、村川絵梨、甲本雅裕、根岸季衣、岸谷五朗、名取裕子、寺尾聰

【作品情報】
監督を務めるのは、「東京リベンジャーズ」シリーズなどの助監督を務め、本作が長編初監督作となる古川豪。完成まで11年かけた自らのオリジナル脚本で、初監督作品にチャレンジしています。

主人公の金子真司役を『泥棒役者』(2017)以来8年ぶりの映画主演となる「SUPER EIGHT」の丸山隆平が演じ、真木よう子、北村匠海、寺尾聰ら実力派の重鎮が顔をそろえました。

子役の三浦綺羅、ルーキーの川口真奈など、フレッシュなメンバーも共演。

映画『金子差入店』のあらすじ


(C)2025「金子差入店」製作委員会

刑務所や拘置所に収容された人への差入を代行する「差入屋」。

金子真司(丸山隆平)は、叔父(寺尾聰)と妻(真木よう子)息子(三浦綺羅)と共に生活し、「差入店」を営んでいます。

ある日、息子の幼馴染の女の子が殺害される凄惨な事件が発生。彼女の死にショックを受ける一家でしたが、犯人(北村匠海)の母親が差入をしたいと「金子差入店」を訪ねて来ました。

差入屋として犯人と向き会わねばならない金子ですが、そんな仕事に関して日に日に疑問と怒りが募ります。

そんな時、毎日のように拘置所を訪れる女子高生(川口真奈)と出会いました。 彼女はなぜか、自分の母親を殺した男(岸谷五朗)との面会を求めていました。

その男はいつも女子高校生との面会を拒否します。そこには理由があったのですが……。

2つの事件の謎と向き合ううちに、金子の過去も周囲にわかるところとなり、 家族の絆を揺るがしていきます。

映画『金子差入店』の感想と評価


(C)2025「金子差入店」製作委員会

罪を犯した人が収容される刑務所や拘置所への差入を行う「差入屋」。その存在を知っている人はどれだけいるでしょうか。

収容された人に対して、面会を希望したり、食べ物や嗜好品などを差入したいと願う関係者もいるはずですが、‟塀の中の人”は、言わば現実社会と隔離された人たちです。身内や関係者からの励ましも温かな心遣いも、ルールに従って届けなければなりません

中には面会拒否や受け取り拒否の差入もあるでしょう。それでも「差入屋」は差入を代行し、‟塀の中の人”を大切に思っている人がいるということを伝える役割を果たします。

けれども、時には‟塀の中の人”に妻からの離婚届を届けたりと、善行だけですまない心苦しい面会もあったりしました。

本作の主人公の金子も、息子の幼馴染を殺した犯人に差入をすることとなります。彼は、面会室で2人の間にあるアクリル板を突き破って、相手に殴りかかりたい衝動にかられました。

‟塀の中の人”に対して、一切自分の感情を持たないように努めなければ、この仕事は成り立ちません

仕事に向き合う自分との葛藤が始まり、また仕事に対する世間からのイジメが金子一家に重くのしかかります。

差入屋とは何なのかと思い悩む金子。そんな金子を、感情豊かに丸山隆平が演じます。

また真木よう子は、全てを優しく包み込むような演技力で夫を支える妻を体現。先代の差入屋で金子のアドバイザーでもある叔父役の寺尾聰は、飄々とした演技で一家の影の大黒柱の存在を果たしました。

一方、北村匠海の扮する殺人犯は、その性格も過去も事件の背景にある殺害理由も明確にされていないので、かえって不気味感が増加。現代の歪でリアルな社会像が炙り出されています。

平凡であること、そして平穏な日常であることこそが幸せなのではないかと思え、川の字になって寝る金子一家からもそんなメッセージが伝わって来るような作品となっています。


(C)2025「金子差入店」製作委員会

まとめ


(C)2025「金子差入店」製作委員会

本作の古川豪監督も、他の作品の撮影をしている時に「差入屋」の存在を知り、いろいろ調べていき、世の中には知られていないけれど、絶対になくすことが出来ない職業と思うようになって、映画化されたと語ります。

差入屋が代行で差入する相手は、殺人犯であったり、未解決事件の容疑者であったりと、社会に渦巻く様々な事件の証人と言うべき人たちです。

理不尽な出来事や非情な悪を憎む心を押し殺して、差入をし犯人たちと面会するという仕事を続ける金子。その苦しい胸中を表現する丸山隆平の体当たり演技にご注目ください。

映画『金子差入店』は、2025年5月16日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。


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