ブレイク・ライブリー主演で“愛する人からの暴力”を描くパワフルな映画
2022年、アメリカで最も売れたコリーン・フーバーの恋愛小説『イット・エンズ・ウィズ・アス ふたりで終わらせる」を映画化。
“愛する人からの暴力”という問題を真摯に描き、立ち向かっていくリリーの姿を力強く描き出します。
ドラマ「ゴシップガール」シリーズや『ロスト・バケーション』(2016)のブレイク・ライブリーが主人公リリーを演じ、プロデューサーとして製作にも携わりました。
また、リリーが恋に落ちるライル役には、本作の監督も務めているジャスティン・バルドーニ、友人のアリッサ役は、『ヴェノム』(2018)のジェニー・スレイトが務めました。
自分のフラワーショップを持つという夢を叶えるため、ボストンにやってきたリリー。そこでリリーは脳神経外科医のライルと知り合い、情熱的な恋に落ちます。
しかし、2人は互いに心に傷を抱え、2人の関係性は望まぬ形に変化していきます。リリーは動揺しつつも、過去の自分、そしてライルと向き合いある決断をします。その決断とは……。
本作には、DVによる暴力描写が出てきます。鑑賞の際はお気をつけください。
CONTENTS
映画『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』の作品情報
【日本公開】
2024年(アメリカ映画)
【原題】
It Ends with Us
【監督】
ジャスティン・バルドーニ
【脚本】
クリスティ・ホール
【原作】
コリーン・フーバー
【キャスト】
ブレイク・ライブリー、ジャスティン・バルドーニ、ジェニー・スレイト、ハサン・ミンハジ、ブランドン・スクレナー、イザベラ・フェレール、アレックス・ニューステッター
【作品概要】
ドラマ「ゴシップガール」シリーズや『ロスト・バケーション』(2016)のブレイク・ライブリーが主演を務め、『ファイブ・フィート・アパート』(2019)の監督や、『ねこのガーフィールド』(2024)の製作総指揮など幅広く活躍するジャスティン・バルドーニが監督とライル役を務めました。
コリーン・フーバーの原作小説『イット・エンズ・ウィズ・アス ふたりで終わらせる』は、世界43カ国で翻訳され、大ヒットを記録します。本作は、コリーン・フーバーの初の映像化作品となります。
脚本を務めたのは、ドラマ『ノット・オーケー』(2020)の企画・製作をはじめ、『ドライブ・イン・マンハッタン』(2025年公開予定)で監督デビューを果たしたクリスティ・ホール。
映画『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』のあらすじとネタバレ
父が亡くなったとの知らせを聞き、メイン州の実家に帰ってきたリリー。父の葬儀でスピーチを頼まれるも、何も思い浮かばずにいました。そんなリリーに母は、「好きなところを5つ上げるくらいで良いのよ」と言います。
葬儀が執り行われ、リリーのスピーチの番になります。手元のメモ用紙を広げますが、そこには1〜5の数字が書いているだけで、他には何も書かれていませんでした。リリーは何か話そうとしますが、結局何も話さずその場を立ち去ってしまいます。
その夜、リリーはボストンのビルの屋上で気持ちを鎮めようとしていました。そこに1人の男性がやってきて苛立った様子で椅子を投げ飛ばします。驚いたリリーでしたが、2人はほんのひととき互いの赤裸々な事実を語り合います。
男性の名はライルといい、脳外科医でこのビルに住んでいると言います。リリーはここの住人ではなく、花屋を開くためにボストンにやってきたと話します。2人の距離は近づいたかのように見えましたが、ライルに仕事の呼び出しがあります。
「また会える?」と聞くライルにリリーは「もう会わない」と言って別れます。
そしてリリーはボストンで居抜きの店舗を購入します。一人で掃除を始めていると一人の女性が入ってきます。
「どんなお店が入るのか、中はどんな感じなのかずっと気になっていたの」と気さくに話しかける女性に、リリーは驚きながらも花屋を始めることを話します。
「花ってあまり好きじゃなくて」と言う女性にリリーは「花の儚さや切なさも含めて表現したい」と言い、「そのコンセプトなら賛成」と女性は答えます。そんな女性にリリーは「よかったらここで働いて手伝ってくれない?」と提案します。
「そう言ってくれるのを待ってたの」と女性は言い、アリッサと名乗ります。アリッサの元に今日はパジャマでバーに行くと安くなるから夫と兄が迎えに来ると、アリッサは言います。
そして店にやってきたアリッサの兄は何とライルでした。リリーと再会したライルは情熱的にリリーにアプローチしますが、リリーは「やめて」と頑なに友達でいようとします。
リリーは過去の経験から恋愛に対し慎重になっているところもありましたが、強引に押すこともなく、紳士的なライルの情熱に惹かれていき、とうとうライルと付き合うようになります。
ある日、リリーの母親がボストンにやってきて「ルート」というレストランで食事をすることになります。リリーはそのことを事前にライルに伝えていませんでしたが、それを知ったライルは一緒に食事をしたいと言います。
母はライルを気に入り、仲良く食事をしています。そこにウェイターがやってきてリリーは驚きます。そのウェイターは始めて付き合ったアトラスだったのです。
映画『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』の感想と評価
コリーン・フーバーの大ベストセラー恋愛小説の映画化『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』。
監督を務め、ライル役も務めたジャスティン・バルドーニは、脚本を手がけたクリスティ・ホールと共に、映画化をするにあたって、原作のイメージを大切にすることを念頭に脚本や演出を考えたといいます。
原作者のコリーン・フーバーとも協議を重ねただけでなく、原作のファンに脚本を読んでもらって意見を聞き、脚本を仕上げたそうです。そのような誠実さが映画にも表れています。
印象的なのは、リリーが自分の置かれた状況に気づいた瞬間です。
最初は自分とライルの関係がDVではない、対等の関係だとリリーは思っています。そんなリリーが徐々に気づきはじめ、それが決定的になった瞬間、今まで映し出されていた視点がリリーの主観であったことに、観客は気づかされるのです。
始まりともいえる火傷の場面では、観客から見てもライルが手を出したのではなく、事故で怪我をしたかのように映し出しているのです。それは、リリーが突然のことで動揺し、まさかライルがそのようなことをするわけがないと思い、状況を理解できずにいたことを表しています。
決定的な瞬間を経てリリーは、火傷の時も、階段から落ちた時も、事故ではなくライルによって傷つけられたことをはっきりと自覚します。その瞬間を映像で映し出すのです。
DVの関係を映し出した映画やドラマでは、しばし最初からトラウマやコンプレックスによって、自己肯定感が低い、人に逆らえないといった“弱い”とされた女性が暴力的な“悪い”男性によって言いなりにされる構図として映し出されます。
そのように単純化された構図には、その人自身の弱さの問題であるという見方になりかねない危険もあります。
自分だったら逃げる、その場になぜとどまるのか、といった意見は、被害者側の自衛論といった論点のすり替えにもなってしまいます。
また、“弱いから”狙われる、逃げ出せなくなるという考え方は、裏を返せば自分は“弱くない”、“自立した人間だから大丈夫”というどこか他人事な考え方にも繋がります。そのような風潮に対し、本作はリリーという女性を通して誰もがそうなってもおかしくないということを伝えています。
ライルも、リリーが弱いとされる女性であるから恋に落ちたのではなく、自立した女性であるリリーに恋したのです。暴力を振るうことは決して許される行為ではありません。
しかし、ライルは常に暴力的なモンスターなのではなく、感情が昂りコントロールできなくなると、暴力的になるのです。そのことがリリーにとっても、ライルにとっても恐ろしいことなのです。
ライルは「カウンセリングを受けるから一緒にいてほしい」と言います。それに対し、リリーは毅然と「離婚してほしい」と言います。ライル自身に治そうという意思が全くない訳ではなく本心でそう思っているのでしょうが、一度そうなってしまった関係は、そう簡単に変わらないでしょう。
一度感情の捌け口として暴力を振るってしまえば、自分の弱さに負け、依存した関係から抜けられなくなってしまうのです。何より変わることのなかったリリーの両親の関係性がそれを物語っています。
子供のためにもそのような親の姿を見せてはいけない、自分が子供を守るためにリリーは“終わらせる”決断をするのです。タイトルにある“ふたり”は、リリーとその子供を表しているといえますが、リリーとライルのふたりでもあり、リリーと母のふたりでもあるかもしれません。
“終わらせる”ことの難しさを描いている本作は、リリーだけでなく、リリーの母、ライル、アトラス、それぞれ皆が自分自身と対峙して次に進もうとする姿も映し出しています。
リリーがその決断をしたのは、彼女を支えてくれた人の存在もありますが、1番は子供の存在でしょう。人は守るべき存在がいればこそ、強くなれるのかもしれません。
まとめ
“愛する人からの暴力”、そしてそれに立ち向かう姿を描いた映画『ふたりで終わらせる IT ENDS WITH US』。
誰もがそうなるかもしれない可能性を描いた本作は、加害者・被害者どちらかに偏った描き方をしていません。
そのような誠実さが本作の持つ説得力となっているのです。
それだけでなく、リリーを演じたブレイク・ライブリーの存在が非常に大きいといえます。
ドラマ「ゴシップガール」シリーズで一躍有名になり、ティーンの憧れとなったブレイクは、4児の母となった今も人々の憧れと言えるでしょう。
一方で、アメリカでの本作のプロモーション中は炎上する言動が多く、問題視もされていました。
しかし、本作がブレイク出演作の中でも最大の興行収入を記録していることから、本作における彼女の演技は素晴らしかったと言えます。
ブレイクが演じるリリーは芯のある女性であり、一時の感情に任せて関係を持つことを避け、慎重に関係を築き上げていました。
それは、両親を見てきてからこそ、父のような暴力をする人間と付き合わない、母のようにはならないと胸に誓っていたというのもあるのでしょう。
更に、自分を愛した人が父のようになってしまうショックを感じたくないという怖さからの自己防衛でもあったでしょう。
DVだけでなく家族間による様々な問題のサバイバーはどこか、自分も同じような関係性に陥ってしまうのではないかと、負の連鎖を恐れている側面はあります。
それでもリリーは「後悔させないでね」とライルとの関係に一歩踏み込み、恋に落ちます。そんなリリーにとって、自分も母と同じようになってしまった……というのは相当なショックでしょう。
しかし、リリーはそこから立ち上がるだけでなく、人と関係を持つことを恐れて閉じこもってしまうのではなく、時間を経て新たな関係に進もうとする強さもあります。
希望のある関係性を提示して終わる本作は、同じような境遇にある人にとって大きな希望となります。
DVという問題に切り込んだシリアスな映画ですが、その中も恋する喜びや様々な人の助けを経て乗り越えていく強さを描き、見る人に勇気と強さを与えてくれるのです。